第4回(平成3年)「人事院総裁賞」職域グループ部門受賞者
 
 
「百年後、千年後に引き継ぐために」
 天皇の御宸筆を始めとした古文書等約38万点のうち、虫喰い、風化等の破損が顕著で、しかも早急に修補すべきもの1万数千点について、より原形に近い形に修復する業務に従事している。職員は繊細かつ熟達した技術が必要とされる地道な修補業務に使命感をもって専念するとともに、他機関の職員への指導にもあたるなど、貴重な文化遺産の維持保存に貢献したことが認められました。
 

宮内庁書陵部図書課古文書等修補部門
【業務内容】
 宮内庁書陵部図書課は、皇室伝来の古文書など図書及び記録の保管、出納及び復刻を所掌しており、現在その蔵書数は44万点を超えるが、その内、歴代天皇の御宸筆類を始めとした貴重な古文書約38万点を皇室用図書として保存管理している。
 これらの古文書を将来にわたって良好な状態で保存するため、古文書等修補部門において修補師長始め専門的な修補の技術職員が虫喰い・風化等の破損の顕著なものを順次原形に近い形に修復する業務を行っている。
【代表者】 修補師長 古関 豊
【職員数】 8名
 
 書陵部には、古くは奈良時代からの古文書など、貴重な図書が多数保存されていますが、そのうち約14万点が修補の対象となっており、それらが全部終了するには、あと200年かかると言われています。
 そして、「千数百年前から先任たちの残してくれた文化財を私たちの時代で消滅させず、百年後、千年後の人々へ引き継いでいくための接点として、少しでも役に立てば」と、職員一同古文書の修補業務に取り組んでいます。
 古文書の修補という仕事は、古くから伝わる文書が経年により傷みあるいは虫に喰われているのを、出来る限り原形に復元する作業ですが、破損の状態が個々に異なるため、機械化は難しく、また、古文書は貴重でかけがえのない試料ですので、いったんし損じるととり返しがつかなくなってしまうことから、破損の状態により、一枚一枚慎重にかつ地道な手作業で行わなければならず、大変困難な業務と言えます。
 また、高度の技術を必要とする修補技術については、他の業種のような教育機関もなく、初めて古文書を手にするのが拝命の日という人ばかりなので、先輩から後輩に技術の伝承を行い、共に研究し、技術の向上に努めていますが、一人前になるには20年以上の経験が必要ともいわれます。このような経験を生かし、修補職員は他の機関への指導にもあたっており、貴重な文化遺産の維持保存に貢献しています。
 破損の多いのは、虫穴で、過去に裏打ちをして修補(特に江戸時代の修補)されたものが虫に食われ、再び修補するために、裏打ち紙を剥がしてみると、裏に折り込まれていた文字が表れてくるときがあり、そのようなときは、書物が生き返ったような思いがします。そして、「もしかしたらこのような一字で歴史の解釈が変わるかも知れない」そんな気持ちで、職員は虫穴に向かい、修補業務に一人ひとり使命感をもって専念しています。
 修補の重要な条件は、穴の繊維と穴埋め用の紙の繊維とが絡み合って、凹凸 がなく、しっくりとなじみあって、一体的な修補ができるということであり、そのため和紙や糊の選定にあたっては、極めて慎重な検討を要します。
 和紙は、産地の紙漉技術者に古くから行われてきた伝統的漉方により生産してもらえるよう依頼したり、また、糊については、伝統的な生麩糊を使用し、煮方や保管方法について、いろいろと検討を重ねるとともに、使用にあたっては、その日の天候により、部屋の温度、湿度によって濃淡を微妙に調整するなどの工夫をしています。
 このようにして修補を終えた古文書は研究者への貴重な資料となり、その修補業務は文化の伝承に重要な役割を果 たしています。
 今回の受賞にあたり、「職員一同びっくりするとともに、うれしさと戸惑いでいっぱいでした。あまりにも地味な仕事のために、ともすれば挫折しようとする心を立て直して今日まで努力してきた私たちは、明日から胸を張って次代の若者にバトンタッチができるよう、さらに技術の修得と知識の蓄積に努めていきたいと思います。また、国民の財産である古文書を次代に届けるためにグループが努力してきたことが認められたということも、大変うれしく思っております」と修補師長は語っておられました。
 
 
 
 
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