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第1編 《人事行政》

【第2部】 幹部職員等の育成と選抜

第2章 国以外の幹部職員の育成・選抜の状況

第3節 主要国における幹部職員の育成・選抜の状況

3 ドイツ

(1)幹部要員の確保
ア 入口選抜の概要

ドイツの公務員は、「官吏」と「公務被用者」に分かれるが、幹部のほとんどは官吏であるため、以下では、官吏を中心に記述する。

ドイツもフランスと同様、採用時のカテゴリーによって、その後の昇進範囲まで規定されるという学歴連動の入口選抜型であり、各省の幹部要員となるためには、総合大学卒業又はこれに相当する学歴を得た上で、高級職(最上位カテゴリー)のラウフバーン(資格要件・専門分野により分類される官職群)に属する必要がある。

高級職ラウフバーンには技術職系と非技術職系があるが、幹部の大多数を占めるのは非技術行政職ラウフバーンの官吏であり、その大半は司法試験に合格した法曹資格取得者である。各省は、法曹資格を有する応募者の中から優秀者を選び、見習官吏に採用する。各省統一的な採用試験は存在せず、各省の毎年の採用人数や時期もまちまちである。

法学以外の専攻者については、総合大学卒業後、実務経験を経て見習官吏に採用されるケースが多い。

近年の各省における高級職官吏の採用状況をみると、採用者数10〜20人前後に対しておおむね数百人から一千人を超える応募者があり、職業としての公務員の人気は依然として高い模様である。

イ 幹部要員の採用と人事管理の特色

本省の事務次官以下の大部分が職業官吏出身という内部育成型となっており、また、フランスと同様、任官補職制を採っている。公務員の人気は比較的高く、処遇の面でも比較的恵まれているとされる。

ドイツにおける人事管理は各省単位であり、幹部要員となる高級職官吏の採用についても、外局も含めた幅広いポストへの異動を想定し、これらのポストで求められる能力などに照らして応募者の能力、適性、専門性等を審査し、各省で採用者を決定している。

なお、準課長級以下に係る採用・昇進については、法律により、採用・昇進等の個別人事処遇に関する使用者の意思決定過程に参画することとされている職員代表(職員協議会)の関与が認められている。

ウ 乗換ルートの実態

幹部候補となるためには、高級職ラウフバーンへの乗換えが必須である。

乗換昇任への応募ができるのは、見習期間終了後4年以上の勤務期間において能力を実証した、58歳未満の官吏である。

幹部の大多数を占める非技術行政職ラウフバーンへの乗換えのため、2011年に創設されたMaster of Public Administrationの課程(通常の修学期間は2年6か月)が用意されている。同課程は、一定の登校の義務を伴う通信課程であり、各省の高級職に必要な実務を指導することも同課程と並行して実施することが可能となっている。全省で年間70人程度の応募者に対し、筆記・口述試験を経て、2011年には20人、2012年には18人が昇任候補者として選抜され、上記課程での修学を開始している。

なお、従来から乗換昇任の制度そのものは存在しており、連邦行政アカデミー(内務省の下部機関)において実施する学位の授与を行わない教科課程等を経ることとされていた。この制度は、乗換昇任者について、高級職採用者と同程度の学歴・知識水準を確保するため、欧州の大学改革に合わせて上記の形に改正されたが、2015年までは旧制度も併用されている。

こうした乗換えにより高級職ラウフバーンに昇任する官吏は、省の規模により違いはあるが、最大でも年に3人程度までであり、まれであると言える。乗換昇任の数は、定年退職などにより確保された高級職の空き定員について、どの程度を新規採用と乗換昇任とで補充するかの各省の判断により決定されるが、新規採用がより重視される傾向にあるとみられる。

昇任後の登用については、初任課長の手前(給与等級A15の官職)止まりである場合が多いが、部長まで昇任する例も少数ではあるがみられる。

(2)幹部要員の昇進実態
ア 基本ルール

幹部要員か否かにかかわらず、他の3か国と同様、異動は本人のイニシアチブによる空席への応募を基本とし、各省の人事当局が一方的に決める権限を持つわけではない。

ただし、こうした応募が必要なのは部長級までであり、政治的官吏(後述)である本省の事務次官及び局長については、公募原則の適用外となっている。

空席公告は、省内職員のみが閲覧可能な省内LAN等を利用して行われるのが通例である。応募した各候補者については、人事評価結果に基づく審査に加え、公募対象ポストの属する局の局長、官房の人事課職員等による面接が行われ、当該局長等が最も優れた候補者を選び、事務次官の同意を得た上で大臣に提案し、大臣が最終的に決定するといった手続が採られる。

