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第1編 《人事行政》

【第2部】 公務員給与の決定過程 〜諸外国の実態と我が国の課題〜

第1章 諸外国の実態

第3節 ドイツ

1 勤務条件決定過程の概要等

(1)概況

● ドイツの公務員は、主として公権力の行使に携わる「官吏」と私法上の雇用関係にある「公務被用者」とに分けられる。

● 「官吏」は、団結権は保障されているものの、給与等は法定されるため協約締結権はなく、争議権も認められていない。

● 団体交渉を通じて賃金等を決定する「公務被用者」は、民間労働者と同様に、三権ともに保障されている。

● 職員代表制により、官吏・公務被用者共同で、法令及び賃金協約の定める勤務条件の官署における具体的な適用や、個別の人事処遇に関する使用者の意思決定過程に参画する。

ドイツの公務員は、公法上の勤務義務、忠誠義務を負い、主として公権力の行使に当たる職務を遂行する官吏(Beamte。憲法第33条第4項)と、労働契約に基づく私法上の雇用関係にある公務被用者(Tarifbeschäftigte)によって構成されている。

官吏は、警察、刑務、教育、税務、税関といった領域や、連邦及び州の本省等における基本的な行政執行において、中心的な役割を果たしている。これに対して、公務被用者が多数を占めている行政領域としては、医療、福祉の実務や清掃等の現業業務のほか、統計、年金支給、職業紹介、秘書などの事務や各行政機関における定型的な事務などが挙げられる。

公務員の数は、連邦で官吏約13万人、公務被用者約14万人、州で官吏約125万人、公務被用者約69万人、市町村で官吏約18万人、公務被用者約111万人であり、このほかに軍人(全て官吏)が約19万人、ドイツ連邦銀行、連邦雇用エージェンシー、社会保険関係の社団その他公法上の諸機関で官吏約8万人、公務被用者約77万人となっている(いずれも2010年6月現在)。

憲法上、官吏の身分、勤務条件等に関する法律は「伝統的な職業官吏制度の諸原則」を考慮して定めることとされている(第33条第5項)。この諸原則には、官吏の忠誠義務と使用者の扶養義務、給与法定原則、ストライキの禁止等が含まれると解され、官吏については、協約締結権と争議権が否認されている。公務被用者については、民間労働者同様、三権ともに認められ、賃金も労使交渉により決定される。

ドイツでは、職員代表制により、各官署において官吏及び公務被用者共同で、法令及び賃金協約の定める枠組みの中での勤務条件の官署における具体的な適用や、採用・昇進等の個別の人事処遇に関する使用者の意思決定過程に参画する。

(2)官吏の給与決定の仕組み及び基本原則

● 憲法の規定に基づき、忠誠義務を負う官吏の勤務条件は、官吏に対し扶養義務を負う使用者の責務として法令により一方的に定めるものとされており、官吏には協約締結権も争議権も認められていない。

● 連邦給与法改正に当たっては、労働組合がその法案作成段階で関与することが法定されている(連邦官吏法)。

ア 給与決定の仕組み

官吏には、憲法上「伝統的な職業官吏制度の諸原則」が認められている。これにより、官吏は使用者に対し勤務義務・忠誠義務を負う一方、使用者は官吏に対し終身の扶養義務を負うとされ、官吏の給与、恩給、勤務時間等の勤務条件は、法令によって定められている。官吏については、団結権が認められ、意見表明も認められているが、その勤務条件は使用者の責務として一方的に定めるべきものとの考え方から協約締結権は認められておらず、争議権も否認されている。

官吏の給与は提供された個々の勤労に対する直接の報酬ではなく、職務専念義務に基づく勤務の総体に対する反対給付であり、官職に相応しい生活を保障するために支給されるものである。俸給等の給与は、連邦給与法等の法令によって定められ、その内容は、一般的な経済情勢及び財政事情に適応するように、かつ、職務を考慮して、法律により定期的に改定されるものと定められている(連邦給与法第14条)。

