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第1編 ≪人事行政≫

第1部 ≪人事行政の動き≫

第2章 これからの行政における公務員の役割 〜副大臣制等の導入下における政と官〜

第一 問い直される公務員の行動


1 政治主導強化の動き

我が国では、明治憲法の制定により近代的国家の基礎が整えられたが、この体制の下で天皇の官吏である官僚が実質的に国政において重要な役割を果たしていた。戦後の日本国憲法においては、国民主権の下、国会を国権の最高機関とし、国会から信任された内閣が行政を担当することによって政策決定や行政運営に国民の意思が反映される仕組みが採られている。しかしながら、法律案の多くや予算案などの策定は、内閣や大臣の統制の下で、与党政策部門等との調整を経て行われているものの、これまで政策決定過程の中枢部において各省庁の公務員が果たす役割が大きいと見られ、「官僚主導」との批判が行われてきた。

近年、政治主導強化の必要性が広くいわれるに至った背景には、以下のような事情があると考えられる。

まず政治・社会的側面からみると、第一に、近年我が国を取り巻く情勢が急速に変化する中、従来の社会経済システムの抜本的な改革や臨機応変の国際対応など、高い戦略性、総合性の下で迅速かつ大胆な政策展開や意思決定を必要とする場合が増えてきており、継続性・安定性を重視する各省の公務員がそれぞれに行う漸進的な改革、対応ではこれに対処できないとの認識が広まってきたことが挙げられる。ここでは、多数の政治任用者によって政策展開が担われているアメリカの例や、多数の政治家が行政府内に入ることで与党と内閣が一体となって政策形成に当たるイギリスの例が想起されている。

第二に、90年代半ば以降、政権交替の経験や小選挙区制の導入を背景に、政党間の競争関係が強まったことにより、各政党は自ら主張する政策の実現に従来以上に関心を持ち、政策に関し行政に対して具体的な注文を付けたり、議員立法により政策実現を目指す動きが生じてきている。

第三に、民間における政策提言機能の充実や情報ネットワークの普及等を背景として、政策の企画立案に必要な深い専門知識と幅広い情報を有する政治家が増加しており、従来以上に政治家が主導的立場で政策立案に関与すべきであるという考え方が強くなっている。

一方、公務員についてみると、これまでは右肩上がりの経済と欧米にキャッチアップするという国民の共通目標の下で、官が主導していく行政システムが有効性を持ち、公務員は戦後の経済復興期、高度成長期、安定成長期とそれぞれに対応する行政運営を適切に行ってきたと評価されている。

しかしながら、いわゆるバブル経済の崩壊、急速なグローバル化などの転換期において、行政の失敗といわれる事例が相次ぎ、均質的人材から構成される公務員集団の政策企画力や調和を重視する行政手法に対し、疑問が出されてきている。加えて、大多数の公務員は引き続き誠実に勤務しているものの、範たるべき幹部職員に不祥事が続発し、清廉で有能というこれまでの公務員に対する国民の信頼が揺らいできていることが挙げられる。

また、国民の意識としても、国政の政策立案に主体的に参画すべきであるという志向が強まっており、公務員ではなく選挙を通じて国民から選ばれた政治家が国民の声を反映した政策立案を主導すべきとの期待が生じている。

2 政策過程と公務員

政治主導の要請が高まった背景を考えるについては、さらにこれまでの政治と公務員の関係を概観し、そのような関係において具体的にどのような公務員の行動が問題とされ、政治主導の強化がいわれるに至ったかについて整理する必要がある。

(1) 公務員と政治との関係

行政の領域は広く多様であり、公務員と大臣等の政治家との具体的な関係は、行政分野や対象となる事項によって必ずしも一様ではないが、与党との政策調整においては両者が行政府として連携して当たっている。公務員と政治との関係を、政策立案過程においてみれば、おおむね以下のような類型に整理できる。

第一に、今日の我が国の繁栄の礎を築いた外交や安全保障などの国の存立基盤にかかわる重要政策については、内閣と与党の政治決断により基本方針が決定されてきている。政治主導の第二の類型として、税制改正の例に見られるように、与党の政策部門をはじめとする関係議員と公務員が議論を重ねた上で、政治家により実質的な政策の方向付けが行われ、公務員は決定された政策の具体化を担当する領域がある。第三に、最近のNPO法や公務員倫理法の例に見られるように、政治家が担当行政部局等の能力を活用しつつ、主導的に政策を決定する議員立法の場合がある。第四に、担当行政部局の公務員が政策の必要性・優先度や実現可能性を考慮して原案を策定し、大臣までの省内の基本的了解を得た後、関係省庁や利害関係者との調整を行いながら、政府内と与党の了解を得て政策案にまとめ、最終的に大臣の決裁や閣議決定など行政府内の正式手続に付されている類型がある。これが現在の政策立案過程において最も多く見られる類型であることから、官僚主導の政策形成との見方が生じている。

これに対し、執行業務は、通常は政治的な争点となることは少なく、法令や既に決定された基準に従って、公務員により政治とかかわりなく処理されている。しかし、これらの業務についても政治的問題となれば、大臣等の政治的判断を踏まえた対処が行われている。

(2) 指摘された公務員の行動

我が国の政策立案過程におけるこれまでの公務員の行動については、特に近年、政治主導という理念を背景に、以下に挙げるような事例が問題として指摘されている。

これらの事例においては、重要問題について大臣に対する適切な報告等を欠いていたり、手順を踏んで政治の了解を得ることを軽視したとされることが、行政に対する政治による民主的統制が十分でないとの議論をもたらした。

3 新たな政官関係に向けての課題

平成13年から新たに副大臣、大臣政務官が各府省に配置されることになり、これまでにも増して行政府内における政治家の役割が増大することから、行政運営を効率的、効果的に進めるため、大臣、副大臣等の政治家と公務員のそれぞれの役割を明確にし、両者が適度の緊張関係とパートナーシップをもって機能し得るようにする必要性が生じてきている。あわせて、大臣、副大臣等の政治家の行政に対する関与の在り方について、行政の中立・公正性等の要請の観点から改めて確認することが求められている。

また、このような政官関係の変化を踏まえ、これからの公務員に求められる役割を念頭に置きつつ、今後の人事管理施策の方向性を明らかにする必要がある。


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