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第1編 《人事行政》

【第2部】 幹部職員等の育成と選抜

第2章 国以外の幹部職員の育成・選抜の状況

第3節 主要国における幹部職員の育成・選抜の状況

1 イギリス

(1)幹部要員の確保
ア 入口選抜の概要

イギリスでは、将来の幹部となる潜在能力を持つ大卒者を採用するためのファストストリーム(Fast Stream)試験が設けられている。

ファストストリーム試験合格者(以下「ファストストリーマー」という。)は、4〜5年の訓練期間を経て、グレード7(課長補佐級)に昇進することが保障されているが、その後の昇進は、他ルートで採用された者と同様に競争によるものとされる。このため、厳格な入口選抜の仕組みを採っているドイツやフランスとは違って、ファストストリーマーでない職員も課長・局長等に昇進することが可能である。実際、近年は民間企業等からの中途採用も多いため、幹部職員(部長級以上)に占めるファストストリーマーの割合は高くない。ただし、事務次官の多くはファストストリーマーである。

ファストストリーム試験には、ジェネラリストを採用するための試験のほか、エコノミスト、統計、人事管理など専門的業務に従事する者を採用するための専門ファストストリーム試験が設けられており、毎年、全ての区分の合計で約500人が採用される。

イ 幹部要員の採用と人事管理の特色

イギリスにおいては、かつては公務は比較的人気のある就職先とされてきたが、近年、給与等の処遇の違いもあり、民間に途中転出する職員も増えている。

各職員とも特定の専門分野(職種)を持ち、ポストごとに要求される専門分野も規定されているため、異動は基本的に専門分野内で行われ、専門性に基づき省庁を超えた異動も頻繁にみられる。

ファストストリーマーとして採用されると、4〜5年は計画的な訓練期間とされ、最初に配属される省庁は、本人の希望ではなく、適性を見て内閣府が決定する。各省庁に配属された職員は、当該省庁のファストストリーム担当部局により、企画立案部門、他省庁、エージェンシー、国際機関等に順次計画的に配置され、多様な経験を積む。訓練期間終了後は課長補佐級に昇進するが、その時点からは、本人が各省庁の空席に応募することが必要となる。その結果、順当に幹部職員に昇進していく者、公務外に転職する者、転職した後に再度公務に戻ってくる者、そのまま課長補佐級にとどまる者など、キャリアパスは多様である。課長級以上の上級公務員(Senior Civil Service(SCS))に昇進する者はファストストリーマーの3分の1程度である。

ウ 乗換ルートの実態

ファストストリーム試験の一部として、部内職員を対象とした試験が存在する。原則勤続1年以上で、ラインマネージャー(直属上司)による承認を経て、所属省庁の推薦がある場合に応募できる。毎年70人程度が合格し、合格後の扱いは通常の試験によるファストストリーマーと同様である。

応募に際して学歴要件がないため、実際に応募するのは大卒資格を有しない職員が多く、職員の大半が大卒資格を有する省庁ではあまり活用されていない。また、ファストストリーマーが最初に就くグレードの直前に既に達している職員にとっては、試験の性格上、応募する実益が薄く、乗換ルートとしてはそれほど機能していない。

(2)幹部要員の昇進実態
ア 基本ルール

ファストストリーマーとしての訓練期間を除けば、空席が出るごとに公務内外に公募することが人事の基本であり、部長級以上でもそれより下位のポストでも変わりはない。

空席公告は、幹部ポストも含め、すべて政府統一サイトに掲載される。公告は、まずは全省庁の国家公務員を対象として行われることが基本であり、適任者が得られなかった場合には外部も含めた公告がなされる。公募手続は人事当局が行うが、決定に当たっては、そのポストの直属上司となる者の意向が強く反映される。

なお、課長級以上のSCSポストに応募するためには、ファストストリーマーか否かを問わず省庁ごとに実施される登用試験に合格する必要があり、受験の際には直属上司の合意が必要となる。また、局長級以上及び外部からの部長級以上の任用の場合は、中立機関である人事委員会が任用プロセスに関わることにより、成績主義に基づく中立・公正な任用が確保されている。

イ 昇進の実態

空席公募による競争が前提であり、人事当局が人事配置を決定するシステムではないため、ファストストリーマーであっても、同一採用年次の者が一斉に昇進することはなく、昇進ペースにはばらつきが見られる。

