国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)法律区分 専門試験(記述式) 試験問題例 例題1(憲法)  国民年金法によれば,国民は,20歳になると,原則として誰でも国民年金の被保険者となる(同法第7条第1項第1号)。被保険者になれば,保険料を納付しなければならない(同法第88条第1項)。ただし,一定の場合には,保険料の納付義務が免除又は猶予される。保険料免除には,法定免除と申請免除があり,学生納付特例制度(所得がない,又は少ない学生が申請し,承認されることで,保険料の納付が猶予される制度)も設けられている。  国民年金をはじめとする現行の公的年金制度に対しては,少子高齢化の急速な進展に伴って様々な問題点が指摘されるようになった。そこで,現行の公的年金制度を抜本的に見直すための検討委員会が政府内部に設置された,と仮定する。同委員会では,いくつもの改正案が検討の対象とされたが,その中には次のA,B及びC案も含まれていた。 A案 現行の公的年金制度を廃止し,民間の年金保険に切り替える。民間の保険への加入は義務的なものとする。したがって,20歳以上の国民は,民間の保険の中からいずれかを選択して加入しなければならない。 B案 現行の公的年金制度を廃止し,地域ごとの年金共済組合を設置する。20歳以上の国民は,それぞれの地域の共済組合へ全員当然に加入するものとし,組合員は共済組合に対する共済掛金の納付を義務付けられる。 C案 現行の国民年金制度を維持しつつ,国民年金に加入する年齢を18歳に引き下げるとともに,学生納付特例制度を廃止する。学生も,他の免除事由に該当しない限り,保険料を納付しなければならない。  しかしながら,これらA,B及びC案には,政策的な当否以前に,いずれも憲法上の疑義があるとの意見が出された。すなわち,A案は,憲法第13条及び第25条に,B案は憲法第21条第1項に,そしてC案は憲法第26条第1項に違反する可能性があるというのである。  A,B及びC案に向けられた憲法上の疑義はいかなる内容のものかまず想定し,それに対するあなたの考えを述べなさい。論述に当たっては,A,B及びC案がそれぞれ違反する可能性があるとされた規定に沿って検討しなさい。なお,それ以外の規定違反について論ずる必要はない。 (参考) 国民年金法 (国民年金制度の目的) 第1条 国民年金制度は,日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き,老齢,障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し,もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。 (被保険者の資格) 第7条 次の各号のいずれかに該当する者は,国民年金の被保険者とする。  一 日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であつて次号及び第3号のいずれにも該当しないもの(被用者年金各法に基づく老齢又は退職を支給事由とする年金たる給付その他の老齢又は退職を支給事由とする給付であつて政令で定めるもの(以下「被用者年金各法に基づく老齢給付等」という。)を受けることができる者を除く。以下「第一号被保険者」という。) (以下略) (保険料の納付義務) 第88条 被保険者は,保険料を納付しなければならない。(以下略) 例題2(行政法) 次の事例について,以下の設問1〜3について答えよ。 事例  A県に所在する一石沼は,冬場に多数の渡り鳥が飛来することで有名で,数年前にラムサール条約(後述の注を参照)の登録湿地になった。地元では,渡り鳥の飛来地としてこの沼を将来世代に残そうと考えた有志が「一石沼を守る会」を結成し,ゴミ拾い,アクセス路の管理,観察会の実施等の活動を行っている。最近,同会は,特定非営利活動促進法に基づきA県知事の認証を受けて,NPO法人となった。その定款の第1条には,「本会は,一石沼を渡り鳥の飛来地として将来世代に残すために,沼の生態系について調査研究を行い,得られた知識の普及啓発に努め,生態系の破壊につながるような行為を極力防止することを目的とする。」と記されている。  ところが,最近,この沼のすぐ近くで温泉開発をしようとするBが現れた。Bは,既にいろいろ下調べをして土地を購入し,先頃,温泉法第3条第1項に規定された掘削許可の申請をA県知事に対して行った。  その頃,A県の担当部局では,課長P,課員Q及び課員Rの間で次のような会話が繰り広げられていた。 