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第1編 《人事行政》

【第2部】 東アジア諸国と我が国の公務員制度

第1章 東アジア諸国等における公務員制度改革の取組と人事院の支援

第1節 ASEAN 諸国の公務員制度の概要及び改革の状況並びに人事行政分野での協力

2 ASEAN 諸国への人事院の協力等

人事院は、開発途上国の公務員制度改善を支援するため、専門家(人事院職員)の派遣、開発途上国職員の研修員受入れ、開発途上国政府からの調査団の受入れ等を行ってきている。以下は、1の(1)から(7)に紹介したASEAN7か国に対して、その公務員人事管理支援のために人事院がこれまでに行ってきた取組である。

(1)各省庁職員のための研修(国家行政研修等)

人事院が協力して実施している国際的な集団研修のうち代表的なものが、独立行政法人国際協力機構(JICA)主催の国際協力研修として行われる国家行政研修(現在の名称は「上級国家行政セミナー」)である。

昭和37年の設立当初、JICAは、開発途上国に対する農林業や土木・建設など専門性・技術性の高い研修を中心に実施していたが、昭和40年代前半、経済発展を実現する上で行政の果たす役割が大きいことを踏まえ、開発途上国からJICAに対して国家運営の重要な担い手である公務員の育成に対する技術支援の要請が行われるようになった。JICAから要請を受けた人事院は、既に国内行政官を対象とした10年以上の研修実績を有することを踏まえて、JICA研修の一環として新たに「国家行政研修」を行うこととした。

国家行政研修は、昭和42年度に「アジア地域国家行政研修」として開始された。当初は約14週間にわたり行政・公務員制度や公共政策等に関する講義、事例研究や報告・討議等の演習、各省庁配属による実地研究、調査見学等を実施した。昭和45年度からは中東及びアフリカ諸国を対象に加え、「国家行政研修」と改称した。その後、研修期間を12週間に短縮するとともに、対象国についても、中南米諸国や社会主義体制からの移行を課題としていた東欧諸国を加えるに至った。

昭和61年度には、研修効果を高めるために参加者の役職段階を絞るとともに、幹部職員の参加を容易にするよう研修期間を短縮し、国家行政研修を、課長補佐級を対象として6週間から7週間の日程で実施する「国家行政コース」と、本省庁課長級以上を対象として4週間から6週間の日程で実施する「上級国家行政セミナー」の二つに分割した。上級国家行政セミナーは、平成23年度より約3週間の日程とし、現在まで毎年実施してきている。また、「国家行政コース」については、内容等を定期的に見直し、平成2年度からは「国家行政コースⅡ」に、平成12年度からは「行政と開発」に改称し、平成14年度まで実施した。

国家行政研修は、行政課題研究を通じた政策立案能力向上を目的としており、開発途上国等における社会・経済の発展に資する行政の在り方を主題とし、様々な行政課題を扱ってきている。

インドネシア、マレーシア、フィリピン及びタイの4か国は開始当初から積極的に参加しており、インドネシアは平成14年まで、マレーシアは平成13年頃まで、フィリピンは平成9年頃まで、タイは平成5年頃まで継続的に参加していた。一方、ベトナムからは昭和40年代に5人、平成20年に1人、カンボジアからは平成14年、15年、22年に1人ずつの参加となっており、ミャンマーからの参加実績はない。

平成26年度までに、これら研修に、カンボジアから3人、インドネシアから47人、マレーシアから43人、フィリピンから36人、タイから34人、ベトナムから6人の参加があった。

(2)人事行政機関職員のための研修(上級人事管理セミナー等)

