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第1編 ≪人事行政≫
第1部 人事行政の動き
第1章 行政のパワーアップを目指して〜第2ステージを迎えた民間人材の活用施策の展開〜
はじめに
公務員人事管理をめぐっては、その運用における閉鎖性、硬直性などの諸問題が繰り返し指摘されている。人事院は、このような指摘がある中で、公務組織を開かれたものとすることによって公務の活性化を図る必要があるとの認識の下、有為な民間人材の円滑な採用、さらには官民の人的交流の促進に資する施策の検討を進め、順次制度化を行ってきている。(図1)
図1 民間人材の活用施策の概要

採用の円滑化を図るための施策としては、
- 1) まず平成10年に、中途採用に伴う不利益を解消するために弾力的な給与決定を可能とすることなどを内容とする中途採用システムを設け、
- 2) 平成12年には、人材がより円滑に流動できるよう、必要な場合には任期を定め得ること、またその任期中に従事する業務にふさわしい給与の支給を可能とすることについて法律制定の意見の申出を行い、これに基づく法律が成立し施行されている。
また、平成9年には、民から官という一方向の人材の流動化だけでなく、官民の相互理解・人材育成を図るとの視点から相互に交流する制度の創設について意見の申出を行い、これに基づく法律が平成11年に成立し、平成12年に施行されている。
本章では、これらの施策の果たしてきた役割・意義を振り返りつつ、課題と今後の展望について示すこととしたい。
1 民間人材の活用施策の概要民間人材の採用については、それぞれのニーズに対応した施策に取り組んできたところであるが、その概要は次のとおりである。
(1) 民間人材の中途採用システムア 背景
一般行政部門においては、新規学卒者を対象に広く競争試験を行い、合格者を係員に採用した上で、部内育成を図ることを基本とした人事管理を行ってきている。一方、社会全体の情報化、国際化の進展等に伴い、行政課題が複雑・高度化してきており、部内の養成では得られない高度の専門性や多様な経験を有する人材を公務に確保することの必要性が高まっている。そこで、国内外の博士号取得者や民間での専門的な業務経験を有する者等について、競争試験による採用によることなく、公務に必要とされる能力、専門的知識等を有するかどうかを検証し、それらの人材を円滑に採用していくことができるよう、弾力的な中途採用システムの整備を図ることとし、平成10年3月に規則1-24(公務の活性化のために民間人材を採用する場合の特例)を制定、同年4月に施行したところである。
イ 制度の概要
試験採用者と同等の給与に決定 |
平成15年3月までに15の府省において489人が採用されている。採用事由別にみると、高度の専門的知識経験を有するもの(イ(ア)1))として弁護士、公認会計士等38人、実務経験等を有するもの(イ(ア)2))として原子力保安業務、衛星管制業務に従事する者等334人、多様な経験等を有するもの(イ(ア)3))として南極観測隊員等117人となっている。(表1)
表1 規則1-24に基づく民間人材の採用状況

採用数は増加傾向を示しており、人材確保方法の一つとして定着してきていることがうかがえ、特に新規業務を立ち上げる場合で、専門知識を必要とする分野において大幅な人員拡充を行う時などに採用数が大きく伸びる傾向にあり、このシステムが有効な方策であることを示している。
なお、平成12年度以降の採用実態を職制段階別にみると、課長補佐クラス及び係長クラスで大半を占め、管理職クラス以上での活用はほとんどない状況となっている。各府省は、中途採用者の有する専門的な知識経験を現場の第一線で活躍する課長補佐・係長クラスにおいて活用する傾向にあるといえる。
(2) 官民人事交流システムア 背景
行政の全般にわたってより一層の機動性、柔軟性、効率性等を持たせるためには、人材の流動性を高め、その中で人材の育成を図る必要があることから、具体的方策として、
- 1) 公務とは異なる業務遂行の手法を体得している民間企業の従業員を国の職員として採用すること(「交流採用」)
- 2) 国の職員を、民間企業の業務に従事させ、その業務遂行の手法を体得させ、民間企業の実情に関する理解を深めさせること(「交流派遣」)
を内容とする官民交流を実現するため人事院は国会及び内閣に意見の申出を行い、平成11年12月に官民人事交流法が制定された。(図2)
図2 官民人事交流制度の概要