P「やっかいな案件が舞い込んだな。」 Q「一石沼はラムサール条約の登録湿地ですから,何としてもこれを守らねばなりません。」 P「本件で掘削を認めると一石沼にどういう影響が出るのかね。」 Q「掘削予定地は沼のすぐ近くで,排水は沼に直接なされる計画になっています。熱をもった水が流れ込めば,そこに生息するプランクトンの種類に変化が出る可能性があります。」 P「しかし,それで渡り鳥が来なくなるというわけでもあるまい。」 Q「県立大にH教授という先生がおられて,一石沼を守る会のメンバーでもあるのですが,その先生にこの間伺ったところでは,沼に排出される水の成分には問題はないものの,水の熱が問題なのだそうです。沼の水温が上がってプランクトンの種に交代が起こり,生態系全体が変化して渡り鳥が採餌できなくなる可能性もあるそうです。東京のI大学のK教授もその説を支持しておられるそうです。何でもK教授は湖沼生態学の世界的権威だそうで,A県知事が許可を出すようなことがあれば国際世論に訴えると息巻いておられると聞きました。」 P「そんなことを言われても,我々は法治国家の公務員だ。法律上できないことはできないと言うしかない。本件の掘削を認めると,他の温泉の湧出量,温度,成分に影響が及ぶのかい。(机上の六法を指しながら)ほら,温泉法4条1項1号の要件のことを聞いているんだよ。」 Q「いや,それは心配ないと思います。もともとこの辺りは温泉地じゃありません。最近の技術進歩で大深度掘削ができるようになったので,こんな所でも掘ってみようという人間が出てきたのです。」 P「それじゃあ,君は,『一石沼の生態系を維持し,渡り鳥の生息環境の保全を図る上で支障があるため』という理由で4条1項3号で不許可にできると考えているのか。それは,法律の目的に照らすとちょっと苦しいんじゃないかい。」 Q「私はできれば不許可にした方がいいと思っています。一石沼を守る会の人達は,Bの掘削をやめさせるために行政訴訟を起こすと叫んでいますから。それで4条1項3号で不許可にできるのではないかと考えたのですが…。」 R「今のやり取りを聞いていて思ったのですが,生態系に悪影響を及ぼさないよう排水方法に工夫することを条件として許可してはどうでしょうか。」 (注)ラムサール条約 正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」である。特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地及びそこに生息・生育する動植物の保全を促し,湿地の適正な利用(賢明な利用)を進めることを目的としている。 設問1 Pの発言「法律の目的に照らすとちょっと苦しいんじゃないかい。」でPが「ちょっと苦しい」と感じる理由を考えよ。 設問2 Qの発言「一石沼を守る会の人達は,Bの掘削をやめさせるために行政訴訟を起こすと叫んでいますから。」に関して次の二つの小問に答えなさい。 問2の1 掘削許可に関して,誰を相手にどのような類型の抗告訴訟を提起することが考えられるか。それに対応する仮の救済も答えよ。担当部局で議論がなされている現時点から,掘削許可処分が出された後の時点までを視野に入れて考察すること。 問2の2 一石沼を守る会のメンバーであり,一石沼のほとりに居住するXの原告適格は認められるか。 設問3 Rの発言「生態系に悪影響を及ぼさないよう排水方法に工夫することを条件として許可してはどうでしょうか。」でRは条件を付けることを提案している。この提案に関して次の二つの小問に答えなさい。 問3の1 温泉法第4条第3項に基づいてRが想定しているような条件を付することができるか。 問3の2 かつての温泉法には,現行法第4条第3項に相当する条文は存在しなかった。その場合でも,Rが想定しているような条件を付することができるか。 (参考) 温泉法 (目的) 第1条 この法律は,温泉を保護し,温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害を防止し,及び温泉の利用の適正を図り,もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。 (定義) 第2条 この法律で「温泉」とは,地中からゆう出する温水,鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で,別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。 