我が国が経済的に成功したと評価された1980年代には、経済・社会の安定的成長を支える我が国の行政運営や人事システムが注目を集めるようになり、開発途上国からJICAに対し、我が国の公務員人事管理を紹介する研修の実施を求める声が高まった。これを受けて、人事院は、JICA主催の国際協力研修として、平成3年度に新たに上級人事管理セミナーを設けることとした。上級人事管理セミナーは、我が国の公務員人事管理を題材に、開発途上国政府における人事管理の改善を目指すことを主な目的としている。参加者は、各国の中央人事行政機関の局長、課長級以上の幹部職員であり、これに対して、人事院事務総長が講義を行ったほか、人事院の局長、課長級の幹部職員が講師を務め、約3週間にわたり、人材確保や給与等の処遇をどのように改善するか、予算が厳しく十分な給与が払えない状況で公務員の意欲をいかに高めるかといった各国の公務員人事管理が直面する課題について議論を行った。同研修は、創設当初はアジア諸国を対象とする一般特設コースであったが、多くの開発途上国からの要請に応じ、平成9年度からは地域を限定しない集団コースとなった。また、3週間から4週間の日程で実施してきたが、平成20年度からは日程を約2週間に短縮して実施している。

インドネシア、マレーシア、フィリピン及びタイの4か国は、この研修の開始当初は、継続的に参加していたが、自国の経済・社会の発展とともにこのコースへの参加は減少している。一方、新たに公務員制度を基本から整備しようとする国として、カンボジアは平成22年度になってから継続的に参加してきている。

また、平成11年度からは、開発途上国からの要請に応じて、新たに各国の中央人事行政機関の課長補佐級の職員を対象とする人事行政研修を設けた。この研修は、人事管理の基礎理論と実情を主題に、3週間から4週間の日程で実施してきている。

平成26年度までに、これら二つの研修に、カンボジアから8人、インドネシアから16人、マレーシアから18人、ミャンマーから3人、フィリピンから9人、タイから15人、ベトナムから8人の参加があった。

(3)そのほかの訪日研修受入れ、専門家派遣、調査団受入れ等

上記の受入れ研修のほかに、それぞれの国の個別の要請に応じて、訪日研修の受入れ、専門家の派遣、調査団の受入れといった協力を行っている。

ア マレーシア研修

マレーシア政府は、昭和56年(1981年)から日本及び韓国の労働倫理、学習・勤労意欲、経営能力等を学び、自国の社会・経済の発展を目指す東方政策を実施したが、その一環として、JICAに対し、我が国の公務員人事管理を学ぶための特別な研修計画の実施を要請した。これを受け、昭和61年度から5年間、人事院は、JICAの行う国別研修に協力し、マレーシア政府職員に対する研修を実施した。

この研修では、マレーシアの職員数名を我が国に受け入れ、4週間から5週間にわたって、我が国の公務及び民間部門における人事管理の特色、我が国の公務員制度、日本的経営の特色、日本とマレーシア両国社会の比較等をテーマに講義、討議、調査訪問等を行った。5年間に合計17人が参加し、このうち10人は東方政策の主務官庁である公務員庁職員であった。

イ タイ人事委員会事務局職員研修、専門家派遣等

タイからは、平成4年(1992年)の公務員法改正を受け、給与、服務等の制度の整備に当たり我が国の制度を参考にしたいとの要請がなされ、人事院は、平成9年度及び平成10年度にJICA主催の国別研修であるタイ人事委員会事務局職員研修への協力を行った。

平成9年度には、給与改革の担当者2人を対象に約3週間、平成10年度には、給与改革の担当者2人のほか、服務・倫理・不服申立ての担当者3人を対象に約2週間、それぞれの担当分野に応じた研修を実施した。

こうした研修に加え、人事院はタイに対し、民間給与実態調査の導入に必要な技術協力を行うため、平成8年度から平成10年度まで計6回、各回2人計12人の専門家派遣を行った。派遣された専門家は、同国の公務員制度の実情の聴取を行い、民間給与実態調査に関するノウハウを詳細に指導した。同国は、訪日研修や専門家派遣によって得たノウハウに基づき、平成9年から民間給与実態調査を行っている。

その後もタイからは、その時々の改革課題に応じたテーマを設定した調査団が訪日しており、近年では、地域手当制度、定年制度、再任用制度等の調査団を受け入れた。

ウ ベトナム国別研修、専門家派遣等

昭和61年(1986年)から開始されたドイモイ(刷新)政策以来、ベトナムは、より積極的に先進各国の制度の調査や技術協力等の支援の要請を行うようになってきており、人事院は、研修への協力や専門家派遣を実施してきている。