イ 給与決定過程

官吏の給与改定は、現実には、公務部内における均衡を図るため公務被用者の賃金交渉の妥結状況を踏まえた上で、国の経済・財政状況に一定の配慮をして行われている。近年の改定においても、給与改定はほぼ公務被用者とのバランスを取って行われている(ドイツ労働組合同盟は、「(官吏の)給与は(公務被用者の)賃金に従う」と表現している。)。

一方で、連邦官吏の給与について、公務被用者に関する賃金交渉の妥結結果より厳しい内容の法案が提出され、議決された例はある(恩給目的の積立分捻出のための改定率の0.2%抑制、財政健全化策の一環としてのクリスマス手当の半減(2006年から2011年まで、俸給の0.6か月分相当額→0.3か月分相当額)、改定時期の延伸など)。また、2004年以降、週所定勤務時間は38.5時間から徐々に延長され、現在では41時間(公務被用者は39時間)とされている。

政府が、給与を含む官吏に関する法令を策定するに当たっては、官吏に関する労働組合の上部組織が関与することが法定されており(連邦官吏法第118条)、実際には、労働組合上部組織(ドイツ労働組合同盟、ドイツ官吏同盟(表3参照)その他の6労働組合・連合体)の書面による見解の表明及び会談という形式で行われる。政府の法令案は、閣議決定前に二度(各省協議時及び各省・各州との協議終了時点)、連邦内務省から労働組合側に対して送付され、労働組合側は書面で見解を表明する機会を与えられるとともに、二度目の見解表明の前に、連邦内務省との会談の機会が与えられる(通常、第1回の書面による見解表明から4週間後。労働組合側の同意がある場合には、行わないこともできる。)。この会談の主宰者は、案件の重要性に応じて、大臣、事務次官、局長レベル又は課長レベルと様々である。

関与の手続は、両者が合意することまで求めるものではない。労働組合側の意見を受け入れない場合には、政府は法案の趣旨説明に当該意見を記載することとされており、そのような労働組合の意見の例として、官吏の給与改定の実施時期を公務被用者よりも遅らせることなどに反対する意見を挙げることができる。これにより、議会は労働組合の主張も承知の上で判断することとなり、実際にも、労働組合の意見が審議の過程で反映され、最終的に政府案が修正されて成立した例がある。

連邦官吏法第118条の関与の手続は、法令案として閣議決定される前の段階で労働組合の立場を明らかにする機会を保障する手続として重視されている(ドイツ官吏同盟)。一方で、複雑な影響の及ぶ大改正の場合に限って政府案の提示から労働組合の見解表明までの期限が短くなりがちであるという指摘(ドイツ労働組合同盟)もある。

表3 ドイツの官吏に関する法案策定に関与する労働組合の上部組織(主要なもの)
ウ 給与改定への議会の関与

官吏の給与制度は法令で定められており、俸給など法律で定められている給与の改定については、議会の議決が必要となる。なお、給与を引き上げる連邦給与法改正案が閣議決定されると、慣行として、改正法の成立を待たずに当該引上げが「仮払い」されている。仮に当該法案が成立しなかった場合には、官吏に返還義務が生じることとなる。

過去10年間の議会の審議では、毎回、政府提出の連邦給与法改正案に内務委員会による修正が加えられているが、議会により給与改定率や一時金の額が修正された例はない。

エ 給与の予算面における取扱い

官吏の給与については、等級別人員を明示して、予算に計上されている。予算は毎年、議会で議決される。予算案は内閣から連邦議会及び連邦参議院に同時に提出され審議されるが、予算案の議決には連邦参議院の同意は必ずしも必要ではない。

