前(節)へ 次(節)へ

第1編 《人事行政》

【第2部】 東アジア諸国と我が国の公務員制度

第2章 東アジア諸国が公務員制度改革を行う背景

第2節 東アジア諸国が改革を必要としている分野

3 倫理の保持、腐敗防止

第三に挙げられるのは、公務員倫理の保持、腐敗防止である。国連腐敗防止条約にも示されているように、腐敗は、民主主義の制度及び価値、倫理上の価値並びに正義を害するとともに、持続的な発展及び法の支配を危うくする重大な問題であるとされている。特に開発途上国において経済社会が円滑に発展するためには、日常的な企業活動が公正で安定した行政によって保障されることが重要であり、政府に対する国民の信頼を確保しつつ、行政が適切に機能するように、公務員の倫理の保持を図ることが、各国における重要な課題となっている。

また、同条約にもあるように、公務員の腐敗防止のためには、公務員の行為規範を定めてこれを遵守させることに加えて、公務員の募集、採用、昇進、報酬、教育・訓練、退職と公務員制度の全般にわたっての取組が必要である。一般に、経済発展が進む中、国営企業や行政の許認可等が不正の温床になりがちであり、また、ASEAN諸国の中には民間の賃金水準が低かったり、財源不足により公務員給与が生計費に満たない水準にある国も多いことから、国によっては、公務における不正な金銭等の受領が一般化していると言われている。

OECDの公務員倫理に関する研究で示されているように、公務員倫理の問題に取り組むには、法令遵守アプローチと清廉性アプローチの二つの方法がある。法令遵守アプローチは、行為規範を定め、それが守られているかを監視し、違反を取り締まるアプローチである。他方、清廉性アプローチは、公務員の自己規律を高めるアプローチである。両者のアプローチは、二者択一のものではなく、互いに補完するものであり、それぞれの国や社会が置かれた状況によって、両者を組み合わせて対応すべきものと言えよう。

カンボジアでは、同国が現在進めている国家開発戦略「四辺形戦略」の中核目標に位置付けられているグッド・ガバナンスの実現の鍵として、汚職撲滅が最優先課題とされている。このため、腐敗防止法を制定し、国家腐敗防止委員会や腐敗防止ユニットを設け、法律の周知徹底、各省庁における担当官の設置、公務員の資産報告等の取組を行っている。

インドネシアでは、警察等においても腐敗があり警察・検察機関に対する国民の信頼が低いことに加え、政府高官等の汚職に対する国民の批判を背景に、2003年に、既存の警察・検察機関とは別に、汚職事件の捜査・起訴等の権限を有する汚職撲滅委員会が新たに設立され、活動を行っている。

ミャンマーでは、公務員倫理への職員の理解促進と倫理意識の向上のため、倫理に関する研修に積極的に取り組んでおり、我が国の公務員倫理研修の教材や研修技法に着目し、倫理教材の研究開発と講師の能力開発に向けた検討を進めている。

マレーシアでは、腐敗防止は政府改革プログラムの主要6分野の一つとされ、行政・公務員制度改革において重要な課題となっている。2009年には、マレーシア腐敗防止委員会法により腐敗防止の専門機関としてマレーシア腐敗防止委員会を設置し、公務部門のみならず民間部門も対象に、違法行為の探知及び調査、腐敗防止に係る助言・協力等を行っている。さらに、同委員会に行政機関清廉管理部を設置し、各省庁に清廉課を設けて、犯罪行為の抑制、内部統制を通じたガバナンスの強化等を行っている。

タイでは、2009年王室令として公務員倫理規程が定められた。公務員倫理規程では、倫理保持のために公務員がとるべき10の行動原則が規定され、倫理原則に反する不適切な行動を例示している。なお、汚職事件の取締機関として、1997年憲法に基づき政治家や高級公務員の汚職事件を取り扱う国家汚職防止委員会が設置され、さらに、法務省に課長レベル以下の公務員の汚職事件を取り扱う公共部門汚職防止委員会が設けられた。

フィリピンでは、腐敗防止等のため、人事委員会が各省庁の現場への抜き打ちの立入検査を行っている。

このようにASEAN諸国では、倫理確保の方策として法令遵守アプローチが中心となっているが、低い給与水準に関する問題等から、腐敗対策の効果が上がりにくい現状にある。公務員倫理の持続的な保持を図っていくためには、給与等の勤務条件を適切に保つとともに、公務員としての自覚、自己規律を保つ清廉性アプローチも併せ採っていく必要があるといえよう。


前(節)へ 次(節)へ
©National Personnel Authority