第82回行政フォーラム「水の安全保障戦略機構」 要旨

水の安全保障戦略機構−国民と行政の新たな関係−

日本水フォーラム事務局長 竹村公太郎

21世紀は水の世紀

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[地球環境問題は全て「水」の姿で現れる]

地球温暖化と資源・エネルギーの枯渇,世界的な人口爆発そして日本では人口減少はほぼ確実に起きる状況。温暖化は大洪水・大干ばつ・海面上昇という形で,地球環境の劣化も水質汚染や水需要の取り合いという形で現れてくる。水は生命の源であり,水を通して見ると地球上のすべての問題が見えてくる。

  1. 進行する温暖化
    • [温暖化のトリガーは引かれた]
      温暖化の引き金は引かれた。氷河も凍土も溶け始め,これは一度始まると止まらない。温暖化になると気象が凶暴化してくる。100年後を予測するシミュレーションでは,誰がやっても気温の変化は上に凸になるが,海面上昇に関しては下に凸になる。つまり,100年後から大変になる。厳島神社,テームズ河といったユーラシア大陸の両端で,また真ん中のベネチアでもその兆候は見えている。日本を見ても2007年西湘バイパスの崩壊,2008年の富山県入善町の高波災害と,構造的に日本の海岸は怖い状況。大阪,名古屋,東京都といった大都市でも高潮や大雨では水に沈む危険がある。これを米国ニューオリンズのように塀のような堤防を作って守ろうとしても,50年は持っても100,200,300年は持たない。これから海面が上昇してくるとき,日本を塀で守っていくのかという決断が迫られる。しかしこれには土地利用の再編成で対応していくべきであり,そのために政治のリーダーシップが不可欠であり,行政全体が協力しなければ対応できない。温暖化について,日本国土の防衛という面では非常に厳しい面がある。
    • [雪は神様がくれたダム、その雪がなくなる]
      年間平均気温をグレーディングで色を付けて(色つきの気温図を示し)100年後どうなるかということで,単に4度上げると,北海道の色は今の関東に関東は沖縄,九州は台湾になる。日本はいままで温帯であったのが,亜熱帯になるという途方もない劇的な変化。
      利根川の水量は今では4月から雪解けの水が流れて6月一杯あるのが,100年後には,水が冬の間に海に帰ってしまう。雪は神様がくれたダムだった。ダムはコンクリートの構造物ではなく,人間が不必要なときは置いておき,必要なときに流してくれる装置がダム。生命が眠っている12月から3月に貯めておき,生命が息吹くときにどっと流してくれる。これを前提として日本の稲作文明は維持してきた。
      日本の穀物・野菜の品種改良が間に合うのかという,厳しい問題になる。そもそも一番大事な種は外国が持っていることは知っておいてほしい。
  2. 逼迫していく資源
    • [資源はなくなるのでなく暴騰する]
      石油や石炭が何年でなくなるというのは,ミスリードするもの。石油については,過去の巨大油田の発見の重心は1960年代となっている。巨大油田を発見した後,供給インフラを整備して供給のピークは50年後となる。つまり,2010年代が石油供給のピークとなる。ピークがくるとどうなるかは簡単な話で,需要は伸びていくのでピークを超えると需給ギャップから価格は暴騰する。つまり石油は永遠にあるが,ただひどく高価になると思うべき。燃料でなく貴重な資源になるのはもうすぐである。
      肥料はすでに世界中で高騰している。その理由はリンがなくなっているから。1996年にはピークを打ち,アメリカも輸出を禁止し,中国も高い関税を掛けている。昔の鳥の糞が化石になってリン鉱石になったもの。これはなくなれば終わり。
      資源として,石油はやがて大暴騰する。リン鉱石はすでに暴騰している。これも知っておいて欲しい。
  3. 世界の水問題は日本の水問題
    • [世界の水を飲み,穀物を食べ,木の家に住み,コットンを着る]
      人口が増え,アラル海という琵琶湖の100倍の湖が干上がってきている。これは人為的なもので,水を綿花のためにどんどん取っている。その安い綿花を先進国が享受している。
      インドネシア,スマトラの熱帯雨林がなくなっている。こんどはシベリアで取り出している。ロシアはたまらず関税を掛けた。木造建築を含め日本の消費の8割が外材。
      ハンバーガー2個で仮想水180リットル(風呂10杯分),牛丼1杯で180リットルが使われている。牛が穀物を食べる,他の国の穀物を生育させるための水に換算したのが仮想水。農業用水572億トン,工業用水134億トン,家庭用水164億トン。日本が輸入している仮想水640億トンなので,水の自給率は60%となる。世界の水問題は,日本の水問題に跳ね返ってくる。
  4. 悪化する地球環境
    • [開発が進む山林,原野,枯れていく世界]
      人工衛星の写真で,アフリカに赤い光が見える。これは野焼きで,畑にしている。畑から水をくみ上げる。地下水は塩分を含んでおり土地は劣化して,砂漠化していく。稲は水から栄養分も取るので土壌をあまり痛めない。一方,過放牧による砂漠化も起きている。家畜が草木を食べ,残った根を人間が抜いて燃料にする。水と衛生はペアであり,水に汚物が混入しないようにしなければ水があっても飲めない。
    • [海域環境の悪化]
      渤海は廃水で貝類などが死んでしまった。渤海に流れ込む黄河から出てくるのは砂だけでなく工場から汚染物質が多く出ている。日本がかつて公害でやってきたことを繰り返している。その中で安い製品を輸入して先進国は享受している。日本がやらなくてはいけないことは,水ビジネスで協力して環境をよくすることである。最近新聞などで報道されつつあるが、日本の企業は環境問題で世界に貢献できるのだ。

