国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)法律区分 専門試験(多肢選択式) 試験問題例 例題1(憲法) 違憲審査権に関するア〜エの記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。 ア. 憲法第81条は,最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であって,下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨をもっているものではなく,下級裁判所も憲法適否の判断を行うことができる。 イ. 司法権を発動するためには,具体的な訴訟事件が提起されていることが必要であり,裁判所は,具体的な訴訟事件が提起されていないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すといった権限を有していない。 ウ. 公職選挙法に定める議員定数配分規定の下における投票価値の較差が,憲法の投票価値の平等要求に反する程度に至った場合,直ちに当該定数配分規定が憲法に違反することになるが,当該定数配分規定の下で施行された選挙を直ちに無効とすることが相当でないときは,裁判所は,選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に初めて発生するという内容の判決をすることができる。 エ. 国が,外国に居住する邦人の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないことによって当該邦人が選挙権を行使することができなくとも,それは選挙権に対する制限ではなく,憲法に違反すると解する余地はない。 1. ア,イ 2. イ,ウ 3. ウ,エ 4. ア,イ,ウ 5. イ,ウ,エ 例題1の正答 1 例題2(憲法) 憲法第14条第1項に関するア〜オの記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,ア〜オの記述に掲げられた法律の規定には,現行において廃止・改正されているものも含まれている。 ア. 年金と児童扶養手当の併給禁止規定は,社会保障給付の全般的公平を図ることを目的にするものであり,その立法目的の合理性は認められるが,当該規定の適用によって,障害福祉年金(当時)の受給者とそうでない者との間に児童扶養手当の受給に関して差別を生じさせることは,立法目的達成のため必要な限度をはるかに超え,憲法第14条第1項に違反する。 イ. 法定刑を死刑又は無期懲役刑のみに限る尊属殺重罰規定は,尊属を卑属又はその配偶者が殺害することをもって一般に高度の社会的道義的非難に値するものとし,このような所為を通常の殺人の場合より厳重に処罰することによって,特に強くこれを禁圧することを目的にするものであり,その立法目的の合理性を直ちに否定することはできないが,刑の加重の程度が立法目的達成のため必要な限度をはるかに超え,普通殺に関する法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ,憲法第14条第1項に違反する。 ウ. 国籍法の規定が,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した場合に限り届出による日本国籍の取得を認めていることによって,認知されたにとどまる子と嫡出子たる身分を取得した子との間に日本国籍の取得に関する区別を生じさせていることは,父母両系血統主義の尊重を通じ家族秩序を維持することを目的とするものであるが,その立法目的自体に合理的な根拠が認められず,かつ,我が国を取り巻く国内的,国際的な社会的環境等の変化に照らせば,当該区別と立法目的との間の合理的関連性を欠くものとなっており,憲法第14条第1項に違反する。 エ. 憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上,地域によって差別が生じることは当然予期されることであるから,かかる差別は憲法自ら容認するところであると解すべきであって,地方公共団体が売春の取締りについて各別に条例を制定する結果,その取扱いに差別が生じることがあっても,憲法第14条第1項に違反しない。 オ.