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シンポジウム 第1部 郷原講師プレゼンテーション

 行政の信頼の回復というテーマだが、行政の質自体を高めて回復していく話と合わせて、行政が不当に社会から批判を受けないようにする必要がある。そういう観点から、生々しい事例をお話したい。

Gohara_1.png   ●不二家問題の核心
 不二家は2年半ほど前に起きた事例であるが、これについて簡単に紹介する。この事例は国民から大変大きな誤解を受けたものである。多くの人は「消費期限を切れた牛乳などという不衛生な原料を使ってシュークリームを作って、それがばれたら雪印の二の舞になるぞといって社内にかん口令をしいて事実を隠蔽しようとした。だからあそこまで叩かれた」と思っているのだろうが、実態は全然違う。食品衛生上は全く問題なく、健康被害のクレームもなく、形式的な社内規約違反でしかない。ではなぜここまで大騒ぎになったのか

 

Gohara_2.png   ●社内会議での報告
 不二家の場合には、11月13日の社内会議で、外部のコンサルタントが、期限切れ材料の使用がばれたら「雪印の二の舞」だというレポートと、埼玉工場でネズミが出ているというグラフがネズミの死骸の写真付きで載っている文書を経営幹部が集まる会議に提出した。その文書が外部に流出したのが、この問題の発端だ。問題なのは、こういったことに対して企業がどう対応するかということ。
 コンプライアンス論からまず重要なのは、事実関係をはっきりさせて、原因を究明し再発防止策を図ること。ところが、このとき不二家の幹部は、工場に「規定を遵守して、期限の切れた材料を二度と使うな」という命令を出しただけだった。ここにまず根本的な対応の間違いがあった。ここできちんと事実をはっきりさせていれば、その問題を会社としてどうとらえてどう対応すべきかが分かっていたはず。そういったことを言わず、ただ単純に上から下に、期限切れはダメというだけで、経営陣は中身を理解していないままで済ませた。

 

Gohara_3.png ●「雪印の二の舞」文書の流出
 そして、1か月後に、この文書がフランチャイズに流れた。フランチャイズは社外と同じ。このようなレポートが外に出たらどう思われるか、それにどう対応するか考えなければいけなかったのに、ちょうどそれが年末で休みだったため、何もせず漫然と過ごしてしまった。共同通信は、文書があまりの内容なので「怪文書なのでは」と照会してきたくらいである。それに対して、不二家は「怪文書ではなく、社内文書である可能性が高い」とその場で電話で答えてしまった。相手が怪文書と思っているものを「社内文書である」と言ったこの瞬間に、ことはそれだけで済まなくなるし、そもそもそういうシリアスなものに電話で応じようとしたことに根本的な問題がある。そして、共同通信が記事を発信し、NHKがニュースを報道し、問題が大きくなっていく。ここからこの問題が広がる中での不二家の対応は混乱に混乱を重ねた。

 

Gohara_4.png ●マスコミ対応の誤り
 隠蔽を疑われたとき、人間の心理として、つい、「隠していません」とポケットを広げたくなるが、そのような方向で行ったその後の対応のため、不二家は更にダメージを受けることになる。不二家は問題となった埼玉工場の職員全員に、他に期限切れがないかアンケートをとって、18件が出てきた。それを2回目の記者会見で全部そのまま公表した。その中身を見ると、いつのことか、誰のことか、あやふやなものばかり。これを公表すると、マスコミはそのままでは記事にならないので具体的に詰めてくる。でも当然ながら答えられないので「分かりません」となる。「調査しているのか」と問われると、「調査をしていない」となる。実際、調査のしようもない。この段階で、記者から不二家は「企業の体をなしていない」と判断され、水に落ちた犬になった。まさにマスコミの餌食になった。
 このときのマスコミの報道は非常に不正確で多くの問題があった。特にTBSの「朝ズバッ」はひどかった。社内資料の分析結果、チョコレート再利用疑惑の報道に関して証言VTRテープのすり替えの疑いがでてきた。それをねつ造問題として追及し、攻撃の対象をTBS1社に集中させることができたので、マスコミからの反発を招くことを避けることができ、不二家に対する批判報道を相当程度止めることができた。しかし一般的には、一度マスコミ全体が下した判断は変わらない。一社が何か誤ったのであれば訂正報道などをさせることはありうるが、全体となると間違った事実でも通常は訂正されない
 この問題は本来「隠蔽」ではない。「隠蔽」とは、本来、作為的・積極的に隠すことだと思うが、この場合は単なる過去に起きた問題の非公表でしかない。ところが一度マスコミが隠蔽だと言ったら、もうその評価は変わらず、最終的に「隠蔽」自体が単なる非公表という意味で使われるようになり、「隠蔽」の構成要件が変わってしまった。そうすると、食品会社は、非公表もすべて隠蔽といって非難されるから、何か問題を発見したらすべて公表しなければならない。この年から、食品業界全体の社告、謝罪広告が倍に増えた。そうなると、行政も、自分たちが批判されないように企業に対して厳しく対応するようになり、企業も過剰反応が当然となった。その行き着いた先が、昨年の伊藤ハムの問題である。

 

Gohara_5.png ●伊藤ハム問題
 伊藤ハムでは、食品製造用に使用していた地下水からシアン化合物が検出されたので、それを行政に相談したら公表しろと言われ、大規模回収という事件になった。「シアン化合物」といっても数値では本当に微量なものでしかない。水道法の水質基準を超えていたが、その基準が国際的に見ると厳しすぎる。それを食品製造に使った場合にはないに等しい。これを公表する義務はあるのか。
 消費者にできるだけ正確に情報を提供するのはコンプライアンスの基本であるが、専門的見地からしてまったく危険はなく消費者に全く情報を与えることがかえって社会的混乱を招くものもある。公表すべき義務があるかを考えないといけないのに、今は、何でもかんでも事実があれば出すのが当たり前。出さなかったら隠蔽ということになる。これは食品業界に限らず、ある意味では行政も含めてそうで、それがコンプライアンスだと思われている。コンプライアンスを法令遵守と訳して、無条件に従うべきものという受け取りが、かえって社会に色々な問題を生じさせているというのが最近の状況ではないか。

 

Gohara_6.png   ●事実の公表をめぐる考慮要因
 改めて、問題の本質を考えていく必要がある。なぜ公表するべきなのか。被害の拡大を避けるためなのか、消費者の選択権を確保するためなのか、そういうことを考えた上で公表のデメリットを考える。そして組織としてどう対応していかなければならないかを考える必要がある。法的に義務があるかないかということだけから公表の必要性が考えがちだが、組織が不当な批判でダメージを受ける局面と、生じてしまった損害についてその損害の分担を考える場面とは別である。組織が不当な批判を受けないためにはどうしたらいいか、社会の視点で考える必要がある。
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