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第1編 《人事行政》

【第2部】女性国家公務員の採用・登用の拡大に向けて

第3章 諸外国における女性国家公務員の採用・登用の状況と課題

第2節 アメリカ

2 女性の採用・登用促進のための具体的な施策の展開

(1)社会的な背景

アメリカにおいては、かねてより人種差別が大きな社会問題として存在してきたことを背景に、1964年に主に人種差別の解消を目的とする公民権法が制定されたが、同法の雇用機会均等に関する規定においては、使用者の、人種等による雇用差別だけではなく性別による差別についても禁止しており、雇用機会均等委員会(EEOC)の主導の下、様々な取組が行われている。

(2)公務における取組の経緯

人事制度の概要

  • 職業公務員の人事管理は、成績主義に基づいて行われ、採用・登用は、能力、知識及び技能のみに基づいて行われることとされている。
  • 職業公務員の採用や昇任は、原則として個別のポストへの応募により行われている。これは、上級管理職についても同様である。
  • 局長以上のポストは、政治任用とされており、職業公務員の最上位は、上級管理職である。上級管理職の平均勤務年数は23年程度である。なお、上級管理職の10%以内は政治任用とされている。

連邦政府における女性の採用・登用施策は社会全体の取組と同様に、アフリカ系やヒスパニック系などのマイノリティを対象とした施策の一環として取り組まれてきた。

ア 女性の採用・登用施策の法制化

1964年に制定された公民権法においては、連邦政府は公民権法上の使用者として位置付けられていなかったが、大統領令等により、連邦政府の人事政策として、均等な雇用機会の提供、性別などによる差別の禁止、積極的措置(アファーマティブ・アクション)の実施等が定められた。

1972年の雇用機会均等法の制定に伴い、連邦政府における雇用に関して特に規定を設け、人種や性別等による差別を禁止し、各省庁に女性を含むマイノリティ雇用計画を策定し実施することを求めるとともに、その計画を担当する雇用機会均等担当官の配置を求めた。従来、一部の職種で結婚した女性の退職を求める慣行など、性別に基づく雇用差別が行われていたが、雇用機会均等法等を根拠とした訴訟の提起や、雇用機会均等担当官による取組等により、徐々に性別に基づく雇用差別が解消していった。

イ 女性の採用・登用施策の体制整備

1978年の公務員制度改革法により、連邦政府職員の女性又は各マイノリティの割合を、アメリカ全体の労働力人口における女性又は各マイノリティの割合と同じ水準とすることを目標とし、連邦政府において女性又は各マイノリティの割合がその目標を下回る状況を「過少代表」と定義し、各省庁における組織、職種、階層ごとにその解消を目指すこととした。

この改正に伴い、EEOCは、連邦政府における人種や性別等による雇用差別の訴えの処理を担うとともに、マイノリティ雇用計画の指針を策定することとなり、各省庁は、EEOCが示した指針や過少代表の状況を踏まえ、雇用機会均等担当官が中心となって、マイノリティ雇用計画を策定、実施することとなった。また、人事管理庁(OPM)は、公務員制度の所管官庁として、各省庁が計画を策定し実施する際の支援や実施状況の評価及び監査を行い、その結果を連邦機会均等採用計画報告書として、議会に提出することとなった。

マイノリティ雇用計画は、各省庁に、積極的措置を求めている。積極的措置とは、具体的には、募集・広報活動、在職者に対する研修やメンタリングなどの能力開発機会の提供、管理者に対する意識啓発などである。マイノリティ雇用計画では、成績主義を優先する観点から、クォータ制を導入せず、女性や各マイノリティに対する採用過程における得点の加算措置などの優遇措置も行っていない。

ウ 女性の採用・登用の障害の解消への取組

マイノリティ雇用計画の下、各省庁では、女性や各マイノリティの雇用機会を提供するに当たっての障害を特定し、それを解消するための行動計画を策定・実施し、それら行動計画の効果を評価するという一連の取組を行ってきている。