民法第900条第4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は,民法が法律婚主義を採用していることから,法定相続分について婚姻関係にある配偶者とその子を優遇して定めるものであるが,他方,嫡出でない子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものであり,家族形態の多様化やこれに伴う国民意識の変化ないし国際的環境の変化に照らしても,現在もその区別の合理性は失われておらず,憲法第14条第1項に違反しない。 1. ア,エ 2. ア,オ 3. イ,ウ 4. イ,エ 5. ウ,オ 例題2の正答 4 例題3(行政法) 取消訴訟の判決に関するア〜オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。 ア. 行政事件訴訟法は,特別の事情により請求を棄却する制度として,事情判決を規定している。これは,裁判所が,処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認める場合にすることができるものであり,判決の主文において,当該処分又は裁決が適法であると宣言される。 イ. 裁判所は,相当と認めるときは,終局判決前に,判決をもって,処分又は裁決が違法であることを宣言することができる。 ウ. 取消訴訟は,処分又は裁決の適法性を争う公共性の強い訴えであることから,当事者が訴えを取り下げることによっては終了せず,裁判所の判決ないし決定によらない限り,終了しない。 エ. 行政庁に対して申請をしたが拒否処分を受けた者が,当該処分の取消訴訟を提起して取消判決を得た場合には,その者から新たな申請がされたときに限り,当該行政庁は,判決の趣旨に従って改めて処分をしなければならない。 オ. 申請を認容する内容の処分が,判決により,手続に違法があることを理由として取り消された場合には,その処分をした行政庁は,判決の趣旨に従い,手続を改めた上で審理し直さなければならない。 1. イ,オ 2. ウ,オ 3. ア,イ,エ 4. ア,ウ,エ 5. イ,ウ,オ 例題3の正答 1 例題4(行政法) 法規命令に関するア〜オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,以下に示す法令は,その事件当時のものである。 ア. 法規命令は,国民の権利義務に関する一般的定めとしての性質を持ち,国民を拘束するとともに,裁判規範としても機能する。他方,法規命令は,行政組織の内部関係を規律する行政規則とは異なり,行政機関にとっての行為規範として行政機関を拘束するものではない。 イ. 法規命令については,当該法規命令が,その制定を委任した法律に抵触しないかという問題がある。この点について,判例は,地方自治法第85条第1項は,専ら解職の投票に関する規定であり,これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって,解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできないとしている。 ウ. 法規命令について,法律の委任を受けて国民の権利義務の内容自体を定める委任命令と,国民の権利義務の内容自体ではなく,その内容の実現のための手続を定める執行命令とに分けるという考え方がある。これによれば,執行命令は,法律とは別に憲法上の根拠に基づく独立命令としての性格を有することになるが,日本国憲法は独立命令を認めていないと解されることから,執行命令もまた憲法上許容されないと考えられている。 エ. 法律が行政機関に法規命令の定立を委任する際に,行政機関に一定の裁量権が認められる場合がある。この点について,判例は,銃砲刀剣類所持等取締法第14条第5項の委任による銃砲刀剣類登録規則の制定について,同規則においていかなる鑑定の基準を定めるかについては,法の委任の趣旨を逸脱しない範囲内において,所管行政庁に専門技術的な観点からの一定の裁量権が認められているとしている。 オ. 法規命令について,法律の委任の範囲を超えないかという問題とは別に,当該法規命令が法の一般原則の違反により無効でないかという問題がある。この点について,判例は,児童扶養手当法に基づく児童扶養手当の支給対象から父から認知された児童を除外することを定めた児童扶養手当法施行令の規定について,同手当の支給対象とされている児童との関係で合理性を欠く差別的取扱いであり,法の委任の趣旨に反するか否かを論じるまでもなく平等原則違反により無効であるとしている。 1. ア,ウ 2. ア,オ 3. イ,エ 4. ア,エ,オ 5. イ,ウ,エ (参考) 地方自治法 第80条 選挙権を有する者は,政令の定めるところにより,(中略)普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し,当該選挙区に属する普通地方公共団体の議会の議員の解職の請求をすることができる。