|
平成15年3月までに国の機関から民間企業への交流派遣が5府省17人、民間企業から国の機関への交流採用が9府省63人となっており、交流実績は次第に上がってきている。しかしながら民間企業への派遣者が少なく特定の府省に限定されていること、国への採用は20〜30歳代の若い層が多く管理職ポストへの採用実績がないことなど、官民人事交流の活発化はまだ不十分であり、一層制度の積極的な活用が望まれる状況である。(表2)
表2 官民人事交流法に基づく交流状況

ア 背景
平成10年6月に中央省庁等改革基本法が成立し、平成11年4月には中央省庁等改革の推進に関する方針が決定されたが、この方針においては、行政課題の変化等に応じて必要な人材を弾力的・機動的に公務部内外から確保できるよう、内閣官房及び各府省に行政の外部から特定分野に関する専門的な知識経験等を有する人材を任期を限って採用し、給与等の適切な処遇を行えるよう、新たな任期付採用制度の整備を図ることとされた。
人事院は、これらの要請等を踏まえ、公務に有用な専門的な知識経験等を有する者を任期を定めて採用し、高度の専門的な知識経験等を有する者についてはその高度の専門性にふさわしい給与を支給することができる制度の整備について検討を行い、意見の申出を行った。平成12年11月に人事院の意見の申出に基づいた任期付職員法が制定・施行された。
イ 制度の概要
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平成15年3月までに16の府省において144人が採用されている。採用事由別にみると、高度の専門的な知識経験等を有するもの(イ(ア)1))として弁護士、公認会計士等105人、適任者を部内で確保することが困難であるもの等(イ(ア)2))としてコンピュータ・セキュリティ業務、原子力保安業務に従事する者等39人となっている。(表3)
表3 任期付職員法に基づく採用状況

行政遂行上の要請から専門性の高い任期付職員への依存は高まり、施行後毎年度、その前年度を上回る採用実績となっている。また、幅広い府省において着実な活用が図られてきており、今後はより広い行政分野に活用が拡大するものと考えられる。
任期付採用の実態を職制段階別にみると、採用者のうちの半数近くは課長補佐クラスとなっているものの、指定職クラスを含めた管理職クラスでの活用も相当数あり、この点において、中途採用制度や官民人事交流制度とは異なった特徴を有している。
2 現状の分析等(1) 現状の分析
平成10年以降、人事院がそれぞれのニーズに対応し整備、運用してきた民間人材の採用施策について、関係者の意識を把握することを目的として、平成15年2月、各府省人事担当者や各採用施策によって民間から採用された職員等を対象に、民間人材の採用に関するアンケート調査を実施した。
<調査対象者>
<主な調査内容>
|
このアンケート調査の結果による民間採用者(規則1-24に基づく中途採用職員、任期付職員法に基づく任期付職員及び官民人事交流法に基づく交流採用職員をいう。以下同じ。)、交流派遣者(官民人事交流法に基づく交流派遣職員をいう。以下同じ。)、民間採用者の上司・同僚(各府省における民間採用者の上司・同僚をいう。以下同じ。)、各府省人事担当者及び民間企業人事担当者が抱いている公務に対する印象、官民交流の効果等は以下のとおりである。
ア 公務、民間企業に対する印象(ア) 民間採用者の公務及び公務員に対する印象
民間採用者の公務及び公務員に対する印象をみると、民間採用者にとって、公務員は仕事の緻密さ、正確さを重視しつつ、勤勉に業務を遂行しているが、前例を重視する傾向が強く、また、コスト意識に欠けているとの印象を持っている。(図3)
図3 民間採用者の公務及び公務員に対する印象

