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第1編 《人事行政》

【第2部】 公務員給与の決定過程 〜諸外国の実態と我が国の課題〜

第1章 諸外国の実態

第2節 イギリス

1 勤務条件決定過程の概要等

1 勤務条件決定過程の概要等
(1)概況

● 軍人及び警察官等を除いた国家公務員は、慣行として、団結権、協約締結権を含む団体交渉権及び争議権は認められている。刑務官については、個別法により争議権が否定されている。

● 国家公務員の給与決定過程は、上級公務員と一般職員とで異なっている。

イギリスの国家公務員については、慣行として、軍人、警察官等を除き、団結権、協約締結権を含む団体交渉権及び争議権は認められている。ただし、刑務官については、個別法により争議権が否定されている。

給与決定過程については、上級公務員(Senior Civil Service:SCS。各省・各エージェンシー(以下「各省等」という。)の課長級ポスト以上に在職する幹部公務員。約5,000人)とそれ以外の一般職員(約50万人)で異なっている(人数はいずれも2011年3月現在)。

イギリスの国家公務員の給与について、かつては民間の同一職務に対する賃金との比較を基礎とした水準改定が全省統一的な労使交渉を経て決定されていたが、サッチャー政権の下で分権化が進められたため、全省共通の給与表等はなくなり、予算的な観点からあらかじめ設定された上限枠の中で各省等別に配分に関する労使交渉が行われる仕組みとなり、それ以後現在まで同様の仕組みが続いている。

(2)上級公務員の給与決定の仕組み及び基本原則

● 上級公務員については、労使交渉による給与決定は行われておらず、上級公務員給与審議会の勧告を経て決定している。

● 上級公務員給与審議会が上級公務員の給与について首相に勧告を行うに当たり、労働組合から意見や資料の提出を受けるほか、財務省は労働組合と意見交換を行う。

● 上級公務員の給与は、法律に定めはない。勧告を受けて、首相が決定。議会が関与することはない。

● 予算面においては、政府が人件費の枠を4か年の支出計画で決定している。

● 過去数十年間、給与の引下げが勧告されたことはない。

ア 給与決定の仕組み
(ア) 労使交渉によらず勧告に基づき政府が決定

上級公務員の給与制度は法律に定めはないが、各省等共通のものとして、2010年憲法改革及び統治法により制定権限を委任された公務員担当大臣が定める国家公務員管理規範(Civil Service Management Code)に示された枠組みの下で政府によって決定されている。

上級公務員の給与は、独立機関である上級公務員給与審議会(Review Body on Senior Salaries:SSRB。民間企業の人事担当経験者、学識経験者等9人から成る。)が勧告を行い、それを受けて最終的に首相が改定を決定する。したがって、上級公務員の給与は、労使交渉により決定されるのではなく、独立機関による勧告を受けて政府が決定している。

上級公務員給与審議会は、原則として、毎年、首相に対して上級公務員の給与に関する勧告を行う。その過程で、政府内の担当機関(内閣府)、公務員労働組合及び人事委員会から、採用、人材確保についての情報を得るため、意見を聴取し、資料提供を求めるほか、課長級、局長級等の階層別のグループ等との意見交換を実施している。また、財務省も上級公務員を構成員に含む労働組合と意見交換を行う機会を持っている。なお、上級公務員給与審議会が勧告を行う過程では、民間部門での給与水準も考慮対象としており、できるだけ広範囲の企業からデータを収集することとしている。

勧告案は、上級公務員給与審議会議長から政府に提出され、財務省を含む関係各省において勧告案が受け入れられるものか否かが検討される。勧告案について政府部内の合意が得られた後に上級公務員給与審議会から正式に首相に勧告・報告が提出される。

図3 イギリスの上級公務員の給与決定過程
(イ) 勧告の際の考慮要素

上級公務員給与審議会は、関係者の意見を聴取した上で、①有能な人材の採用、確保及び意欲向上の必要性、②労働市場の地域多様性及び人材の採用・確保に与える影響、③各省等での公共サービス達成目標要件を含む政府の公務改善方針、④各省等での歳出可能財源、⑤インフレターゲットの諸要素を考慮の上、勧告を行っている。その他、相対的な身分保障や現物給付を含む官民の雇用条件の相違や、差別禁止法等の法的義務など、政府側の留意要因についても考慮している。

