第8回(平成7年)
 
 
「人事院総裁賞の選考にあたって」
 
中馬 清福 
朝日新聞社論説主幹
 

 人さまを責任をもって褒めるのは、案外にむずかしいことである。きょうは「いい人」でも、あすはわからない。なにかをしでかして、「そういえば目つきの悪い奴だったよ」ということもある。それが怖いから、褒めるとき、人はつい臆病になる。
 第8回「人事院総裁賞」の選考委員を仰せつかったとき、まず、そんなことを考えた。なにしろ、受賞の候補者はお目にかかったことのない方ばかりだ。書類だけでうまく審査できるだろうか。私は緊張した。
 だが、それは杞憂だったようである。総裁賞候補のリストと推薦理由を熟読してみて、あ、これなら、と思った。
 理由の第1は、受賞候補者・職域の業績が一過性ではないことである。地味だが、そんじょそこらのことでは揺るがない、骨太のものばかりだ。仕事に自信と誇りを持っている、そんな感じが伝わってくる。「君を総裁賞候補に推薦したよ」「そうですか、それはどうも有り難うございます」、こんな簡単なやりとりのあと、またすぐ、やりかけの仕事に戻っていく。そんな情景を私は想像した。
 第2は、その業績のほとんどが、門外漢の私にとってすら、意外に身近なものだったことである。たとえば、安全保障を勉強している身として「合金」はかねてから重要な関心事だし、「原爆」はもちろん片時も忘れられないテーマである。
 選考委員会は、実に楽しい雰囲気だった。会議の様子を詳しく語れないのは残念だが、決定まで意見百出、どの委員も一歩も引かない。私のメモには「慈愛の有馬真喜子さん、博学の伊東光晴さん、謹厳の斧誠之助さん、春風の童門冬二さん」とある。全委員の意見をゆったりと聞いたあと、内剛外柔の根本二郎さんが「では、そういうことでよろしゅうございますね」と見事に集約していく。
 結果は発表されたとおりである。個人部門の小久保公子、菅広雄のお2人の業績については、選考委員のほぼ全員が絶賛した。選考基準を十二分に満たしており当然のことだろう。職域部門は激戦のすえ、九州大学理学部附属島原地震火山観測所などが栄冠を得た。
 私は「地の塩」という言葉が好きだ。
「あなたたちは大地の塩である。もし塩が愚かにも味を失ってしまったら、何によって塩づけられうるだろうか」と聖書は言う。
 雲仙・普賢岳で、視力障害センターで、少年院で、働く人びとは「塩」になりきっている。塩はおのれを誇ることなく、声高に自己主張することもない。人は、なにかが起きて初めてその価値に気づくのだ。
 国の豊かさを計る物差しの1つは、そこにどれくらいの地の塩が堆積しているか、だと思う。いま、贈収賄だ、官官接待だ、といったニュースが相次いでいる。それでも国民の多くが日本の公務員制度に絶望していないのは、自分の周囲に、こんど人事院総裁賞の栄誉に輝いた人びとのような、地の塩的な逸材がいっぱいいるからである。
 今回の受賞者に心から祝福を申し上げ、地の塩のさらなる広がりを期待したい。

 
 
 
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