図5 ドイツの官吏の給与決定過程

ドイツの官吏のストライキ禁止をめぐる法廷論争

欧州人権裁判所は、2009年4月21日の判決において、労働組合の組織する全国的ストライキに公務員が参加することを禁止したトルコ政府の措置に関し、結社の自由の行使の制限を「軍隊、警察又は国家行政の構成員」以外には認めていない欧州人権条約(第11条)に違反するとした。これが一つの契機となって、ドイツ国内で、労働組合の組織する警告ストライキに参加したことを理由に懲戒とされた州官吏(教員)が処分を不服として提起した行政訴訟において、官吏のストライキ禁止の解釈・適用をめぐって司法判断が分かれている。

(a)2010年12月15日デュッセルドルフ行政裁判所判決

「伝統的な職業官吏制度の諸原則」の一内容であるストライキ禁止は全ての官吏に及ぶが、欧州人権裁判所の判決に鑑み、著しく不相当な態様であるといった事情のないストライキに参加した官吏を懲戒に処することは許されないとの判断を示した。

(b)2011年7月27日カッセル行政裁判所判決

官吏のストライキ禁止は、欧州人権条約と両立するように限定解釈すべきであるとし、教員は公権力の行使に携わらないから、官吏であってもそもそもストライキを禁止されないと判断した。

(c)2011年8月19日オスナブリュック行政裁判所判決

官吏のストライキ禁止について欧州人権条約と両立するように限定解釈することは憲法に違反する、官吏が右禁止に違反してストライキに参加することは職務専念義務違反(職務懈怠)であるから、当該官吏を懲戒処分することを妨げないと判示した。

これら第一審判決はいずれも控訴されており、このうち(a)に関しノルトライン・ヴェストファーレン州上級行政裁判所が、2012年3月7日、欧州人権条約及び憲法の保障する結社の自由は、「伝統的な職業官吏制度の諸原則」による制約を免れず、官吏の身分にある者は、国家に対する忠誠義務等に鑑み、具体的な職務にかかわらず、ストライキを禁止されるとして、第一審判決を取り消す判決を下した。

(3)公務被用者の給与決定の仕組み及び基本原則

● 公務被用者は、団結権、協約締結権を含む団体交渉権、争議権を全て有しており、その賃金は、労使交渉を経て締結される労働協約により決定される。

● 連邦の公務被用者については、市町村の公務被用者と共同で、連邦内務大臣及び市町村代表(連邦財務大臣が同席)と労働組合との間で賃金交渉が行われる。

ア 給与決定の仕組み

公務被用者は、民間の勤労者と同様の労働法制の下にあり、団結権、協約締結権を含む団体交渉権、争議権を全て有している。給与改定は、労使交渉を経て締結される労働協約による。公務被用者の賃金がこうした方法で決定されることは、国民に完全に自明のこととして、肯定的に受け止められている。

公務被用者の賃金交渉は、かつては、連邦、州及び市町村が共同で行っていたが、財政難を背景に独自路線を歩もうとした州が2004年に共同交渉から離脱し、現在は、連邦及び市町村が共同で行っている(一部州を除き、各州は共同で交渉を行なっている。)。

賃金改定が実施されると、その改定の内容は、組合員であるか否かにかかわらず(個別の労働契約の条項等を介して非組合員にも)、全ての公務被用者に適用されることとなる。

イ 給与改定への議会の関与

公務被用者の賃金制度については、法律の定めはなく、労働協約で定められるため、議会の関与はない。

ウ 給与の予算面における取扱い

予算は単年度制であり、公務被用者の人件費は、賃金等級別人員数とともに予算案に計上され、議会の議決を経る。

労働協約の賃金の定めは直接、すなわち別途の法令等を要することなく、適用され(労働協約法第4条第1項)、その効力は予算措置の有無に左右されない。公務被用者の賃金について、労働協約では数次にわたる段階的な引上げが合意されるのが一般的である。例えば、初年度において賃金引上げを実施するのに既定予算で不足が生じる場合には、連邦政府は、労働協約の使用者側当事者として、協約の内容を実施するために、必要な補正予算について議会の承認を得る、あるいは年に数%程度の引上げ幅であれば各府省で人員削減(不補充)等により既定の人件費の執行を節約して不足分を捻出するよう促すなどの措置を採ることとなる。


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