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第90回行政フォーラム「中小企業が支える日本の将来」要旨

「中小企業が支える日本の将来」

政策研究大学院大学院教授   橋本 久義     

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 私は,いままで3024の工場を訪ねてきた。中小企業では,偶然入ってきた数少ない人材に一生懸命働いてもらうためにも,金融機関から金を貸りるためにも,親会社から注文をもらうためにも,そもそも社長に人徳・魅力がないと始まらない。工場を訪ねると,その魅力ある社長から様々な話が聞け,技術の動向,消費者のニーズの変化など,どんな統計資料を見るよりもよく分かるので,いまも訪問はやめられない。
訪れてきた工場には,中国をはじめとする発展途上国の工場も340程度あり,それらを見てきた上での「『橋本流』からだで感じた日本の中小企業」について紹介する。

不況は脱却した

 既に不況は脱却しており二段底は来ない,というのが私の見方。

 今回の不況は,サブプライム・ローンが元凶であるが,これは,貸付をするのが非常に危ない人「だけ」を対象に,住宅を担保に金を貸し付け,貸し付けた側は,それを債券化して売り払い,損をしない仕掛けになっていた。非常に危ない人達も,返済不能になるのは,同時ではなく,ある確率でなるという前提で金融工学で計算し,最初から金利を上乗せ(2.5%)したもの。それを格付け機関が,これ以上安全な債権はないという格付け(AAA)をして世界中に売り出し,この債権が紙くず同様になって世界が阿鼻叫喚地獄に陥ったという話。

 しかし,銀行,証券会社,ファンドなど金融のプロが大きな損失を出したが,非金融部門の被害は大きくない。怪我に喩えれば,骨折して大量出血のため,痛いし,血も回らず失神状態となったが,怪我は1箇所だけで,他の臓器は直接のダメージを受けていない。だから血液循環さえ戻れば回復は早い。

 金融機関は金が回らないと収益が出ないが,痛手を受けた人々は,頭もよく権力もあるし,各国も多額の金を投じているので,その回復は意外に早いだろう。

中国というブラックホールの効果…日本の中小企業の頑張り

 日本の中小企業にとって最大の問題は中国。BRIは,いい市場になるが,競争相手にはならないだろう。中国は凄い競争相手で,世界中の製造業が中国というブラックホールに向かって吸い込まれている。日本からも吸い込まれている。

 しかし吸い込まれそうになった時の社長の対応が違う。欧米の社長は,会社はお金を儲けるための道具として見ているので,儲からなくなると会社は潰すか売り払う。日本の社長にとって,会社は我が子である。儲からなくても私財を投じてでも頑張るので,赤字の会社がいつまで経っても潰れない。

 気がつくと,欧米では,塗装,鋳物,鍛造,メッキ,プレス,金型,熱処理,機械加工,溶接,研磨,ダイカス,プラスチック成型などの業種が周囲にない。そうなってから,本来中国に吸い込まれるはずのない最高級の機械類を自国で作ろうとしても,それらを構成している大部分の要素は普通の鉄板や鋳物等であるから,それらを担う業種がなければ,難しい。

 ところが,世界の中で日本だけが様々な業種の中小企業が頑張っている国なので,複雑で高級で精密で面倒であまり儲からないような需要は,日本に殺到してしまうだろうと,私は予想していた。実際,リーマンショックの直前まで,日本の中小企業は非常に忙しかった。

不況の乗り越え方

 よく考えてみれば,今まで日本はリーマンショックに匹敵するような不況を何回も経験してきている。中小企業の経営も,ツカなくなってきたときが問題。そのときに,心を平静に保って,あせらずに,人を育て,技術を磨き,新分野に挑戦し,新規の顧客を獲得し,辛抱強く赤字を最小限に抑えながら,虎視眈々としてチャンスを狙っていく。そしてチャンスが来たらドンと飛び出せる体力をきちんと涵養できるかどうか,これが経営の上手下手の差である。日本の町工場は不況になったら,節約をする,掃除をする,研究開発に取り組む,新分野に挑戦する,辛抱強く堪え忍ぶ。ある会社では,暇になった不況時に会社ぐるみで勉強会をしながら色々挑戦を続け,不況が終わったときには,「あの会社はレベルが高いよ」ということになっている。日本の中小企業はそういう不況期の乗り切り方をする。

 アメリカの社長は,ジョン・ウェインの国だからか,調子がよいときは威勢がいい。だが乱暴なところがあって,負けが込むと頭に血が上って,ばからしいといって投げ出す。世界的にブランドも売れている立派な会社が,突然倒産したり,関係ない会社に身売りをするということがよく起こる。

