第23回(平成22年)「人事院総裁賞」個人部門受賞

 

 

「古(いにしえ)への道標(みちしるべ)」〜悠久の時を代々守り続けて〜

  岩元さんは、多年にわたり皇室の陵墓である「高屋山上陵(たやかさんじょうりょう)」の管理に献身し、訪れる多くの方への悠久の道標となり、皇室と国民との接点として貢献したことが認められました。

岩 元 眞 一 氏 (60歳)

宮内庁 書陵部 桃山陵墓監区事務所 陵墓守長
  

 

今回総裁賞を受賞されましたが、陵墓管理というのはどのようなお仕事ですか。

  まず陵墓と申しますのは、天皇皇后をはじめ皇室のご祖先のお墓などのことで、近畿を中心に北は山形県から南は鹿児島県を含んで総計896基を数えます。それらを多くの国民の方々が気持ちよく参拝されるように清掃や雑草の草払い、樹木の手入れなどを行い陵墓の景観を整える業務のほかに、陵墓地に関し境界侵犯や不法侵入、地形などに異変がないかを確認する巡回業務、施設や工作物などの補修や修繕計画の策定などその業務には多種多様なものがあります。

 

30年余りお一人で勤務されているとのことですが、特に気をつけていたことは何ですか

 私の管理する山陵(鹿児島県霧島市所在)は急傾斜地で滑りやすく、鎌などの刃物を持っての管理は非常に危険です。また、巡回中は葺石のような石が頭上から落ちて来ることもあり、夏から秋口にかけてマムシなどもいますので、現在でも巡回には特に気を遣います。まして通信手段の無い当時は、一人での山仕事や巡回には事故の無いように、安全第一を考えました。

昭和60年まで事務所には電気や水道がなかったそうですが、その当時のエピソードは
 ありますか。

拝命して10年ほどは、水道も電気もない山小屋のような暗い事務所で、度重なる台風の被害の事後処理や報告事務にロウソクを灯して仕事をしたこともつらい思い出です。特に水は、飲み水だけでなく業務に必要な水もあり、事務所の横に簡易な貯水槽を設置し、屋根に降った雨水が雨樋を通って貯まるようにしたのですが、貯水槽に貯めているとボウフラが発生したり、水が腐ったりして、とても使う気になれませんでした。

小中学生の社会学習などで陵墓の説明をされるそうですが、心がけていることはありますか。

私の管理する神代山陵(じんだいさんりょう)の「彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)」にまつわる神話は、一時期不幸な解釈がなされてきました。しかし本来は近隣諸国のみならず、遠く人類の発祥の地に至るまでの歴史と思想を映す鏡でもあり、人類が皆兄弟姉妹であることを物語っています。したがって、特に若い世代の人が平和を考え、自然を愛する気持ちを醸成して下さるように心を込めて説明、案内することを心がけております。

地域住民の参拝に対応するため末年始も勤務されるそうですが、仕事を続けていく上でのご家族
  のご苦労などありましたか。

大晦日から元日早朝にかけて近隣から多くの参拝者が訪れるために、この30年余り家族と一緒に正月を過ごしたことはありません。正月の陵前の飾りつけなどは、家族の協力が不可欠で年末年始は清掃に追われてきました。また、十数年前までは土日が勤務日となっており、幼かった子供たちと満足に遊んでやれなかったことが悔やまれます。また、遠方からの陵印のご集印者が連絡なしに休日でも自宅を訪ねて来られることがあり、家族みんなでの外出もままならないこともありました。

今回受賞された感想をお聞かせください。

  正直にうれしく思います。同時に、私以上に陵墓管理に苦労されてきた先輩方や同僚の皆さんと共にこの喜びを分かち合いたい気持ちでいっぱいです。何故なら、町中でそして人里を離れた山奥の御陵で日々それぞれ奮闘しているにもかかわらず、あまり日の目を見ることのなかった陵墓職員に光を当てて下さったこの受賞が、決して私一人のものではないと強く感じるからです。

最後に国民の皆様へメッセージをお願いします。

陵墓は、古代から現代までの皇室と国民とをつなぐ重要な文化財的所産でもあり、特に私のお守りする神代山陵は皇室のみならず、国民お一人、お一人がその遠いご祖先の御霊の静まる深い森に、心静かに参拝されるための場所でもあります。したがってその管理に関しては、象徴天皇制の理解と本来、内包されるべき世界の平和や自然保護がその根底になくてはならないものです。私たち陵墓職員はこうした壊してはならない有形無形の国家的遺産を守るため、時には泥まみれになりながら奮闘しています。このことは、特定の団体や個人のためにではなく、全ての国民や国家の尊厳を未来に引き継ぐためのものであり、まことに地道な仕事であります。そういった観点から、国民の皆様には陵墓への正しいご理解とご協力を切に願うものであります。

排水溝の清掃作業

社会学習での説明

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