第1編 《人事行政》

【第2部】 在職状況(年齢別人員構成)の変化と人事管理への影響

第3章 在職状況の変化がもたらす課題と人事管理上の対応

第2節 課題と人事管理上の対応

4 組織活力の維持に関する課題

第1章において述べたように、本府省を中心に、在職期間の長期化により若手・中堅職員の昇進ペースが遅れ、全体として組織の活力が低下しているのではないかという問題がある。また、地方機関に象徴的な若年層が極端に少ない人員構成に対応するため、限られた定員の中で、従来常勤職員が担っていた定型的な業務を非常勤職員が代替しているような事例もみられる。こうした状況の下、能力・実績に基づく適材適所の人事配置等を図ることにより、能率的で活力ある公務組織を維持することが必要である。

(1)能力・実績に基づく人事管理の推進

在職期間の長期化による昇進の遅れなど、組織全体の活力が低下しているという課題に対応していくためには、各府省において、適切な能力実証の下、年齢や経験年数を過度に重視した人事運用を改め、優秀な若手職員の抜擢を含めた能力・実績に基づく人員配置や昇進管理、処遇を行うことによって、職員の士気を高めることが重要である。具体的には、個々の職員の能力や実績を人事評価を通じて的確に把握するとともに、適材適所の人事を行うことや、職員を短期間で頻繁に異動させるような人事運用を見直し、能力開発を図りつつ、職員の専門性を強化すること、採用年次への配慮による昇進を排し、優秀者は抜擢する一方、管理能力が不十分な者については、ラインの管理職に就けないこと、特に本府省の課長以上への昇任に当たっては、政策立案能力に加え、従来以上に組織・マネジメントに対する意識や能力を厳格に検証することといった取組を引き続き行っていくことが必要である。また、職員の昇進管理においては、ラインの管理職として処遇していくルートのほかに、個々の職員の適性に応じて専門職として処遇していくルートを設けるなど、複線型人事管理を推進していくことも重要である。

(2)専門スタッフ職の活用

複雑・高度化する様々な行政課題に効率的、効果的に対応するためには、専門性の高いスタッフ職を活用することが有用である。現在のように、在職期間の長期化の影響で、本府省局長級や審議官級の指定職俸給表適用職員、本府省課長級の行政職俸給表(一)適用職員を定年間際に専門スタッフ職に就けるような人事運用は必ずしも望ましいものとはいえない。専門家としてのキャリアパスに対する意欲と能力のある職員に対しては、若年層を含む早い段階から、特定の分野の専門家として育成する方針であることを意識させ、養成していくことも考えていく必要がある。そのためにも、各府省において、専門スタッフ職が政策立案に必要な役割を適切に果たすことができるような行政事務の執行体制の見直しを行うとともに、国際的に通用するような特に高い専門性を有する専門スタッフ職を育成し、活用できるようにするため、そのキャリアパスの在り方について検討を進める必要がある。

(3)非常勤職員の処遇等

従来常勤職員が担っていた業務を非常勤職員が代替して恒常的に担っているような実態が仮にある場合、そのような業務には常勤職員を任用することが適当である。一方、公務の現場でその役割を果たしている非常勤職員についても、常勤職員と同様に高い意欲を持って勤務することができるよう、適切な勤務環境を確保することが重要となる。

非常勤職員の給与については、給与法により、各庁の長は、常勤職員の給与との権衡を考慮し、予算の範囲内で支給するとされており、これを受けて、人事院は、平成20年8月、非常勤職員の給与に関する指針を発出している。本指針では、基本となる給与を類似する職務に従事する常勤職員の俸給月額を基礎として決定することや諸手当の支給についての考え方を示しており、これに基づき、各府省において非常勤職員の職務に応じた適切な処遇が図られるよう、引き続き適切に指導を行う。

諸外国における職員のモチベーション維持のための取組

米国やドイツでは、職員の高齢化や職員数の減少等に伴い、職員全体のモチベーションを維持し、いかに組織の活力を向上させていくかが課題となっている。また、英国では若い世代、フランスでは増加する高齢層の職員のモチベーションの維持に力を入れている。いずれの国でも、職員数が減少し、職員の高齢化が進む職場においては、人事管理を行う管理職のマネジメント能力やリーダーシップの発揮が重要とされている。

1 職場における満足度の向上策(米国)

Employee Engagement(職場や職務に対する職員の献身、持続性、努力及び参加等(以下「職員の職務への献身等」という。))を強化することが、職員のモチベーションの維持や業績の向上に役立つとの考えに基づき、ホワイトハウス主導の下、職員の職務への献身等の強化に力を入れている。人事管理庁は、職員の仕事や職場への満足度、研修等の能力開発の機会や仕事と家庭の両立のための制度の活用等について、全ての職員を対象とした個人の意識調査を行い、その結果を部局ごとに取りまとめて指標化し、管理者に結果のフィードバックを行っている。このデータにより、管理者は、上司のリーダーシップ、キャリア開発、職場環境等に対する職員の意識を把握し、職員の要望に応じた人事管理戦略を作成するなど、職員のモチベーションの向上に役立てている。また、職員の職務への献身等の強化を政府一体となって進めていくことを目的として、各省の業務計画や上級管理職(Senior Executive Service(SES))の業績評価の評価項目の中に、職員の職務への献身等に対する責任が盛り込まれている。

また、これまでは専門性をいかして一つの分野の専門家として昇進していくのが通常であったが、年代に応じてその考え方は変わってきており、ミレニアルズと言われる20歳台から30歳台の職員は、同じ業務に長く携わり専門性をいかして直線的に昇進するのではなく、様々なポジションで幅広い経験や知識を蓄積することにより、複雑化する課題にチャレンジする能力を身に付けたいという希望が強いと言われており、省内での異動あるいは省をまたいだ異動を促進することにより、職員のモチベーションの向上に努めている。

2 縦方向だけではないキャリアパス(ドイツ)

職員の高齢化が進む中で、管理職や幹部職のポストには限りがあり、縦方向へのキャリアパスが難しくなってきているため、各職員の希望に応じて能力開発の機会を与える、専門家やプロジェクトのリーダーにする、長期にわたる同一ポスト在任者に異動を促す、上司が部下の業績をフィードバックする、部下と定期的に面談をするなど、あらゆる手段を用いて職員のモチベーションの維持・向上に努めている。

3 就職後の専門分野の変更(英国)

従来、一度就職すると同一専門分野や同一勤務先に退職まで勤務することが一般的であったが、最近の若い世代は就職後に専門分野や勤務先の変更を望む者も多い。そのため、公務部内において、職務への専門性がそれほど強く求められない係長レベル以下のポストで分野変更を認めることにより、若い世代のモチベーションの維持を図っている。

4 キャリア形成の専門家による支援(フランス)

各省においては、職員からの要望に応じて個別に面談を行い、キャリア形成において助言を与えるキャリア・モビリティー・アドバイザーが配置されている。全職員を対象にしたものであるが、モチベーション維持のために、とりわけ中・高年齢層の職員はキャリア・モビリティー・アドバイザーとの面談が推奨されている。アドバイザーは、個々の職員へキャリアパスを助言し、異動を促し、空席公募のための経歴書や志望動機書の書き方、面接の指導も行っている。