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第91回行政フォーラム「技術力で勝る日本が,なぜ事業で負けるのか」要旨

「技術力で勝る日本が,なぜ事業で負けるのか
−国際競争力のからくり−」

東京大学特任教授   妹尾堅一郎
    NPO法人 産学連携推進機構理事長     

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置き去りにされた日本の競争力

  国際競争力のからくりは20年前と様変わりしているのに,日本だけが未だに80年代のモデルにしがみついているため,日本の産業は壊滅状態になろうとしている。

 「知を活かす知」の開発競争に遅れたのが最大の原因である。ここで、最初の「知」はブランドとか技術,後の「知」はビジネスモデル,知財マネジメント,国際標準化を意味している。科学技術があれば勝てる,特許を取れば勝てる,国際標準を取れば勝てる,というのは昔の話。特許を取るべきか、ノウハウで秘匿するべきか、それらをどう戦略的に組み合わせるべきか,標準化すべきものと標準化されてはいけないものをどうマネジメントしていくか等、技術を活かす戦略をしっかり考えるべきであり,これを「知を活かす知」と呼ぶ。このことに関して日本は3周遅れである。それに気づいている人は数えるほどだ。

 「価値形成マネジメント」とは,商売の基本である価値の創出・展開・提供と、それへの対価としての価値の享受の仕方のこと。これが世界では全く違ってきているのに,日本は30年前と同じく,自分達が技術という価値を作れば認められると思っている。

 このままでは日本が沈没することになるのに,この危機に気付いていないということ自体に危機感をおぼえて、警笛を鳴らしている。

はじめに:事業を考える問いかけ

 「Blu-RayとHDD-DVD,どちらが勝ったか?」という問い一つについても,東芝が降りたからBlu-Rayの勝ちというだけでは答えにならない。「負けた」はずのHDD-DVD技術が中国に移転して普及しつつあること,映画コンテンツが円盤媒体ではなく光ファイバーを通じてパソコンで見られるようになりつつあること等々を考慮しつつ検討を加えないと、事業戦略ましてや産業戦略を練ることはできないのではないか。

問われる産業・科学技術政策

 産業競争力のモデルが,ここ20年の間に凄まじく変わり,従来の日本が得意にしていた「モデル錬磨型(既存モデルの改善の積み重ね)」ではなくなり,世界は「モデル創新型(新しく画期的なモデルを創り、置き換える)」というスタイルの「プロイノベーション」時代に変わった。それを踏まえれば、産業政策や技術政策が根本的に問い直されるのは当然である。

成長でなく発展を...イノベーション・ジレンマの内在化

   「成長」というのは,既存モデルの量的拡大であり,モデル自身は変容するわけではない。他方、「発展」はモデルが不連続的に変わるということだ。これらは技術では,インプルーブメントとイノベーションに対応する。

 イノベーションの原則とは,徹底的にインプルーブメントしてもイノベーションにはならないこと。例えば,PS3はゲームのモデルを徹底的に磨き上げたものだが,Wiiはゲームのモデルを大きく変え,圧倒的に売れる新しい市場を形成した。既存のモデルを磨き上げる(モデル錬磨)とモデル自身を変えてしまう(モデル創新)モデルがあるが,経営戦略的には、両者を併存させ,イノベーション・ジレンマを内在化させることが重要だ。つまり,他人に他のモデルで攻められたくないならば、自分達の一番得意だったものを潰して次のモデルへ移行する覚悟を持たねばならぬ。新たしいものを自ら準備すること、自ら変身すること。そうでなければ、他人にやられてしまうのだ。

 自動車にせよ、創薬にせよ、昔から続いていたモデルが崩壊を始めている。トヨタやキャノンの中央研究所は自社の得意分野を潰す研究を始めている時代。富士フイルムは,主力の写真感光材料を潰すデジカメを作り,さらに消費財メーカーから産業材料メーカーに変身して好業績を上げている。

技術力があるのに負けている日本

 東大の小川紘一先生の資料によると,半導体メモリー,液晶パネル,DVDプレーヤー,カーナビの国際的な市場シェアは、
(1) 発売当初は100%でも新興国まで行き渡りはじめると,急速にシェアは落ちてくる,
さらに
(2) 最近になるほど降下カーブの勾配が急になっている、といったことが分かる。
これは新興国や欧米の勝ち組企業が日本をはじき出すビジネスモデルを磨いてきた結果だと言えよう。