2 この法律で「温泉源」とは,未だ採取されていない温泉をいう。 (土地の掘削の許可) 第3条 温泉をゆう出させる目的で土地を掘削しようとする者は,環境省令で定めるところにより,都道府県知事に申請してその許可を受けなければならない。 2 前項の許可を受けようとする者は,掘削に必要な土地を掘削のために使用する権利を有する者でなければならない。 (許可の基準) 第4条 都道府県知事は,前条第1項の許可の申請があつたときは,当該申請が次の各号のいずれかに該当する場合を除き,同項の許可をしなければならない。  一 当該申請に係る掘削が温泉のゆう出量,温度又は成分に影響を及ぼすと認めるとき。  二 当該申請に係る掘削のための施設の位置,構造及び設備並びに当該掘削の方法が掘削に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止に関する環境省令で定める技術上の基準に適合しないものであると認めるとき。  三 前2号に掲げるもののほか,当該申請に係る掘削が公益を害するおそれがあると認めるとき。  四 申請者がこの法律の規定により罰金以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又はその執行を受けることがなくなつた日から2年を経過しない者であるとき。  五 申請者が第9条第1項(第3号及び第4号に係る部分に限る。)の規定により前条第1項の許可を取り消され,その取消しの日から2年を経過しない者であるとき。  六 申請者が法人である場合において,その役員が前2号のいずれかに該当する者であるとき。 2 都道府県知事は,前条第1項の許可をしないときは,遅滞なく,その旨及びその理由を申請者に書面により通知しなければならない。 3 前条第1項の許可には,温泉の保護,可燃性天然ガスによる災害の防止その他公益上必要な条件を付し,及びこれを変更することができる。 例題3(民法) 次の事例について,以下の設問1〜3に答えなさい。なお,各設問は,それぞれ,次の事例に基づく独立した問いである。 事例  Aは,平成23年3月1日に,3年後に年利5%の利息を付して返還する約束で,Bから1500万円を借り受けた(以下「本件債務」という。)。同日,Aは,本件債務を担保するため,所有する山林である甲土地(価額1500万円)に第1順位の抵当権を設定し登記をした。翌日,Aの親族Cは,Aに頼まれて,本件債務を連帯して保証する契約をBとの間で書面により締結した(以下「本件保証契約」という。)。 設問1  Cが本件保証契約を締結したのは,以下の事情による。Aが,本件債務の保証をCに依頼するに際し,平成23年3月1日に,自分は甲土地のほかにも乙土地(価額1500万円)を所有しているから迷惑はかけない旨述べて,乙土地の登記事項証明書をCに見せた。実際には,Aは既に乙土地を第三者に売却しており,その代金も費消していたにもかかわらず,Aはその事実を隠し,あえてCに保証を頼んだのであった。しかし,これらの事情は,Bには知らされていない。  CはBに対し,本件保証契約の無効又は取消しを主張することができるか。 設問2  平成23年6月5日に,Aは,甲土地上の立木丙をDに売却し,甲土地上の数か所に,立木丙の所有者はDである旨記した立札を立てた。翌月,Dは立木丙の伐採を始めた。この場合について,次の二つの小問に答えなさい。 問2の1 BはDに対し,抵当権の効力が立木丙に及ぶと主張することができるか。 問2の2 BはDに対し,抵当権に基づき立木丙の伐採をやめるよう請求することができるか。 設問3  Bは,平成25年1年20日に,本件債務に対応する債権をEに譲渡し(以下「本件譲渡」という。),翌日,確定日付けのある証書により本件譲渡をAに通知した。Cは,本件譲渡の事実を知らなかった。一方,Cは,平成24年4月1日に,Bに対する,履行期を平成25年末とする400万円の金銭債権を取得していた。平成26年4月1日に,Eは,Cに本件保証契約に基づく保証債務の履行を請求した。CはEに対して,どのような法的主張をすることができるか。 例題4(国際法) 次の事例について,以下の設問1〜3に答えなさい。 事例  国際連合(以下「国連」という。)安全保障理事会(以下「安保理」という。)は,A国による核兵器開発疑惑が「平和に対する脅威」を構成すると決定し,国連憲章第41条の下でA国から石油製品を輸入しないよう全ての加盟国に義務付ける決議(以下「本件安保理決議」という。)を採択した。