これらの考慮要素のうち、上級公務員給与審議会が勧告の際に最も重要視しているのは、①有能な人材の採用、確保及び意欲向上の必要性である。民間給与との均衡という視点はなく、有能な人材を採用し、現職職員のモチベーションの維持及び向上に十分なレベルの給与水準を確保するという考え方を採っている。

(ウ) 上級公務員給与審議会の位置付け

イギリスの上級公務員については、形式的には、協約締結権及び争議権を含む労働三権が認められているため、上級公務員給与審議会の勧告を基に政府が決定する仕組みは、労働基本権の制約に基づく代償措置という位置付けとなっていない。独立機関の勧告による給与決定の仕組みの方が、労使双方にとって効率的との考えに基づき、実施されているものである。

イ 給与改定への議会の関与

上級公務員の給与は首相が決定することとされているため、議会の関与はない。

ウ 給与の予算における取扱い

政府は4か年の支出計画(Spending Review)を政府部内での取決めとして策定しており、この中で上級公務員の給与を含む人件費予算の枠についても決定している。予算は単年度制であるため、この支出計画を受けて政府は、人件費を含む予算案を毎年作成し、予算書として議会に提出する。予算は個別の法律で恒久的に支出権限を与えられたものを除き議定費歳出予算法という法律として制定されるが、法案の提出権は議員に限られているため、議員である財務大臣が法案を提出することとなる。

議定費歳出予算法案の議会における審議は下院に先議権があり、上院には修正権も拒否権も認められていない。

以上の給与制度への議会の関与、給与の予算における取扱いは、次に述べる一般職員の場合も同様である。

(3)一般職員の給与決定の仕組み及び基本原則

● 一般職員については、給与に関する権限が大幅に各省等に委譲され、各省等が独自にそれぞれの人件費予算に応じて給与制度を決定している。

● 一般職員の給与は、財務省の指示した方法に従って承認された給与歳出枠の範囲内で、各省等は、労働組合と等級ごとの俸給額の改定などの配分について交渉する。

● 合意した時には労働協約が締結され、その内容を各省等が通知・実施する。

● 労働組合と合意に至らない場合は、使用者側(各省等)が自らの案で決定し通知・実施する。

● 決定された事項は、同意に至らない労働組合の組合員及び非組合員にも同様に適用される。

● 一般職員の給与について、議会が関与することはない。

● 過去数十年間、給与が引き下げられたことはない。

一般職員については、1990年代半ば、保守党政権下において内閣府から給与決定権限が各省等に大幅に委譲された結果、公務員担当大臣の定める国家公務員管理規範に規定されている共通の給与決定原則の下で、各省等別に給与が決められる仕組みになっている。公務員給与の制度及び水準は法律事項ではない。

国家公務員管理規範では、一般職員の給与決定原則として、各省等は、その業務ニーズ及び政府の方針に適合するように給与を設定しなければならないとされており、具体的には、①給与総額に見合う価値(バリュー・フォー・マネー)、②給与総額に対する財務統制、③給与制度の柔軟性、④業績との密接かつ効果的な関連性の4つの基本原則に従うことが必要とされている。同時に、給与と、年金や休暇等他の雇用条件との相互関係も考慮に入れることが求められている。

一般職員の給与は、財務省の指示した方法に従って各省大臣が承認した各省等別の給与歳出枠(Pay Remit)の範囲内で、使用者側と労働組合側との労使交渉(配分交渉)を経て決定されるのが基本である。給与歳出枠の承認は、2010年度までは主要省の分は財務省が自ら審査・承認していたが、2011年度以降は、事務の簡素化のため、財務省の指示した方法に沿って、各省大臣において歳出枠を承認し、財務省にはその実行状況について、データ提供により事後的に報告する形式に改められている。給与歳出枠の設定に関して、労働組合側は各省等、財務省に対して意見を申し出ることはできるが、その申出が最終決定に与える影響はほとんどない。


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