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第1編 《人事行政》

【第2部】 公務員給与の決定過程 〜諸外国の実態と我が国の課題〜

第1章 諸外国の実態

第4節 フランス

2 給与をめぐる労使交渉の実態

● 政府が給与改定を決定し、政令等の改正により実施する。

● 改定に先立つ労使交渉は認められているが、交渉で取り上げる事項や開始するか否かを決定する権限は当局が有する。数年にわたり給与改定の交渉自体が開始されず、政府の責任において改定決定が行われたこともある。

● 合意に達した場合は政府が作成した議定書に労働組合が署名する。ここ10年以上、給与水準について労使が合意に至った例はない。

● 労使交渉への参加及び合意(議定書署名)においては、2010年の法律改正により、各労働組合が職場を実質的にどれだけ代表しているかが問われる形に変更され、職場協議会とのつながりが制度上も一層強められた。

● 非組合員も含んだ職場協議会における投票で、多数の職員から支持を得た複数の労働組合が代表性を獲得し、同時に交渉の席に着く。

● 過去数十年間、給与の引下げは行われていない。

(1)交渉事項

給与に関する労使交渉については、「官公吏の労働組合は、国の代表者、地方公共団体及び医療機関の各雇用者側の代表者とともに、給与改定及び官公吏の購買力に関する全国レベルでの交渉に参加する資格を有する」(官公吏一般規程第Ⅰ部第8条の2)と規定されているが、これは「交渉しなければならない」という趣旨ではない。実際の運用をみても、交渉の開始を決定する権限は当局が一義的に有し、数年にわたり給与改定の交渉を行わずに政府の責任において給与改定がなされたこともある。

なお、給与以外の事項についての交渉も比較的頻繁に行われていたが、2008年のベルシー合意(後述)を受けた2010年7月の法律改正により、法文上、勤務条件と枠組み、キャリア形成、昇進、研修、福利厚生等についても労使交渉の対象となり得ることが初めて明記された。これらについても、給与改定と同様、労使交渉を行うか否かは当局の判断である。

(2)労働協約の法的効果等

労働協約は認められていない。

ただ、労使交渉において合意に達した場合については、政府が作成した議定書(法令上、統一的な名称の定めはなく、accords、protocole、constats、relevé de conclusionsなどまちまち)に労働組合が署名をして終結する形を取るが、こうした議定書は、法的には双方を拘束する効力はなく、倫理的、政治的な拘束力があるのみである。第三者に対する効力もなく、裁判に訴えることもできない。

実際には、給与改定については、交渉が決裂するケースが多く、議定書が結ばれることはまれである。

(3)交渉の形態
ア 交渉の契機

公務員の給与については、政府が交渉の開始を決定する。労働組合は交渉を要求することはできるが、政府側にこれを受諾する義務はなく、政府側の権限で、どの事項につき、いつ交渉を開始するかを決める。交渉が開始されなかった年もあるが、最近は、予算計画に合わせて交渉の時期が決められることが多い(後述)。

給与改定に係る労使交渉に際しては、行政公務員総局を中心に事務方が交渉方針の指図書案を作成し、首相がその指図書を公務担当大臣に示すのが慣例である。この指図書は、マクロ経済、国の財政状況及び消費者物価指数の上昇への対応等を考慮しながら、予算当局を交えて作成されており、労使交渉に先立つ予算面での一定の上限となっている。

交渉は、その指図書の範囲内で行われ、公務担当大臣が指図書の枠を超えた回答を行いかねない場合は予算局がこれを抑えるよう動く。指図書の枠を超えて妥結する事態に至れば、他の人件費予算の節約等により財源を捻出することとなるが、実際にはそうした例はない。

イ 交渉単位

交渉の中身によって、中央合同交渉、各省交渉、地方交渉など、様々な単位で交渉が行われている。

ウ 労使双方の当事者

交渉内容によって、労使とも交渉当事者が異なる。

俸給指数の単価は全ての公務員に適用されるため、単価改定に係る交渉は、国家公務員、地方公務員及び医療公務員の三者合同(対象者:約530万人)で実施される。

その場合、当局側の交渉の責任者は公務担当大臣であり、財政所管部局、地方公務員所管部局、医療公務員担当部局、教員所管部局の各幹部職員、更に事務方として行政公務員総局幹部が陪席する。労働組合側は、2010年の法改正の結果、労使交渉に出席できる代表資格は、職場協議会における代表選挙結果によって決まる形に変わった(後述)。

また、俸給表における指数の改定については、全省庁に係るコール(高等行政官群)や複数コールに係る改定と、特定省庁のみのコールに関する改定とがある。前者の場合は、単価の改定と同様、公務担当大臣と代表資格を有する労働組合との間で行われる。他方、単独の省庁にしか存在しないコールに関する指数改定や俸給以外の手当については、それぞれの省庁内で交渉が行われる。いずれの場合も、各省が独自に決めることはできず、公務担当大臣及び予算大臣の同意が必要とされる。

エ 交渉参加・合意署名の際の労働組合の代表性(職場協議会とのリンク)

