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第1編 《人事行政》

【第2部】 公務員給与の決定過程 〜諸外国の実態と我が国の課題〜

第1章 諸外国の実態

第3節 ドイツ

2 公務被用者の給与をめぐる労使交渉の実態

● 連邦公務被用者の賃金交渉は、市町村のそれと共同で、労働組合側代表:統一サービス産業労働組合委員長及びドイツ官吏同盟協約部門代表、使用者側代表:連邦内務大臣及び市町村使用者団体連合会議長が、当事者として出席して行われる。

● 労働協約は、給与のほか、勤務時間、休暇、雇用期間の設定・解雇等の勤務条件の枠組みについて定めているが、毎回の労使交渉の主たる対象事項は、手当を含む賃金の引上げ率である。

● 予算、定員は、労使交渉の対象ではない。

● 労働協約の効力は予算措置の有無に左右されないが、トップ会談の場を含め、財源に関する権限を持つ連邦財務大臣又は次官が労使交渉に同席することで、労働協約と予算との調整が図られている。

● 交渉不調の場合には、調停の手続に移行する。実際に調停手続に進む場合が多く、拘束力のない調停案を基に更なる交渉が重ねられることとなる。

● 少なくとも1990年代以降、賃金交渉の結果、連邦公務被用者の賃金水準が引き下げられたことはない。

● 近年、公務被用者の賃金交渉に際しては、大規模な警告ストライキが行われることが多くなっており、特に市町村公務被用者によるストライキのために、病院、ゴミ収集等の行政サービスに関して、国民生活に直接的な影響が及んでいる。

(1)交渉事項

労使の賃金交渉においては、引上げ率、引上げ時期、労働協約の継続期間が、交渉の中心課題である。給与の配分も交渉事項であるが、労働組合側が定率の賃金引上げを基本に低所得層に厚い社会的配慮(最低額保障)を要求している状況では、使用者側においても、高位等級により厚くというような配分は、合意の見込みなしとして提案していない。

給与以外の勤務条件の枠組みも労使交渉の対象であり、勤務時間、休暇、雇用期間の設定・解雇等について労働協約で定めている。実際、2005年の労使交渉は、給与のほか、総則、勤務時間、休暇、雇用期間の設定・解雇等の事項を網羅する新たな労働協約の締結を目指し、2003年から約2年間を準備に費やした上で、連邦及び市町村の公務被用者に適用される公務労働協約の締結にこぎ着けた。おおむね2〜3年ごとに行われる賃金交渉では、給与、勤務時間を含む勤務条件がパッケージとして交渉対象とされて、使用者側が賃金引上げ要求を受け入れるのと引換えに、労働組合側が勤務時間延長を受け入れるといった駆け引きも行われる。

なお、予算法により規律される予算、定員は、労使交渉の対象ではない。

(2)労働協約の法的効果等

労使が交渉で合意することにより、労働協約は議会の同意を要することなく効力を持つ。判例(1984年9月26日連邦労働裁判所判決)・学説上、労働協約は予算より優先すると解されており、予算措置の有無は労働協約の効力に影響しない。ただし、合意内容を実施するのに予算の不足が生じないよう、使用者側においては、連邦財務大臣又は次官が交渉に同席し、予算との調整を図りながら交渉を行っている。

(3)交渉の形態

ドイツにおける労働組合は産業別組合であり、公務被用者の賃金交渉に当たる労働組合・連合体としては、統一サービス産業労働組合及びドイツ官吏同盟協約部門がある。これらは、各専門分野又は地域ごとの労働組合やグループの代表で構成される機関の議を経て、最終的には多数決をもって、要求内容等に関する意思決定を行う。

使用者たる連邦政府及び市町村使用者団体連合会の側では、経済調査機関の調査結果等を参考に交渉方針の検討が行われ、通常は、あらかじめ双方の代表の間で意思統一をした上で交渉に臨むこととなる。市町村使用者団体連合会は、1万を超える市町村等を束ねる組織で、利害状況は複雑で一様ではないが、相互間の人事異動を円滑に行う上で公務全体が一体的に取り扱われることが望ましいこと、巨大組織を背景とする労働組合側代表に対して市町村のみの場合よりも強い立場で交渉に臨むことができること等の利点を重視して、連邦との共同交渉を維持している。

