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第1編 人事行政

特別寄稿 政治任用 〜専門家の目から見た展望と留意点〜

米国における政治任用の実態から学ぶこと:わが国における政治任用の展望を考える

1 問題意識:政治と行政の関係における政治任用者の役割



わが国における政治改革と行政改革の必要性が指摘されて久しい。

まず、政治の使命は、国民の幸福を増進することにあり、それは、自由で豊かで平和な国家生活を実現することである。もちろん、何が「自由」で何が「豊か」さで何が「平和」であるかは、最終的には主権者・国民が実感し判断することであるが、そういう意味で、政治の任務は、何よりも民意を正しく吸収すると同時に、その民意に対して正しく問題を提起し、そして、選挙の際に国民と交わした約束を確実に実行し続けることである。

このような前提の下で政治改革が求められており、それは、いわゆる利権追求型の政治から政策指向型の政治に転換することであり、いわゆる無責任政治から責任政治に転換することである。また、それは一面で、行政(官僚集団)に対する政治の主導権を確立することでもある。加えて、当然のことながら、政治が急激な時代の変化に迅速に対応できる力を持つことも、求められている。

それに対して、行政の使命は政治を補佐することにある。それは、政治の決定を専門的に支援し、その決定を正確に実施する責任を負っている。加えて、行政は、その執行現場で国民と直接接しているが、そこで政治とは異なった専門的観点から正確に民情を確認し、それを政治(政策決定権者)に正しく伝える機能も担っている。

そして、このような前提の下で行政改革が求められているが、それは、要するに、国の主であり同時に受益者でもある国民に対して、可能な限り安価で良質で迅速で透明で公正で、かつ、責任を回避しない行政サービスを提供することである。

このように、いわば車の両輪の如くに政治改革と行政改革が求められているが、ここで、政治と行政を有機的につなぎながらも、同時に、本来的には一線を画すべき両者の間における有効な隔壁の役割を果たすものが、政治任用になる公務員である。

まず、主権者・国民に代わって政治的決定を行う政治家たちは、主権者・国民の中から選挙により選ばれてくるが、その手続の本質は、要するに「人気」投票であり、実は、そこには制度としての(政策に関する)質の保障はない。そして、そこを補うものが、選挙によらず、政治家によりその専門能力を基準にして選ばれる政治任用の公務員である。それは、まず、政治的中立性という限界を背負って政治家を補佐する終身雇用の行政府の公務員と違い、あえて、その者を任用した政治家と同じ党派性を持って政治を支える専門家として、政治が行う政策的決定の質を維持する役割を果たす者である。

さらに、政治任用者たちには、行政の政治的中立性の建前と高度の専門能力を盾にして、ともするといわゆる「省益」を追求して政治の決定を骨抜きにしかねない行政官僚たちによる抵抗を排して、政治家が主権者に公約した政策の実効性を担保する役割を果たすことも期待されている。つまり、政治任用者たちの存在は、政治家の側に立った人間集団としてその公約に愛着と責任を共有する者として、同時に、高度の専門性を有するために行政官僚の論理に容易には「騙されない」者として、政治が決定した政策を行政レベルで確実に実現する保障にもなる。

このように、政治任用になる公務員は、政治による決定の質と速度を高め、さらに、その政策の行政による実施を確実なものにし、その結果について政治家とともに責任をとる、そういう意味で、本質的に、求められて久しい政治・行政改革の鍵を握る存在である。

とは言え、そこに問題がないわけではない。

まず、政治任用者たちは、当然のことながら、その任用の不可欠な前提としてその者を任用する政治家と(広い意味での)党派性を共有していることが求められており、そういう意味では、その立場の性質上、専門家であることが期待されているにもかかわらず、現実には、必ずしも十分に高度な専門能力を持った者が任命される保障がない。また、政治任用者は、いわゆる省益やそれにまつわるしがらみにとらわれない自由を持っていると言われるが、それが一面で、単に現場の事情に疎いだけで、かえって行政に混乱をもたらす危険があるとも言われている。また、任用の資格が本来的に厳格でない政治任用であるためにそこに人材を得なかった場合には、そこから行政執行に対する不当な党派的介入が行われる危険性もある。さらに、政治任用が活用され、行政過程における重要な決定権の多くが政治任用者の手中に帰した場合、職業的行政官僚の地位に就職する魅力が減少し、最終的には官僚制度の維持が困難となるおそれもある。

とは言え、我が国における現在の政治と行政の在り方、特にその両者の関係がそのままで良いはずはなく、政治任用制度を有効に活用することによりその改善が果たされる可能性が高いことは事実であろう。


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