 ヨーロッパの社長は,負けが込むと引き籠もる。不況になると,従業員も減らし,縮小均衡でバランスをとる。その結果,小さくても高い技術を持った企業が綺羅星の如く残るが,景気が回復した時に,元に戻して拡大していくことができなくなっている。

 アジアの社長は,楽観的でふさぎ込むことは絶対にない。負けが込むと,地道な製造業以外にも,株式投資や不動産などの道もあるのではと浮気する人もいる。そのまま続ける人も,負けが込むのはルールが悪いと考える。なまじ実行力があるので,法律まで変えて,勝てるようになる。楽天的なので,それを実力が上がった結果だと錯覚して,「もう日本に学ぶものはない」と合弁も解消するが,暫くすると「品質がおかしくなってきた」ということになる。

 日本の社長は,勝っても負けても麻雀一筋で,勝つまで止めない。だから,終わったときには勝っている。過去を振り返ると,ミシン,テレビ,カメラ,工作機械はみんなそうだった。

日本は自動車王国になる

 いま,日本のマスコミは,日本の自動車メーカーはダメだと言っているが,アメリカはもっとダメ。ヨーロッパも,独立系が幾つかあるものの,アメリカの子会社が多いから輪を掛けて大変。世界の自動車需要が戻るとすると,日本の相対的な位置は物凄く上がっているので,圧倒的な優位となる。実際,アメリカのビッグ3だけで550万台から600万台も生産を減らすと言っている。世界の需要が戻れば,日本の出番が増えるに決まっている。1000ccクラスの小型エンジンのエネルギー効率は抜け出ている。エコの時代ということも考えると,世界的な自動車需要が戻ったときの半分くらいは日本に来てもおかしくない。

自動車部品はもっと忙しくなる

アメリカの部品産業の肩代わり

 アメリカ政府はビッグ3を救っても,自動車部品産業までは手が回らない。ビッグ3直系の部品会社は生き残るだろうが,リストラをして生産能力は小さくなる。周辺にある小さな部品会社は,軒並みやめるだろう。そして,需要が戻ったときに,その生産は誰が肩代わりするのか?これもかなりは日本に来ると考えられる。自動車には安全性の問題があって,リコールの負担を部品会社に相当負担させており,中国に作らせるのではそれは難しいので,中国に大きく取られることはないだろう。

電気自動車の普及はまだ先

 メディアは電気自動車をもてはやしているが,仮に電気自動車になっても,モータがエンジンに替わるだけだし,ミッション無しの設計思想もあり得るが,速度域も広く,トルク幅も必要なモータでは,合理的ではない。だから電気自動車になっても部品はそんなには減らない。

 また,電気自動車は当分実用化しないだろう。高いバッテリーの容量が2年で1/3になるような寿命の短さ。フル充電で走れる実走距離の短さ。ガソリンスタンドの収益構造(1台が8分間占拠して5千円の売上げ)に対し,電気の安さ(400円程度)と充電時間(40~90分)を考えると,スタンドの経営がなりたたないこと。家庭用にはあまりに高額で高圧の急速充電器。バッテリー切れの際の安全性の問題。エアコンによる負荷。バッテリーの重さ。等々の問題を考えると,当分実用化していかない。

よいバッテリーの壁は高い

 よいバッテリーは容易にはできない。いまの硫酸バッテリーは液体なので,常に新しい反応面が出るが,最近のニッケル・カドミニウム,リチウム・イオン,マンガン・ハイドライドといったバッテリーは,非常に薄くて広い電解液の層(含浸液体)の両側に電極を貼ったもので,蓄放電の繰り返しで劣化したり,チャージ状態で放置しておくと自家放電により一部分の弱さが原因で全体をダメにする等,中々難しいものがある。

プリウス・インサイト型のハイブリッドカーが本命

 だから,プリウス・インサイト型のハイブリッドカーが本命である。経産省の「次世代自動車産業研究会」が発表した報告書に,2025年には次世代型の自動車は30%から40%だと書いてあるが,そのうち純粋な電気自動車は1%程度で,普及するのはハイブリッド型であると,私は考えている。
プリウス・インサイト型のハイブリッドカーでは,部品点数が3割程度増える。エンジンごと世界に売ることになると,日本の自動車部品の中小企業はもっと忙しくなる。

タタnanoは購買層の拡大につながるもの

 デザイン的には大変優れている20万円の車で,広さもあって工夫されている。しかし,後部座席の直下に廉価なエンジンがあるので,うるさいし,熱い。このような廉価車は,自動車の利便性を広める入門車としての役割を果たすもので,次にはグレードの高い車が売れることになる。

