前(節)へ 次(節)へ

第1編 ≪人事行政≫

第1部 ≪人事行政の動き≫

第2章 これからの行政における公務員の役割 〜副大臣制等の導入下における政と官〜

第二 近代的公務員制度の意義と公務員の特質


副大臣、大臣政務官制導入後の政治と公務員との関係を考えるに当たっては、政治の民主的統制の下で行政を支える仕組みとしての公務員制度の意義や公務員の特質について認識を深めることが不可欠である。

1  公務員制度の歴史的展開と現状
(1)  欧米諸国の公務員制度の歴史と政官関係の現状

現代国家では、外交、防衛、司法等の国家の基本的機能にとどまらず、社会保障や教育等広範な領域に及ぶ行政サービスを企画し、指導する行政国家や福祉国家といわれる現象が共通に見られる。行政を支える公務員制度については、国によって様々な沿革を経てはいるが、行政の中立・公正性を担保するとともに、継続性・安定性や合理性を確保するため、一定の任用資格及び専門能力に基づいて採用される職業公務員を基本として制度化されることが一般的である。

ア  イギリス
(職業公務員制の成立と特色)

イギリスでは、議会制度が発達する過程で政権交替に伴って幹部公務員の更迭が繰り返される情実任用が生じ、行政の専門性や中立・公正性が侵されるところとなった。これに対処するため、19世紀後半には公務員制度改革が行われ、これにより情実人事を排除し、成績主義に基づく資格任用制が確立された。

イギリスの公務員制度においては、政党政治に伴う政権交替を前提に、政権交替が行われても引き続き適切に機能する職業公務員制が成立している。すなわち、政策は政党や政治家が決め、政権交替が行われた場合にも社会的威信を持つ公務員が専門家としてこれを支えるという政官関係が形成され、各政党もこれを尊重する伝統が保持されている。近年変化の兆しもあるが、各省の活動の責任は政治家である大臣に帰するとされ、公務員はその黒子として匿名の存在に徹することが伝統であり、この匿名性が公務員の政治的中立性にかかわる重要な要素と考えられている。

(政策形成過程における公務員の役割)

政策立案過程を見ると、重要な政策はマニフェストと呼ばれる公約として政党が準備し、各省に入る閣内大臣、副大臣、政務次官によって具体化されることを基本とし、公務員は所管行政についての専門知識と蓄積された経験等を基に、必要に応じて、大臣に意見を具申し、政策の修正を助言することが求められる。与党と内閣・各省の政治指導部は一体化していることから、政府与党の政策立案機能は内閣に一元化されている。

(執行過程における公務員の役割)

伝統的に執行業務の多くは地方公共団体などにゆだねられており、また、近年は各省の行う執行事務の多くの部分がエージェンシーにゆだねられ、大臣から独立して執行されている。

(公務員人事への政治のかかわり)

政治家は一般に公務員人事への介入を自制する伝統があるといわれている。事務次官、局長の人事については、事務次官を中心に構成される6、7人の委員会での検討を経て、職業公務員の代表たる内閣書記官長が首相に推薦し、通常は首相がこれを受け容れて、事務次官は首相が、局長は大臣がそれぞれ任命する。部長以下の人事は各省の事務次官が決定する。

イギリスの大臣行動規範

議院内閣制と職業公務員制の長い伝統を有するイギリスにおいては、大臣(閣内大臣、副大臣、政務次官の総称)について、その行動規範などを取りまとめた「大臣規範」が首相から発出されている。

この規範の原型は1917年に初代の内閣書記官長が作成した文書「大臣の手引き」である。その後、度々加筆され、「大臣のための諸手続」と称されていたが、1997年7月に、題名を「大臣規範」と改めるとともに首相の序文を付すなどの改訂がなされた。

大臣規範には、本章に関係する行動規範として、次のようなものがある。

  • ○ 下院議員である大臣は、大臣の立場と選挙区選出の議員の立場とを常に峻別しなければならない。

    ○ 大臣は、党派的目的のために政府の人的、物的資源を用いてはならない。大臣は、公務員の政治的中立性を尊重しなければならず、公務員に対し公務員綱領に反するいかなる行為も求めてはならない。

    ○ 大臣には、次の責務がある。

    • ・ 政策の決定に当たって、その分野に通じた公務員の中立的な助言に対し、他からの助言と同様に適正な考慮を払う責務
    • ・ 公務員の政治的中立性を尊重し、公務員に公務員綱領に抵触するような行為を求めない責務
    • ・ 公務員の任命への影響力が党派的目的のために濫用されないようにする責務
    • ・ 部下の公務員の雇用条件について、善良な雇用主の義務に従う責務

