第84回行政フォーラム「収益構造改革で生き残りを目指す自動車業界」 要旨
収益構造改革で生き残りを目指す自動車業界
シティグループ証券株式会社株式調査部マネジングディレクター 松島憲之

自動車業界にとって,生き残りの鍵として環境技術力,新生産革命,新興国開拓が非常に重要なテーマになっており,この三つを同時にこなさなければならない。
危機的状況から脱出中
リーマンショック以降,グローバルな自動車需要の急減,為替レートの大幅な円高の2つの影響を受けて,日本の自動車業界は大赤字になった。その後,原材料安,原価低減,緊急コスト低減の進捗,米国のスクラップ・インセンティブ等による販売台数の増加で,円高にもかかわらず,来年度からの収益の回復はある程度見えてきている。しかし,過去に比べると販売台数,利益水準はピークに届かず,収益的には苦しい時期を迎える。
非常に少なくなった売上げでも利益が出るような体制となってきたが,これは従業員のボーナスや給与のカット等の痛みや、設備投資の抑制等,将来の成長の糧を犠牲にした固定費削減の上でのもので、巡航速度になるには3年くらいかかる。
自動車業界は大転換期に入った
T型フォードで低コストの量産品となったガソリン車はこの100年間自動車の中核を占め、この競争状態は変わることはなかったが,いま競争が大きく変化し始め,競争相手と競争領域が別次元化しようとしている。
- パワートレイン,新素材,情報技術のイノベーション
パワートレインのイノベーションが始まり,20年後にはガソリンエンジンの時代から電気自動車時代へかなりシフトするだろう。当面,1充電で100km程度しか走れない電気自動車の利用は限定的で収益化もまだなので,過渡期としてのハイブリッドの時代が長期化する。新素材,情報技術のイノベーションも起こり,自動車の作り方を完全に変える炭素繊維も普及してくるし,電気自動車の走行能力不足をカバーする情報技術も大事になる。 - 収益地域・競争相手の変化
先進国の需要が低迷する一方,中国インドに代表される新興国での需要が拡大するので,自動車メーカーの収益構造を,アメリカで儲けるビジネスモデルから,新興国で儲かるような転換が必要となる。また,電気自動車には,電機業界や新素材の業界からの参入があり得るし,新興国でもローカルルールにより電気自動車の普及を認め,ローカルな市場が確立するかもしれない。 - 技術開発スピードの加速
インターネットの普及による情報収集力の加速度的な高まりが,グローバルに起きている。その中で,国も従来のスピードとは違う新しい感覚を持ってこれからの知財戦略をルール化していことが非常に重要になる。例えば,燃費の基準を、高速道路や都会を意識した総合的なものとして決めていくというルール作りが求められている。
注目点
- 業界再編
90年代に起こったアメリカのビック3あるいは欧州メーカー中心の大再編が大きく変わって,環境技術を軸とした提携戦略が本格化する。部品メーカーも取引相手によって優劣が拡大するし、将来、自動車のエンジンやトランスミッションは必要なくなる可能性もある。その中で脱落していく部品メーカーに対しセーフティネットを構築する必要が出てくる。 - 収益面での対応を迫られる緊急課題
目先の緊急課題は,収益確保と競争力優位である。小さな車で利益が出せる構造変化が必要であり,円高にも対応しなければならず新生産革命が必要になってくる。
非鉄,希少金属などの原材料供給についても,長期的には使用比率の削減とか代替材料の開発により変えていくべきだが,当面その絶対量の確保が必要で,希少金属の国家備蓄をやらなければならない時代となる。
グローバル自動車需要
右上がりだった売上高が,2008年の9月15日以降,急激に落ち,2008,9年は減少,その後も回復は緩やかだろう。地域別のシェアは,北米,西欧が落ちていくのに対し,中国を含むアジア・パシフィックが伸びていく。そういう新興国に売れる安い車で利益が出るような構造への移行が求められるが,これは相当難しい問題である。
自動車販売不振の要因が変化