電気製品と自動車は違う

 電気製品の特色は,昨日雇った新人が作ろうがベテランが作ろうが,できた製品の性能に差がないこと。機械の特色は,昨日雇った新人は殆ど何もできず,ましてやベテランの作った製品にかなわない。

 自動車はちょっとした故障が死につながるので,安全性に関する考え方が電気製品とは全く違う。個々の自動車部品を見ると,日本の部品会社が非常に安く品質のよいものを作っているので,中国から試験的に部品を持ってくることはあってもメリットはなく,ほとんど使われていない。

電気自動車も大丈夫

 電気自動車は,すぐに普及はしないといっても,エコなどの面から価格が高くてもある程度は売れるので,電気自動車を作っても損はしない。また将来的には,電気自動車しかないのは事実でもある。

単調で厳しい現場でも頑張る日本の従業員

 私はダイカストの工場で働かせてもらったことがあるが,朝から晩まで毎日,何年も単調な作業を続けている。工場はそういう場所である。日本の従業員は,そういう現場においてすら,働く楽しさ,仲間と協力する喜び,新しい工夫を既存の設備に付け加える喜びを,きちんと感じる。「昨日に比べて今日は0.02%不良率が下がった,よかったね」と喜び合える。この種の喜びを働いている人達がみんなで共有するためには,厖大な前提条件がいる。前工程で働いている人が同じ気持ちでないと困る;下請けの工場で必死に品質管理をしていないと困る;宅急便が予定通り着かないと困る等々,周り中の人達がきちんと働いて,果たすべき役割を果たし,かつ働いている人達がみんないいもの作りたいという気持ちを持っているからこそ「昨日に比べて今日は0.02%不良率が下がった」と喜べる。だから日本では,周りにしっかりした中小企業があって支えてくれるので,たいした技術を持ってない人が,物凄くよいモノの製造業者になれる。

 これに対し,発展途上国では決してそうではない。業者が少ないし,「できます」と手を挙げてもできる保証はない,誤魔化そうとする人もいる。日本の中小企業では納品後半年経ってもトラブルへの対応をしてくれるが,中国や欧米では納品時に検収した以上,その後の対応は別に金が掛かる話となる。

 中国では出来きれないものがある。中国では長くて3年くらいで工員が替わっていく。そこには自分の工場で此処が死に場所だと思って働いている人はいない。最高のものを中国で作るというのは難しく,日本で作る方が合理的だし安い。実際,リーマンショック直前には,中国など途上国で手広くやっている企業が,日本で工場をつくろうと計画していた。いまは金融が止まっていてその動きは止まったが,消費が回復してくればまたその動きも浮上してくるだろう。

大企業のパワーハラスメントが心配

 私が今非常に心配しているのは,大企業のパワーハラスメントであり,これ以上いい加減にしないと自分の首締めることになる。下請けを困らせている案件への個別対応は後でいじめにつながる危険があって難しかったが,経済産業省で下請け駆け込み寺というのを作ってとりまとめることで,下請けを困らせている企業の指導が報復の危険無くできるようになった。

元気な中小企業の例

No.1になる
雷様一筋64年の「音羽電機工業(株)」,徹底すれば生き残れる。
世界に飛躍する
「五輪パッキング」,中国で偶然出会った人(通訳)を見込んで中国進出,中小企業ならではの進出方法。
矢のように早く
「浜野製作所」,どんな特注品も翌日配達で大成功。
技を磨く
「長島精工」,技を込めて作れば売れる。
勇気を持って撤退する
「プラス電機」,長期不況になると読んで,バブル期の新社屋を売り,バラックへ。
機会を活かす
「大学産業(株)」,展示会への出展依頼を機に,純水装置が評価され,売れる。
工夫する
「前川製作所」,冷凍機製造から食品加工へ進出して,鶏肉加工の新しい装置を開発。
悟りをひらく
「京セラ」,稲盛和夫氏の言葉。企業は惚れ合った仲間が集まり,夢を実現していく場である。
連携する
「新興セルビック」,アイデア工房を主宰して,優秀な社長達と議論しながら開発。
ITを活用

技術を深める
「アジア熱処理技研」,技術を深めれば生きていける。
アメリカを狙う
「加藤製作所」,フェアなアメリカで真心付きで仕事をすれば発展できる。
夢を実現
「金森製作所」,8つの仕事を経験して社長に。

 日本の中小企業というのは実は大変な実力を持っており,是非そういう日本の中小企業を暖かく見守っていただきたい。

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