第23回(平成22年)「人事院総裁賞」職域部門受賞

 

 

千年前の古典を、千年先の未来へ引き渡す

 

 図書課出納係は、千年を超えて皇室に集積された四十一万点の古典籍の保護と利用の両立の努力を通じ、国の文化的活力を支える歴史的基盤の形成に貢献したことが認められました。

 

 

宮内庁 書陵部 図書課 図書寮文庫 出納係

【代表者】 立花 信彦 係長

【職員数】 4名

 

 

 

図書寮文庫とはどのような施設なのでしょうか。また、今回総裁賞を受賞された出納
  係が担当されている業務についてお聞かせください

 図書寮文庫は、書陵部所蔵資料のうち古典籍の保管、一般の利用及び複刻の事務をつかさどる組織です。その中で、出納係は、書陵部の東西に設置されている収蔵庫の整備に関すること、収蔵庫に収められた古典籍の保管に関すること、古典籍の閲覧・貸出その他の一般の利用に関すること等を業務とする係です。


41万点もの古典籍の中には、最近話題となっている坂本龍馬自筆の「薩長同盟裏
  書」など貴重な古典籍が多数あるようですが、他にどのような古典籍を保存・管理さ
  れているのかご紹介ください。

 出版物やテレビ番組で繰り返し紹介されるものとしては、12世紀に南宋時代の中国で木版印刷された「魏志倭人伝」を含む『三国志』、小説やマンガの題材にもなっている、鎌倉時代後期の女官二条の自伝『とはすかたり』、教科書やテレビ等で物語の場面を目にすることが多い『竹取翁并かぐや姫絵巻物』等を所蔵しております。
  その他にも、7世紀に唐時代の中国で書写され、遣唐使船によって我が国にもたらされたことが確実な『勝鬘宝屈(しょうまんほうくつ)』(仏教の経典『勝鬘経』の注釈書)、古代、日本海をはさんで交流のあった渤海(ぼっかい)国の使節が我が国の朝廷にもたらした9世紀の外交文書の写本『渤海国中台省牒案』、平安時代末の院政期・源平争乱期及び鎌倉幕府成立期の激動の時代の様子を生々しく伝える関白九条兼実の日記『玉葉』の現存最古の写本、能筆で当代最高の学識者と言われる花園天皇御直筆の日記『花園院宸記』(鎌倉時代末期)なども所蔵しております。


古典籍を自然換気の方法で保存・管理している理由をお聞かせください。

 文化財の収蔵施設に空気調整装置が導入されるようになってからまだ歴史が浅く、専門家からは、装置が人工的に引き起こす温湿度の急激な変化は、古典籍劣化の重大要因になりえるとの指摘もなされています。
  これに対し、京都の御所や公家の屋敷等にあった土蔵は、木箱の中に収めた古典籍を、自然換気方式により守り伝えてきた千年以上の実績があります。
  幸い、書陵部庁舎は旧江戸城の本丸跡という皇居内の高所に立地し、低湿で風通しが良いという条件に恵まれております。このため、庁舎に接続して設置した収蔵庫に、二重壁、小さな窓等の、我が国の伝統的な土蔵に共通する構造を取り入れ、自然換気と、古典籍の収納什器としての木箱の活用とを組み合わせることにより、年間を通じて、収蔵庫内の温湿度変化が極めて緩やかに変化する保存環境を実現しています。

古典籍の保存・管理で、特にご苦労されることはどのようなことですか。

黴・害虫対策は終わりなき作業です。毎日の、収蔵庫内の壁、床、棚、木箱の内外、古典籍自体の黴調査や、収蔵庫内各所に備え付けた捕虫器をぐるりと見回って観察する週1回の害虫調査を続け、わずかな黴や害虫でも発見すれば、アルコール散布、拭き取り、侵入口の確認・封鎖、燻蒸等の処置を迅速に実行しています。


研究者の方などからの閲覧要望にも対応されているそうですが、閲覧に際して出納
  係が注意されている点などお聞かせください。

 閲覧前には、両手を水道で水洗した後、アルコール消毒をしていただいております。
 他の施設等では、古典籍を扱う際に白手袋を着用する例が見られますが、当係ではこれまでの経験を踏まえ、手袋に付着した汚れが古典籍に移るおそれがあり、素手の時に比べて指が自由に動かず、不必要に力が入ってしまい紙を破損するおそれがある等の理由から、閲覧者へ手袋の着用は求めず、洗浄・消毒済みの素手で図書を扱っていただいております。
 閲覧時は、持参したノートにメモを書く方も多くいらっしゃるのですが、消しゴムやシャープペンシルは、消しかすや折れた芯が図書に混入し、それらが図書を汚損する懸念があるため、筆記用具は鉛筆に限って使用いただいております。

今回受賞された感想をお聞かせください。
 より良い保存方法を模索し続けてきた出納係の諸先輩の努力が、今回評価していただけたのだと思っております。諸先輩の努力を受け継いで行けるようにしていきたいと思っております。

最後に国民の皆様へメッセージをお願いします。

 これまでに千年にわたって受け継がれてきた皇室の至宝である古典籍は、皇室と現在及び未来の国民とを結び付ける架け橋として、これからの千年間もその後までも、人々に親しまれ続けるものであってほしいと願っています。
 そのため、これらの古典籍を、現在の良い状態のままで次の世代に手渡してゆけるよう今後とも努力いたしたく、今回の受賞は、そのことへの国民の皆様からの励ましであると受け止めています。心から感謝申し上げます。


 

坂本龍馬自筆「薩長同盟裏書」
木箱の内部

収蔵庫内での作業風景

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