    ○ 公務員は、政治的中立性について疑念を抱かせかねない行為あるいは公的資金から給与を受ける者が党派の政治的目的に利用されているとの批判を招きかねない行為を求められるべきでない。

イ  アメリカ
(職業公務員制の成立と特色)

アメリカでは、大統領制の下、公職を国民に開放すべきとの考え方などから、大統領の選挙を支援した支持者等の行政のアマチュアを公務員として任用する猟官制といわれる政治任用が幅広く行われてきた。19世紀後半に至り、非能率、腐敗等をもたらす猟官制の弊害に対する批判が高まり、資格任用制と政治的中立性に立つ職業公務員制が、行政執行に当たっている下位官職に導入され、次第に上位官職に拡大された。

大統領の政治任用者が企画立案等の行政の中枢を占める仕組みは現在まで継続しており、局長以上の幹部を中心に行政府内に約3,000人が政治任用されている。一方、成績主義原則と身分保障が適用される職業公務員も本省局長に次ぐ官職まで昇進が可能とされ、連邦行政の担い手として欠かせないものとなっている。職業公務員の昇進には限界があることから、職業公務員の意欲を高め行政の能力を向上させるため、政治任用者数の削減や職業公務員集団の確立と活用の必要性が議論されている。

(政策形成過程における公務員の役割)

政策立案には、議会や大統領府等の多くの機関の政策担当者がかかわるため、複雑な調整を要するといわれている。政策立案は政治任用者の役割との意識が強く、職業公務員は専門家としてこれに助言を与えることで補佐している。各省内には政治任用者を中心とする長官室のような組織が置かれ、これが政策調整の中心となっている。

(執行過程における公務員の役割)

個別の許認可や補助金交付の審査等を含め、一般的な行政執行事務は政治任用者がかかわることなく、職業公務員が専ら行っている。

倫理規程が政治任用者にも職業公務員にも共通に適用される。

(公務員人事への政治のかかわり)

本省の局長相当以上の官職は上院の承認を得て大統領が任命することとされている。このほか、部長級ポストの10%以内及び大統領府や長官室等のスタッフ等が政治任用とされている。これらの官職に就く者は大統領又は長官と進退を共にすることとなる。

ウ  ドイツ
(職業公務員制の成立と特色)

18世紀以降の絶対君主制の下、君主を代理して国を統治する機構として資格任用制や終身生活保障を基礎とする官僚制が整備されたが、特に旧領主体制を打破し近代的な中央集権国家体制を形成する必要から、官僚には市民社会の部分利益に偏することなく国家利益を貫徹するという中立性(超然性)が特に重視された。

19世紀後半からは給付行政領域の拡大等に伴い、国と私的契約関係に立って勤務するグループが形成され、国に勤務する者は「公勤務者」として、官吏(ベアムテ)、職員(アンゲシュテルテ)、労働者(アルバイター)の3グループに分けられている。

戦後も、連邦基本法は官吏の終身職制と国の扶助義務等の伝統的職業官吏制度の諸原則を官吏制度の基本としている。

官吏は政治的中立性を求められているが、伝統的に官吏の被選挙権は否定されておらず、現在も、連邦議会の半数近くの議員が公務員身分(各州公務員が中心)を有しており、政治への公務員のかかわりは大きい。

(政策形成過程における公務員の役割)

政策は内閣又は担当大臣の政治的意思により決定される。その過程で公務員は大臣に選択肢を示すなど専門的、技術的補佐を行う。また、主要政策は連立与党間の協議を経て決定されるため、政策調整会議が中心的役割を果たしている。その際には、公務員が実務的に参画し、補佐している。立法化作業等は与党内の作業グループが中心となって行うが、担当公務員は実務家としてこれに協力する。

(執行過程における公務員の役割)

連邦制を採っていることから、行政執行事務の多くは州や自治体の業務とされている。歴史的な経緯から、執行事務のうち徴税・警察など公権力行使に当たるものは官吏、その他の事務は職員・労働者が分担している。

(公務員人事への政治のかかわり)

幹部公務員を含め官吏については、メリットシステムに基づく資格任用制が採られ、その資格要件を充足する官吏が任命される。他方、局長以上の官吏については、大臣との信頼関係を重視する必要から、「政治的官吏」とされ、大臣の意思によりいつでも一時退職させることができることとされている。一時退職の場合には一時退職恩給が支給される。

エ  フランス
(職業公務員制の成立と特色)

絶対王制の下で、売官制を特徴とする国王の官僚制が成立したが、フランス革命により、解体された。19世紀に入り、職業公務員制が芽生え、国家活動の拡大を背景に官僚養成学校の設立などを基礎に大規模な官僚制が成立したが、統一的な法典はなかった。

