第5回(平成4年)「人事院総裁賞」個人部門受賞者
 
 
「患者一人ひとりの心を大切にして」
 松永さんは、23年の長きにわたり、一貫して重症心身障害児(者)及び筋ジストロフィー症児(者)の療育指導業務に従事し、その間、患者の年齢や病態に応じた療育方法等について研究・実践して、療育指導技術の向上に多大な貢献をしてきたことが認められました。
 
松永 萬里 
厚生省国立療養所原病院指導室長

 新潟県出身。昭和44年4月国立療養所原病院に児童指導員として採用され、以来一貫して、療育指導業務に従事。
 休日などには、ぼんやりと野鳥やタヌキの動きを眺めたり、また、雑草の中に小さな花を見つけたときなど心が和むという方です。趣味は、読書、手芸。52歳。
 

 国立療養所原病院は、広島県の廿日市市に所在し、慢性疾患の療養に適している自然環境の大変良い、国立公園極楽寺山麓の高台、海抜約170メートルのところに位 置しています。
 指導室は、小児科医長の下で、重症心身障害児(者)、筋ジストロフィー症児(者)などの患者さんに、療養生活のかたわら、その日常生活を通 して社会の健全な一員となるために必要な、生活指導等を行っています。
 その目標に「心の和らぎ、療育指導を受ける楽しさ、生活の豊かさを感じさせること」を掲げ、作業療法の開発・充実に、日夜、努力しています。
 指導室が行っている療育指導は、未知の領域が多く、困難を伴うものですが、スタッフ(児童指導員、保母)のチームワークのもと、患者一人ひとりの心のひだを大切にしたふれ合いの精神と強い愛情によっていろいろな指導が行われています。
 松永さんは、広島大学養護学校教員養成専修課程在学中の教育実習の際、最重度の生徒(患者)とふれ合い、それをきっかけに最重度の患者に係わる病院の療育業務を志望し、卒業と同時に国立療養所原病院に児童指導員として勤務しました。
 原病院では、教育実習時の生徒以上に重症患者(重心・筋ジス)に接し、その患者の笑顔に触れて、患者の人生が豊かであること、患者が満足を感じる人生であることを目標に療育に携わってきました。
 特に、患者の皆さんに「創作の喜び」を持ってもらうために、療育の一環である作業療法に七宝焼を取り入れることを提案し、自らその技術を学び医師や看護婦等関係者の協力を得ながら実践したり、「日常生活の活性化」等を目標として、逐次、手芸、印刷、ワープロも取り入れるなど、常に療育指導方法に新たな発想を取り入れてきました。
 また、松永さんの人間味あふれる温厚な人柄と療育に対する姿勢は、患者やその家族から深い感謝をもって広く親しまれています。

 
受賞の感想をお聞かせください

 栄誉ある総裁賞をいただき、ありがとうございます。
 何も特別なことはしていませんが、できることをできるように、一生懸命患者さんとともに歩んできたつもりです。しかし改めて考えてみますと、できることをできるようにということも、スタッフをはじめ院内のチームワークによってできたことだということをしみじみ感じています。
  また、全国に、私と同じような仕事をしている多くの仲間がいますが、児童指導員や保母のみなさんをはじめ、多くの方々の日頃の成果 を参考にさせていただき、療育という業務を今まで考えてきました。こうしたみなさんの力添えがあって今回受賞させていただいたと思っておりますので、こういう分野で働かれている全ての方々への評価であると認識しております。

 
仕事をしていて、充実感とかやりがいを感じるのはどのようなときですか?
 病院では、家族と離れた生活をしておられる方々との信頼関係を深めて、少しでも心にある課題を解消するお手伝いができるように取り組んでいますが、こうしたかかわり合いから、明日への希望につながる療育を実践して、明るい声が返ってきたり、笑顔で受け入れられたり、明日も会おうという表情を見せてもらうとき、一日の仕事の充実感と親友がまた一人増えたなぁという感じがします。
 
今まで苦労したことがあったと思いますが・・・。

 療育という業務の成果がなかなか見えにくいという点です。したがって、これまでの療育方法をこのまま続けて行って良いものかどうか、悩み苦しむことがあります。

 
患者さんとのエピソードはありますか?

 新米時代、重症心身障害の子どもさんに、スプーンを持って食事ができることを目標に3年間取り組みましたが、3年目のある日、おそるおそる添え手を離したところ、彼女はいとも簡単に自力で茶碗のご飯をすくって口に入れ、そして私をじっと見てニッコリと笑いました。このニッコリに「私は一人で上手に食べられるよ」と言っているような彼女の誇りを感じました。

 
この機会に国民のみなさんに知ってもらいたいことはありますか?
 ハンディキャップを持った人たちに対して、健常者はとかく一方通 行的な考え方を持ちがちですが、当院には「ハンディキャップを持った人々と共に生きる・・」ということばがあります。これは、健常者であるが故に無くしてしまったり忘れてしまっている大切なことを、「共に生きる」ことによって思い起こさせてくれるということと思っています。みなさんよろしくお願いいたします。


作業療法(七宝焼)
 
 
 
 
-総裁賞受賞者一覧に戻る-