第10回(平成9年)「人事院総裁賞」職域グループ部門受賞者
 
 
「1200年の時を超えて」
 長い年月を経て塵粉化するなど劣化が激しい正倉院宝物の染織品の修復・整理を行い、貴重な文化財の維持、保管に寄与してきたことが認められました。
 

宮内庁正倉院事務所保存課古裂等修補部門
【業務内容】
 古裂等修補部門は保存課整理室に所属します。昭和22年、正倉院の宮内府移管に伴い、正倉院事務所が置かれ、大正3年に本格的に開始された古裂(染織品)修補の事業を引き継ぎました。昭和29年には30畳敷き修補室が竣工し、現在4名の修補担当職員が古裂のほか経巻などの修理を行っています。
【代表者】 修補師長補 好地 伸
【職員数】 4名
 
 正倉院の古裂のほとんどは奈良時代のものであり、1200年の長い年月を経て劣化し塵粉化したものもあります。古裂の形態は、幡・天蓋・衣服・帳などの品々から小裂片にまで及び、それぞれに最も適した方法で修補し整理します。その成果 は恒例の正倉院展に出陳され多くの関心を呼んでいます。これらは、大正以来通 算83年の間に約4000点修補されましたが、未着手のものが一通 り完了するまではさらに数十年を要する状況です。
 
受賞の感想をお聞かせください
 正倉院の宝物修補の素晴らしさは、古くは100年前の修理から現在の修理までそれぞれの修理方法と修理後の変化が現物を通 して確認できることにあります。全国に国宝文化財の修理所は多くありますが、修理品は返されて手元に残らず、爾後の変化を観察するのは難しいことです。正倉院では先人の涙ぐましい努力の成果 を目の当たりにしながら、今後どの様な修理が相応しいのか、どの様な保存をなすべきか手に取るように知ることができます。今回の総裁賞受賞は、我々にというより先人達うに対する表彰だとさえ思っています。
 
仕事をしていて、充実感ややりがいを感じるのはどのようなときですか
 正倉院は毎年秋になると、奈良国立博物館の正倉院展に宝物を出陳します。従来は模様が美しく珍しい染織品でも、傷みが激しく展示を控える宝物が多くありましたが、現在では修理の材料がいろいろ開発され、敬遠されがちであった修理の困難な染色品の修理も行われるようになり、宝物本来の姿を甦らせることが可能となりました。細かな糸一本一本と格闘する根気仕事ではありますが、手塩にかけた古裂が展示される機会も多くなり、担当者の大きな励みと喜びになっています。
 
これまでで特にご苦労されたことは
 過日テレビ放映された方形天蓋は三重袷の複雑な構造だったため、分解せずに一枚一枚の中まで修理することは非常に困難でしたが、最新の修理材料を活用して可能になりました。修理の過程では、関連の断片が後に発見された際に追加できるよう、また必要な再修理が可能なように配慮しました。この天蓋は思いがけない大きさで2メートル四方にもなり、絶えず裏返したりも出来ず、結局は片面 から仕上げていきましたが、裏返すときは特製のパネルに挟み、職員全員が呼吸を合わせて静かに一気に行いました。完成後に宝庫に還納する際も大騒動で、整理室の扉を外し、斜めに廊下を通 したりと、修理するだけでなく収納する場所までも事前に考える必要があり、様々な苦労がありました。
 
印象に残っていることもたくさんあると思いますが
 正倉院では毎年秋の2か月間、勅封の宝庫を開いて保存課全員で宝物点検を実施しますが、これは古裂や経巻以外の宝物に直接接するまたとない機会です。開封中には外部の専門家に委嘱して特別 調査が実施されますが、昭和41年の楽器の調査の折、図らずも箜篌(現在のハープ)の先端部と思われる破片を伎楽面 の残闕中より発見し、調査員により箜篌残闕と確認されました。二張ある正倉院の箜篌は何れも先端部が欠落して全長が不明でしたが、この発見で全長が判明しました。そのときの感激は昨日のことのように思い出されます。
 
この機会に国民の皆さんに知っていただきたいことはありますか
 奈良市民でも正倉院の場所を知らない人が多く、観光客から「せいそういん」は何処かと聞かれるくらいで、全国には正倉院を知らない人が大勢いると思います。正倉院宝物の保存上、全国何処へでも展示できないという制約もありますが、奈良国立博物館での秋季恒例の正倉院展を通 じて、ぜひ古裂修補の成果に触れていただきたいと思います。また、正倉院では平日に正倉院正倉を一般 公開し、20数年来模造している復元宝物を各種機関の要請に応じて広く貸し出すことも行っておりますので、直接それらに接する機会を作ってほしいものです。
 
今後の抱負などをお聞かせください

 正倉院に入って以来、マイペースでじっくりと仕事に取り組んだことがないように思いますが、最近になってようやく目が開いたというか、結構楽しんで仕事が出来るようになり、何をするにも精一杯のことをやろうと思って取り組み、達成できるようにもなってきました。今後も、世界的にも貴重な正倉院宝物を守り伝えた先人達の情熱と技を学びつつ、宝物の修補と保存に力を注ぎ、修得した技術が途絶えることのないよう努力していきたいと思っています。

※幡・・・・・・・・・仏殿内の柱や天蓋等にかけ、仏菩薩の威徳を表し荘厳するもの
天蓋・・・・・・・仏像の頭上にかけられた笠状の装飾
帳・・・・・・・・・室内の上部から垂れ下げ、隔ての具とするもの
伎楽面・・・・・伎楽(呉の国で行われた古代楽舞の一つ)で使用された仮面



特別な台を作っての補修
 
 
 
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