第二次大戦後、初めて統一的な公務員法が制定されるとともに、新たに設立された国立行政学院(エナ)や理工科大学校(エコールポリテクニック)等を通じた民主的な高級官僚群の採用が確立され、これらのエリート教育機関と結び付いた社会的威信の高い強力な官僚制が維持されている。公務員身分を持ったままでの議員就任等公務員の政治活動に寛容な制度が採られているほか、官僚から直接大臣に任命される例も多い。

(政策形成過程における公務員の役割)

政策立案においては、大臣に直結して政策の立案や調整に当たる官房(キャビネ)が力を有しており(事務次官職はない。)、エナの卒業生を中心とする比較的少数のスタッフがキャビネの一員として大臣により政治任用される。この場合、キャビネの幹部職員はグランコールと称される会計検査院職員群、国務院職員群及び財務監査官群の3職員群から任用されることが多い。首相府のキャビネの長が召集する各省のキャビネの長の会議で主要な政策が調整されることが多いといわれる。

(執行過程における公務員の役割)

個別の許認可などの行政執行事務は、大臣の決裁を要する重要案件を除いて、職業公務員が処理している。大臣の決裁を要するものは、事前にキャビネにおいて審査されるが、政策調整の場合と異なり、キャビネの影響力は大きくないといわれる。

(公務員人事への政治のかかわり)

局長やキャビネの職員は自由任用とされ、エナの卒業生等が多く任用されている。大臣の交替により、これらの公務員の多くは交替し、以前の職や公的企業の職に就くことが多い。

(2)  我が国における公務員制度の発展
(戦前期)

明治維新後、遅れて近代化した日本では、欧米諸国に追いつくことが国家目標とされ、明治憲法の制定に先立って資格任用制に基づく官吏制度が導入された。戦前の官吏は、天皇の官吏として独自の正統性を与えられており、天皇が任命権を有するとともに、官吏制度も議会が関与しない勅令によって定められ、その改正は枢密院諮詢事項とされていた。

官吏の人事に対する政治の影響は、時期によっても省によっても一様ではないとみられる。明治末頃までは超然として政党の外に立つ内閣の下でその人事に藩閥の影響があったとされるが、大正時代になって政党政治が興隆すると、次官や参事官を自由任用の官職として政党員を任用する「猟官」が見られ、また、昭和初期には、知事や選挙を取り締まる内務省の地方官等に休職を用いた政治任用が見られた。その後、戦時体制が確立するとともに、人事に対する政党の影響力は失われた。

行政執行の面では、公共土木事業を除けば、現在と異なり補助金や許認可・行政指導などの行政活動の領域が狭く、政治の影響も限られていた。また、その影響も政党自身の盛衰と軌を一つにするものであったといわれている。昭和10年代以降は、いわゆる国家総動員体制の下、官吏は、免許、監察などによる経済活動に対する広範な規制や各種資源の配分、財源の中央集権化と地方への補助金の配分などによる統制経済の仕組みを発足させ、戦時下の産業、国民生活の維持等に当たった。

(戦後期)

戦後、日本国憲法の定める国民主権の下、公務員を選定し、罷免することは国民固有の権利と定められ、公務員は「全体の奉仕者」へとその基本的性格が転換された。これを受け、公務員制度も国会が法律により定めることとされ、成績主義に基づく採用・昇進と身分保障、厳正な服務規律の確立など民主的で効率的な公務員制度の確立のための基本原則を明らかにし、これらの確保の任に当たる中央人事行政機関として人事院を置くことなどを内容とする国家公務員法が制定された。

戦後における経済復興とそれに続く経済成長を可能とした要因の一つとして、新しい国家公務員制度の下における公務員の貢献が挙げられている。近年の公務員不祥事や公務員中心の行政運営に対する批判が強く出されるまでは、公務員は国民から有能で清廉であり行政の公正性を維持するものとして信頼を得ていた。公務員は時として政治家の判断に抗して長期的視点に立って公益を追求する役割さえ期待されていた。しかし、既に第一で述べたように、我が国をめぐる状況変化や近年の様々な出来事によって現在公務員に対する国民の信頼には揺らぎが生じている。

2  公務員の特質
(1)  公務員制度の意義

主要諸国の状況にみられるように、国政において公務員の果たす具体的役割は、歴史的、社会的条件によって異なるものである。しかし、近代民主主義国家確立の過程の中で、各国とも行政の非党派性と専門性・効率性を確保するため、成績主義と身分保障に裏打ちされた職業公務員制度を取り入れてきている。

