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第1編 《人事行政》

【第2部】 公務員給与の決定過程 〜諸外国の実態と我が国の課題〜

第1章 諸外国の実態

第2節 イギリス

2 一般職員の給与をめぐる労使交渉の実態

● 総人件費(予算)及び定員枠は交渉の対象ではない。

● 給与制度が各省等別に全国単位で決められているため、交渉も各省等別に中央で行われる。

● 給与交渉において、使用者側では部長〜副部長クラスが、労働組合側では交渉担当役員を代表とする交渉担当者が交渉に当たる。大臣級が交渉に当たることはほとんどない。

● 各省等には複数の労働組合があるのが一般的である。交渉に当たっては、複数の労働組合が、同時に交渉の席に着く。

● 使用者側が、労働組合との合意なしに自ら給与改定を決定・実施する場合、労働組合側はストライキで対抗することもある。

給与交渉は、給与総額について交渉しておらず、給与歳出枠の範囲内での配分交渉となっている。総人件費(予算)及び定員枠は交渉の対象ではない。公式交渉は、給与歳出枠決定後に開始される。

(1)交渉事項

一般職員については、給与は交渉事項となっており、実際の労使交渉のほとんどは給与に関する交渉である。

(2)労働協約の法的効果等

イギリスにおいては、官民問わず、法律上、労働協約が法的拘束力を持つためには、書面において、協約が法的拘束力を持つことを当事者が意図する旨を明記した規定を含む必要があるとされている(1992年労働組合及び労使関係法第179条)。

しかし、公務における労働協約においては、このような規定を含むことはまれであり、法的拘束力がないのが一般的である。

(3)交渉の形態
ア 交渉単位

1990年代半ばに給与決定権限が各省等に委譲されたため、交渉単位は各省等別となっている。また、各省等の給与制度は全国単位で決められているため、交渉は中央のみで行い、地方では行われていない。

イ 使用者側の当事者

使用者側の当事者は、人事部の部長〜副部長クラスがトップとなり、交渉担当職員数人で構成される。部長レベルは、人事・労務の専門家とは限らないが、人事部のスタッフには、人事・労務の経験者も含まれていることが多い。給与交渉において大臣級が対応することはほとんどない。

ウ 労働組合側の当事者及び複数組合との交渉方法

労働組合側は、交渉担当役員を代表とする交渉担当者が交渉に当たる。

給与交渉の際、使用者側は、各労働組合と個別に交渉するのではなく、複数の労働組合と同一の場で交渉に当たる。交渉が複数組合全体でまとまれば問題はないが、組合間の見解の相違により、一部の労働組合と合意できる一方、一部の労働組合と合意できない事態が生じることがある。この場合、使用者側は、引き続き全体での合意を目標として交渉を継続させるが、膠着状態となった場合には、交渉を打ち切り、国家公務員管理規範に基づき、自らの案で決定し、通知・実施する。例えば、雇用年金省の場合、組合員の75%は公務・商業サービス連合(PCS)に所属しているが、PCSが使用者側の案に合意することはまれであるため、PCSの合意が得られないまま、労使交渉を終了させ、使用者側の案を実施することが通例となっている。

使用者側案の強制実施は、労使関係を悪化させることになるため、できる限り避けたいとの考えがある一方、給与協約の失効時期が迫り改定の必要がある場合などに実施している。労働組合の反発が強い場合、ストライキを誘発することも少なくない。

ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)のような労働組合の組織率が低い省(同省では、職員の4分の3は非組合員)では、労働組合との交渉に加えて、職員の大多数を占める非組合員とも、イントラネットでの情報掲載や職員調査の実施等による意思疎通を図っている。

表1 イギリスの国家公務員が加入している主要労働組合の種類及び組合員数
表2 イギリスの官民における労働組合組織率の比較
(4)交渉の流れ
ア 労使双方の主張

前述のとおり、給与交渉は、給与歳出枠内における配分交渉となっている。現在は、2010年から政府部門職員の給与を2年間凍結し、給与凍結終了後についても2年間は給与上昇を平均1%以下に抑えるという政府の方針が示されているため、給与交渉もこの制限の枠内での交渉となっている。使用者側としては、給与凍結という政府方針に従う必要があること、給与上昇のための原資が与えられていないこと、給与凍結を実施しなければ更なる人員削減が必要となること等を主張し、労働組合側の理解を得るようにしている。労働組合側は、インフレ率よりも低い給与改善では実質的には賃下げであると主張し、民間賃金の状況を提示するなどして、使用者側に給与改善を求めている。

イ 労使交渉の経過

給与歳出枠の決定後、実際の配分をどうするかについて、労使での公式交渉が開始する。公式交渉は、給与協約の更新時期に向けて、一定期間集中的に行うのが通例である。なお、公式交渉が開始される前にも労働組合との間で非公式交渉を行い意思疎通を図ることが財務省の発出する給与改定指針(Pay Guidance)では奨励されているが、非公式交渉の場では数%の賃上げなどおよそ非現実的な要求内容が出され、公式交渉に向けた実質的な合意形成の場としての機能はない模様である。実際には、給与歳出枠の承認が行われてから、原資はこれだけしかないからどう配分するかという現実的な交渉に入っていく。

雇用年金省の場合、例年3月から非公式交渉が開始され、3月又は4月に給与歳出枠の承認が行われた後に公式交渉が開始される。公式交渉は2か月程度の間に合計5回程度集中的に行われる。給与改定は、労働協約締結の有無にかかわらず、7月から実施される。

配分の傾向として、労働党政権、保守・自民党連立政権を通して、等級が低い職員に厚い傾向となっている。給与凍結の際に、年額21,000ポンド以下の職員は例外扱いとしたことも、この流れの一環である。等級が低い職員の給与は、民間全体の平均より額が低いことも考慮されている模様である。

図4 イギリスの一般職員の給与決定過程

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