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第1編 《人事行政》

【第2部】 人事院の創立、変遷と国家公務員人事管理における現代的課題

参考資料

資料2 政党政治と地方官の地位(水野錬太郎)


(昭和4年9月)
政党政治と地方官の地位
水野錬太郎
(元内務大臣、元内務次官)
(前略)

内閣の更迭に際して地方官の異動は従来も多少あつたのであるが、近時特に甚だしくなつた。殆んど全国を通じて半数以上の地方官は、或は馘首され、或は転ぜられる。知事のみでなく、部長・事務官・警察官までも同一の運命に逢ふのである。尤もその中には政党関係でなく、事務の都合にて転免せらるゝものもあるが、多数は党派的情実に基くのである。これ程までに政変に伴ひ地方官を移動せしむる必要ありや否や、又この俑を作りたるものは政友・民政何れの内閣に在るやは今玆に論及しないが、兎に角、近時内閣の更迭と共に地方官の異動の多くなつたことは事実である。抑々その原因動機は何れにありや。政党側よりいへば自党に好意を持つ地方官を迎へ、官憲の力によりて党勢を拡張することが便利であるから、我党内閣になれば党員は必ず地方官の更迭を要求する。政党内閣は党員の歓心を得ることが必要であり、又内閣の基礎を鞏固にするが為には党勢拡張が必要である。殊に総選挙に備ふるには地方地盤を開拓せねばならぬ。之が為には地方官を変へ自党に都合よき地方官を据ゑなければならない。随つて地方行政の見地からよりも、寧ろ党勢拡張の上から見て地方官の更迭を行ふのである。又地方官の側より之をいへば、政府與党の機嫌を損つては、その地位を保つことが出来ないから、勢ひ與党の鼻息を窺ひ、之に便宜を與へ、甚だしきは之と消息を通じて地方行政を行ふのである。随つて反対党は、機会あればかゝる地方官を排斥することに努める。内閣の更迭は即ち此の機会である。中央政局の変動があり、朝野両党が権力の地位を替へれば、好機到れりとなし、地方官の更迭を要求する。新内閣は前内閣の遺物を地方に据ゑて置くことは不利なりとして之を転免する。又前内閣時代には馘首せられたる多数の浪人地方官が首を長くして政変を待つて居る。此等の浪人地方官を新内閣に於て拾ひ上げなければならぬ。此等の事情が内閣の更迭に伴ひ地方官の異動を余儀なくせしむるのである。かくして地方官の政党色彩は濃厚となるのである。(中略)かゝる次第であるから、純然たる事務官たるべき地方官も浮草稼業であることを自認し、地方民も一時的の長官として之を迎へ、かゝる地方官に対して地方永遠の利益となるが如き政策の樹立を期待しない。

(後略)
水野博士古稀記念 論策と随筆より

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