交渉における使用者側代表は、連邦内務大臣及び市町村使用者団体連合会議長、労働組合側代表は、統一サービス産業労働組合委員長及びドイツ官吏同盟協約部門代表であり、これら当事者が同じテーブルを囲む。

なお、財源に関する権限を持つ連邦財務大臣又は次官が同席する慣例である。

(4)交渉の流れ
ア 労使双方の主張

賃金は労使が自律的に決定すべき事項と考えられており、公務被用者の給与に関して、基準とすべき特定の統計等が定められているわけではない。実際の賃金交渉においては、全般的な経済情勢、インフレ率、公務の交渉が開始される前に妥結した民間における賃上げの状況等が考慮されている。

労働組合側では、要求内容集約過程で表明された個別職域や地域の要望・意見・期待が考慮される。使用者側は、厳しい財政状況に特に配慮するほか、民間との比較における公務特有の条件(安定した雇用と給与水準、仕事と家庭の両立に配慮した勤務形態、付加年金などの特別給付)も考慮に入れるべきであるとしている。

イ 労使交渉の経過
【交渉開始】

公務被用者の賃金等を定める労働協約には、通常、一定期間(近年では2年から3年)は解約できない旨の条項があり、当該期間が経過すれば、当事者は、解約と新たな労働協約締結に向けた交渉の申出を行うことができる。通常は、労働組合側から申出がなされる。

労使の駆け引きは公式交渉日程の前に既に開始される。労働組合側は、各部門の要望等に基づいて協議し、多数決で決定した要求内容を公表し、使用者側もそれに対する態度を公表する。2000年の賃金交渉では、政府・与党は、公務被用者に関する交渉に先立って、官吏の給与改定率について前年の物価上昇率を上限とする条項を含む法案を議会に提出することにより、公務被用者の賃金交渉に枠をはめようと試みたが、この試みは、官吏及び公務被用者による抗議行動を招き、最終的には、連邦参議院の不同意により同条項は成立せず、公務被用者の賃金に関する上限設定も実現しなかった。

【交渉の具体的な態様】

公務被用者の賃金交渉は毎年行われるわけではなく、2000年以降では6ラウンド行われており(直近は、2012年3月1日に開始、同月31日に妥結。)、交渉の長引いたラウンドでは、2.5か月の間に5、6回(各回2日程度)の交渉日程が設定された。各回の交渉日程においては、最重要事項について詰めの協議を行うために、また、労使双方の主張に大きな隔たりがある場合において交渉を前進させるための糸口を探る目的で、双方4人ずつの代表者(使用者側:連邦内務大臣、連邦財務次官、市町村使用者団体連合会議長及び同副議長、労働者側:統一サービス産業労働組合委員長及び同副委員長、ドイツ官吏同盟協約部門代表及び同副代表)のみによる「4+4」会談が度々行われる。トップ会談の場にも財務次官がメンバーとして発言の機会が保障されていることで、(内務大臣より財務次官の方が労使交渉に通暁している場合には特に)予算当局の意向が十分に反映される仕組みである。

その前後には、使用者側、労働者側それぞれにおいて、その時点でどのような提案ができるか、どこまで受入れを表明できるかといった戦略の協議が並行的に行われるほか、必要に応じて随時、障害となっている事項等について互いの真意を探り合う目的で、一対一を含む労使双方ごく少数同士の非公式会談が行われたり、テーマごとに労使双方から成る非公式作業グループが編成されて合意に向けた具体化作業が並行的に進められたりする。このような交渉を重ねる中で、労働組合は交渉日程の合間に警告ストライキ(時限スト)を実施し、調停手続を経て妥結に至るという経過をたどるのが一般的である。

