第11回(平成10年)「人事院総裁賞」職域グループ部門受賞者
 
 
「オウム事件を科学的に立証」
 松本事件、東京地下鉄事件に用いられた神経性毒ガス「サリン」の分析システムを確立するなど事件解決に大きく貢献したことが認められました。
 

法医学第一研究室:スーパーインポーズ

警視庁科学警察研究所サリン等オウム関連事件鑑定プロジェクトチーム
【業務内容】
 プロジェクトチームの母体である科学警察研究所は、昭和23年に設立され、鑑定技術の確立、鑑定機材の開発等の研究開発や各都道府県警察等からの鑑定依頼に対応して各種鑑定を行っています。今回受賞対象となったプロジェクトチームは松本サリン事件を機に編成されたものです。
【代表者】 チームリーダー 角田 紀子
【職員数】 30名
 
 プロジェクトチームは、サリン等オウム関連事件の鑑定に当たるため編成されました。
 松本事件、東京地下鉄事件に使用された神経性毒ガス「サリン」は犯罪に用いられた例がなく、良く知られていない物質であったため、試行錯誤を繰り返しながら手探りの状態で、その検出・特定方法を模索しなければならない極めて困難な作業のなか、プロジェクトチームの献身的な努力と英知を結集し、分析システムの確立に成功するなどサリン及びオウム関連事件を科学的に立証し、事件解明に大きく寄与しました。
 
受賞の感想をお聞かせください
 プロジェクトチームの活動が人事院総裁賞受賞にふさわしいものであるかどうかの自信がなく、いささか困惑しているのが現在の正直な気持ちです。しかし、かつて経験したことのない未曾有の事件に対して、研究室、研究部の境界を超えたプロジェクトチームが一丸となって鑑定・検査にたずさわり、事件解決に貢献できたことに対して、今回改めて評価されたことは大変な喜びであり、特に、科学捜査を支える鑑定・検査という地道な領域に光を当てていただいたことに対して感謝するとともに、この受賞を今後の励みとして行きたいと思います。
 
仕事をしていて、充実感ややりがいを感じるのはどのようなときですか
 鑑定・検査の対象となる試料は、ある事件のある現場のある条件下の一回性、唯一性、再現不可能なものです。従って、既存の研究成果 や経験をいかに応用して要求されている鑑定事項に対する結果を得るかが重要なポイントとなります。このポイントを押さえて、事件解決につながる明白な結果 が得られたときの喜びは、純粋科学の研究とはひと味違う喜びです。また、ルーティンワークになじまないので、同一鑑定事項であっても何らかの創意・工夫が常に要求され、それをクリアしたときの達成感は喜びであり、面 白いものです。
 
ご苦労も多かったと思いますが
 オウム関連事件で用いられた神経性毒ガスのサリン、VXやプラスチック爆薬RDXは、日本では過去に犯罪に使用された例がなかったので、鑑定・検査を経験したことのない化合物に対して、実際の汚染した鑑定試料からの抽出・精製並びに検出法をゼロから立ち上げなければならなかったことは非常な苦労でした。特に、その事件性から迅速かつ確実な検査結果 が必要とされたことは、いつもの鑑定にもまして大変でした。また、サリン等の毒性がこれまで経験したことのない猛毒性であったため、鑑定資料の取り扱いにも苦労しました。
 
特に印象に残っていることは何ですか
 平成6年の松本サリン事件においては、毒物担当の化学系研究室が主に鑑定を行いました。
 有機リン化合物の一種であるサリンによって引き起こされた松本サリン事件では、それまでの分析化学、酵素生化学及び有機合成という専門性を異にした個別 の研究を合体することによって、はじめてサリンを解明することができました。これまでの研究は、あたかもこの事件のためにあらかじめ準備されていた3本の研究の矢が合わさって事件解明に活躍したかのように、偶然ではありましたがうってつけの研究室でした。地道な基礎研究はいつかは役立つ場が必ず訪れることを証明するような事件であったと思います。
 
国民に知ってもらいたいことは何かありますか
 最近のカレーヒ素事件等の毒物混入事件においても同様ですが、鑑定・検査は高性能機器にかければ、毒物が簡単にわかるものと思われがちです。松本サリン事件の場合においても、サリンと認定するまでの時間がかかりすぎたと評されました。しかし、全く未知の試料から極めて微量 の毒物を検出し、更に何であるかを認定するまでには、様々な試行錯誤を重ねてはじめて明らかになるものであり、先端科学をしても時間を要するものです。
 また、鑑定は捜査のみならず裁判上の証拠資料としても耐えるものでなければならず、人命にかかわる事件では迅速な結果 が要求されることに異論はありませんが、鑑定というものについての理解を深めていただきたいと思うとともに、我々の側からの働きかけもしなければならないと自戒しています。


機械第二研究室:銃の鑑定
 
 
 
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