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第2編 《国家公務員倫理審査会の業務》

【第1部】 特集 倫理法・倫理規程の10年と今後の展望

第2節 今後の展望

2 倫理的な組織風土の構築


  研修・啓発活動を通じて、個々の職員に対して、倫理法・倫理規程の周知徹底を図るとともに、その倫理意識を涵養していくことに加えて、公務組織内において、倫理意識の高い職場風土、違反行為を見過ごさない職場風土を構築していくことも大きな課題となっている。
  また、第1節の2で述べたように、近年、民間の各企業においては、社会的な倫理意識の高まりを背景として、企業倫理、コンプライアンス、アカウンタビリティ、CSR(企業の社会的責任)などの課題への積極的な取組が行われている。公務組織においても、危機管理に関する意識と能力を高め、倫理的な組織風土を構築していくための取組をより一層強化していくことが重要であると考える。
  倫理規程においては、各省各庁の長等の責務として、職員の職務に係る倫理の保持のための体制の整備を行うことが定められており、併せて、各省各庁の長等を助けて職員の職務に係る倫理の保持のための体制の整備を行うことは倫理監督官の責務の一つであるとされている。この倫理保持体制の整備も、倫理的な組織風土を構築するために重要な要素である。具体的には、倫理法等違反の未然防止と早期発見のための内部通報制度の整備、実際に倫理法等に違反する疑いのある事案が発生した際の調査体制の整備、さらには違反に至った原因や動機等を踏まえた効果的な再発防止策の策定など、各府省における倫理保持体制の一層の充実・強化が望まれるところである。
  近年、倫理審査会では、倫理法等違反の未然防止と早期発見のための内部通報制度の整備に力を注いでおり、平成17年3月に、各府省等に対して内部通報制度の整備を求める通知を発出した。内部通報制度については、我が国においては、内部通報というと密告を連想し、マイナスイメージを持つ人も多いが、組織内での問題の早期発見は、違反行為の抑止効果や組織の信頼の失墜を最低限に抑えることにつながるものであり、平成16年の公益通報者保護法(平成16年法律第122号)の成立以来、内部通報の意義やその重要性は社会的にも認知されるようになってきている。民間においては、内部通報の処理を誤って厳しい社会的批判を浴びた企業の例も少なくなく、内部通報制度が有効に機能する企業は風通しの良い信用できる企業であるという意識が徐々に浸透しつつある。公務においても、違反を発見した場合に通報することは組織を良くするために有効な方法であるとの考えを行きわたらせるなど職員の意識改革を図り、内部通報制度が有効に機能するよう努力していく必要がある。
  平成17年3月に倫理審査会が発出した通知においては、内部通報制度の整備に当たっての留意事項が示されているが、その中で、内部通報制度が有効に機能するために最も重要なことは、通報者に不利益が及ばないようにすることである。通報者にとっては、降格や左遷などの人事管理上の不利益はもとより、人事当局に名前を知られること自体を不利益ととらえがちであることから、通報者の氏名は通報窓口限りに留める、匿名の通報にも対応するなどの配慮をすることが必要である。また、人事担当部局とは別に、弁護士事務所等を活用して外部窓口(ヘルプライン)を設置することも有効な方策であろう。
  現在では、特定独立行政法人の一部を除き、すべての府省において通報窓口が整備されるに至り、最近の違反事案を見ると、倫理審査会に対するものも含め、これらの通報窓口に寄せられた通報を端緒として事案が明らかになるケースも散見されるようになった。しかし、通報窓口は設けていても通報実績がほとんどない府省も多く、未だ内部通報制度が十分に活用されているとは言い難い状況にあると言わざるを得ない。今後は、通報者保護の仕組みの充実や通報窓口の職員への周知など、内部通報制度を職員にとってより活用しやすいものとしていくことが課題となっているといえる。倫理審査会としても、各府省における体制整備に関し指導、助言を行うとともに、倫理審査会の通報窓口が、各府省の通報窓口のヘルプラインとしての役割を十全に果たし得るよう、体制の充実や職員への通報窓口の周知に努めていきたい。
  内部通報制度等の制度の整備に加え、倫理的な組織風土を構築するという観点からは、組織のトップや幹部の役割、意識が特に重要である。職員は、組織のトップや幹部が倫理や規範を重視しているのか軽視しているのかを日頃の業務の中で敏感に感じ取り、それに倣って行動する。組織としての倫理感を高めていくためには、組織のトップや幹部が、自ら率先して高い倫理感に基づき行動するとともに、職員に対して、組織として高い倫理感を保持し不正や違反は許さないという強い意志を常に発信し続けることが必要であると考える。倫理審査会では、倫理週間における取組の一環として、各府省の倫理監督官に対し、所属職員を対象とする公務員倫理に関する講話の実施、公務員倫理に関する倫理監督官自らの考えを示す文書をメールにより全所属職員に直接送信することなどをお願いしているところであるが、今後とも各府省においてそのような取組が積極的に行われるよう働きかけていきたいと考えている。
  また、倫理的な組織風土を構築するためには、職員の倫理感についての評価を人事管理に反映することも有効であると考えられる。平成21年4月から新たな人事評価制度が実施されている。新たな人事評価制度においては、「倫理」が評価項目の一つとされているところであり、能力・ 実績に基づく人事管理の観点はもとより、倫理的な組織風土の構築の観点からも、この制度を有効に活用することが望まれる。また、新たな人事評価制度には、評価者と被評価者との間での期首面談、期末面談等の仕組みが組み込まれているが、このような人事評価のプロセスも、職員の倫理感の涵養を図るためのよい機会となると考えられる。
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