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第1編 《人事行政》

【第2部】 公務員給与の決定過程 〜諸外国の実態と我が国の課題〜

第2章 我が国の課題

参考1 労働基本権制約の経緯とILOにおける議論


参考1 労働基本権制約の経緯とILOにおける議論
(1)労働基本権制約の経緯

● 昭和23年12月に、内閣の所轄の下に人事院を設置すること、非現業一般職の国家公務員の争議行為を一律に禁止すること等を内容とする国家公務員法の改正が行われた。

昭和23年7月に施行された国家公務員法では、一般職の国家公務員について、労働組合法の適用を認め、警察、消防、監獄職員を除いて、労働組合の結成、加入が保障されるとともに、団体交渉権及び協約締結権が認められており、労働関係調整法では一部の公務員の争議権も認められていた。

しかしながら、急速に拡大した公務員労働組合が大規模なストライキに突入する状況が生じたため、マッカーサー連合国最高司令官は、同年7月22日に公務員の特殊性を強調し、団体交渉権・争議権を否認するための国家公務員法の改正を命ずる芦田内閣総理大臣宛て書簡を発出した。同書簡を実施するため同年7月31日に政令第201号が公布、施行された。

こうした情勢も踏まえ、同年12月3日には、①内閣の所轄の下に人事院を設置するなど中央人事行政機関の組織及び権限の強化、②非現業一般職の国家公務員の争議行為を一律に禁止するなどの服務規律の強化、③特別職の範囲の縮小を内容とする国家公務員法の改正法が公布、施行された。

(2)ILO第87号条約批准の経緯

● ILO第87号条約の批准に伴う国内法整備により、職員団体の自主性の確立が図られることに対応して、使用者である政府の責任体制を整備するため内閣総理大臣が中央人事行政機関と位置付けられ、総理府人事局が設置された。

我が国がILO第87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)を批准したのは昭和40年であるが、同条約の批准問題が大きく取り上げられるようになったのは、昭和32年のILO総会において、我が国の労働者代表から第87号条約批准促進決議案が提案されてからである。

政府は、同年9月に同条約の批准の是非について「労働問題懇談会」(労働大臣の諮問機関)に諮問し、関係法令を整備して同条約は批准すべきとの答申が昭和34年2月に出された。

この答申を受けて政府は同月、閣議において、同条約を批准することとし、そのための関係法令について所要の改正を加えるとともに、正常な労使関係を確立するため諸般の施策を講ずるほか、ILO条約の趣旨とする労使団体の自主的運営、相互不介入という近代的労使関係の基本的精神が我が国の労使関係にも十分採り入れられるよう諸般の施策を進めるという処理方針を決定した。

この閣議決定を踏まえた同条約の批准承認案及び関係法律の改正案は、昭和35年4月に国会に提出されたが審議未了廃案となり、その後、複数回の国会提出や内容の修正を経て、昭和40年5月に可決成立した。

この法改正では、国家公務員以外の者の職員団体の役員就任を可能とするなど、職員団体制度が整備され、また、従前は人事院のみが中央人事行政機関とされてきたが、使用者である政府を代表する機関(人事・労務担当機関)として新たに内閣総理大臣が中央人事行政機関として位置付けられた。

この中央人事行政機関たる内閣総理大臣の事務は国務大臣である総理府総務長官が補佐することとされ、総理府においてこれを担当する部局として人事局が設置された(現在は総務省人事・恩給局が担当)。

(3)ILO第98号条約第6条の適用を受ける公務員の範囲について

● ILOは全ての公務員に労働基本権を付与することを求めているのではない。国の行政に直接従事する公務員及びその補助的要員について団体交渉権・ストライキ権を制約することを認め、その場合には労働者の十分な利益保護のための適切な保障の確保がなされることを求めている。

ILOは第98号条約(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)が適用される範囲について、第6条で「この条約は、公務員の地位を取り扱うものではなく、また、その権利又は分限に影響を及ぼすものと解してはならない。」と規定している。

この「公務員」の範囲をめぐって、日本政府は非現業の公務員が該当すると解している(国会においても「勤務条件が法令によって保障される職員を指しており、非現業の公務員がこれに該当する。」旨を答弁している。)。一方、1974年10月に我が国の労働組合は、政府がその範囲を広く捉えているとしてILOに意見書を提出した。これについて、ILOは1977年3月に「本条約は国の行政に属する任務を有する公務員の地位を取り扱うものではないが、公の機関の代理者として行動しない労働者であって(公共部門の各種のレベルにおいて)国が雇用する全てのものについて適用されることを何度も指摘してきた。従って、区別を設けるとすれば、基本的には各省又は類似の機関に各種の資格で雇用される公務員、すなわち、職務上国の行政に直接従事する公務員及びそのような公務員の活動の補助的要員として行動するより下級の公務員と、政府、公営企業又は自主的な公的機関に雇用されるその他の者との間で設けるべきであるように思われる。」とした意見を出した。