2008年5月、政府と労働組合との間で、「社会的対話を促進するためのベルシー合意(Accords de Bercy sur le Dialogue Social dans la Fonction Publique)」が結ばれ、2010年7月にはそれを受けた「公務における社会的対話の改善に関する法律」(2010年7月5日法律第2010−751号)が成立した。

この改正により、まず、労使交渉にどの労働組合が参加できるかについて、従来は特定の7つの労働組合がほぼ固定的に参加資格を得ていた扱いが見直され、直近の職場協議会選挙で議席を得られたかによって、その後の労使交渉に参加できる労働組合も決定される(通常7〜8程度)方法となり、その時々の職場協議会における勢力図が労使交渉にも反映されることとなった。

さらに、従来は、合意に署名する際も、労働組合の代表性が問題になることはなかったが、上記法改正の結果、議定書が有効になるのは、「職場協議会における代表選挙において、合計で有権者(職員数)の50%以上を代表している労働組合によって署名された場合」とされ、合意の際にも代表性が問われることとなった。なお、2013年までの間は、「有権者の20%以上を代表する労働組合により署名され、合計で有権者の50%以上を代表する労働組合の反対がない場合に、その合意は有効とする」という趣旨の経過措置が置かれている。

これらの見直しによって、労使交渉と職場協議会とのリンクが制度上も強まるとともに、職場協議会での投票は組合員であるか否かにかかわらず可能であるため、どの労働組合が職員全体からどれだけの支持を得ているかが個別の交渉や合意署名の効力に影響することとなってきている(表6参照)。

また、この改正により、勤務条件などに関して議定書を結んだ他組合を批判しつつ、成果だけは享受するという従来の労働組合の対応は難しくなるため、政策に対する労働組合の参加責任を明確にする効果も今回の政府側の狙いとされている。

表6 2011年10〜11月に行われたフランスの国家公務員の職員代表選挙(行政管理協議会選挙)における各労働組合の支持率
(4)交渉の流れ
ア 労使双方の主張

給与改定に当たって、政府側は主に財政事情を考慮し、労働組合側は主に購買力や生活水準の維持・向上の観点から、インフレ率等を踏まえた主張を行っている。さらに、政府側も、優秀な者を政府に確保することが重要との考え方に立ち、給与は大企業と競争し得る水準となるよう配慮している。

イ 労使交渉の経過

労使交渉は、政府が案を提示し、それに対して代表的労働組合の代表者が協議を行う形で進められる。交渉の時期や頻度は不定期であったが、2008年以降は、予算3か年計画に合わせて3年単位で給与政策の概要についての労使交渉が行われ、3年間の俸給指数の改定が計画されている。ここで定められた概要に沿って、指数値改定の時期・程度、俸給指数以外の給与についての方針が予定される。ただし、他のEU加盟国同様、フランスも財政4か年計画をEUに提示しているため、これに合わせ、2012年からは給与交渉も4か年計画に変更される見込みである。

1回当たりの交渉は、数日から場合によっては数か月にわたり行われる。期限に関する定めはなく、交渉を打ち切るタイミングは政府の判断による。

合意に達した場合、最終的には政府が作成した議定書に労働組合が署名をして終結する。署名は、公務担当大臣が労働組合ごとに求め、署名するか否かは各労働組合の意思に委ねられている。従来は、いずれかの労働組合が署名をすれば効力を生じることとされてきたが、前述の通り、2010年改正により、署名の際には実質的な職員代表性が問われる形に変わった。

議定書が結ばれれば、政府はそれに基づき給与改正案を作成するのが通例であり、最高官吏制度協議会(後述)への諮問を経て、政令等の改正により実施する。ただし、給与改定については交渉が決裂するケースが多く、1998年に指数単価の改定について議定書が締結されたのを最後に、今日まで議定書の締結に至っていない。合意に至らなかった場合には、政府が自らの責任において改定率を決定し、政令等の改正により実施する。近年の実態をみると、大多数が交渉合意によらないこうした形の給与決定となっている。

一方、こうした政府の対応に不満がある場合、公務員側は争議行為によって対抗することがあり、近年も、交渉開始や政府の提案内容の見直しを求める争議や、交渉打切りに抗議する争議など、様々な段階での事例がある。

給与水準について合意に至ることが少ない背景として、行政公務員総局は、フランスはEUから公共赤字の削減を求められ、公務員給与の引上げをしないという施策を政治的に表明しているため、当局側に最初から妥協の余地がないこと等を挙げている。

図7 フランスの公務員の給与(俸給)決定過程
(5)交渉による給与決定の効果・影響

給与決定に際し、通常は労使交渉を経る仕組みとなっているが、交渉は必須ではなく、あくまでも当局に一義的な決定権があるとの前提で労使とも対応しているのが実態である。労働組合側は、不満が強ければ争議権行使によって対抗する。他方、交渉により議定書が締結されれば、政府は道義的にそれに拘束される。

なお、労使交渉の有無にかかわらず、名目賃金の引下げがなされた例はない。人件費削減に向けた取組の中心は給与引下げではなく職員数削減である(コラム「主要4か国における総人件費抑制の取組」参照)。その理由として、行政公務員総局は、「公務員給与を減らすと、結果的に国民の消費が減り、経済成長にブレーキがかかる。税収も減り、更に公的債務が増える」としている(2012年人事院によるインタビュー)。


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