 日本の科学技術力はずっと世界第2位(IMD調査)だが,産業競争力では20位前後をうろうろしている。つまり科学技術大国ではあるのに科学技術立国になっていないのだ。いくら予算をつぎ込んで科学技術を育成しても,それを産業育成につなげるビジネスモデルが全く整備されていなければ,効果がない。

 独法などでは特許件数が評価されるためか,中途半端な特許の取り方が多く,科学技術の知見が海外に取られている。また、海外特許は明細書の翻訳をしっかりしていないまま出すと,権利行使もできない。発明を特許化するか秘匿化するかは戦略的に考えるべきである。
日本の特許出願数も世界2位だが,典型的なのは国内企業が国内だけに出す「内内特許」が非常に多いこと。これは,日本の市場で勝てれば世界でも何とかなるという古い体質が裏にあるからと言えるだろう。

 リーマンショック以降,話題になった三つの産業:半導体,家電,自動車で日本は大負けしている。その反面,半導体産業ではインテル,家電ではアップルが勝ち続けている。私は自動車産業も15年後に崩壊してもおかしくないと明言している。電気自動車になるのだから,現在の自動車産業の構造が再編成されるのは当たり前。
産業を見ていると,オーディオ媒体ではカセットからCDの間にあったDAT,フィルムでは銀塩フィルムとデジカメの間にあったAPSといったように,アナログからデジタルへの移行期には必ずハイブリッドになる。そしてハイブリッドは,皮肉なことにデジタルの素晴らしさを分からせる役割をしてしまうのだ。「つなぎ」以上にはならず、あっという間に消えてしまうのが歴史の教えるところである。

産業競争力モデルの変遷

 100年前は「1%のインスピレーションと99%のアスピレーション」によるエジソンの時代。その発明を起点として起業家になり大会社を作っていった。シューペンターは,それを見て「イノベーション」を概念化した。GE,フォード、コダック,ゼロックス,IBMなどが「垂直統合・自前主義・抱え込み主義」で大企業となっていき,技術が勝負という時代が1960年代まで続いた。

 このモデルを終えさせたのが70年代,80年代の日本である。世界的には中規模(日本では大企業)と言われる企業が切磋琢磨して,商品力が徹底的に磨きあげる。それが世界に出ていって圧倒的に勝つという産業モデルであった。

 しかし、90年代、バブルが崩壊し,その処理で日本人が思考停止している間に,アメリカは産業政策を全く変え,三つのことを推し進めた。
(1) プロパテント政策:バイ・ドール法で公的機関の知的財産を民間転用できる筋道を作った。
(2) 徹底的なMOT:日本の企業を徹底的に調査・研究し,コンセプトを創出、その概念をMITやハーバードなどで教育を通じて徹底的に展開した。
(3) 独禁法の改正:厳格に運用していたのを緩めて産学連携を容易にした。

 その結果,学生発・大学発のベンチャーがどんどん生まれ,それがグーグルに代表される現在のICT産業の上位を占める企業群となっていった。
1985年に出た「ヤング・レポート」は日本をターゲットにしていたが,2004年12月に出た「パルミサーノ・レポート」では,ターゲットは中国とインドになった。そしてインプルーブメントからイノベーションへと競争力モデルが変化していったのだ。新しいビジネスモデルと知財マネジメントの開発と展開により,技術力と人件費の差がある(斜形のある)ところがWin-Winの関係を結び合う国際斜形分業をして,日本をはじき出すというシナリオと見えるだろう。

急速にでてきたフリーの動き

 従来は直接取引による直接対価による価値享受しかなかったが,現在は「フリー」モデルが進展している。タダでサービスやモノを提供する一方で、他のレイヤーで稼ぐというビジネスモデルである。これはモノのレイヤーとサービス・レイヤーをつなげることが通常だが、ネットだけでなくリアルでのフリーも出てきている。

インテグラルとモジュラー

 インテグラル型製品とは技術を摺り合わせて作るタイプのもので,自動車に代表される日本の得意芸である。しかし、モデルチェンジをするとすべての部品を調整し直さなければならない。

 これに対しモジュラー型製品とは単体部品を組合せて作るもので,パソコンに代表されるように部品と機能がほぼ1対1で対応する。インテグラル型がモジュラー型に移行させられると,全部日本企業は惨敗する。