(以下略) 2 (略) 3 第1項の請求があったときは,委員会は,これを当該選挙区の選挙人の投票に付さなければならない。(以下略) 第85条 政令で特別の定をするものを除く外,公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定は,(中略)第80条第3項(中略)の規定による解職の投票にこれを準用する。 銃砲刀剣類所持等取締法 第14条 文化庁長官は,美術品若しくは骨とう品として価値のある火なわ式銃砲等の古式銃砲又は美術品として価値のある刀剣類の登録をするものとする。 2 銃砲又は刀剣類の所有者(所有者が明らかでない場合にあつては,現に所持する者。以下同じ。)で前項の登録を受けようとするものは,文部省令で定める手続により,登録の申請をしなければならない。 3 第1項の登録は,登録審査委員の鑑定に基づいてしなければならない。 4 (略) 5 第1項の登録の方法,第3項の登録審査委員の任命及び職務,同項の鑑定の基準及び手続その他登録に関し必要な細目は,文部省令で定める。 例題4の正答 3 例題5(民法) 不動産物権変動と対抗要件に関するア〜オの記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。 ア. Aの死亡により,子B及びCがA所有の土地を共同相続したが,Cが相続を放棄した。その後,Cの法定相続分に相当する部分について当該土地を差し押さえたCの債権者Dに対し,Bは登記なくして当該土地の単独所有権を対抗することができる。 イ. Aは,B所有の土地について平成4年3月から占有を続け20年後に時効取得したがその登記を備えていなかったところ,平成24年4月にBから当該土地を買い受けたCに対し,登記なくして当該土地の所有権を対抗することができる。 ウ. Aが,自己所有の土地をBに譲渡したがその登記を備えないうちに,AB間の物権変動につき背信的悪意であるCにも譲渡し,さらに,CがAB間の物権変動につき善意・無過失のDに当該土地を譲渡した場合において,AからC,CからDへと所有権移転登記がなされているときは,Bは,Dに対し,登記なくして当該土地の所有権を対抗することができない。 エ. AB間において,A所有の土地にBの通行地役権が設定された後,いまだBが通行地役権の登記を備えないうちに,Aが通行地役権の存在につき善意のCに当該土地を譲渡し,Cへの所有権移転登記がなされた場合は,当該土地がBによって継続的に通路として使用されることが物理的状況から客観的に明らかとなっており,Cがそのことを認識することが可能なときであっても,Bは,Cに対し,登記なくして通行地役権を対抗することができない。 オ. AはBに自己所有の土地を仮装譲渡し,所有権移転登記がなされた。その後,Bは,仮装譲渡の事実を過失なくして知らず当該登記を信じたCに,当該土地を譲渡した。この場合において,Cは,Aに対し,登記なくして当該土地の所有権を対抗することができない。 1. ア,ウ 2. ア,エ 3. イ,オ 4. ア,ウ,エ 5. イ,ウ,オ 例題5の正答 1 例題6(民法) 賃貸借に関するア〜オの記述について,a〜hの中からその根拠を選んだ場合に,挙げられた組合せが妥当なのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。 ア.賃借人が賃貸人から借りている家屋を無断で同居の親族に転貸した場合であっても,賃貸人は,直ちに賃貸借契約を解除することができない。 イ.土地賃借権の登記がない場合であっても,当該土地上に借地権者が登記した建物を所有していれば,土地賃借権は対抗力を持つ。 ウ.土地の賃借権を登記した者は,その後,その土地につき賃借権を取得し地上に建物を建てた第三者に対し,建物収去,土地明渡しを請求することができる。 エ.賃貸家屋の使用状況が著しく悪質であれば,賃貸人は賃借人への催告なく賃貸借契約を解除することができる。 オ.借地人が借地上に所有する建物に賃借人がいる場合,土地賃貸人と借地人との合意で土地賃貸借契約を解除しても,特段の事情がない限り,建物賃借人に対抗することができない。 a. 権利濫用 b. 信義則(信義誠実の原則) c. 公序良俗違反 d. 民法第94条第2項の類推適用 e. 対抗力取得による物権的効力 f. 信頼関係理論 g. 特別法である借地借家法 h. 背信的行為と認めるに足りない特段の事情の存在 1.ウとb,オとc 2.エとf,オとe 3.アとa,イとd,ウとe 4.アとc,イとg,エとb 5.