イ 昇進の実態

高級職の場合、まず見習官吏(見習期間3年)に任命されると、給与等級A13の「政府参事官(Regierungsrat)」に格付けされ、課長補佐級の職務に就くこととなる。その後は、上述のように、本人の空席への応募により異動、昇任することとなるが、採用後4〜6年を経て給与等級A14の官職(上席政府参事官)に昇格し、更に3〜5年を経て給与等級A15の官職(政府管理官:準課長級)に昇格することが多く、人事評価の成績によって昇格までの期間に多少の差はあるものの、同じ年に採用された官吏は、約10年で準課長級官職まではほぼ一斉に昇進する模様である。他方、全ての高級職官吏が課長(本省参事官(Ministerialrat)(給与等級A16又はB3の官職))になれるわけではないのが現状であり、例えば、近年、財務省においては半数程度、食料・農業・消費者保護省においても3割から5割程度が課長にならずに定年を迎えている。

ウ 昇進ルートから外れた者の扱い

幹部職員の新陳代謝確保のために人事当局が勧奨退職を行うといった慣行はないが、上述のように、課長になれない高級職官吏も相当数存在する中で、どの省の人事当局も、程度の差はあれ、昇進できない者のモチベーションをいかに維持するかという問題意識を持っている。

モチベーションを維持する方策としては、専門家としてその道を極める、一つのプロジェクトのリーダーとなる、在外勤務など省外での活躍の場を求める等が挙げられる。

空席公募が基本であるため、人事当局が人事配置自体を決定するわけではないが、不満やメンタル面での問題を抱える職員もいる中、人事当局としては、相談に乗ったり、配置換の機会を与えたりするなどによって対応しているとみられる。また、空席へ応募せず、同じポストに長期間とどまっている職員に対しても、人事課が個別に面談を行っている。

(3)幹部要員の育成とキャリアパス

本人のキャリアパス形成についても、人事当局のコントロールや調整はなく、基本的に本人任せである。その一方で、各省ごとに策定される人材開発計画においては、管理職(課長級)就任の指針・要件として、幅広いポスト経験、それまでの人事評価の結果、管理職研修の受講、コミュニケーション能力、部下にモチベーションを与える能力などが定められており、昇進を目指す職員は、こうした指針も踏まえて、自発的に様々な勤務経験を積んでキャリアを形成している。また、幹部職員が、幹部を目指す職員に個別に相談に乗ったり、幹部昇進に必要な経験や研修等について助言したりする形での支援も行われている。こうした人材開発計画を活用することにより、人事当局のコントロールがなくとも、「将来の幹部候補となり得る優秀層は、採用後十数年経った30歳台後半にはおおむね分かる」との指摘もある。

全般的な傾向としては、人事評価において高い評価を受けていることに加え、複数の局や外国において幅広い勤務経験を積んだ者が高く評価される傾向にあり、課長級への昇任の段階で、複数の局等における一定期間以上の勤務経験を要件として課している省も多い。

部長級の選抜も、基本的にはそれより下位のポストの場合と同じであり、専門能力と管理職としての指導力の双方が求められるが、両者間の比重は、役職段階が高くなるにつれて後者が大きくなり、ジェネラリストとしての能力が強く求められるようになる。

特に、部長級以上の幹部職員には、政治色の強い大臣室長、大臣秘書官、報道官等のポストや議会会派への出向などを経験した者が多く、事実上、政党所属が昇進に影響している模様である。このようなポストでは、省内外の様々な業務と関係する幅広い経験を積むことができるとともに、影響力のある人物と直接関係を持つことができる点で、事務次官、局長級への昇進に有利に働くとみられる。このほか、連邦首相府への出向は、政策立案経験や人脈形成の点でプラスとなり、昇進にも有利とみられる。

事務次官となった者の経歴をみると、課長就任の平均年齢は40歳前後、部長は45歳前後、局長は50歳前後、事務次官就任は55歳前後であり、近年もこの傾向に特段の変化はみられない。ただし、2012年以降、段階的に定年年齢が65歳から67歳に引き上げられていること、ドイツ再統一直後に大量採用された世代が幹部職員に昇進しつつあること等により、今後、幹部職員の高齢化が進むとの見通しもある。

(4)幹部選抜時の特色 〜局長以上は「政治的官吏」〜

事務次官・局長などの法定された高位ポスト(約400)は「政治的官吏」とされ、公募は行われない。政治的官吏も成績主義に基づき、主に部内登用されるが、大臣との信頼関係が重要であるため、大臣が理由なしにいつでも一時的に退職に付すことができるという特色がある。ただし、その場合には、一定期間、割増恩給を支給する必要がある。

政治的官吏のうち、局長級については部内昇進がほとんどである。他方、事務次官については、その時々の大臣によって判断に違いがあり、部内昇進のほか、他省や州政府などから個人的な信頼関係のある官吏を任用する例もみられる。公務外からの任用も制度上は可能であり、実際に任用が行われる場合には、候補者の資格や就任ポストに応じて、連邦人事委員会等による資格審査や例外の承認などの審査が必要となる。

(5)最近の動き

ドイツでも、フランスと同様、任用に当たっての基礎となるラウフバーンが2009年に大幅に削減・統合された。背景には、公務の競争力を確保し、公務と民間や国際機関等との流動性を促進させたいという意向があるとみられる。


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