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第1編 ≪人事行政≫

第1部 ≪人事行政の動き≫

第2章 これからの行政における公務員の役割 〜副大臣制等の導入下における政と官〜

第三 これからの公務員の役割


1 基本的な考え方

現実の国政では、政治家と公務員がそれぞれの特質に応じて、政策の企画立案、決定、執行などの具体的事務を担っている。行政府内の政官関係において公務員が果たす役割は、各国様々であるとともに、時代の流れの中で変化しており、理念的に決まるというよりも、国民の意識、時代状況、その時々の政党・政治家と職業公務員の現実の能力等によって異なり得るものである。

また、留意されるべきは、政治任用される者の行政府内における位置付けによっては、公務員のモラールに影響を与えることである。

日本においては、近代国家建設に着手して以降、様々な経緯や変革を経たものの、戦後は政治と公務員の安定的な関係の下で行政が行われてきていたが、近年、厳しい公務員批判と政治主導の強化の中で、政治と公務員の実際の役割分担にも変化が生じつつあるといえよう。

今後の新しい政官関係において、公務員がその専門能力、中立性等の特質をいかしてその使命を果たすためにどのような役割を担うべきかについては、行政における民主制の原理の下で、中立・公正性の確保や成績主義に基づく人事の要請が尊重されるよう、社会的な合意形成の必要がある。

2 政治との関係における公務員の役割

行政事務を、政策立案に関する事務と執行に関する事務とに画然と分けることは難しいが、具体的イメージを得るため、ここではあえて、政策の企画立案に関する事務と決定された施策の執行事務に分けて、政治とのかかわりにおいて公務員の果たすべき役割について述べる。また、行政機関が業務を円滑に行うための組織管理、予算管理、人事管理などの内部管理の事務のうち、人事院が所掌する行政運営の基盤としての公務員の人事管理に関する事務を取り上げる。

(1) 政策の企画立案過程で公務員に求められる意識と役割

〜大臣・副大臣等の良きパートナーに〜 (政治主導の政策立案過程)

国家の重要政策や担当大臣が特に強い関心を持つ政策の企画立案は、多くの場合政治主導で行われており、関連の制度や運用の実務に通じた公務員が、技術的な情報、知識を提供するとともに、大臣等を補佐して政策課題を政策の素案として具体化し、法案化する作業を担当してきている。今後、副大臣制等の導入により政治が活躍する分野が広くなるものと考えられる。

(公務員発議の政策立案過程)

政策課題は、政党の選挙公約や利益団体の働きかけなどによって提起されるものもあるが、その多くは日々の実務や蓄積された行政情報の分析を通じて、政策のニーズを把握する立場にある公務員によって政策立案過程に提起される。公務員が新しい政策を立案しようとする場合には、与党の政策部門をはじめ関係者との調整が図られるが、公務員には、政党等との対外調整の過程などの節目節目で大臣、副大臣等への適切な報告、説明が求められるとともに、政策内容については大臣等と十分議論を重ね、最終的な判断をあおぐ必要がある。この場合の大臣、副大臣等と事務当局との具体的な関係は、両者の信頼関係に応じ様々な場合が想定されるが、仮に、包括的に任されている場合であっても決定にかかわる重要事項については報告する必要がある。

このように現在は行政に対して、政治の側の意思は大臣と与党の双方から伝えられることになるが、行政における政治主導を確立し、公務員の政治的中立性を明確にするという観点からすると、政治の意思は大臣等の行政府内の政治家により伝えられるよう一元化することが望ましいと考えられる。

(適切な公務員の役割の発揮)

行政府内での政策立案過程においては引き続き公務員が重要な役割を担うことが期待されるが、この場合、公務員は次のような点に留意すべきである。

第一に、特に政党内や政党間など政治の領域における調整については、公務員は大臣等の補佐役として、政治家の役割と自らの役割とを混同しないよう心がけるべきである。

第二に、公務員側は、新たに導入される副大臣、大臣政務官に対しても積極的に報告し、情報を共有していくことが求められる。副大臣、大臣政務官が政策の企画立案や政党内・政党間の調整などにおいて十分な役割を果たせるよう適切に補佐する必要がある。そのため、副大臣、大臣政務官が公務員と一体となって政策立案に当たれるよう日常的な会議等を通じ、情報を共有し、共に議論を行うなどの体制を整備していく必要がある。

この場合において、円滑な政策形成のためには、公務員に示される大臣、副大臣等の意向は一体的であることが期待される。

第三に、議員立法など政党内の政策の立案作業に協力する場合には、所管行政の方針にかかわる情報の提供、意見の提示などについては、公務員は大臣等の了解を得て行う必要がある。今後、民間シンクタンク、NPO等の行政府外の機関が政策立案能力を高め、その提起した政策が政治によって取り入れられることも考えられるが、公務員はその政策の実施可能性や効果などを予測し、専門的見地からその内容に関する意見を述べるという役割が期待される。

(2) 執行事務における政治家と公務員

〜尊重されるべき行政の中立・公正性〜 (執行事務の担当)

国民は等しく行政サービスを受ける地位にあることから、法令の実施や予算の執行は、一定の基準に従って公正かつ効率的に行われる必要がある。こうした執行事務は、基本的には、公正中立な立場で公務に従事することをその使命とされている公務員が担当することがふさわしいものである。政治任用の伝統の強いアメリカにおいても、政治任用者は政策立案や執行事務の全般的な監視にその役割があると認識され、個別具体的な執行事務は、党派的な考慮を排し、定められた基準の公正な適用を任務とする職業公務員が行うこととされている。