現代国家においては、国や時代によって程度の違いはあるものの、政治主導の下、大臣等の政治家と公務員が行政府内で役割分担を行い、それぞれの役割に応じて活動している。とりわけ、多数の法令を適正に執行すること、市場や社会のルールを設定・適用・監視すること、年金等社会のセーフティネットを提供することなど、現代社会を支える様々な行政サービスが安定的、継続的、効率的に供給され、さらにこれらの行政活動からのフィードバックを基礎として社会経済等の実態に即した政策の企画立案がなされるためには、組織化された専門家集団が不可欠である。この専門家集団を規律するものとしての公務員制度は、中立・公正で効率的な行政のための基盤をなす重要な意義を持つものである。

(2)  公務員の特質と機能

職業公務員の特質と機能は次のように整理される。

ア  専門性の確保

複雑・高度化した現代社会では、行政の対象となる公共的な領域が拡大するだけでなく、それぞれの領域内でも専門分化や問題の複雑化が進んでおり、課題を正確に把握し、状況の変化に即した適切な政策の企画立案や現実的対応を図るためには高度の専門能力や専門知識が求められる。公務員はそれぞれの行政分野において、長年にわたり蓄積した知識や経験を基礎とし、実情に通じた実務家であることにより行政の専門性の確保に貢献している。

また、公務員は、日々の実務を通じて所管行政に関する情報を幅広く知り得る立場にあり、既存の政策の効果や当面する課題に関連する情報などを組織的に収集し、また蓄積・分析することにより、政策立案に寄与している。

イ  政治的中立性の確保

議院内閣制においては、政党は内閣を通じて行政にかかわるものとされている。公務員は、正当に選挙されたいかなる政党の内閣に対しても忠実に奉仕するとともに、政党や個々の政治家から直接の指図を受けないという政治的な中立性が認められている。議院内閣制の下で、与党の決定は直ちに公務員を拘束するものではないが、公務員は閣議決定等の行政としての正式な手続を経た決定に従う義務がある。

議院内閣制の下、重要政策の方針や内容の決定は、内閣にとっての重要なテーマであり当然のこととして政治性を持たざるを得ない。そうした重要政策の企画立案への公務員のかかわりは、「政治性」を帯びざるを得ないが、内閣の一員たる大臣が分担管理大臣として行う政策の企画立案・決定を公務員が専門家として補佐することに伴うものであるから、公務員の当然の職務として大臣の政治的意思に基づく指示に即して立案することが求められる。

政治家は国民に選挙された存在であり、民主的正統性を有するが、選挙の勝利に向けて部分利益や短期的利益の誘惑を受けやすいとの見方から、公務員に専門知識に依拠しつつ長期的視点に立って国民全体の公共的利益を保持することを求める考え方もある。この立場に立てば、党派的利益の排除、平等取扱いや長期的国益の確保などの広い公共性の観点に立って、公務員が行政府内で一定の役割を果たすことが期待されることになる。国民が、公務員に対し厳しい自己規律と高い専門能力を求め、不祥事に厳しい批判をすることもこのような役割に対する期待があるためと考えられるが、行政に対する政治の民主的統制と職業公務員の非代表性という視点からは、このような期待には自ずと限界があるべきものと考えられる。

公務員と国民との関係をみると、行政は法令に基づきすべての国民に対し、中立的に執行されるべきものである。「行政の中立・公正性」を確保するため、行政はすべての国民に対し、平等に法令や手続を適用することとし、行政執行を担う公務員には、党派に偏することのない政治的中立性を求める一方、不当な人事上の影響が及ぼされることがないよう身分保障を行うこととされている。

なお、行政の中立性に関連して、行政府内の大臣等の政治家の行政活動についても、法律の適用や行政資源の配分等を特定の党派的立場に立って行ってはならないことは、国民の要請するところと考えられる。

ウ  継続性・安定性の確保

国民が安んじて日々の生活をおくるためには、法令に基づき行政が粛々と行われ、改革が行われる場合にあっても、新しい法令に従ってできる限り混乱なく安定的に執行される必要がある。

一般に、政治には理念や主義主張を重視し、政策課題や目標を設定し、実施することによって社会の変革を主導することが期待されるのに対し、公務員は法令や専門的見地から合理的な視点に立った判断が行われるよう政治を補佐すること、政権交替にかかわらず法律に基づく基準の下で行政運営に当たることによって社会の継続性や安定性を確保する役割を担っている。

また、公務員は、専門家集団を構成する人材を確保・育成し、組織内に情報や経験を蓄積することにより良質の情報を政治に提供することによっても、行政の継続性や安定性の確保に貢献している。


前(節)へ 次(節)へ
© National Personnel Authority