(ア) ベトナム行政・公務員セミナー等

平成8年度から平成18年度まで(平成15年度を除く)、人事院は、ベトナム政府職員を対象に、近代的な公務員制度の構築の推進のため、我が国の公務員制度の理解を目的とし、1週間から4週間の日程で、行政・公務員制度に関する講義、研修員による報告、調査見学等を内容とするJICA主催の国別研修「ベトナム行政・公務員セミナー」の実施に協力した。この研修には、計80人の参加があった。

これに併せて、JICAによる技術協力の一環として、近代的な公務員制度の構築の推進のため、平成9年度から平成12年度まで、及び平成16年度から平成21年度まで人事行政各分野の専門家計16人をベトナムに派遣し公務員制度に関するセミナーを開催するなどした。

(イ) ベトナム国家指導者候補者研修への協力

ホーチミン国家政治学院は、平成24年度(2012年度)から平成27年度(2015年度)にかけ、幹部職員の育成、選抜のために国家指導者候補者研修を実施することとしており、人事院は、JICAの技術協力の一環として、当該研修プログラムの一部の実施を支援している。具体的には、これまで5回にわたり、人事院人事官に加え、各府省の事務次官経験者や学識経験者等計20人をベトナムに派遣し、我が国の公務員制度や各行政分野における様々な経験について、講義や討議式演習を行うものであり、人事院公務員研修所の有する研修技法等のノウハウをいかして行った。

また、人事院は、JICAが主催する国家指導者候補者研修の研修員の成績上位約25%を対象とした訪日研修の実施にも協力してきている。この訪日研修は、約10日間の日程で、公務員制度や公共政策に関する講義、調査見学等を内容とするものであり、平成26年度末までに4回にわたり実施され、76人の参加があった。

ベトナム国家指導者候補者研修における人事官の講義
ベトナム国家指導者候補者研修における人事官の講義

(ウ) 公務員制度改革支援

ベトナムにおける人事行政を所掌する内務省は、公務員制度改革の一環として、公正・公平な人事管理を実現するため、公務員の採用試験の改革に取り組んでおり、人事院は、平成26年度から3年間の計画でJICAが主催する当該分野についての担当官研修等により採用試験改革の実施に協力している。平成26年度に行われた第1回の訪日研修は、約1週間、国家公務員採用試験の企画、試験問題の作成、試験の実施等に関する講義等を内容とし、15人の参加があった。

また、訪日研修に加え、ベトナムへ専門家2人を派遣し、採用試験改革に関するセミナーを開催した。

(エ) 公務員研修実施能力強化支援プロジェクト

平成25年度より、JICAの技術協力の一環として、ホーチミン国家政治学院の講師の研修能力開発のため、ベトナムに専門家を2回にわたり各回2人計4人派遣し、人事院公務員研修所における討議型研修の技法等に関するセミナーを実施している。

エ フィリピン

平成26年11月にフィリピン人事委員会が主催したASEAN諸国等を対象とする「公務における試験・検査に関する会議・ワークショップ」に人事院職員を専門家として派遣し、日本の採用試験制度等について紹介した。

また、人事院は調査団の受入れに協力してきており、過去10年間に6回にわたり、人材育成制度や倫理制度について、調査団に対する講義・説明を行った。

なお、人事院公務員研修所が行う我が国職員の行政研修(課長補佐級)の1コースとして、平成26年度に13人の研修員をフィリピンに派遣し、5日間の日程でフィリピン各省庁等の業務視察、意見交換等を行った。

オ カンボジア

カンボジアでは、公務員制度全般にわたる整備・改革が必要とされており、カンボジア公務員省は、我が国も含め、他国の公務員制度について幅広く調査を行っている。我が国の公務員制度への評価・関心も高く、近年、公務員省大臣、王立行政学院長、行政改革評議会事務総長等人事行政機関の幹部が人事院を訪問しており、その際には、公務員制度の各分野の整備・改革や王立行政学院での研修への支援等について希望が寄せられている。