これに対してA国は,自国本土と自国領である沖合の島との間にある公海と公海を結ぶ国際航行に使用されるX海峡(幅は20カイリでその全域がA国の領海内にあり,潜水船の潜水航行にも支障はない。)を封鎖する措置を採るとともに,封鎖を破る船舶に対してミサイル攻撃を行った。  その一環としてA国は,潜水航行中のB国海軍所属のS潜水艦(当時,通航に直接の関係を有しない活動には従事していなかった。)に対してミサイル攻撃を行った。同潜水艦は,重大な損害を受けて沈没し,乗組員全員が死亡した。これに対してB国は,自衛権の行使であるとして,武力を用いてA国本土の石油関連施設(完全な民生用施設で軍事目的では一切使用されていなかった。)を破壊し,この措置を国連憲章第51条に従って安保理に報告した。安保理は,これまでのところ本件に関して何らの措置も採っていない。  なお,A国及びB国は共に国連加盟国であり,1982年の「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)の当事国でもある。また,A国は,B国を含む30の国連加盟国との間に「両締約国の間には通商の自由が保障されなければならない」と規定する二国間の通商条約を締結している。それ以外の国連加盟国は,A国との間に石油製品の輸出入を含め通商に関わる事項を定める二国間の条約を一切締結していないし,そのような内容を含む多数国間の条約の当事国でもない。 設問1 本件安保理決議に基づいて行われた国連加盟国による禁輸措置が国際法上合法である(又は違法である)根拠を,次の二つの関係に分けて論じなさい。 関係1 A国と二国間の通商条約を締結している国連加盟国とA国との関係 関係2 その他の国連加盟国とA国との関係 設問2 A国によるX海峡の封鎖は,B国のS潜水艦の航行との関係で,外国船舶の通航に関する国際法上の権利の侵害となるか,なるとすればいかなる内容の通航権の侵害となるか,について論じなさい。 設問3 B国による武力の行使は国際法上合法であるか,国際司法裁判所の関連する判例に言及しつつ論じなさい。 (参考) 国連海洋法条約 第19条(無害通航の意味)1 通航は,沿岸国の平和,秩序又は安全を害しない限り,無害とされる。無害通航は,この条約及び国際法の他の規則に従って行わなければならない。 2 外国船舶の通航は,当該外国船舶が領海において次の活動のいずれかに従事する場合には,沿岸国の平和,秩序又は安全を害するものとされる。 (a) 武力による威嚇又は武力の行使であって,沿岸国の主権,領土保全若しくは政治的独立に対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの (b) 兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習 (c) 沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為 (d) 沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為 (e) 航空機の発着又は積込み (f) 軍事機器の発着又は積込み (g) 沿岸国の通関上,財政上,出入国管理士又は衛生上の法令に違反する物品,通貨又は人の積込み又は積卸し (h) この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為 (i) 漁獲行為 (j) 調査活動又は測量活動の実施 (k) 沿岸国の通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為 (l) 通航に直接の関係を有しないその他の活動 第20条(潜水船その他の水中航行機器) 潜水船その他の水中航行機器は,領海においては,海面上を航行し,かつ,その旗を掲げなければならない。 第25条(沿岸国の保護権)1 沿岸国は,無害でない通航を防止するため,自国の領海内において必要な措置をとることができる。 2 沿岸国は,また,船舶が内水に向かって航行している場合又は内水の外にある港湾施設に立ち寄る場合には,その船舶が内水に入るため又は内水の外にある港湾施設に立ち寄るために従うべき条件に違反することを防止するため,必要な措置をとる権利を有する。 3 沿岸国は,自国の安全の保護(兵器を用いる訓練を含む。)のため不可欠である場合には,その領海内の特定の水域において,外国船舶の間に法律上又は事実上の差別を設けることなく,外国船舶の無害通航を一時的に停止することができる。このような停止は,適当な方法で公表された後においてのみ,効力を有する。 