アとh,イとg,エとf 例題6の正答 5 例題7(商法) 取締役会設置会社(委員会設置会社を除く。)における取締役及び取締役会に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。 1. 取締役会は,株主総会で選任された取締役全員で構成され,会社の業務執行等の意思決定をする機関である。これは,株主が多数存在することが想定され,株主自身が会社の経営に直接関与することは予定されていないからである。このように,業務執行等の意思決定が取締役会の権限とされた結果,株主総会の権限を法律が定める以上に拡大することは許されない。 2. 代表取締役は会社を代表し,業務執行の一切を行う機関であり,取締役会は,代表取締役以外の取締役に業務執行権限の一部を付与することはできない。 3. 取締役会は,必要に応じて開催されるが,取締役会では,業務執行に関する様々な事項が付議されることは予想されるべきことであるから,株主総会と異なり,招集通知に議題を示す必要はない。 4. 取締役会の決議は,議決に加わることができる取締役の過半数が出席し,出席した取締役の過半数をもって行われることとされ,この要件は,定款の定めにより緩和することはできるが,加重することはできない。 5. 取締役は他の代表取締役又は取締役の業務執行が適正に行われているかどうかを監視する義務を負う。もっとも,取締役は,取締役会の一員にすぎず,取締役会を通じて監督,是正する機会が与えられているにすぎないから,取締役会で議題とされなかった事項についての責任は負わない。 例題7の正答 3 例題8(刑法) 刑法上の因果関係の存否について,次のA,B,Cの説がある。これらの説に立って事例1〜4を検討した場合,各事例におけるXの行為とYの死亡との間の刑法上の因果関係の有無に関するア〜オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,各事例はそれぞれ別個独立のものである。 A説 当該行為が存在しなければ当該結果が発生しなかったであろうという関係(以下「条件関係」という。)があれば刑法上の因果関係を認める。 B説 条件関係が存在することを前提に,一般人の社会生活上の経験に照らして通常その行為からその結果が発生することが相当と認められる場合に刑法上の因果関係を認める。相当性の判断については,行為時に存在した全事情及び一般人が予見可能な行為後の事情を基礎として,裁判時において一般人を基準に判断する。 C説 条件関係が存在することを前提に,一般人の社会生活上の経験に照らして通常その行為からその結果が発生することが相当と認められる場合に刑法上の因果関係を認める。相当性の判断については,行為時に一般人が知り得た事情及び行為者が特に知っていた事情を基礎として,行為時において一般人を基準に判断する。 事例1 Xは,Yの腕をナイフで切り付け,Yに全治1週間程度の傷害を負わせたところ,Yは,その傷害の治療のため救急車で病院に搬送される途中,交通事故に遭い,頭蓋骨骨折により死亡した。 事例2 Xは,突然背後からYを突き飛ばしたところ,Yは,重度の心臓疾患を有していたため,Xに突き飛ばされたことにより心臓発作を起こし,その結果死亡した。Yが重度の心臓疾患を有していたことは,一般人からは認識できず,Xもそのことを知らなかったが,日頃のYの言動からすれば,特にYと親交のあったXがそのことを知ることは可能な状況であった。 事例3 Xは,Yを殺害する意図で,1時間後に効果が現れる致死量の毒薬をYに飲ませたところ,その毒薬の効果が現れる前に,Xとは無関係のZが,Yを射殺した。 事例4 Xは,ある廃鉱内でYの腕をナイフで切り付け,Yに全治1週間程度の傷害を負わせたところ,同廃鉱内には,感染力が非常に強く,感染すると死に至る重篤な感染症を引き起こす危険な病原菌が存在しており,Yは,傷口から同病原菌が体内に侵入したことにより敗血症に罹患し,その結果死亡した。XがYの腕をナイフで切り付けた当時,同廃鉱内における同病原菌の存在とその危険性は,報道等により一般的に知られていたが,Xは,あまり報道に関心がなかったため,そのことを知らなかった。 ア.A説によれば,事例1〜4にいずれについても,Xの行為とYの死亡との間に刑法上の因果関係が認められる。 イ.C説によれば,事例1〜4にいずれについても,Xの行為とYの死亡との間に刑法上の因果関係が認められない。 ウ.事例1について,A説によればXの行為とYの死亡との間に刑法上の因果関係が認められるが,B説及びC説によればXの行為とYの死亡との間に刑法上の因果関係は認められない。 エ.事例2について,A〜Cのいずれの説によっても,Xの行為とYの死亡との間に刑法上の因果関係が認められる。 