順調に昇進していく者は、採用後12年前後で課長級に昇進するが、その後の昇進ペースにはかなりの幅がある。最も早い場合、30歳台後半に局長級になる者、40歳台前半で事務次官級ポストに就く者もいるが、これらは非常にまれな例である。

なお、SCSについては国家公務員以外からの任用も多く、SCSの約4割を外部任用者が占める(2011年10月時点)。

ウ 昇進ルートから外れた者の扱い

SCSに昇進せず、課長補佐級にとどまるファストストリーマーは、3分の1程度と推測される。この中には、管理職としてプレッシャーを感じながら仕事をするよりも、政策立案や政策実施の最前線で働きたいとして、自ら望んで課長補佐級に残っている者も多いとみられる。

人事当局としては、もともと採用者全員が幹部になることは期待していないことに加え、各省庁が抱える多くのプロジェクトを動かすミドルマネジメント級の人材の需要が多いことから、こうした事態はむしろ望ましいと考えており、現在、人事上の特別な措置は講じていない。

(3)幹部要員の育成とキャリアパス

幹部要員であっても、ファストストリームの訓練期間終了後は、自らが公告に応募して異動していく。ジェネラリストとして採用されたファストストリーマーは、政策立案やプロジェクトマネジメントなどの業務に従事することが多いのに対し、専門ファストストリーム試験で採用された者は、各専門分野のポストで経験を積むが、いずれの場合も省庁横断的な異動を選ぶことが多い。大臣の秘書官や事務次官の秘書は、省庁内の各部署との調整を行うとともに人脈ができることで、将来の昇進に有利なポストとされており、従来から最も優秀なファストストリーマーが就いている。

研修としては、Civil Service Learningと呼ばれる政府統一のスキームにおいて、リーダーシップやマネジメントに関する研修が全職員に対して提供されており、職員が自ら申し込んで受講する形を採っていたが、後述のとおり、別途、各段階で選抜された優秀な職員を対象とした系統的な幹部育成研修が順次開始されている。

(4)幹部選抜時の特色

原則として公務内外への公募が行われるが、SCSについては、空席が見込まれるポストについて、局長以上の場合は複数省の事務次官、部長・課長の場合は複数省の人事担当局長からなる委員会が、必要に応じて後任者としてふさわしい人材の推薦を行う。この点において、各省限りで選考がなされる課長級未満のポストとの差異がみられる。

また、部長級以上の優秀な職員を選抜するツールとして、上位ポストへの潜在能力と現ポストでの業績に基づき、各職員の能力を9段階で評価するシステムが導入されている。このほか、2004年からは部長級の中から選抜された職員に対する研修が実施されており、局長級への有力な昇進ルートとなっている。局長級についても、2009年から10〜15人程度の優秀な職員を対象とした研修(現職事務次官による、事務次官の役割や民間企業との協働スキル等に係る討議など)が実施されており、研修参加者の多くが事務次官に昇進している。

(5)最近の動き
ア ファストストリームプログラムの見直し

従来のファストストリームプログラムでは、最初に配属される省庁によって、経験する業務の幅や給与が変わってくるという問題があったため、2013年度採用者から、より計画的かつ効果的な配置を目指した改編が行われている。

具体的には、ファストストリーム試験でジェネラリストとして採用された場合、当初2年間は特定省庁には属さず、複数省庁又は民間企業において、多岐にわたる4ポスト(各半年間)を経験させた上で、その後の2年間は、指定された省庁に採用され、2ポストを経験し、当該省庁の業務を深く学ぶ形となった。

イ 優秀な人材に対する事務次官級までの系統的能力開発

イギリスでは労働市場の流動性が高いため、公務員の中途退職が多く、優秀な人材の育成・確保が人事当局にとっての課題となっている。例えば、財務省の離職率は3割近くとなっているほか、特に、各省庁とも事務次官級直前のレベルでの離職率が高く、人材が枯渇している。

このため、近年、省庁横断的に、事務次官になり得る優秀な人材を系統立てて育成しようとの動きがあり、既に実施されている研修(上記(4)参照)に加え、2012年からは、ファストストリーマー採用時から事務次官までのすべての段階を通じて、政府全体から優秀な人材を把握し、幹部職員に必要な研修を体系的に受講させるスキームが順次実施に移されている。

2014年までに、現在は部長級以上について行われている潜在能力と業績に基づく能力評価(上記(4)参照)の対象を課長補佐級にまで拡大し、優秀な人材を選抜した上で、研修を受講させることが予定されている。


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