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第1編 《人事行政》

【第2部】女性国家公務員の採用・登用の拡大に向けて

第3章 諸外国における女性国家公務員の採用・登用の状況と課題

第1節 イギリス

2 女性の採用・登用促進のための具体的な施策の展開

(1)社会的な背景

いち早く産業革命を達成したイギリスにおいて、女性の地位向上に向けた取組の歴史は古く、第二次世界大戦以降、産業構造の変化も相まって社会全体で女性の就労が進んだ。女性の就労がもたらした性別役割分担意識の変化は1950年代から60年代にかけてのフェミニズム運動につながり、この運動に応える形で男女平等のための法令も整備されていった。1970年には同一賃金法が制定され、男女間の同一賃金が保障されたほか、1975年には性差別禁止法が制定され、性別を理由とした民間及び公務の職場における差別が法的に禁止された。

女性の社会進出を支えた要因の一つが女性の高学歴化とされている。1960年に大学を卒業した女性の割合は卒業生全体の24.9%であったが、現在では、工学や数学などの一部の分野を除き、大学以上の教育機関の卒業生は、女性の方が多く、こうした高学歴の女性をより積極的に活用していく必要性が社会において広く認識されてきている。

(2)公務における取組の経緯

人事制度の概要

  • イギリスでは、政府全体で100人強の政治任用者(特別顧問)がいるほかは、事務次官以下のポストを職業公務員が占めている。
  • 職業公務員の採用及び昇進は官職ごとに公募を行い、候補者間での競争によることを基本としている。競争は公平かつ公開の原則の下、成績主義によることとされている。
  • このほか、幹部要員を計画的に育成することを目的として、学卒者を対象とした共通採用試験(ファストストリーム試験)が行われているが、当該試験の採用者の全員が上級公務員に昇進するわけではなく、実際に昇進する者は採用者の3分の1程度である。

ア 登用面に関する取組

公務における女性の登用は、少なくとも1970年代から政府が取り組むべき課題とされていた。公務においては、制度上、雇用機会、昇進、賃金の面で男女平等が確保されていたが、女性職員は結婚や育児等のために離職する者が多く、女性が家庭責任を果たしながらキャリアを形成することが難しい状況であった。1971年の「公務における女性の雇用に関する報告」はこうした状況を踏まえ、公務における女性の雇用・登用について検討された政府による初期の報告書であり、主に両立支援制度の整備とその利用促進が提唱された。また、1982年には、政府によって女性の雇用・登用に関する取組の進捗状況が報告されるとともに、短時間勤務に加えてジョブシェアを取り入れることで、多様な勤務形態を更に充実させる必要性が提唱された。さらに、1984年には、公務における女性管理職の更なる増加、女性の離職率の縮小等の目標に関して新たな計画が策定され、その達成状況について定期的に報告が行われた。その後、1999年に出された「政府現代化白書」では、2005年までに上級公務員の35%、幹部職員の25%を女性とする登用の数値目標が設定された。このように、後から出される報告書等において直前のものに基づく取組を評価し、新たな課題を設定して取り組んでいくことで、公務における女性の登用を徐々に進めていった。

2010年には、性差別禁止法を始めとする、女性、人種、障害者等に対する差別禁止関係諸法が統合され、平等法が制定された。同法の制定により、公務については「公務における平等義務」と呼ばれる規定が設けられ、各省に対し女性の登用など多様性確保の状況を公表することが法的に担保されることとなった。

イ 両立支援促進の取組

イギリスにおいては、1975年には既に育児休業法が制定され、短時間勤務も利用されるなど早い時期から両立支援制度の整備に力を入れている。これらの制度の内容はおおむね我が国と類似しているが、その運用状況をみると我が国に比べて積極的に活用されている。

短時間勤務の利用率は、1975年には2.3%と低かったものの、1995年には10.6%へと上昇し、現在、国家公務員の約4分の1が短時間勤務を行っており、その利用者の8割以上は女性である。なお、上級公務員においても短時間勤務の制度が男女を問わず利用されている。その割合は2012年では全上級公務員の約8%であるが、増加傾向にある。