オ.事例4について,A〜Cのいずれの説によっても,Xの行為とYの死亡との間に刑法上の因果関係が認められる。 1. ア,イ 2. ア,エ 3. イ,ウ 4. ウ,オ 5. エ,オ 例題8の正答 4 例題9(労働法) 団体交渉に関するア〜オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。 ア.使用者に交渉委員として指名された者が労働協約締結権限までは与えられていなかったとしても,それを理由に労働組合からの団体交渉申入れを拒否できるものではなく,交渉権限が与えられている以上,交渉の申入れには応じた上で,合意が成立したときはこれを協約締結権者に具申して協約が成立するよう努力すべきであるとするのが判例である。イ.同一企業内に複数の労働組合が併存する場合において,使用者が一方の組合と締結した労働協約に,当該組合を唯一の交渉相手と認め,他の組合との交渉を排除する旨の唯一交渉団体条項が含まれていたとしても,当該条項によって他の組合の団体交渉権を侵害することはできず,使用者は,当該条項の存在を理由として,他の組合との団体交渉を拒否することはできない。 ウ.同一企業内の複数の労働組合が共同して使用者に対して団体交渉を求めるには,組合相互間において統一された意思決定の下に統一した行動をとることができる団結の条件,すなわち統一意思と統制力が確立されていることが必要であり,当該条件が確立されていない場合には,使用者が組合と労働協約等で共同交渉の形態による団体交渉を約しているなど特段の事情のない限り,使用者は組合からの共同交渉の申入れを拒否することができるとするのが判例である。 エ.同一企業内に複数の労働組合が併存する場合には,使用者はいずれの組合との関係においても誠実に団体交渉を行わなければならず,各組合に対し中立的態度を保持し,その団結権を平等に承認,尊重すべきであり,各組合の性格,傾向等により差別的な取扱いをすることは許されないから,使用者が各組合の組織力,交渉力に応じて合理的・合目的的に異なる対応をすることは,併存する組合間の組織人員に大きな開きがあるときであっても,使用者に課せられた平等取扱い,中立義務に反し許されないとするのが判例である。オ.使用者が正当な理由なく労働組合との団体交渉を拒否している場合であっても,憲法第28条は労使間の公序として尊重されるべきで,労使間に団体交渉に関する具体的な権利義務を設定するものではなく,また,労働組合法第7条第2号も不当労働行為の禁止という公法上の義務を課しているが,私法上の団体交渉請求権を認めているとは解されないから,当該組合が団体交渉を求め得る地位にあることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠き不適法であるとするのが判例である。 1. ア,オ 2. イ,ウ 3. ア,イ,ウ 4. ア,イ,エ 5. ウ,エ,オ 例題9の正答 3 例題10(国際法) 国家の生成・変動に関するア〜オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。 ア. 国家は,他の諸国の承認を受けて初めて成立するため,ある実体が国家としての要件を充足しているにもかかわらずいつまでも国際法主体性を獲得し得ない状況を防止する趣旨から,慣習国際法上,既存の国家はそうした実体に国家承認を与える義務を負う。 イ. 外交使節の交換を通した正式の外交関係の開設といった,本来,国際法主体としての国家間においてのみ行われる行為を行えば,相手国を国家として承認する意思があることが推定される。こうした行為を通じた国家承認は,黙示の承認(黙示的承認)と呼ばれる。 ウ. 未承認国に対しては,その主権を尊重する必要が認められないため,裁判権免除を与えず,また,未承認国の制定法を自国の裁判手続において適用しないという政策をとる国が一般的であり,日本の裁判所もこの方針を貫いている。 エ. 条約についての国家承継条約(1978年の「条約についての国家承継に関するウィーン条約」)は,植民地支配から脱した新独立国は,先行国が締結し,新独立国の領域に適用されていた条約を当然には承継しないというクリーン・スレイト原則を採用している。 オ. 承認対象の政府がとる政策の是認という含意を回避し,また,外交的処理の柔軟性を確保するといった目的から,英国や米国等は,場合によっては政府承認自体を行わないという政策を採用している。この点,日本は,第二次世界大戦後,一貫して政府承認を行うことを避けている。 1. イ,ウ 2. イ,エ 3. ウ,オ 4. ア,イ,ウ 5. ア,イ,エ 例題10の正答 2