第20回(平成19年)「人事院総裁賞」個人部門受賞者
 
 
一生を投じて医療の一隅を照らす
 岩堀さんは、勤務環境などが特殊な受刑者の医療に多年にわたり献身し、その屋台骨を支えています。精神的な疾患を持つ受刑者を治療するため、独自に小集団での療法を開発するとともに、刑務所に併設された准看護師養成所において後進の育成にも当たるなど、受刑者の円滑な社会復帰に貢献したことが認められました。 

岩堀 武司
法務省
八王子医療刑務所長
 福井県出身。都立松沢病院で勤務している際、刑の執行停止者等の治療と被告人の精神鑑定に携わったことがきっかけとなり、昭和49年に大阪医療刑務支所(当時)に採用。
 学生時代は、柔道、空手部に所属。子ども(一男一女)は独立し、現在は、妻と二人暮らし。近年は主にクラッシックのコンサートや美術展、寄席等に妻と共に出かけることが多い。67歳。
受賞の感想をお聞かせください
 この度、人事院総裁賞をいただいたことは、身に余る光栄であり、大変名誉なことと受け止めております。
 日常の業務を通じ感じたことを、医師として、また、施設の管理者として対応してきたつもりでおり、特別なことをしてきたというような気持ちではおりません。八王子医療刑務所職員の代表として賞をいただいたものと思っています。諸先輩のご努力の積み重ねの結果、体制化された矯正医療の更なる発展を目指している者として、当所職員の苦労や外部医療関係機関のご協力に対して改めて感謝申し上げます。
 
この仕事のやり甲斐は
 同じ環境で生活している者であっても、その生育歴等によりすべて異なる個性を持ち、日によって、時によってその感情は常に変動しています。日々患者に接し、その病状を観察できること、医師を始め医療関係者による治療や刑務官の処遇によって患者の改善してゆく経過をうかがい知ることができる点がやり甲斐です。
 すべての職員や研究テーマの異なった医師に接する機会を持てることは、医師として、また、組織を預かる者としての経験を得る貴重な場であると感謝しています。
これまでの業務を通じて特に苦労されたことは
 矯正医療を志した頃には、医療の実施と保安的な要請の板ばさみを感じたことがあり、当時の保安の職員に掛け合ったこともありました。精神科医として医療を最優先し集団の中で医療を行いたいという考えと、保安的に集団の中に置くことに危険性のある患者の保安的側面を第一に考えるといった立場の相違でもありました。一方、かつての刑務所の精神科医療は集団でソフトボールをするなど、集団的な処遇を行う場面も多々ありました。
 今も、医師としての立場で処理するか、行政官としての立場を貫くか、判断に窮することがあります。しかしながら、どのような時であっても、関係職員の貴重な意見と協力があって決意することができることを改めて感謝しています。 
☆特に思い出に残っていることは何ですか
 少年院で勤務していた当時、摂食障害で治療に困難を来し、スタッフと共にあらゆる手段を試みて治療の効果を模索した女子少年がいましたが、後に出院し、本人から結婚をしたという内容の一通の手紙が届きました。手紙を受け取った時は、その少女のことが走馬灯のように思い出され、今でも「あの子はどうしているだろうか。」と思い出されます。
 また、男子少年の中にも出院後、近況を知らせる便りを寄越す者がいます。また、当所から人工透析病院に入院させた患者から感謝の便りを受け取ることもあります。そのような報に接すると苦労が報われたと今でも胸が熱くなる思いがします。 
国民に知ってもらいたいことはありますか
 当所は厚生労働省指定の総合病院であり、一般社会における医療水準に等しいものを提供していると考えています。近い将来、医療機能の集約化を図り、「矯正医療センター」が設置され、人的資源や高度医療機器の有効活用などによって、全国的な矯正医療体制をより充実させることで、社会一般における医療関係職員からも矯正医療についての理解が得られることと確信しています。
 矯正医療は、再犯防止や社会復帰のための処遇の一翼を担うことを一つの目的としていることを理解していただければ幸いです。 
今後の抱負をお聞かせください
 併設している八王子医療刑務所准看護師養成所は、矯正職員である医療職員の育成を目的としています。たとえ病を治すことはできなくても、病者の苦しみを共有し理解できる医療人を育成したいと考えています。
          

小集団療法による治療
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