第10回(平成9年)「人事院総裁賞」個人部門受賞者
 
 

「継続は力なり」

 43年にわたり1000本を超える写真レンズの性能テストを続け、その独自の研究・工夫により信頼性の高い測定データを蓄積し、写 真文化やカメラ機器等の発展に寄与してきたことが認められました。
 
深堀 和良 
機械技術研究所

 東京都出身。昭和29年に機械試験所(機械技術研究所の前身)に採用されて以来、一貫して写 真レンズの性能測定に従事。昭和61年より主任研究官。妻と3人の息子の5人家族。趣味は写 真撮影、旅行、将棋、園芸等。58歳。
 

 機械技術研究所は公的機関として、カメラ、レンズ及びこれらに関連するOA機器や医療機器等の幅広い製品の品質向上、標準化等に大きく貢献してきました。また、一般 ユーザーへの情報提供サービスにより、写真文化やカメラ機器の発展にも寄与しています。深堀さんは、解像力試験用カメラの改良等の独自の研究と工夫を行いつつ、現在に至るまで信頼性の高い性能検査を行っています。各種写真レンズ性能測定データの蓄積は世界でも例がなく、学会・業界にとって極めて貴重なものとなっています。この約40年間に我が国のカメラは世界的に定評のある地位 を確立しましたが、カメラメーカーはその間、深堀さんのデータを大いに参考にして創意工夫を行ってきました。レンズは、写 真レンズのみならずビデオカメラや各種コンパクトディスクの読取レンズ、コピー機等のOA機器等私たちの身近にも広く普及しており、それらの発展の支えとなってきた功績は極めて大きいものがあります。

 
受賞の感想をお聞かせください

 私が採用された当時の日本の光学産業は産、官、学が総力を挙げてドイツの技術に追いつこうとしていました。国内外の写 真レンズの性能を科学的かつ定量的に評価するというのが、私に与えられた職務でした。レンズの測定と評価に明け暮れながら、43年の長きにわたってこの道一筋に務めてきました。この間に測定したレンズは1020本に達します。一個人でこれだけのレンズ測定を行った例は諸外国にも見あたらないと聞いています。いま世界のトップに立った日本のレンズですが、私のささやかな仕事もその礎石の一つになっているものと思っています。国立研究所の試験研究環境、そして良き上司と同僚が、今日の私を育んでくれたものと感謝に堪えません。

 
仕事をしていて、充実感ややりがいを感じるのはどのようなときですか
 星のように小さな点光源を写 真レンズで結像させ、これを測定機の顕微鏡で追跡していきますと、通 常はいろいろな形のボケ像が見られます。しかし、数は少ないのですが、画面 の隅々に至るまでほとんどボケのない素晴らしいレンズに遭遇することがあります。そのような時は、設計、製造にあたって材料を贅沢に使い、練達の技術者が開発したレンズかとその誕生に思いを馳せます。測定機の視野の中でこういう「天下の名玉 」の測定データを目の当たりにする時、感動を覚え、これまでの苦労が消えていきます。
 
ご苦労されていることもあるかと思いますが

 一本のレンズの測定と評価を完成するのに、解像力試験の場合、約720個の結像点を顕微鏡で観測し、数ミクロンの幅の細線をどこまで分析しているかを読み取ります。しかし、近年、写 真レンズはズーム化され、一本のレンズで広角から望遠まで広い範囲をカバーするようになりました。ユーザーにとっては大変便利なことですが、レンズを測定する側から申しますととても苦労します。一本のレンズについて広角位 置で測定し、望遠位置で測定し、さらには一つあるいは二つの中間焦点距離で測定しなければならないからです。つまり測定に要する労力が、従来の単焦点レンズの3〜4倍に増え、測定点は約3000個と膨大になります。したがって、長時間、集中して目を酷使する作業となりますから、夜は睡眠を十分とって目を休めることに心掛けなければなりません。

 
これまでの業務を通じて、特に印象に残っていることは何ですか
 昔は解像力テストには、平面 性が保証されている乾板を用いていましたが、乾板の需要が減ってきたため、昭和40年代の初めにメーカーが製造を中止しました。代わりには高解像力フィルムを用いる他はありませんが、柔らかいフィルムの平面 性を保つのは大変です。そこで、真空吸着方式を考えました。フィルム背後の圧板に彫った細い溝を超小型真空ポンプで減圧し、フィルムを吸着させます。何度も試行錯誤を繰り返した後、最適な減圧量 を発見しました。その減圧の力はほんのわずかで、喩えて言うならば、母親が乳飲み子に軽くキスをする程度の減圧です。この成果 により、昭和45年に科学技術庁長官賞(創意工夫功労賞)をいただきました。
 
後輩の皆さんに何か一言お願いします

 私が在職した43年の間、膨大な数の研究テーマやプロジェクトが実施されるのを目の当たりにしてきました。その中には、大きな予算のものや華やかな脚光を浴びたものもありました。私の係わったテーマはそれらに比べるととても地味なものでしたが、このようなテーマでも誇りと信念をもって長く続けると、いつの日か必ず開花することを実感しました。後輩の皆さんも、“継続は力なり”という言葉を忘れずに勤務に励んでいただきたいと思います。

※乾板・・・ガラス板に感光乳剤を塗って乾したもの



レンズの解像力測定装置
 

真空吸着方式によるフィルムの取付け
 
 
 
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