【2012年交渉の推移】

直近、2012年の賃金交渉の推移を振り返ると、労働組合は6.5%、月額最低200ユーロの賃金引上げ等を要求し、交渉開始前に、市民の理解を得るために、全国行脚してビラの配布などを行った。第一回交渉(3月1日)における使用者側のゼロ回答を受けて、その翌週には警告ストライキが全国的に実施され、約13万人が参加したとされる。第二回交渉(3月12〜13日)で、初めて使用者側が2012年5月から2.1%、2013年3月から1.2%の各賃金引上げ及び200ユーロの一時金支給、協約期間24か月という回答を示したが、労働組合はこれを拒否し、改めて警告ストライキが呼び掛けられた(約21万5,000人が参加)。このような駆け引きが行われる中で、3月28日に開始した第三回交渉では、当初の日程を延長して31日未明まで交渉が断続的に重ねられた結果、2012年3月1日に遡って3.5%、2013年1月1日から1.4%、同年8月1日から更に1.4%(合計6.3%)賃金を引き上げるなどの内容で労使合意が成立し、調停手続に移行することなく妥結した。

すなわち、当初の要求(協約期間1年間で6.5%、最低保障月額200ユーロの引上げ)に対し、協約期間2年で3回に分け、合計6.3%の引上げで妥結したことになる。

なお、過去数十年において、労使交渉によって賃金水準の引下げが行われたことはない。

ウ 合意承認等の手続

賃金交渉の結果合意された内容は、書面にされ、これに使用者側:連邦内務大臣及び市町村使用者団体連合会議長、労働者側:統一サービス産業労働組合委員長及びドイツ官吏同盟協約部門代表の4代表全員が署名する。

労働側は合意された期限までの間に、それぞれ加盟組合や機関における承認投票等の手続を経ることを要する。

承認手続を経た後、合意内容を適切に反映した協約条項を仕上げる作業が行われる。

合意内容は労働協約として当事者を拘束する(労働協約法第4条)。連邦公務被用者の労働協約に関する交渉は、常態として労使双方とも複数の主体の間で行われてきたが、締結された労働協約は一体であり、複数協約の問題は生じていない。

なお、労使の合意が成立するまでの間は、従前の労働協約が引き続き効力を有することとされている(労働協約法第4条)。

(5)交渉不調時における調停手続への移行

労使交渉によって合意に達せず、調停が必要と判断された場合には、労使同数の委員と中立委員から成る調停委員会による調停手続に移行する。2000年以降に行われた公務被用者の賃金交渉6ラウンドのうち、実際に調停を経たのは4ラウンドである。

調停手続は、労使で締結した協定によって規定されている。交渉が決裂すると、24時間以内に調停手続の開始が宣言される。調停案の作成についての基準等は特に定められていないが、調停委員会は全会一致の調停案を得ることを目指して協議を行うことが義務付けられており、労使双方の委員と中立委員との間で妥協点が探られる。

調停案が示されると、労使双方は合意するという目標を持って調停案を基に交渉を再開することが義務付けられているが、調停案には法的拘束力がないためその内容どおりに合意するわけではない(調停を経た前述の4ラウンドにおいては、再交渉の結果妥結した最終的な引上げ率が調停案とほぼ同様となったことが2回、調停案を若干上回ったことが2回となっている。)。

(6)ストライキの特徴

調停が失敗に終わったときは、労働組合側は最終手段として長期にわたるストライキにより決着を図ることとなる。この場合、労働組合は事前に、ストライキ実施について賛否を問う組合員の投票を行っている。2000年の交渉においては、賛否投票によりストライキの実施が決定された後に、ストライキ回避に向けて交渉が再開され、ようやく妥結に至っている。

近年は、使用者側の財政事情が厳しくなっていることも背景に、交渉が難航し、交渉と交渉の合間に、1日の時間を区切って行われる警告ストライキが多発している。賃金交渉の過程においては、労働組合側が組織するデモ(交渉当日の会場前での支援・示威行動を含む。)や警告ストライキなどの抗議行動が使用者側に対する大きな圧力となっている一方、労働組合側も国民の支持を失わないよう配慮している。

図6 ドイツの公務被用者の給与決定過程

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