第9回(平成8年)「人事院総裁賞」個人部門受賞者
 
 

「研究目的にあった安全航行の確保で海洋の基礎研究を支援」

 研究船の航海士として、研究目的にあった航行を確保して海洋研究の進展に寄与するとともに、同船での重大事故にあって、その迅速な処置等に尽力したことが認められました。
 
野村 裕 
東京大学

 鹿児島県出身。昭和37年10月に鹿児島大学水産学部に採用され、昭和41年4月東京大学海洋研究所に転任。以来、今日まで同研究所に所属する海洋研究船の航海士として研究観測の支援業務に専念。妻と1男1女の4人家族。趣味はトレッキング。59歳。
 

 野村さんは、海洋に関する基礎研究を行うことを目的とした東大海洋研究所所属の研究船淡青丸(474トン)の航海士として、遠洋航海を含む年間180日前後の研究航海を行い、海上での厳しい気象条件や船舶という特別 な環境の下で、研究者や大学院生等の研究目的にあった航行を確保して海洋研究の進展に寄与してきました。また、船医が乗船していない同船で発生した3件の重大事故に衛生管理者でもある一等航海士として乗り合わせ、乗組員が重体となった事故では、船舶電話で医師と連絡を取り合いながらの応急処置により一命をとりとめるなど、困難な事故を迅速かつ的確に処理しています。

 
受賞の感想をお聞かせください

 日本で最初の海洋研究船に乗り組み、海洋の基礎研究の支援業務に従事している我々乗組員は、全体が個であり個が全体であります。
 地球環境の適正なルール作り、自然を自然たらしめる地球的規模の話し合いの根源は、諸々の利害の枠外に存在する学問の基礎研究にあると信じ、この研究支援の場に熱意をもって働く私たちの現状に光が当たり、認められたものと心から喜んでおります。

 
仕事をしていて、充実感ややりがいを感じるのはどのようなときですか
 船の用語に「ウォーター・ライン」という言葉があります。昔の商船の乗組員は定められたウォーター・ライン一杯まで高価な船荷をいかに上手に積むかが腕の見せ所でした。研究船でのウォーター・ラインはまさに観測航海における研究成果 の最大値といえますが、気象条件、航海日数そして研究者とそれを支える乗組員、これら要素がうまくマッチングして、この最大値が達成されたときに充実した喜びを感じます。
 
洋上という特別な環境での勤務には、いろいろとご苦労があると思いますが

 洋上での一番の苦しみは災害の発生です。
 昭和46年に乗組員が重体となった災害では、最寄りの港まで6時間以上もかかり、その間の応急処置も陸上の病院と船舶電話で連絡を取りながら行うものでした。船舶電話も船の方向や動揺、気象の変化により電波の受信状況が微妙に変化して気ばかりが焦りました。やっと深夜の港に入港し着岸したとき、腕時計がちょうど午前0時を指していたのが今でも思い出されます。被災者が今も元気でいらっしゃるのが喜びです。

 
これまでの業務を通じて、特に印象として残っていることは何ですか
 「シェル・バック」は「老水夫」の意味ですが「頑固な」という意味でもあります。長い間の船乗り生活で背中に貝殻がついてしまったという感じを受けますが、私の気に入った言葉です。その老水夫から陸上の皆さんに一番の印象に残るものを紹介します。一等航海士としての朝の当直は、午前4時から8時までですが、その間でしか見ることができないのが「日の出」の瞬間です。そんなことと思われるでしょうが、その瞬間に水平線が一直線に穏やかで、雲がなく、大気が清澄な条件をすべて備える機会は船乗りでもそう度々お目にかかるものでなく、大自然の前にひれふす光栄を一人占めしたような気分になります。
 
この機会に国民の皆さんに知っていただきたいことはありますか
 1994年に国連海洋法条約が発効し、我が国においても条約批准、関連国内法の改正作業が着々となされており、「我は海の子・・・」と親しまれた海も領海問題や経済水域、大陸棚の開発を沿岸国の権利とするなど、その情勢は大きく様変わりしています。人類の技術が高度化するとともに、ややもすると利権が先行するのが世の常でしょうか。そんな中、海洋の基礎研究が地球環境の適正化の基幹となることを信じて働いている研究船の存在を国民の皆さんに知っていただきたいと思います。
 
これまでの航海勤務から、今後に活かしたいことはありますか
 海洋研究所が真の意味でのセンター・オブ・エクセレンスとして機能するため、研究所が一丸となって努力しながら、年間運行日数180日を確保しています。全国共同利用研究船の特徴は、海に不慣れな研究者の乗船も多く、また、限られた運行期間の中で複数のグループが同じ海域に相乗りする等研究者個人に割り当てられた日数がほんの数日というのが実情です。私たち乗組員は、こうした研究者の成果 を100パーセント達成させてあげたいという気持ちで働いていますが、陸地を遠く離れた海上は気象・海象の変化が激しく、少しでも多くの研究成果 が得られるようにさらに努力していきたいと思っています。


豊富な知識・経験による安全航行
 

観測作業中(双眼鏡を使っての見張り)
 
 
 
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