第7回(平成6年)
 
 
「人事院総裁賞の選考で実感したこと」
 
清水 幹夫 
毎日新聞論説委員長
 

 「一苦一楽、相磨練し、練極まりて福を成すものは、その福始めて久し。一疑一信、相参勘し、勘極まりて知を成すものは、その知始めて真なり」。思わず、『菜根譚』の一節が頭に浮かんだ。
 第7回「人事院総裁賞」の選考委員の一人として、選考に携わってのことである。
 修行を重ね、練磨して作り出した幸福であってこそ、その幸福は永く続く。苦心を重ね、考えぬ いた知識であってこそ、その知識は本物になる・・・。
 総裁賞の候補に挙げられた個人、職域の方々の業績を詳しく知るにつれ、「相磨練し」「相参勘し」という情景が、現実感を伴って眼前に迫ってくる。
 しかも、本物の味というものは決して濃厚な味ではなく、実は淡白なものであるように、その道に達した方々も、決して奇異な才能を発揮する特別 の人ではなく、普通の人々であることがうれしい。
 かなり突っ込んだ議論の結果、受賞されたのは、2個人と3団体だった。急増する外国人受刑者の処遇方法に二工夫も三工夫もこらした佐藤高城さん、家畜、家きんの衛生研究に数々の独創的な手法を開発した安藤義路さん。そして、厳しい自然条件を正面 から受け止める石垣農業水利事業所、前回も候補に挙げられ、ただ頭が下がる思いの三管・羽田特殊救難基地。「北海道南西沖地震」による災害のさ中での青苗郵便局の奮闘ぶりは、「国民全体の奉仕者として・・・」「職務の遂行に当っては全力を挙げてこれに専念・・・」という規範のくだりが、決して公務員の「看板」だけのことではないと気付かせて余りある。
 もっとも、今回、惜しくも受賞に至らなかった候補の方々を含め、いずれの業績も「官」「民」といった枠組みや、「公務員=国民への奉仕者」といった単純な定義を超えた、社会構造の力強さ、骨太さの象徴、というのが筆者の率直な受け止め方なのである。
 とはいえ、巷間に伝わる公務員像の大枠の先入観が、ともすれば、すぐマイナス・イメージに取り巻かれてしまうことも、宿命的でさえある。
 いわく、非能率・非効率、融通のなさ、等々、これらをひっくるめると例の「お役所仕事」の俗称になるのだろう。
 もっと具体的な指摘になると「予算(税金)の“入り”には血眼になるが、“出”には無頓着」「先輩のミスには目をつぶるのが美徳」といった批判にエスカレートする。
 こうした言われなき?先入観を払拭していく一つの近道は、実は、総裁賞に輝いた方々のような情景が、もっと広く世に知られる事ではないか、と実感させられた。
 昨今、業績をランク付けする叙勲制度の是非にからみ、「人間の偉さ」とは、いったい何なのか、といった議論が高まる気配もある。その概念を形成していく一つの素材に、 この総裁賞を受賞した方々のような仕事ぶりが位置付けられる予感もするのだが──。
 ともあれ、今回の受賞者に心からお祝いを申し上げるとともに、今後のいっそうのご奮闘を期待したい。

(しみず・みきお)

 
 
 
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