また、短時間勤務においても適切な業務遂行を確保するため、一人が担当していた業務を二人で分担するジョブシェアが1990年初頭に導入され、利用者が増加しつつある。ジョブシェアの対象となるポストの範囲は広く、財務、人事、政策立案、社会調査や経済分析など多岐にわたる。業務を円滑に進めるために、週のうち1日程度、ジョブシェアをする二人の勤務時間を重ねて設定し、業務の引継ぎや方針決定を行うなどの工夫がなされている。同制度の利用者は非管理職が中心であるが、複数の省で部長級職員が利用し始めており、これらの職員がロールモデルとなることで更なる利用拡大が期待されている。

このような両立支援制度の活用により、育児等の家庭責任を負う女性が管理職員・幹部職員となる障壁は軽減されているが、一方で優秀者が育児休業から復帰する際に以前と同様に働けるかどうか不安に感じることがあるとの声もある。

(3)現在行っている重点的な取組

内閣府は、2008年に、女性を含む多様な人材の登用等を推進するための行動計画である「公務における平等推進・多様性尊重のための戦略」を策定した。同戦略は公務が社会の女性、人種、障害者等の構成の割合を適切に反映することを通じて、行政サービスの質の向上や優秀な人材の確保、公務員の意欲の向上などを実現することを目的としており、「組織文化の変革」、「リーダーシップと責任」、「組織的な人材育成」、「社会の代表性」の四つの分野に重点的に取り組んでいくこととしている。各省はこの戦略に基づいて、女性を含めた多様性促進のための取組をそれぞれ行っている。

ア 組織文化の変革

「組織文化の変革」とは、公務が様々な人種、性別、経歴等を有する者を尊重し、あらゆる差別を禁止するほか、性別や人種などに対して無意識に持っている偏見を解消する取組である。こうした取組の一つとして、無意識の偏見を気付かせ、解消する研修プログラムを導入し、各省の事務次官等が受講している。

イ リーダーシップと責任

「リーダーシップと責任」とは、事務次官等が責任を持って公務における平等と多様性を推進するための取組である。2005年に、「多様性貢献ネットワーク(Diversity Champions Network)」が内閣府に設置され、女性等の登用に関する各省の取組や最善の方法に関する情報を共有することで、公務における女性等の登用の取組に関する検討の材料を提供している。また、事務次官級の職員の業績目標には「多様性の推進」が含まれている。

コラム:内国公務の長による支援

イギリスでは、先輩職員がスポンサー(支援者)として国家公務員における不文律の説明や空席ポストに関する情報を提供するなど、後輩職員を指導したり、助言を行う慣習があり、有力なスポンサーを見つけることは、昇進に有利に働くとされている。パブリックスクールやオックスフォード、ケンブリッジといった伝統的大学の出身者が、イギリスの国家公務員のトップ200の多くを占めるのは、同窓生の人脈を通じて有力なスポンサーを見つけることが容易であることが一因とされている。一方、かつて女性は伝統的にこうした人脈がない場合が多く、昇進において不利になりがちだと言われてきた。こうした中、前内国公務の長(日本の内閣官房副長官(事務)に相当)がスポンサーとなることで、4人の女性事務次官誕生に尽力したと言われている。

ウ 組織的な人材育成

「組織的な人材育成」とは、公務があらゆる種類の人種、性別、経歴等を有する者から優秀な人材を採用し、育成していくための組織的な取組である。具体例としては「女性の殻を破るプログラム(Crossing Threshold Programme)」と呼ばれるメンター制度のほか、トップ200の幹部職員を適材適所に配置するための後継者育成計画を策定する際に、女性を含む多様性を確保するよう、内閣府が各省に対して働きかけを行っていることが挙げられる。

これらの取組に加え、2013年からは係員から課長補佐級までの女性、多様な人種、障害者等を対象として、新たに「機会平準化プログラム」という1年間の人材育成課程が開始された。同プログラムは受講者に対して個人のキャリア計画を考える機会を与えることを目的としており、メンタリングやコーチングのほか、省の枠を超えて日常業務と異なる行政分野での業務体験などを提供している。

エ 社会の代表性

「社会の代表性」とは、公務が2020年までにイギリス社会の多様性を適切に代表できるようにするための取組である。その中期的な目標として、女性、多様な人種、障害者等の登用の数値目標を設定し、進捗状況を6か月ごとに公表することとしており、その状況に応じて各省と目標を調整しつつ、目標の達成を図っている。女性については、2013年までに上級公務員の39%、部長級以上の34%とすることを目標としている。


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