(執行事務の基準化と政治への報告)

許認可等の決定や補助金の交付決定などについて、その基準が不明確であったり、裁量の幅が大きい場合には、執行に当たる公務員の恣意的な対応や政治による情実的な関与を招くおそれがある。これに対処するためには、裁量を伴う行政分野について、詳細な基準の設定、行政手続の明確化や情報公開の推進により、基準の客観化、透明化を進める必要がある。その場合、専門的、技術的な事項に係る基準の設定は、公務員の行うべき事務と考えられるが、国民の関心が高く重要な事項に係る基準の設定については、政治責任を負う大臣に判断を求めることが適当であると考えられる。

また、実質的に公務員に執行がゆだねられている場合についても、その執行の最終責任は政治家である大臣が負うことになることから、公務員は、基準等に従い、かつ、効率的に執行するとともに、社会的な問題に発展しかねないと判断される案件については適切に大臣に報告することが求められる。公務員に決定が委任されているような場合についても、その状況に応じて適切に事前了解や、事後報告が行われる必要がある。

(執行事務と政治家)

行政の執行が中立・公正に行われるためには行政府内の政治の側の協力も不可欠と考える。行政府内の政治家には、行政機関がその業務執行の過程において得た情報の取扱いや許認可などの行政上の権限行使について、行政府の一員として、行政の中立・公正性の確保の観点から慎重な行動が求められる。

行政府の一員としての政治家の行動ルールについては、イギリスにおける大臣行動規範の存在や行政府職員の倫理の保持を政治家と一般職員とで区別していないアメリカの倫理規程の例なども参考となろう。

(3) 公務員人事

〜成績主義原則の尊重〜

(メリットシステムの重要性)

公務員の人事に関し、情実任用を排し、成績主義に基づく任用(メリットシステム)を行うことは、公務員制度の意義で述べたように、長い歴史的経験を踏まえて確立した原則であり、専門性や中立性などの公務員の特質を維持し、公務能率の確保、腐敗の防止等を図る上で不可欠である。

我が国においても戦前には政治任用により官吏に政党色が生じ、政権交替時に官吏の異動・更迭が繰り返されることがあったが、戦後は、成績主義原則が適用される一般職の公務員の任命権は、所管行政について責任を負う各省大臣に付与されるとともに、任命権の行使については、勤務実績や専門能力等に基づいて行うこととされている。

このような成績主義を原則とする公務員制度の下で、公務員の人事については、事務官以下の人事担当スタッフが長期間の観察による能力・適性・実績の評価とその記録の蓄積に基づき、大臣に説明し、その了承を得ながら自律的に適材適所の配置を行う運用が定着してきている。

(公務員人事の自律性)

公務員人事について、政治が抑制的であり、職業公務員によって自律的に行われてきた背景には、大臣が必ずしも任用候補者の能力・適性を十全に把握できない状況の下、人事当局が職員の能力・適性等を的確に把握した上で党派的な影響や情実によらない人事を行うことによって、長期的な視点を持った公正で適材適所の人事が可能となり、職員の高いモラールが維持されるという考え方が支持されてきたことがある。加えて、このような公正で適材適所の人事によって若い有為な人材の誘致に資すること、党派的な影響を排し、広く国民に公務への平等な機会を提供することにより、自由で活力ある社会の形成に資すると考えられたこともある。また、政治の側において、党派性を有する限られた者を活用するよりも、自律的な公務員人事を受容することにより、専門家集団全体の信頼や忠誠心を得るメリットが大きいとしてきたことも考えられる。

政治において最終的な統制の手段としての任命権を留保しつつ、公務員人事の自律性が原則的に受容されてきたのは、このような自律的人事の意義にかなう一つの知恵であるといえよう。今後とも、公務員人事におけるメリットシステムの意義と政権交替にかかわらず時の政権に仕える職業公務員制度の意義が十分に理解され、自律的な公務員人事の価値について政治の側で十分な配慮が行われることを期待したい。

公務員側も、厳正な規律を維持し、いやしくも国民の指弾を受けないようにすることや公務員の役割を逸脱するような行為を慎むことはもとより、時の政権に専門家として適切な助言を怠らず、決定された政策についてはこれを誠実に執行することが人事の自律性を保つ前提となることを自覚する必要がある。年次による一律的な人事を廃し、能力のある者を適材適所で登用することも重要である。また、自律的な公務員人事の保持については大臣との接点にある事務次官が適切な役割を果たすことが肝要である。

政治主導による業務運営やそのための公務員人事への政治の関与の在り方については、各国において事情を異にしており、我が国においても様々な議論が行われてきたところである。政治主導の強化を理念として行われた今回の一連の改革においては、各府省に副大臣、大臣政務官制が導入されるとともに、内閣主導の行政運営の確保の一環として、大臣が事務次官、局長等の幹部公務員の任命を行う場合に内閣の承認を得ることとする仕組みが導入されている。こうした新たな仕組みの下で、実際に経験が積み重ねられる中で、公務員人事の中立・公正性の確保の要請を踏まえつつ、政治主導の理念と調和した公務員人事のあるべき姿を模索していく必要がある。


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