第29回(平成28年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞

坂本 峰至 氏(62歳)
(環境省 国立水俣病総合研究センター 国際・総合研究部長)

  坂本さんは、水俣病及び水銀の調査研究をリードする研究者として、高度な専門的知識等をいかし、世界で広がる水銀汚染現場での現地調査の実施、評価等に当たって、中心的、主体的な立場で問題解決に多大な貢献をしたことが認められました。

 
 

☆始めに、国立水俣病総合研究センターではどのような業務を行っているのでしょうか。
 
国立水俣病総合研究センターは、公害の原点といえる水俣病とその原因になったメチル水銀に関する総合的調査・研究を行い、国内外の公害再発を防止し、被害地域の福祉および国際的水銀問題に貢献することを目的にしています。
 水俣病における健康被害の中でも、胎児性水俣病患者の出生は、私と同様な年代でもあり衝撃的な出来事でした。そこで、胎児がメチル水銀の影響を強く受ける科学的背景を究明し、胎児をメチル水銀の毒性から守ることに繋がる体系的研究を約30年間行ってきました。また、世界保健機関(WHO)や国際協力機構(JICA)などの要請に応じて水銀汚染問題が発生した海外の現場へ赴き、世界各国の水銀問題解決にも取り組みました。

☆坂本さんが長きにわたり取り組んでこられた水俣病・メチル水銀に関する調査・研究等に当たり、留意されている点をお聞かせください。
 今求められている調査研究は何か、その成果を如何に国民の皆様に分かりやすく伝えていくか留意しつつ進めてまいりました。例えば、赴任直後は水俣隣接住民や水俣病患者のメチル水銀レベルが、日本人の平均まで低下していることを発表し、水銀への不安が残る住民の不安払しょくに繋げました。また、母児にかかる調査研究では、メチル水銀は経胎盤的に胎児へと移行し、母親より約2倍高い濃度で蓄積すること、母乳からの移行は低いことを明らかにしました。これらの成果は、「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」(平成17年厚生労働省)において、胎児をハイ・リスクグループとする政策提言に貢献しました。

☆世界に広がる水銀汚染の状況をお聞かせください。
 現在でも途上国を中心に水銀は使われています。私は、ブラジル、キルギスタン、中国、インドネシア、モンゴル、バングラデシュ及びカンボジアの鉱山や化学工場による水銀汚染現場での環境・健康調査研究を行い、問題解決に努めました。特にWHOによる緊急調査依頼は連絡を受けてから2,3日後には現場に赴くという、緊張を伴うものでした。現在、特に零細・小規模金採掘による水銀汚染が世界的な問題となっています。途上国住民の金採掘での水銀使用の背景には、貧困と水銀の有害性に関する情報が行き届いていない問題があることを感じました。

☆坂本さんが業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。
 毎年の成果発信を心がけ、学会等で「メチル水銀の胎児影響」で講演をさせていただくようになりました。調査研究成果は、報道で取り上げられることも多く、政策提言等を含め国民の皆様に見える形で成果還元ができました。海外水銀汚染調査では、WHOや当事国の大臣等から問題解決への感謝状が届きました。また、研究指導したブラジルの大学院生がその後大学教授になり、私を客員教授として彼の大学に呼んでくれました。当センターでの地道な調査研究を通しての知識や分析技術が、水銀の正しい理解や国際貢献に役立ったことは、喜びであり、やりがいでもあります。

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 水俣病は過去の問題と思われる方もおられると思いますが、現在でも症状に苦しむ患者がおられ、最新機器を用いた効果的治療法の研究が当センターで進められています。胎児への低濃度メチル水銀の影響も研究中です。水銀汚染に関する海外からの調査依頼は現在でも後を絶ちません。加えて、国連環境計画(UNEP)は、人為的水銀排出で地球規模の水銀汚染は進んでおり、将来的に魚介類多食集団に健康影響が懸念されると指摘し、水銀による地球規模の環境汚染を防止する「水銀に関する水俣条約」が2013年に採択されました。我が国も昨年2月に締結し、地球規模の水銀モニタリング等への役目も求められています。
 国民の皆様にも、九州の水俣の地で数多くの課題を抱えて頑張っている当センターに対する御理解と御支援を是非ともお願い申し上げます。

▲水銀分析を行う坂本氏

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