リーマンショック以降は金融危機によるローン問題,失業率の上昇による消費者心理の悪化が売れない理由になっている。この買い控えに対し米国ではスクラップ・インセンティブを出し,一時的に販売が回復したものの,やめると急減した。西欧も同様で,需要の先食いをした分だけ,反動減が来年にかけて見込まれ相当厳しい。一方,アジアは,中国,インドでは減税もあって販売台数の増加しており、タイ,インドネシアも対策を打ちつつあるので,来年にはその成果が出てくるだろう。
需要予測
- 米国
第2次オイルショック(400万台減)の時を超える600万台も減少したのは,金融業界の破綻の影響も大きい。過去最高レベルになった失業率も懸念され,自動車需要の急速な回復は期待できない。
米国で2004年にガソリン価格が2ドルを上回ってから、燃費の悪いSUVから燃費のいい乗用車への乗り替えが起こり、これが続いている。 - 西欧
需要は,今年に引き続いて来年も落ちていく。ドイツで,非常にフリーハンドのスクラップ・インセンティブを出したが,これで助かったのは安い車を売っているメーカーだった。西欧メーカーの作っている東欧の車,インドで作っているスズキの車などが中核になって需要を支えている。また,2012年以降CO2排出130g規制が罰則規定を伴って適用されていくので,これに対応するという難問を抱えている。 - 中国
中国は世界で最大の自動車市場になる。年初に中国政府が1600ccよりも小さいモデルの取得税を半分にするという宣言をして,中国の民族系は勿論,日本車では日産の販売台数が増えてきた。年の後半になると,成長率維持のためインフラ作りをして所得水準を上げるという戦略を進めたため,自動車需要が中国全体に広がって,前半不振だったトヨタ,ホンダの販売台数も伸びている。 - インド
インドも需要は伸びており,自動車メーカーが乱立している中で,スズキの子会社Murutiがシェアを保っている。注意すべきはHyundaiで,ウォン安を利用した拡大戦略と日本車に迫る技術力でシェアを拡大している。
国内 自動車需要
- 国内需要は停滞局面が続く
人口が減る国になったので,国内需要は中期的に考えても停滞するのを大前提にディーラーの所謂再編をやっていく必要がある。人口の減り方から考えていくと,登録乗用車は2~3%減っていっても不思議はない。国内需要は500万台割れとなって当然という現実に自動車メーカーも気付くようになった。 - CO2削減25%の課題
CO2削減のベースの90年には5770万台だった保有台数は,10年後,7000万台と推定され大きな違いがある。この中で,90年比の排出量から25%減らしていくためには,日本全体で売れる車の2/3くらいをハイブリッドにしていくといったドラスティックな対応をしないと現実的には不可能だ。
いまのエコカー減税の対象車は,重さによってクリアすべき基準値が違い,本当に燃費のいい車が対象にならず,逆に燃費の悪い車まで減税対象になっている。これからのルール作りでは,真のエコカーに対する基準を作って補助金をきちんと出すようにしないといけない。 - 普通トラックは史上最悪の不況に突入
バブル経済崩壊後,トラックの仕事は減り,物流も効率化して,普通トラックの国内需要は減り続けて,2009年の年度ベースで43000台と最低の水準で,史上最大の不況である。過去の不況時にトラックメーカーが達成した年間8万台で利益が出る収益構造では立ちゆかず,もう一回生産革命の努力が必要になっている。運送会社に対してトラックを買えるような支援が大事であるし,来年の10月大型トラックに対するポスト新長期規制が出てくるので,それを契機にした新しいルール作りが求められる。 - 軽自動車は地方経済悪化の影響を受け減少
軽自動車はまずまずの水準をキープしているが,これは地方の需要によるもので,特に50代,60代のユーザが相当増えている。売れている最大の要因は,税金がリッターカーの約1/4と安いからである。 - 輸出
去年の輸出は600万台くらいあったが,為替レートが1ドル90円と相当厳しく,海外の需要も十分に戻っておらず,年率換算値で400万台と相当厳しいレベルにある。それが国内生産台数にも影響し,V字回復しているものの,1100万台という過去の水準にはしばらく戻れそうにない。 - スクラップ・インセンティブの在り方