インテル・インサイド…基幹部品主導

 パソコンも最初からモジュラー型だったのではなく,ハードウェアとソフトウェアの境も分からないインテグラル型だった。それを,ハードの基幹部品のMPUとソフトのOSと分けたのが,インテルとマイクロソフト。モジュラー化によって「内ブラックボックス外標準」という製品アーキテクチャを形成し、「プラットフォーム」を形成して仲間作りを行った。OSもどんなソフトもウインドウズに準拠すれば売れるようにしてしまった。つまり、パソコンは機種で選ぶのではなく,OSとMPUチップで選ばれるようにしてしまったのだ。さらに,インテルは台湾の企業に技術提供して自分達のMPUが載ったマザーボードを安く作らせ,世界中に安価なパソコンを広める市場形成の加速化を進めた。これが「基幹部品主導による完成品従属」である。

  90年代後半に「インテル・インサイド」というコマーシャルが広く打たれた。これは,林原のトレハロースやユニクロのヒートテックといったように,内部のテクノロジーや部品が外部や完成品のブランド力を担保するもので、私は「インサイドモデル」と呼んでいる。

アップル・アウトサイド…完成品主導

 iPhoneとiPodが売れるのは,見ただけで何をすればよいか分かる(アフォーダンスがある)デザインとインタフェース,使えば使うほど自分達の経験価値が高まっていく(ユーザ・エクスペリエンスがある)からだとの指摘は多くの人がしているが,最も重要なことはiPodとiTunes Storeの連携である。このモノとサービスが連動して相乗的な価値形成の関係を作った「完成品主導」のビジネスモデルである。また、両者をつなぐiTunesソフトをフリーで提供することによって市場形成を加速化している点も見逃せない。
iPhoneとiPadには世界で12万種類のアプリケーションがある。それも,アップルは開発キットを契約で縛りつつも安価で提供することによって,学生やベンチャーを「与力」として使ったことによる。そのアプリの数が、さらに価値形成を大きくしている。
これがスタンドアローン(単体製品)で勝る日本の企業が,サービス・レイヤーと連動して価値形成をするビジネスモデルに負けているという話だ。

 以上、インテグラル型が得意だった日本が「インサイドモデル」によるモジュール化や、あるいはサービスと連動する「アウトサイドモデル」に打ち崩された話である。

技術政策のイノベーションへ

 特許制度の原型は,ある技術ができたら,それを特許で固めて市場を形成して,それによって勝つというモデルにある。創薬や機能性材料の一部の「1製品少数技術」において有効なものである。他方、1万以上の特許がないと作れない携帯電話のようなシステム商品は「1製品多数特許」であり,クロスライセンスと標準化が重要だ。そのときにどういう戦略で自分達が有利になるようにしていくかというマネジメントで,日本は負けっ放しである。さらに様々なサービス・レイヤーと連動させるという面から見れば,単体で強い日本製品は、ネットワーク化されたとたんに惨敗することがわかる。
従来の、すばらしい技術があれば製品化・商品化ができ、後は根性ある営業が頑張れば何とかなるのでは、という考えだけで科学技術政策を捉えるだけでは日本の先行きは暗い。政策においても「政策イノベーション」を起こさなければならない。

同じパターンで負けないためにも,異業種間での学習を

 これまで技術開発は事業化が出口と言われていたが,社長を大学教授や古いビジネスモデルに浸かりきった企業OBに任せていては、勝てるビジネスモデルを創ることなど無理だ。なので、事業化しても成功は覚束ない。携帯でNTTドコモが国際標準を取っても日本以外誰も使われなかった。逆に、新興国の市場の取り合いで、北欧連合軍は、携帯そのものは国際標準でオープンにして技術を公開した代わりに,中継局と基地局をブラックボックスとして押さえて収益を確保した。日本企業は完敗したのである。
同じモデルで電気自動車もやられるかもしれない。他の業界の先行事例をしっかり研究して、業界間がお互いの学習をしないと同じパターンでやられるのではないか。もっと危機感を持って欲しい。各府省が所管の産業を見ていくときに,国内の競争が進めば良いという昔の話ではもう通用しない。

 私は,日本の産業に頑張ってもらいたいという想いが強い。日本の産業だから経済産業省に委せておけばと思わずに,各府省の皆さんもそれぞれの範囲内で是非協力して府省連携でいって欲しい。そうでないと,我々の次の世代にとんでもない世界が待ち受けている。それを問題提起したい。

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