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第1編 《人事行政》

【第2部】 公務員給与の決定過程 〜諸外国の実態と我が国の課題〜

第1章 諸外国の実態

第1節 アメリカ

2 連邦公務員の労使交渉の実態

● 勤務条件の内容はほとんど労使交渉の対象にならず、休暇の申請手続など手続的な事項が対象。予算・定員も対象外。

● 労使交渉は、各省の交渉単位ごとに行われる。投票により多数労働者の支持を得た労働組合が排他的な団体交渉権を得て交渉の席に着く。

● 給与等については労使交渉をしていない連邦政府でも、労使交渉や労働組合との関係の維持には相当の時間と労力をかけている。

● 労使交渉には高い専門性が必要であることから、各省では交渉担当者の人材育成に取り組んでいる。

(1)交渉事項

給与のほか、勤務時間、休暇、年金などについても、基本的な部分は連邦法規で定められており、各省の裁量に委ねられる部分は小さい。例えば、1週間当たりの勤務時間、有給休暇の種類・要件・日数などは全て法定されている。したがって、こうした勤務条件の内容は、労使交渉の対象にならない。各省の予算や定員についても、交渉はできない。

交渉の対象となるのは、例えば、休暇の申請手続、業績評価の方法、労働組合が関与する不服申立て処理手続など、主に手続的な事項である。

(2)労働協約の法的効果等

元々、連邦法規により定められる事項については団体交渉事項から外されているため、労働協約について議会の承認は必要とされない。締結された労働協約は、労使間の契約としての効果を有する。不服申立てや紛争については、労働協約において定められた紛争解決手続や、連邦労使関係院(連邦政府の労使関係の紛争処理などを行う機関)の手続、訴訟などによって争うこととなる。

(3)交渉の形態
ア 交渉単位

アメリカにおいては、一定の交渉単位において投票により多数労働者の支持を得た労働組合が排他的な団体交渉権を獲得し、その労働組合が交渉単位内の非組合員をも含めて代表することとなっている(排他的交渉代表制)。交渉単位を決定するのは連邦労使関係院であり、業務の類似性や組織運営の効率性などを考慮して決めている。省によって、交渉単位の数が10に満たない省もあれば、100を超える省もあり、全体で数千に上ると言われる。したがって、同じ省内であっても、代表する労働組合は一つとは限らず、交渉単位が異なれば代表する労働組合も異なり得る。

イ 使用者側の当事者

使用者側からは、人事担当部局の幹部職員(課長など)のほか、提案される事項を担当する部局の幹部職員などが参加する。地方事務所の場合、事務所の長が参加することもある。規模は、省や交渉単位によって異なるが、数人程度であることが多い。多ければ10人程度のこともある。

ウ 労働組合側の当事者

労働組合側の交渉参加者は、労働組合の役員と、当該役員が指名した組合員数人ということが多い。人数は使用者側とほぼ同じであり、常に労働組合側の人数が使用者側の人数を上回ることのないようにしている省もある。

(4)交渉の流れ

交渉は、労働協約の有効期間(多くの場合、3年)が終了する際に行われ、通常、数か月から1年程度かけて、協約の一つ一つの条項について進めていく。また、協約により、有効期間の半分が経過した時点でも交渉を行うこととされている場合もある。

例えば、国土安全保障省の場合、交渉単位は38あり、多くは小規模の地方官署である。労使交渉は各交渉単位で行っており、労使いずれかに既存の協約の中で変更したい点があれば、有効期間が終了する際に交渉を申し入れる。既存の協約の中で触れられていない新規事項については、有効期間が終了するときに加えて、有効期間の中間時点でも交渉を求めることができる。交渉は、5〜6か月で終わることもあれば1年以上かかることもある。労使が合意に達すれば、30日以内に省としてのチェックを行うことになっており、本省で労使関係を担当する専任職員がチェックする。また、労働組合の側でも、組合員による投票で承認を受ける。交渉不調の場合については、連邦労使関係院による紛争処理手続などが法定されている。ただし、給与などが労使交渉の対象でないため、一般的に労使の立場に大きな隔たりはなく、労使交渉は妥当な結果に落ち着くという。なお、団体交渉権は長官から下部の職員に委任されており、長官の関与はない。

労使交渉の内容や過程は、労使間の事柄であるとして公表はされていない。

関係者によれば、労使交渉をすることのメリットとしては、職員に影響を与えるような施策変更について、労使関係が良ければ、労働組合が職員を説得したり実施の助けとなったりすること、デメリットとしては、労働組合が関与するため施策変更に時間がかかること、労使関係が悪ければ職員の士気の悪化につながることが挙げられている。

(5)交渉にかけるコスト

前述のとおり、連邦政府では労使交渉の対象範囲が狭く、給与等について交渉を行っていないが、それでも労使関係には相当の時間と労力を割いている。例えば、国土安全保障省では、経験の長い専任担当者を本省に置いているほか、各現場で労使交渉を行う担当者も、本省の担当者に頻繁に相談や照会を行っている。労使交渉には数か月から1年程度の時間をかけている。現場レベルでは、労使交渉のとき以外も労働組合と連絡を取り合い、意思疎通を図ることで、労働組合と良好な関係を保つよう努力している。

また、各省とも、労使交渉には高い専門性が必要であるという認識を持っている。経験豊富な専門家の高齢化や退職に苦労している省もある。各省では、交渉を担当する職員に連邦労使関係院等で行っている研修を受講させたり、省内で専門家を融通し合ったりして、人材育成に取り組んでいる。


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