前(節)へ 次(節)へ

第1編 《人事行政》

【第2部】 公務員給与の決定過程 〜諸外国の実態と我が国の課題〜

第2章 我が国の課題

参考2 特定独立行政法人等における労使交渉の実態


● 特定独立行政法人等の職員については、協約締結権が認められており、労使交渉により給与を決定する仕組みとなっている。

● 給与改定についての労使交渉は、人事院勧告による改定幅を基礎として行われている実態がある。

(1)特定独立行政法人
ア 勤務条件決定過程の概要等
(ア) 概況

独立行政法人は、各府省から政策の実施部門のうち一部を分離し、独立の法人格を与えたものであり、このうち、その役職員を国家公務員とするものを特定独立行政法人という。特定独立行政法人の職員は、争議権は否定されているが、非現業国家公務員と異なり、協約締結権が認められている。

(イ) 給与決定の仕組み

特定独立行政法人の職員の給与決定については、労働組合法(昭和24年法律第174号)及び特定独立行政法人等の労働関係に関する法律(昭和23年法律第257号)が適用され、各法人当局と労働組合との間で団体交渉を行い、労働協約を締結することにより行う。交渉が不調の場合には、中央労働委員会に対して労働争議の調整(あっせん、調停、仲裁)を申請することができる。

また、労働基準法(昭和22年法律第49号)に基づき、使用者側は就業規則を作成しなければならず、その作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合(過半数労働組合)がある場合においてはその労働組合、過半数労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)の意見を聴かなければならない。

(ウ) 給与決定に当たっての基本原則

特定独立行政法人の職員の給与の支給の基準は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)において、給与法の適用を受ける国家公務員の給与、民間企業の従業員の給与、当該特定独立行政法人の業務の実績、中期計画における予算中の人件費の見積り等を考慮して定められなければならないとされている。

また、独立行政法人の役職員の給与改定については、「公務員の給与改定に関する取扱いについて」(平成23年10月28日閣議決定)等において、「国家公務員の給与見直しの動向を見つつ、必要な措置を講ずるよう要請」されている。

イ 労使交渉の実態
(ア) 参考事例①:独立行政法人国立印刷局

かつて「三公社五現業」の一つであった国立印刷局は、平成15年4月に特定独立行政法人となったものである。国立印刷局において組織されている労働組合は一つであり、組織率が極めて高い状況にある。

毎年の給与改定に当たっては、春闘の時期に労働組合から要求が出され、事務折衝を経た後、団体交渉が行われる。その際の使用者側の主張は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査や春闘における民間賃金の改定状況、前年の人事院勧告等を踏まえたものとなっている。一方、労働組合は、組合員の生活実態等を踏まえた賃金水準の維持・改善を求めている。

交渉が妥結すれば労働協約を締結することとなるが、国営企業であった法人化以前においては中央労働委員会の仲裁裁定による決着が常態化しており、法人化以降においても、交渉が難航して妥結することができずに、中央労働委員会の調停案を労使が受け入れた年が3回、仲裁裁定が提示された年が1回ある。

(イ) 参考事例②:独立行政法人国立病院機構

国立病院機構は、平成16年4月に厚生労働省の機関から特定独立行政法人となったものである。国立病院機構において全国規模で組織されている労働組合が一つあり、組織率は過半数に満たない状況にある。

毎年の給与改定については、春闘の時期に労働組合から要求が出されるものの、当年度の政府における人事院勧告の取扱いを考慮することとして、秋に交渉を実施している。労使双方による事務折衝を行った後、団体交渉を行い、合意に至った事項については労働協約の締結を行う。その後、使用者側は就業規則を変更するに当たって過半数労働組合又は過半数代表者から意見を聴いている。

交渉における労使の主張としては、使用者側は、独立行政法人通則法の規定に基づき給与法の適用を受ける国家公務員の給与、民間企業の従業員の給与、国立病院機構の業務の実績等を考慮した給与改定を行うことが適当としているが、労働組合は、国立病院機構の業績が好調であることや、他の公的医療機関との比較をすべきこと、人材確保の必要性があることから、法人独自の判断で給与改定を行うべきであると主張している。

法人化以降の交渉結果としては、平成16年度には中央労働委員会のあっせんを受けたが、平成17年度以降は、人事院勧告等を考慮した改定を行うことで自主決着がなされている。

(2)国立大学法人
ア 勤務条件決定過程の概要等
(ア) 概況

国立大学法人は、文部科学省の機関であった国立大学に独立の法人格を与えたものである。国立大学法人の役職員は国家公務員ではなく、労働三権が全て認められ、労働組合法及び労働基準法が適用される。