第37条(この節の規定の適用範囲) この節の規定は,公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡について適用する。 第38条(通過通航権)1 すべての船舶及び航空機は,前条に規定する海峡において,通過通航権を有するものとし,この通過通航権は,害されない。ただし,海峡が海峡沿岸国の島及び本土から構成されている場合において,その島の海側に航行上及び水路上の特性において同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在するときは,通過通航は,認められない。 2 通過通航とは,この部の規定に従い,公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある海峡において,航行及び上空飛行の自由が継続的かつ迅速な通過のためのみに行使されることをいう。ただし,継続的かつ迅速な通過という要件は,海峡沿岸国への入国に関する条件に従い当該海峡沿岸国への入国又は当該海峡沿岸国からの出国若しくは帰航の目的で海峡を通航することを妨げるものではない。 3 海峡における通過通航権の行使に該当しないいかなる活動も,この条約の他の適用される規定に従うものとする。 第39条(通過通航中の船舶及び航空機の義務)1 船舶及び航空機は,通過通航権を行使している間,次のことを遵守する。 (a) 海峡又はその上空を遅滞なく通過すること。 (b) 武力による威嚇又は武力の行使であって,海峡沿岸国の主権,領土保全若しくは政治的独立に対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるものを差し控えること。 (c) 不可抗力又は遭難により必要とされる場合を除くほか,継続的かつ迅速な通過の通常の形態に付随する活動以外のいかなる活動も差し控えること。 (d) この部の他の関連する規定に従うこと。 2〜3 (略) 第45条(無害通航)1 第二部第三節の規定に基づく無害通航の制度は,国際航行に使用されている海峡のうち次の海峡について適用する。 (a) 第38条1の規定により通過通航の制度の適用から除外される海峡 (b) 公海又は一の国の排他的経済水域の一部と他の国の領海との間にある海峡 2 1の海峡における無害通航は,停止してはならない。 例題5(公共政策) 農業用の用排水路を始めとする農業水利施設は,国民に安定的な食料の供給を行うために必要不可欠な農業生産基盤として,土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき,国,都道府県,土地改良区等により整備されている(以下,国が整備する農業水利施設を「国営造成施設」と,都道府県が整備する農業水利施設を「県営造成施設」と,土地改良区等が整備する農業水利施設を「団体営造成施設」という。)。  平成21年度末までに整備された農業水利施設は,農業用用排水路が約40万kmあり,計画時の受益面積が100ha以上の農業水利施設は,農業用用排水路が約4万9000km,農業用ダム等の点施設とよばれるものが約7000か所と推計されている。農林水産省の試算によると,これら農業水利施設のストック全体の資産価値(再建設費ベース)は平成21年度で32兆円あり,そのうち受益面積が100ha以上のものは18兆円あるとされている。  一方,こうした農業水利施設の多くは,第二次世界大戦後から高度経済成長期にかけて集中的に整備されており,これまで補修・補強等が進められているものの,受益面積が100ha以上の農業水利施設についてみると,水路の約3割,点施設の約4割が既に標準的な耐用年数を超過し,その資産価値(再建設費ベース)は約3兆円と試算されている。また,こうした施設の劣化を原因として,突発事故が発生する事態も生じている。  しかし,国や都道府県,施設管理者の財政のひっ迫等により,当該施設の更新整備が遅延し,その機能の将来にわたる安定的な発揮に支障が生じることが懸念されている。このため,施設機能の診断を行い,その結果に基づき定めた計画に従って必要な補修等の保全対策を継続的に行うストックマネジメントの取組が重要となっている。  このような現状を踏まえ,さらに,後述の参考情報を前提として,以下の設問1及び2に答えなさい。 設問1 国営造成施設に関して,ストックマネジメント体制を構築するために,点検・補修,機能診断,機能保全計画の作成,対策工事の実施という四つのプロセスにおいて,国及び施設管理者がどのような役割を果たすことが必要とされるかを示し,国と施設管理者との間でどのような情報の共有と調整が必要となるのかを論じなさい。 