第15回(平成14年)
 
 
選考委員の意地悪な目を突破した人たち
 
臼井 敏男 
朝日新聞
論説委員
 

 人を褒め称えるのは簡単ではない。いいことをしているように見えても、何か裏があるのではないか、ひょっとすると社会にとって迷惑なことではないか、と考えてしまうからだ。新聞記者の習性というだけではすむまい。
 まして、公務についている人の功績を称えるとなると、もっと厄介なことがある。国民全体の奉仕者として、きちんと仕事をして当然ではないか、という国民の厳しい目があるからだ。とりわけ、身を粉にして働いても、民間では倒産や解雇で、ある日突然、仕事がなくなりかねない時代である。
 そういう事情を考えてもなお、表彰するに値する人がいれば選んでもらいたいというのが、民間人ばかりの選考委員会に最終決定をゆだねた人事院の考えだろう。
 選考会では、議論がいくつもあった。ひとつだけ挙げれば、公務員側から見ると、ここまでよくがんばったということなのだろうが、国民から見れば、ここまでしかやれないのか、というように官と民で評価が食い違うことがあるのではないか、ということだ。特に、公務員が国民とじかに接する場合、国民の側がどのくらい満足しているのかを確かめないと、賞に値するかどうか判断しにくい、という意見が大勢だった。
 そういう意地悪な目を突破したのが、今回受賞する2つの職場だ。 
 公正取引委員会の情報管理室は、ヤミカルテルや談合の情報を受けて、証拠を集めるのが仕事だ。張り込みや尾行、聞き込みのような刑事顔負けの活動をする。社会から不正を少なくするには内部からの通報が欠かせない。そうした内部告発の受け手として、公正取引委員会はいっそう幅広い活動を求められている。今回の受賞はそうした新しい時代にこたえてもらいたい、との国民の願いでもある。
 第十管区海上保安本部の不審船対策本部は2001年末、東シナ海で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の工作船と銃撃戦を展開し、工作船が沈没した。危険な任務を遂行する中で、海の国境を守ることの大切さを国民に伝えた意味は大きい。選考委員の一人が「銃撃したのは海上自衛隊だと思っていた」と話していた。そう思っている国民も多いはずだ。海の治安を一義的に担うのは海上保安庁だ。この機会に、海上保安庁の役割を広く知らせたいというのも、賞を差し上げる理由のひとつになっただろう。
 今回受賞する人たちを見ると、社会に不可欠なうえ民間ではやれない仕事が本来の公務であり、そういう仕事が人事院総裁賞としてもふさわしいのだ、とあらためて思う。
 今回の選考委員会は、硬貨に模様をつける技術の第一人者の方も賞にふさわしいとして推すことを決めたのだが、授与式の直前に辞退された。新500円硬貨の試作品が出回ったためで、ご本人の業績とは関係ないことなので、とても気の毒だった。

 
 
 
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