第3回(平成2年)「人事院総裁賞」個人部門受賞者
 
 
「医学教育の発展に貢献」
 39年の長きにわたり、一貫して解剖用遺体の保存処理(今までに約2,500体)、解剖実習の際の介助、組織学の教育・研究用組織標本の作製など、医学教育・研究にとって重要かつ不可欠の業務を通 じ、その基盤を支え、進展に貢献してきたことが認められた。
 
中澤 謙吉 
文部省

 京都府出身。大阪府死因調査補助員を経て、昭和26年大阪大学医学部に採用。以来、解剖学第一講座に所属し、医学教育の根幹をなす人体解剖学の技術的業務に従事。文部技官。妻と2男の4人家族。趣味は演劇・野球観戦。60歳。

 一般には余り知られることのない仕事である。しかし、最新の医学もそうした仕事の成果 を抜きにしては語れない。  「医学教育の発展のため自らの身体を提供される方々の御好意に応えるためにも、遺体の取扱いに際しては、常に、誠意と細心の心遣い、故人に対する畏敬の念をもって接しています」。
 とはいえ、勤め出してまだ日も浅い頃には、諸先生から解剖学教室の仕事について種々教わったものの、「遺体への恐怖心はどうしようもなく、それを拭い去るには非常に長期間を要しました」。
 実習用顕微鏡標本や教官用の組織標本を作製する技術はつとに名高く、定評がある。
 各臓器を10ミクロン程度の薄い切片に切り、スライドグラスに張り付けた上、染色を施す。極めて高度な技術と豊富な経験を要する業務。
 「学生の実習用に使えるものを作製できるようになるまでには、練習と失敗の連続」で、「特に、標本材料を薄い切片に切ることには非常に熟練を要しました」。
 染色には、青色系と紫系の2通りの方法がある。一度に多くの組織標本を作製する場合には、すべての標本が同一の濃度に染色されていることが求められる。「思いのままにならず行き詰まることもありました」。 が、「でき上がった標本を顕微鏡で確認し、確認し、美しく仕上がり、また、研究上非常に役に立ったということを聞いた時などは、仕事の充実感を感じるとともに、この仕事をしていて良かったと思います」。
 大阪大学では、昭和39年に、医学教育の発展のため、献体の会(大阪大学白菊会)が設けられている。現在までに、その数は1,250体を数える。
 「今日の医学のあるのは、一重にこれらの方々の恩恵によるものであることを知っていただきたい」。
 また、「この度、栄えある総裁賞をいただくと聞き、御遺体と共にいただくのだと思いつつ、感謝いたしております」とも。
 それらの言葉には、地味で人目につかない仕事を通じて、医学教育・研究を側面 から支え続けてきた人の実感がこもっており、その真摯な態度・人柄がしのばれる。

 
 
 
-総裁賞受賞者一覧に戻る-