1982年の人事院勧告不実施に対する申立てに対して、翌年3月には、ILOは「不可欠な業務又は公務において団体交渉権又はストライキ権のような基本的権利が禁止され又は制限の対象となる場合には、その利益を守るための必須の手段をこのようにして奪われている労働者の利益を十分に保護するため、迅速かつ公平な調停及び仲裁手続のような適切な保障が確保されるべきであり、その手続においては、当事者があらゆる段階に参画することができ、かつ、裁定が一旦下されたときには完全かつ迅速に実施されるべきであるとの十分に確立された原則に政府の注意を喚起する。」との意見を出した。

また、1983年の人事院勧告の不完全実施の際には、翌年3月に「公務員のスト権が否定されているのみならず、交渉能力も相当程度に制限されている本件においては、人事院勧告が完全に実施されることがなおさら重要である。そのような労働者の基本的な労働組合権に対する制限を維持するのであれば、政府は、条約に規定されている保障がその対象となる公務員に十分に適用され得ることを確保するため、公務における賃金及び労働条件の決定のための手続並びに仕組みを再検討するであろうとの希望を表明したい。」との意見を出した。

このように、ILOは公務員全てに協約締結権などの労働基本権を付与することを求めているわけではなく、国の行政に直接従事する国家公務員については、団体交渉権・ストライキ権の制約を認め、その場合には、十分な利益保護のための適切な保障が実施されることを求めており、政府は上記のとおり非現業の国家公務員及び人事院勧告制度がこれに該当すると解してきた。

また、2002年に日本労働組合総連合会や全国労働組合総連合などが、我が国の公務員法制や労働基本権制約を維持したまま使用者の権限を大幅に強めること等を内容とする当時の公務員制度改革案がILO条約に違反しているとしてILO結社の自由委員会に対する提訴を行っており(第2177号・第2183号案件)、この案件についてはこれまで、結社の自由委員会からILO理事会に対して中間報告が7回行われている。直近の2012年3月の中間報告(勧告部分)は以下のとおりである。

2012年3月28日 ILO理事会採択(仮訳)
結社の自由委員会報告(第2177号案件、第2183号案件)(勧告部分(抄))

852.上記の中間的な結論に照らして、委員会は、次の勧告を承認するよう理事会に要請する。

(a) 委員会は、この案件において提起された様々な論点に関する制度化された三者協議の継続を歓迎する。また、委員会は、日本政府が改革の過程を通して関連団体と制度的に議論するよう努力していることを称賛するが、残された論点について全ての関連団体と十分、率直、かつ有益な議論を続けるよう奨励する。委員会は、日本政府が、批准した第87号及び第98号条約に具体化された結社の自由の原則を実施するために必要な措置、特に以下の点について、効果的かつ遅滞なく取り組むことを目的とした双方に受け入れ可能な解決を見いだすために、社会対話の精神を持って、進行中の公務員制度改革の過程を完了させるよう精力的に努力し続けていくことを強く希望する。

(ⅰ) 公務員への労働基本権の付与

(ⅱ) 消防職員及び刑事施設職員への団結権及び団体交渉権の完全な付与

(ⅲ) 国の行政に従事していない公務員への団体交渉権及び団体協約締結権の保障、並びにこれらの権利が正当に制限され得る公務員への適切な代償の手続の保障

(ⅳ) 結社の自由の原則に沿うよう、国家の名のもとに権限を行使しない公務員へのストライキ権の保障、及びストライキ権を正当に行使する職員団体の構成員と役員が重い民事上又は刑事上の制裁に服さないことの保障

(ⅴ) 公務における交渉事項の範囲

委員会は、政府に対し、上記の全ての事項に関する進展について情報提供を続けるよう求める。

(4)主要4か国における状況

● 主要諸外国(アメリカ、イギリス及びドイツ)においても日本と同様に、公務員の団体交渉権が制約されていることや労働基本権が付与されていないカテゴリーに属する公務員の労働基本権及びその代償措置をめぐってILOで問題となっている。

主要4か国(アメリカ、イギリス、ドイツ及びフランス)のうち、イギリス、ドイツ及びフランスはILO第87号条約及び第98号条約を批准しているが、アメリカは未批准である。

主要4か国において公務員に付与されている労働基本権の状況は前述のとおりであるが、我が国と同様に給与改定に議会が関与する国(アメリカ及びドイツの官吏)においては団体交渉権の制約等をめぐって、またイギリスのように公務員に幅広く労働基本権を付与している国においては労働基本権が付与されていないカテゴリーに属する公務員の労働基本権及びその代償措置をめぐって同委員会に提訴され、勧告が出されている。

同委員会からの勧告に対して、これまでのところ、各国政府は特段の措置を講じていない。

表8 主要4か国におけるILOからの指摘事項

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