カ ミャンマー

ミャンマーは、平成23年度から平成26年度までの間に4回にわたり、連邦公務院総裁等の幹部職員や研修団が人事院を訪問しており、その際には、公務員制度や当該分野における両国の協力の可能性について意見交換を行うとともに、ミャンマーが特に力を入れている研修制度についての講義や人事院公務員研修所の視察等を行った。また、連邦公務院の研修所は、研修講師の育成や研修教材の開発等、研修の充実を図っており、我が国からの支援について希望が寄せられている。

参考 東アジア諸国を対象とした国際協力研究等の変遷

国家行政研修等を通じて、アジア諸国に限らず、我が国の公務員制度に関心を持つ国があり、人事院では、かつて上級人事管理セミナー参加者から強い要請を受け、5年間にわたってアフリカのタンザニアにJICA専門家派遣を行ったこともある。公正な人事行政等への関心はアフリカにおいても同様であり、ここでは、アフリカの国の中では経済的に安定しているボツワナの最近の状況を紹介する。

●ボツワナの公務員制度●

尾西雅博駐ボツワナ共和国特命全権大使
(前人事院事務総長)

ボツワナは南アフリカの北隣に位置する内陸国である。国土面積は日本の1.5倍、人口は日本の60分の1の約200万人である。世界一のダイヤモンド産出量を背景として、一人当たりGDPは約7,300ドルの水準にあり、サハラ以南のアフリカ諸国の中では5位に位置する。1966年にイギリスから独立し、大統領制が採用されているが、その公務員制度は、大統領府の首席次官が「公務の長」と位置付けられ、公務員人事を総括するなど、イギリスの影響を受けていると見られる。

任用については、公務員法で、公務の能率を旨とすること、縁故や情実による人事は行ってはならないことを規定し、同法に基づく通達で、任用は成績、能力、資格に基づいて行うことを定めるとともに、同等の資格経験を有する者が複数いる場合、勤続年数より成績・適性を重視することを求めている。しかしながら、採用に際して採用試験は行われておらず、優秀な人材を確保するため、採用試験制度に対して関心がある。

人事評価は行動評価と業績評価から構成されている。行動評価、業績評価とも年に1回実施され、結果は昇任、昇給などに用いられることとされているが、我が国のような具体的な活用基準は設けられておらず、活用基準の策定が課題といえよう。

研修については、公務員研修所において、各省職員を対象として新規採用職員研修(5日間)、新規管理監督者研修(5日間)等を実施しているが、人材を計画的に育成するため、改革が必要とされている。

モラレ大統領府大臣、モハエ前大統領、尾西大使
モラレ大統領府大臣   モハエ前大統領    尾西大使

服務に関しては、公務員法において、国民に対し効果的・効率的なサービスを提供すること等の公務員行動規範が規定され、さらに、同法及び通達において、法令違反、上司の命令への不服従、公金・官物の不正使用、特定政党の利害のための地位利用など、非違行為が詳細に掲げられている。倫理に関しても、接待に誘われた際の対応についてガイドラインが定められている。

給与に関しては、2008年に制定された現行の公務員法によって、協約締結権及び争議権が付与され、労使交渉を通じて給与を決定する仕組みが導入された。昨年まで、給与改定に関し交渉妥結に至らず最終的に政府側が一方的に決定してきており、これに対してストライキが発生し、裁判に持ち込まれるなどの事態が起きていたが、2015年は交渉により妥結している。

ボツワナでは、長年、政府の効率性の向上、公務員の勤務意識の改善が課題とされてきている。また、任用に関しては、大統領が次官等の任命権を有するのを除き、政治家は公務員の人事権を有していないが、他方、採用試験は実施されておらず、昇任等の基準も明確ではない状況で、人事管理の公正性をいかに確保していくのか、大統領の側近であるとともに「公務の長」でもある大統領府首席次官の果たす役割が大きい。この地域の他の途上国と比較して公務員制度は整備が進んでいるが、それを適切に運用し、適宜見直しながら、公務員の働きぶりを改善していくことが期待される。


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