エコカーへの代替を一層進めるため,9年以上の車を対象にスクラップ・インセンティブをもう一回組んで,一定レベルの燃費水準のエコカーへの切替えに補助金を出すことで,CO2削減25%に向かった一つの道筋が見えてくる。
日本の乗用車,特に貨物車の使用年数は長くなっている。全体的な改善のためには,この古い車の入れ替えが必要。1日100kmも走らない都会だけの運送なら,貨物車は電気自動車で対応できるので,積極的に税金を投入して普及させていいのではないか。一方で,地方で使う大型のトラックを含めた貨物車には,相当補助金を出して代替を促す必要がある。
生き残り戦略の再構築
- コストハーフへのチャレンジ
目標はコストハーフであり,それは素材革命を含めた物流までの全プロセスの見直しで行うしかない。古い機械を新しいプロセスに切り替えること,アウトソーシングの内製化による付加価値の取り込み,設計変更ゼロを達成することでのコスト改善という,新しいチャレンジが求められる。 - 生産技術を守る
3ウェットオン塗装など,日本の自動車技術の優れたところは生産技術の進化が著しいこと。自動車業界と部品業界は製造装置を内製化していて,生産技術を作るノウハウの外出しをやっていないので,世界中から見て圧倒的な強みを保っている。これを知財で守っていくとともに,ハイブリッドや電池を含めたノウハウを先溜めしていくことが大事になってくる。 - 収益を安定化するためにはグローバル・ネットワーキング構築が必要
世界規模での事業展開と同時に製品化のローカル化,現地化をやっていく必要がある。コスト競争が厳しいので,世界で生産される車に世界で生産される品質の良いより安い部品を使用するという流れが確実に出てくる。それに如何に早く対応できるかどうかというのが,日本の自動車メーカーの競争になる。ただ企業として考えないといけないのは,日本の本体(単独)への利益還元をいかにして確保していくかである。
21世紀の生き残りには高い環境技術力が必要
- 他社が持たない環境技術を持つ企業は"エコ・プレミアム"を獲得できる
トヨタが11年前にプリウスを出したときは大赤字からスタートしたが,2006年に損益分岐点を,2010年から11年には収益拡大分岐点をクリアし,高い利益率を得る。これから追随する他の自動車メーカーとはハイブリッドカーの実用化で相当の差が付いている。また電気自動車はバッテリーのコストが高いので,政府からの補填がない限りビジネスモデルとして展開できない。 - 厳しい燃費規制への対応
各国が相当厳しい燃費規制を敷くようになってきている。EUの2020年長期目標を筆頭に,米国でさえも2015年にカリフォルニア州は日本を超える燃費規制を敷く。ハイブリッドカーでは,燃費のいいものを量産するのかが重要になる。ただ,日本のガソリンエンジン車にもハイブリットに匹敵するものが開発されてくる。CO2削減25%を目指すには,どこかで税金を確保して,このような車に対するインセンティブを与えていく必要がある。 - 環境対応車向け電池の将来
携帯の電池と異なり,車用のバッテリーというのはハードな使い方を要求されるだけでなく,耐用年数も求められる。いますぐに電気自動車用のバッテリーで1充電500km走るものが出てくるとは思えないし,このような電池はリチウムイオン電池の延長線上では無理なので,次世代の空気電池を如何にして国家戦略としてものにしていくのかが非常に重要になる。
第二の産業革命
環境を軸として国家戦略を考えると,第二の産業革命と言っていいくらいの大きな変化が出てくる。日本の場合,所轄の官庁が多いので、これらを横断的にまとめ上げて環境戦略を練り上げて統括管理するというシステムを再構築しないといけない。
内需だけを柱に日本の景気を回復させるのは無理である。自動車の外貨獲得ができなくなったら本当に日本の経済はもっと悪くなる。為替も95円/ドルのレベルに戻すことによって相当外貨獲得の量,競争力も変わってくる。環境によい車に対する補助金も有効に使って,国内で生産システムを確立してそれを海外に出す一方,その技術を日本の宝としてブラックボックス化するなどして、海外に対抗できる知財戦略の一環としてキープする政策を進めないと遅れをとる。そういった中長期の国家戦略を含めた動きを是非進めてほしい。