第18回(平成17年)「人事院総裁賞」個人部門受賞者
 
 
「教育への情熱と研究心が海上の安全と国益を守る」
 海上保安大学校の教官として海上保安庁の将来を担う学生の育成に力を注ぐとともに、長年の研究によって培った知見により領海警備に関する法体系の確立など海上保安法制の整備に尽力し、我が国の国益を守り、国民の生命、身体及び財産の保護に貢献したことが認められました。

村上 暦造
海上保安庁

 兵庫県出身。昭和42年4月に海上保安大学校本科に入学し、昭和46年3月卒業後、大阪大学大学院法学研究科を経て、昭和51年5月同大学校助手、昭和54年度人事院在外研究員(短期、西ドイツ)、講師、助教授を経て、平成3年4月より同大学校教授。趣味はMacintosh。57歳。
 
受賞の感想をお聞かせください
 海上保安大学校において、海洋法、海上警察などの講義を担当し、約30年間、海上保安庁職員の初任教育及び業務研修並びにそれに関連する研究に携わってきましたが、海上保安業務をいわばサポートする仕事にかかわってきたものであり、それが評価されたとすれば誠にありがたいことと思っております。このような活動を見守り、支援していただいた多くの方々に感謝するとともに、この場を借りてお礼申し上げます。
 
この仕事のやり甲斐は
 自分は毎年年齢を重ねているわけですが、何年経っても相手は常に20歳前後の学生や若い研修生であり、彼らに対して講義しているときは、自分の歳を忘れてしまうことでしょうか。加えて、自分が研究して得た知識と論理を相手に伝えることができ、うまく吸収されたと実感できたときの充実感は、教師冥利につきるものです。
これまでの業務を通じて、特に苦労されたことは
 私の研究テーマは、海上の安全と秩序を維持するために行使される海上警察権にあります。例えば、「領海警備」の活動はその一つですが、陸上国境では「国境警備」として国境線ないし国境地帯で措置をとるのに対し、わが国のように国境線がすべて海上にある場合には、国境警備の措置が「領海警備」と呼ばれ、領海など海上で行われることになるわけです。
 沿岸国が、密輸・密航を始めとする各種の違法行為から自国の沿岸を守る必要から、多くの国が海軍とは別にコーストガードを設置する傾向にあります。その意味で、近年の領海警備は、軍事的に海岸を防備する「海防」から、違法行為の取締り(law enforcement)の形へ変わりつつあると言えます。しかし、わが国では、戦前からの先例があるわけではなく、諸外国の歴史に基づく国内法上の知恵を参考にする必要があります。さらに、それは最近の海賊・武装強盗事件や北朝鮮工作船事件にみられるように、外国船舶や外国人を対象とする執行措置も多く含まれます。したがって、領海、接続水域、EEZ(Exclusive Economic Zone、排他的経済水域)などの海域区分と海洋法上のルールに従わなければなりません。海上警察権の行使に関する研究については、このような国内法と国際法との両面にわたる特殊な法的規律を解明することが要請されることでしょう。
 
主要著作
・『海上保安事件の研究---国際捜査編---』中央法規出版、1992年
・『領海警備の法構造』中央法規出版、2005年
特に思い出に残っていることは
 このテーマを調査研究するため、人事院の短期在外研究員を含め、いくつかの外国の海上保安(コーストガード)、国境警備の機関を訪れる機会を得ることができましたが、そこで貴重な体験をし、また現地でなければ聞くことのできない海の苦労話を聞くことができました。例えば、ベルリンの壁があった時代には、西ドイツ国境警備隊の青色の警備艇と東ドイツ国境警備隊の灰色の警備艇がバルト海でにらみあっていたわけですが、東西ドイツ統合がなって約1年後にノイシュタットの船艇基地を訪れたときに、アフリカへ売却される灰色の警備艇が数珠つなぎされていた光景を忘れることができません(なお、ドイツ「連邦国境警備隊」は、平成17年7月「連邦警察」に名称変更されました)。
 また、カナダコーストガードの困難きわまりない北極海パトロールの話やロシア国境警備隊隊員の士気の高さ、そして数少ない船艇で活動しているフィリピンコーストガード士官達のひたむきさも印象に残っております。
国民に知ってもらいたいことはありますか
 北朝鮮工作船事件や最近のドラマ「海猿」により、海上保安の活動も一部は知られてきておりますが、その活動の場である海上は、主として船舶を使用して活動する必要があり、関係者が少なく、事件事故の痕跡が残りにくいこと等の特色があります。国民の大多数の目の届かない場所での活動ではありますが、陸上とは異なる社会の実態と海上における諸ルールの特殊性に一層のご理解をいただければと思います。
今後の抱負をお聞かせください
 わが国のコーストガードの活動は、これまで主としてわが国周辺海域であったわけですが、これからは、周辺海域であっても、対岸の諸国とのかかわりがますます強まってくると考えられますので、この面からの教育研究に期待したいと思います。

          
村上教授の講義に真剣に耳を傾ける学生
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