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国家公務員制度改革の動向

2 人事院の取組


今回の改革は、戦後60余年続いた国家行政運営の基盤となる人事行政の根本に関わる大改正である。とりわけ、公務員の労働基本権問題の在り方については現行の公務員制度の根幹に関わる問題であるとともに、国民生活に大きな影響を与える可能性があり、その見直しに当たっては広く議論を尽くし、国民的合意を得ることが不可欠である。同時に、人事院が担っている公務員人事管理の公正の確保は憲法第15条の「全体の奉仕者」に由来するものであり、公務員制度や公務員人事に対する政治のリーダーシップを高めるならば、情実人事等を排除し、成績主義(メリットシステム)を確保するための法制度上の措置が重要となる。

人事院は、公務の民主的かつ能率的な運営を保障することを目的とする国家公務員法の基本理念の下、人事行政の公正確保の機能及び労働基本権制約の代償機能を担うとともに、人事行政の専門機関として時代の要請に応える人事施策を展開してきた。このような立場から、新たな制度設計においては、人事行政の公正を実現するために必要な機能が確保され、かつ、適切で実効性のある労使関係制度が確立されるよう、長年にわたり蓄積してきた知見と経験に基づき、必要な意見を述べることは本院の責務であると考えている。

このような認識の下、平成22年8月の給与勧告時の報告においては、公務員の労働基本権問題の議論に資するよう提言を行った。同報告では、公務における労働基本権問題の検討は、公務特有の基本的枠組み(内閣と国家公務員は双方が国民に対し行政執行の責務を負うとともに、労使関係に立つという二つの側面を有する)と特徴(市場の抑制力が欠如している等民間と大きく相違)を十分踏まえて行う必要がある旨指摘した。その上で、自律的労使関係制度の在り方について、労働基本権制約の程度等に応じ、4つのパターンとその留意点を示した。すなわち①協約締結権及び争議権を付与する(予算等の制約は存在)、②協約締結権を付与し争議権は認めない(この場合は代償措置が必要)、③協約締結権及び争議権は認めず代償措置として第三者機関の勧告制度を設けるとともに、勤務条件決定の各過程における職員団体の参加の仕組みを制度化する、④職位、職務内容、職種等に応じて①〜③を適用するというものである。併せて、国会の関与(法律・予算)と当事者能力の確保、交渉当局の体制整備や職員団体の代表性の確保など自律的労使関係制度の在り方を議論する際の各論点を整理し示した。また、労働基本権制約の見直しに際しては、国家公務員の成績主義を維持し、人事行政の公正の確保のための機能が引き続き制度的に確保されるよう組織体制の在り方も含めて十分な検討が必要である旨指摘した。

さらに、平成23年4月5日の「改革の全体像」の本部決定を受けて、4月19日に、人事行政の専門機関の立場から、内閣総理大臣に対して「国家公務員制度改革についての意見」を提出した。今回の改革では、協約締結権を付与し、労働基本権制約の代償機能を廃止することに伴い、人事行政の実施体制の見直しとして、人事院を廃止し、内閣人事局、公務員庁及び人事公正委員会を設けることとしている。それを踏まえて、同意見では、

(1) 新たな人事行政の実施体制において、本院が担ってきた人事行政の公正を引き続き確保するため、法令として措置すべき事項として、次の点を要請した。
  • ● 国家公務員法の総則として人事行政は公正に実施されるべきものという一般職国家公務員の人事に係る基本理念を定めること
  • ● 現在、国家公務員法の包括的委任の下、人事院規則で定めている採用の枠組みや分限の事由などについて、それぞれ各制度の基本に係る事項として、法律に規定するか、少なくとも基本的部分を法律で規定した上で細部を政令等に委任すること
  • ● 採用試験を公正に実施するため、独立の第三者機関が採用試験の管理を行うこととする措置、中央研修機関に研修の実施に関する自律性を付与する措置を法令で講じること
  • ● 幹部職員人事の一元管理における適格性審査について、内閣総理大臣はあらかじめ人事公正委員会の意見を聴いて実施要領を定めるものとすることなどの措置を法令で講じること
  • ● 幹部職員人事の弾力化について、任命権者は幹部職間の転任に当たって就けようとする官職の職務・職責に応じた適性を厳正に検証しなければならないことなどの措置を法令で講じること
  • ● 人事公正委員会の事務として、人事行政の公正を確保するため、採用試験、任用、分限及び懲戒に関する基準について法律に基づき内閣が政令を制定し又は内閣総理大臣が基準を定める際に意見を申し出ることができるものとすること、必要に応じ各任命権者に対して実施状況の報告や是正措置を求めることができるものとすることなどの事務を法律で定めること
(2) 適切かつ実効性のある労使関係制度とするため、成案化に当たり具体的な措置を講じるべき事項として、次の点を要請した。
  • ● 国家公務員の勤務条件を国会が法律及び予算でどこまで統制し、どの程度内閣に委ねるのが適切かについては、憲法上の国会の役割(勤務条件法定主義、財政民主主義)の在り方に関わる事柄であるので、法案の策定・審議に当たり十分に議論し結論を出していただきたいこと
  • ● 自律的労使関係制度の導入に当たって以下の事項を措置するとともに、内閣に対する仲裁裁定の実効性を確保すること
  • ・ 交渉当局の体制整備
  • ・ 交渉当事者、団体交渉事項及び協約締結事項の範囲の整理
  • ・ 複数の労働組合と交渉を行いつつ、統一的勤務条件決定を確保する方法
  • ・ 必要かつ十分な準備期間と経過措置
  • ● 引き続き労働基本権が制約される警察職員及び海上保安庁又は刑事施設に勤務する職員について、労働基本権制約に対する代償措置を確保する観点から、その勤務条件の決定に際しては有識者による審議会の意見を聴取するなどの仕組みについて検討すること

一方、基本法の定める課題のうち、採用試験の基本的な見直しや定年まで勤務できる環境の整備など本院が取り組むべき課題については、これまでも積極的に検討を進め措置してきており、引き続き責任を持って取り組んでいくこととしている。

我が国の国家公務員制度は、長い歴史を経て、現在の成績主義(メリットシステム)にのっとった仕組みが確立されている。国家公務員はいかなる政権の下でも、その専門性をもって、国民全体の奉仕者として仕事に当たるべきものである。今回の改革は人事行政の根本に関わる大改正であるが、国民にとってより良いものとなるよう、人事院としてその使命を果たしていきたいと考えている。


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