設問2 国営造成施設に関して,保全対策を実施する上で,施設管理者側にとって障害となっている理由を示し,これに対して,保全対策を向上させるために,どのような施策が必要とされるかを論じなさい。 参考情報 1. 農業水利施設の機能を保全するためのストックマネジメントは,以下のAからDまでのプロセスを繰り返しながら継続的に行われるものとされている。また,こうしたストックマネジメントの取組に係る情報(施設の機能診断調査・評価の結果,補修等の対策の実施履歴など)を蓄積して共有することにより,ストックマネジメントの実施の効率化や技術の向上に資するため,電子化されたデータベースを活用するとされている。 A 施設管理者における日常管理における点検,補修 B 施設造成者による定期的な機能診断 C 機能診断の結果に基づく機能保全計画の作成 D 機能保全計画に基づく対策工事の実施 図(データベースと四つのプロセスの関係を示した概念図)省略 2. 農業水利施設は,国営造成施設であっても,これを利用して直接的な利益を受ける地元が自らの利用実態に応じて管理する方が合理的であり,かつ適正な管理が行われるという見地から,土地改良法等に基づき,土地改良区,都道府県,市町村等に譲与されるか,管理の委託がなされている。国営造成施設の多くは,土地改良区に管理が委託されており,農林水産省が自ら施設の管理を行うものは,ごく一部となっている。  しかし,農林水産省では,ストックマネジメントにおいては,財産権者として施設の保守管理に責任を持つ国が,施設の使用状況や設置された環境によって異なる老朽化の程度を統一的な判断基準による客観的なデータ分析によって診断し,長寿命化工法の選定と現場への適用,最終的な全面更新時期を判断する必要があるとしている。そして,農林水産省では,国営造成施設について,その長寿命化を図り,既存ストックの有効活用を実現することが国民経済的視点から不可欠となっているとして,国営造成施設のストックマネジメントの取組を推進するため,同省自ら国営造成施設の機能診断を実施し,機能保全計画を作成している。 3. 平成24年3月30日に「土地改良長期計画」が改定され,目指す主な成果として,受益面積が100ha以上の農業水利施設の機能診断済みの割合(再建設費ベース)を,平成22年度の約4割から平成28年度に約7割とすることが掲げられている。なお,農林水産省は,この対象となる農業水利施設について,国営造成施設に限らず,県営造成施設及び団体営造成施設のうち,受益面積が100ha以上のものも含むと解し,国営造成施設の9割(再建設費ベース),県営造成施設の5割(再建設費ベース)で機能診断を実施することを目標としている。  また,改定後の土地改良長期計画では,目指す主な成果として,国営造成施設のうち受益面積が100ha以上のものについて,機能保全計画の策定率(再建設費ベース)を,平成22年度の約4割から平成28年度に約8割とすることも掲げられている。 4. 総務省行政評価局が行った行政評価・監視の調査報告では,以下の点が指摘されている。  第1に,管理者は,保全対策の実施方針を,造成者である国に報告することが必要(事業実施要綱)とされているにもかかわらず,実施方針が未報告の機能保全計画は386件と,全計画560件の約7割となっている。これは,ストックマネジメントの意義に対する管理者の理解不足等に起因すると考えられている。  第2に,施設の劣化状況を調査し,評価する機能診断や,保全対策の工法・費用等を記載する機能保全計画においては,記載漏れや転記ミスなど,不正確な点がみられた。機能診断においては,69件中22件の計画(約3割)の診断結果に疑問があり,また機能保全計画では69件中44件の計画(約6割)の内容の正確性に疑問があった。  第3に,ストックマネジメントの取組状況について,機能診断実施率及び機能保全計画作成率により評価するとされているが,保全対策等の全国的な取組状況が整理されていなかった。  他方で,施設管理者の側では,機能保全実施方針の報告を行わず,機能保全計画で示す機能保全対策を講じていない理由について, 1 当該対策に要する費用の確保が難しい 2 設備が一応は正常に稼働している間に補修・整備を行うことは,補修整備費用を負担している土地改良区組合員の合意形成が難しい 3 管理する地区内の全施設の機能保全計画の作成を待って,地区全体で総合的に機能保全対策を行うこととしている 4 機能保全実施方針を報告する必要性を認識していなかった などとしている。