21世紀の水の安全保障へ向けて
−なぜ,日本は水で国際貢献できるのか−

  1.  水の安全の歴史と努力
    • [湿地から生まれた文明]
      なぜ日本が世界に貢献できるのか。日本は国際河川を持たず、水で闘うライバルがいない幸せな国。日本は狭い山岳列島で、上手に水を利用して最先端の先進国になったと評価されている。
      数百年後には海面が上昇するといったが,縄文前期時代の6000年前は海面が5m高かった。利根川は銚子ではなく、東京湾に向かって流れていた。徳川家康が400年前に利根川を東へ移し、その後、利根川の洪水の7割が銚子へ流れるようにした。このような治水システムで今の東京が安全になり発展している。
      これは新潟の田植え(水につかって田植えをしている写真)。沖積平野で稲作をやる原風景はこのような風景。広重の浮世絵でも日暮里に丹頂鶴が生息していた。つまり、江戸は大湿地帯であった。この上に近代文明が構築された。このような低平地に文明を作った先進国は日本だけ。このような危険な土地に住んでいることを、行政は国民に知らせる義務がある。
    • [宿命の治水]
      近畿も5m海面を上げると枚方まで海。川の中だったので河内と呼ばれた。淀川と大和川が合流して江戸時代の湿地帯になる。だから堤防を作って治水を守るのは宿命。洪水氾濫区域10%のところに資産70%と人口の50%がある。治水はやめてはいけない。安全保障は急にはできず,着実にやるしかない。
  2. 水利用の経験と努力
    • [少ない日本の水資源]
      日本の降雨量は1717mmと多いが,一人当たりでは835立方メートルで世界平均より少ない。日本の川は急峻で,雨は一泊二日しかしてくれない。利根川根でも二泊三日程度である。
    • [渇水で苦しんできた歴史]
      だから干ばつが起き,長い水争いの歴史がある。水を分ける技術で渇水を乗り越えたのは武田信玄が最初,そのうち円形分水路ができる。広重の虎ノ門の金比羅さんの絵を見ると大きなダムがあった。今は埋められたが地名が残って溜池という。これが作られたのは開府してすぐ,50年後に玉川用水が作られた。
    • [女性の社会参加を実現した水道]
      昔,女性が水廻りの仕事をしていた。それが,ダムが完成し、水道インフラが整ったので、断水が起きず今や洗濯はロボットが行っている。これが女性の能力を利用できる環境を提供している。水道が日本人の寿命の伸びに大きく寄与している。
  3. 水環境への経験と努力
    • [河川を汚染させた歴史・汚染を乗り越えた技術とインフラ]
      雪という自然のダムがなくなっていく。そのため、人間が水ガメを作るしかない。新たなダムを次々造る訳にはいかない。ダムの谷底の10mは水を貯めるのには役立たず、ダムの上部の10mに水を貯めるダムの嵩上げは効果絶大である。20世紀に作ったダムは21世紀にかさ上げする基礎を造ったものと考えよ。かつて多摩川は汚く,子供達は川から追い出されたが,今は子供が川に戻ってきている。つまり日本は深刻な水汚染問題を乗り越えてきた。この公害の経験を乗り越えてきたことを,途上国の人々に紹介することはとても大事。
  4. 21世紀の物質の循環国土
    • [リン鉱石の回収・・・物質循環文明の構築]
      リン鉱石がなくなった話しをしたが,昔はといってもつい最近まで人間の排泄物は肥料になっていた。汚泥や汚物を肥料にしていた文化を持つのは日本と韓国と中国の一部しかなく,有機物を利用していくことで十分対応できる。
      これから重要なのは維持管理。昭和30年,40年に作られた下水管が腐って道が陥没する事故が増えている。すべてのインフラは更新していかないといけない。その問題が顕在化されていないということが問題。