(イ) 給与決定の仕組み

国立大学法人の職員の給与決定に当たっては、各法人当局と労働組合との間で労働協約を締結するための団体交渉を行う。

また、労働基準法に基づく就業規則の作成については、特定独立行政法人と同様である。

(ウ) 給与決定に当たっての基本原則

国立大学法人の職員の給与の支給の基準は、国立大学法人法(平成15年法律第112号)において、当該国立大学法人の業務の実績を考慮し、かつ、社会一般の情勢に適合したものとなるように定められなければならないとされている。

また、独立行政法人と同様に、国立大学法人の役職員の給与の改定については、前述の閣議決定等において、「国家公務員の給与見直しの動向を見つつ、必要な措置を講ずるよう要請」されている。

イ 労使交渉の実態

ある国立大学法人における労使交渉の実態を示すと次のとおりである。

この国立大学法人において組織されている労働組合法上の労働組合は一つであり、組織率が低い状況にある。

毎年の給与改定に当たっては、人事院勧告を踏まえて給与法が改正された後の12月に、使用者側が就業規則の変更案を労働組合に提示する。事務折衝と団体交渉がおおむね1回ずつ実施されるが、労使の給与改定についての考え方の相違により、法人化以降、労働協約の締結に至ったことはない。また、使用者側は就業規則を変更するに当たっては、過半数労働組合が存しないため過半数代表者から意見を聴くこととなっており、その対応に多くの時間を費やしている。

交渉における労使の主張としては、使用者側は、国立大学法人法の規定に基づき人事院勧告に準じた取扱いとすることに合理性があるとしているが、労働組合は、人事院勧告に国立大学法人の教職員の給与が反映されていないことを理由に主たる事業所が所在する都道府県の民間企業の賃金と均衡させるよう主張している。

法人化以降、労働協約は締結されておらず、就業規則の変更により、人事院勧告の内容と同様の改定が行われている。

(3)現業の国家公務員
ア 勤務条件決定過程の概要等
(ア) 概況

現業の国家公務員については、第二次大戦後、いわゆる三公社五現業として、争議権は否定されたが、協約締結権を含む団体交渉権が認められた。その後、労使関係の悪化、違法な争議行為が問題とされる中で経営形態の見直しがなされ、三公社の民営化、現業部門の独立行政法人化等を経て、現在では国有林野事業を残すのみとなっている(注)。

(イ) 給与決定の仕組み

現業職員の給与決定は、特定独立行政法人の場合と同様であるが、主務大臣は、就業規則に加え、職員の給与について給与準則を定めなければならないこととされている。

また、現業職員の給与については、給与総額が予算上に定められており、この給与総額を超えるような労働協約を締結する場合には、国会の承認が必要となる。このため、使用者側の交渉当事者としての権限には強い制約があり、中央労働委員会の調整手続に持ち込まれる状況が近年まで続いていた(詳細は平成21年度年次報告書第2部参照)。

(ウ) 給与決定に当たっての基本原則

現業職員の給与は、国有林野事業を行う国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(昭和29年法律第141号)において、給与法の適用を受ける国家公務員及び民間事業の従業員の給与その他の事情を考慮して定めなければならないとされている。

イ 労使交渉の実態

現業である国有林野事業において組織されている労働組合は一つであり、組織率が極めて高い状況にある。

毎年の給与改定については、民間春闘の時期と人事院勧告を踏まえた給与法改正が行われた後の時期の二つの時期に交渉が行われている。まず、民間春闘の時期に合わせて労働組合から要求が出され、民間春闘における賃金の改定状況を踏まえて交渉を行う。平成16年度以降においては、いずれの年も、現行協約の据置きとすることで自主決着がなされている。次いで、人事院勧告を踏まえた給与法改正が行われた後、使用者側から給与改定案を提示し、非現業国家公務員の給与改定状況を踏まえて交渉を行う。これについても平成16年度以降、非現業国家公務員と同様の方向で給与改定を行うことで自主決着がなされ、労働協約が締結されている状況にある。人事院勧告を踏まえて給与改定が行われる場合には、当該年度内において既に支給済みの給与については、賞与で調整が行われている。

(注)国有林野事業の国営企業形態を廃止し、その職員を非現業国家公務員とすることなどを内容とする「国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るための国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する等の法律案」が平成24年3月2日に国会へ提出されている。

特定独立行政法人等の職員の給与改定は、毎年、人事院勧告による改定幅を基礎として交渉が行われている実態がある。したがって、現在の特定独立行政法人等における給与決定過程を人事院勧告制度がなくなった後の非現業国家公務員の労使交渉モデルとすることには限界がある。


前(節)へ 次(節)へ
©National Personnel Authority