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第1編 《人事行政》

【第2部】 公務員給与の決定過程 〜諸外国の実態と我が国の課題〜

第1章 諸外国の実態

第1節 アメリカ

コラム アメリカの州における労働基本権をめぐる動き

アメリカの州における労働基本権をめぐる動き

近年、アメリカのいくつかの州において、公務員の団体交渉権、協約締結権を制限しようとする動きがみられる。その背景には、不況により州政府の歳入が低迷していること、知事や議会多数派の政党が選挙で交代した州があること、公務員の人件費を削減したいという知事や議会の強い意向があることが挙げられる。

● ウィスコンシン州

ウィスコンシン州では、2011年1月に、共和党の知事が就任した。同州では、財政赤字の増加が問題になっており、知事は就任後まもなく、財政を健全化させるためとして、州や自治体の公務員の労働基本権を大幅に制約する法案を提案した。組合員を中心に数万人による反対集会が行われたり、民主党議員が議会をボイコットしたりして、全国から注目されたが、議会の多数派である共和党議員は法案を強く支持し、同年3月に法案が成立した。この法律により、団体交渉事項は基本給のみに限られ(原則として消費者物価指数の上昇分が上限)、勤務時間、休暇、健康保険などについては交渉できなくなった。知事は、これまで労働協約によって健康保険費や年金の職員負担が低く抑えられていたこと、成績主義や実績に基づく任免が難しくなっていたことを挙げ、この法律が政府の効率性や応答性の向上に役立つと主張している。

法律の成立後も、政治的対立は続いている。2011年には州上院の議員9人(共和党6人、民主党3人)がリコールされ、選挙では議会の共和党優位を覆すには至らなかったものの、2012年1月には、知事のリコールを求めて、必要数の2倍近い約100万の署名が集まった。

● インディアナ州

ウィスコンシン州知事が改革の手本として挙げたインディアナ州では、2005年に、新しく就任した共和党の知事が、従来知事によって認められてきた州公務員の団体交渉権に終止符を打った。2011年には州法の改正が行われて、労使交渉や労働協約の締結の禁止が明記された。これに対して目立った反対運動はみられなかった。その背景としては、公務員の勤務条件が良すぎると思われていたこと、労使交渉はコストがかかるという認識が広く共有されていたこと、州によって労働組合に対する市民感情にも差があることが指摘されている。

労使交渉をやめたことにより、給与については、議会が決めた総枠の予算の範囲内で、知事の方針に沿って人事部局が財務部局と相談しながら案を作成し、知事が決定するようになった。給与案の作成に当たっては、他の州や民間との給与比較、生計費、州の財政状況などが考慮要素とされている。

インディアナ州では、業務の統合・民営化が進められており、団体交渉をやめてから変革のための意思決定と実行のスピードが速くなったと評価する声もある。給与については、職員の業績評価に応じた昇給制度が導入され、2009年及び2010年には全国的な不況による厳しい財政状況を理由として給与改善が行われなかったものの、2011年には業績評価に応じて0〜1,000ドル、2012年には業績評価に応じて0〜6%の昇給が実施されている。その反面、職員の健康保険費の負担は大きく引き上げられ、労働組合は団体交渉ができなくなって、大手の労働組合では組合員数が以前の1割未満に減った。さらに、将来にわたって知事が州政府職員に団体交渉権を与えることを禁ずる規定が州法に置かれ、労働組合はこれに対して訴訟を提起して争っている。

● 全国に広がる動き

このような動きは他の州にも広がりをみせている。公務部門における労働組合加入率は民間部門に比べて大幅に高く、官民全体の組合員数の過半数を公務部門が占めているということもあって、労働組合側は大規模な反対運動を展開している。ウィスコンシン州では上記のとおり法律制定後も反対運動が続いており、また、オハイオ州のように、公務員の団体交渉権を制限する法律が一旦制定されながら住民投票で覆された例もある。いずれにしても、全国的に、労働基本権や労働組合の取扱いを厳しくしようとする動きはまだ収まっているとはいえない。


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