その際の障害の発見は、例えば、過少代表の状況など雇用統計によるものや、女性や各マイノリティからの訴えなどがきっかけとなる。こうした障害は、必ずしも明確な差別を行うものに限らず表面上中立的な政策、指針、慣行の場合もあるとしており、保育施設の未整備、固定された勤務時間やいわゆる「ガラスの天井」もこうした障害といえる(コラム参照)。また、一たび障害が特定されれば、各省庁は対策を検討、実施することとしている。

エ 両立支援促進の取組

女性の職場への進出に伴って、官民とも被雇用者にとって仕事の責任と家庭のニーズの両立が困難になり、民間企業とともに連邦政府でも、両立支援制度を整備してきている。

例えば、1978年には、短時間勤務を可能にする連邦職員短時間雇用法が成立した。1985年頃からは勤務開始時間等を自由に決められるフレックスタイムや1日当たりの勤務時間を延長する代わりに隔週金曜日を休む圧縮勤務などの選択勤務時間制が定着してきた。1988年には、休暇を職員相互で融通することができる連邦職員休暇融通法が成立した。2001年には、職場外での勤務を可能にするテレワークが導入され、2010年には連邦政府でその積極的な活用を図るためテレワーク推進法が成立した。

OPMは、各省庁に対し、必要に応じ制度の活用のための指針を示すなどこうした両立支援制度の活用を促している。仕事の責任と家族のニーズの両立のために、選択勤務時間制を活用したことがある職員は男性55%、女性64%(2007年、MSPB調査)、テレワークについては、適用対象職員(連邦政府職員の約半数)のうち、利用者は男性21%、女性27%となっている(2013年、OPM調査)。

出産については、家族医療休暇法に基づき12週間の無給の休暇を取得できるが、多くの場合、有給休暇や病気休暇(有給)を充て出産から3か月程度で職場に復帰することが一般的であり、復帰後、フレックスタイム、テレワーク等の制度を積極的に活用している現状にある。また、多くの省庁の庁舎内に保育施設が設置されている。

(3)現在行っている重点的な取組

2011年から大統領令に基づき、女性を含むマイノリティ、退役軍人及び障害者について均等な雇用機会を保障するための計画を集約した「多様性・包含戦略計画」が省庁ごとに策定されることとなった。現在、各省庁には、雇用機会均等担当官、人材管理担当官に加え、多様性・包含担当官が置かれ、三者が協力して多様性・包含戦略計画を策定、実施している。

コラム:「ガラスの天井」

「ガラスの天井」の存在

1991年公民権法により、ガラスの天井調査委員会が設置された。同委員会は、民間企業組織における「ガラスの天井(glass ceiling)」といわれるマイノリティや女性の登用の障害について調査し、1995年に女性の登用の障害の除去について、議会に報告書を提出した。

このような民間企業組織を対象とした動きもあり、1992年、MSPBは、連邦政府における「ガラスの天井」に関する報告書「公平の問題−女性とガラスの天井−」を議会に提出した。この報告書は、連邦政府においても、上級管理職等において女性は少なく、低い職位に女性が多いことなどから、女性の登用について「ガラスの天井」が存在していることを指摘した。

その上で、「ガラスの天井」は、学歴、経験など女性職員が対応できるものと、女性に対する偏見など女性自身では対応できないものからなるとした。前者については、個人の取組を促す一方、後者は、成績主義を踏まえつつ、各省庁や管理者が対応すべきとした。

「ガラスの天井」の解消

2009年、MSPBは、「公正・公平な扱い−取組の進展と残された課題−」という報告書を議会に提出した。その報告書においては、中間管理職ポストにおける昇進率については、むしろ男性より女性の方が若干高いというデータも示されている。

さらに、2011年、MSPBは、「連邦政府の女性−野心と達成−」という報告書を議会に提出した。同報告書では、連邦政府については、他の条件が同じならば昇進の機会に男女間の差はほとんどなく、「ガラスの天井は粉砕されてはいないが壊れた」とし、今後は、一般に女性は職務分野が限られがちで、経験を積みにくいことを指す「ガラスの壁(glass wall)」の克服などが課題であるとしている。


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