チーム水・日本

  • [国政のリーダーシップ,産学官連携,国民参加]
    チーム水・日本は,権力=組織・予算・法律は持たず,権威だけで活動しようという「水の安全保障機構」(構成者は総理経験者をはじめ超党派で産業界,学会と多方面から参加)を核にして,民間の人達が色々なチームを作ってくれということで作られた。13チーム(地域作りのチーム,水供給チーム,水情報チーム,水の衛生チーム,資源循環チーム,など)がある。各チームでは自分達が何に苦しんでいるのかを,水の安全保障機構に言ってきてもらい,それを行政に言う,行政がそれに対応するというトライアングルの関係を作ろうというもの。水の安全保障機構には,いろいろなことが上がってくる。ほんとうに水が大事だと思ってやっている人が集まって,チーム・水日本といういままで無かった(世界でもこんなのはない)ものができている。
  • [行政と国民の連携]
    行政を構成する各省はボトルのようで,それが載るコースターが所管法であり重なり合わず,その中で上に伸びるしかない。昔は「官僚たちの夏」のように,行政が膨張する風船となって押しくらマンジュウをしていたので,国民は上に安心して載っていられた。いまはその風船はしぼんで先細りのボトルとなり,その隙間に落ちて国民が苦労している。この隙間を誰かが埋める必要があり,小さな砂粒でよいから一つ一つが埋めていくことを,NPOだとか市民団体とか民間企業とか,チーム水・日本のようなものが担っていく。そして,あくまで行政との連携があって力強くなってくる。 
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[参加者からの質問]

  • ダムについて日本の治水の延長として非常に大事だと感じた。先生の話を国民の方に分かってもらうために,できることは何でしょうか。
  • 後輩の人々に,コースターの隙間を埋める人になってもらわないといけない。国民が必要としていることを想像力を持って感じることができる人が必要だが,その点人事院としてはどう考えているか。
  • 海外の水分野における日本の戦略。日本の企業が海外で活躍する戦略について。
  • 自然変動に対する適応策ということで治水・洪水や渇水のリスクがより高まると言われているが,雨量の長期的傾向(スライド)に変動が出ている問題について。
  • 塀で囲まず土地利用再編成で対応すべきということだったが,それについて具体的にご教示いただきたい。
  • 先生が発想を広めるために日頃心がけておられることがあればご教示いただきたい。