第2回(平成元年)「人事院総裁賞」個人部門受賞者
 
 
 宮本さんは、30年余りにわたり、一貫して日本史に関する歴史的人物の画像、絵画等絵画史料の模写 の業務に従事し、原本の忠実な複製を作成するに当たり、その美的価値を再現するだけでなく、歴史史料としての意味をも同時に再現することに努め、原本の当時の面 影を後世に残すとともに、文化財の保存・修復のために尽力していることが認められました。
 東京大学史料編さん所は、明治2年に史料編輯国史校正局として創設されて以来、日本史に関する我が国唯一の史料収集、研究、編さん及び出版を行う研究機関であり、「大日本史料」、「大日本古文書」等斯界における史学研究の最も正確な基本史料を内外に提供しています。
 収集する史料には重要文化財を含む原本もあり、当編さん所は収集あるいは借用したこれらの原本を史料保存技術室で写 真撮影または手作業による影写(主として文字を対象)・模写(主として絵図を対象)によって忠実に複製を作成するほか、傷んだものを修理、解体復元し、または複本を作って保存しています。
 人物画像・絵図の模写には、剥落模写(原本の画面の汚損・剥落等を含めたありのままに写 し取ったもの)と復元模写(原本の画面の汚損・剥落等は問題とせず、原本の制作当時に復元して写 すもの)と2種類の模写方法がありますが、宮本さんは、主に剥落模写 を行っており、「原本の大小や内容によって完成までの作業期間に差はあるが、新聞紙ぐらいのもので約1年は必要です」と根気を要する仕事の一端を述べておられます。また、長い年月を経た原本は汚損・虫損・亀裂・顔料(絵具)の変色などが加わって、複雑な色相を呈することが多いので、「草木染めを用いた当時のものと、同じ色が出せなくて苦労したが、コーヒー豆を工夫すると古びたこげ茶色が出せることを発見しました」とのことです。宮本さんは、「模写 はあくまでも本物ではありませんが、美的価値の再現のためだけでなく、原本の作られた時代の様式・技法、画家の個性・表現しようとする意図を読み取りながら写 し取る技術を向上させ、50年、100年先の子供達に、先祖の文化をできる限り正確に伝えられたらと頑張っています」と力を込めて話しておられました。

宮本 尚彦 
文部省

 東京都出身。昭和32年に東京学芸大学美術学部絵画科(日本画専攻)を卒業。昭和34年に文部省東京大学史料編さん所に採用され、以来絵画史料の模写 に専ら従事。現在は史料保存技術室技官。56歳。
 
 
 
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