(イ) 交流派遣者の民間企業に対する印象
同様に、交流派遣者の民間企業に対する印象についてみると、交流派遣者にとって、民間企業は、コスト意識と柔軟な考え方や変化への対応力を持って、迅速かつ臨機応変に業務を進めているが、前例や仕事の緻密さ、正確さは比較的重視されないとの印象を持っている。(図4)
図4 交流派遣者の民間企業に対する印象

全体としてみると、交流派遣者、民間採用者のいずれも、選択肢として掲げた全ての項目についておおむね7割以上の者が改善すべき(「そう思う」又は「ややそう思う」)と回答しているが、改善すべきと回答した者の割合は、ほとんど全ての項目において交流派遣者が民間採用者を上回っている。
また、5割以上の者が「そう思う」と積極的に改善の必要性を感じている項目についてみると、交流派遣者では「事務手続を簡素化、迅速化する必要」、「業務に応じた適正な人員配置をする必要」、「意思決定を迅速化し、機動的に対応する必要」、「長時間勤務の実態を改善する必要」の4項目であるのに対し、民間採用者では「コスト意識を高め効率性を上げる必要」、「事務手続を簡素化、迅速化する必要」の2項目となっており、同様に交流派遣者が民間採用者を上回っている。(図5)
図5 公務と民間企業とを比較した場合の公務における改善すべき点

このように、公務から民間企業に派遣されている交流派遣者において、広範囲にわたり、より強く改善の必要性が指摘されており、また、指摘のあった項目からは、適正な人員配置により業務の迅速化、簡素化を図る必要性が強く認識されている様子がうかがえる。
ウ 民間人材を採用することによる効果(ア) 民間採用者からみた効果
民間採用者のおおむね9割以上が「民間企業等で培われた専門知識、実務経験を公務で活用」を挙げており、また、「公務部内における多様な発想、価値観の確保」、「情報量の拡大」、「職員の視野の拡大」についても8割以上の者が良い影響があったと評価している。
しかし、「コスト意識の向上」について効果があったとする者は4割台にとどまっており、この点に対する評価は分かれている。(図6-1)
図6-1 民間採用者からみた民間人材を採用することによる効果

(イ) 民間採用者の上司・同僚からみた効果
民間採用者の上司・同僚のおおむね9割以上が、民間人材を採用することによる効果として、「民間企業等で培われた専門知識、実務経験を公務で活用」、「職員の視野の拡大」、「公務部内における多様な発想、価値観の確保」を挙げている。
しかし、「コスト意識及び効率性向上」、「手続よりも結果を重視」、「顧客志向」などの項目について効果があったとする者の割合は低い。
このように、民間採用者の上司・同僚は、民間人材を採用することによる効果を多くの点で認めつつも、これによりコスト意識、効率性、顧客志向等を向上させることの難しさを指摘している。
なお、マイナスの影響として懸念していた「価値観の違いによる能率低下」、「チームワークの乱れ」については、9割以上の者が否定的に回答している。(図6-2)
図6-2 民間採用者の上司・同僚からみた民間人材を採用することによる効果

(ウ) 各府省人事担当者からみた効果
各府省人事担当者の9割が、民間人材を採用することによる効果として「公務部内における多様な発想、価値観の確保」、「民間企業等で培われた専門知識、実務経験を公務で活用」、「公務組織が活性化」を挙げている。
他方、民間採用者の上司・同僚と同様、「コスト意識の向上」、「手続よりも結果を重視」、「顧客志向」に対する評価は相対的に低い。また、マイナスの影響として懸念していた「価値観の違い等による能率低下」や「チームワークの乱れ」については8割以上の者が否定的に回答している。(図6-3)
図6-3 各府省人事担当者からみた民間人材を採用することによる効果

このように、民間人材を採用することによる効果については、各府省人事担当者も民間採用者の上司・同僚とおおむね同様の評価をしている。
(エ) 民間企業人事担当者からみた効果
民間企業人事担当者の9割以上が「民間企業で培われた専門知識、実務経験を公務で活用」を挙げており、また、「情報量の拡大」、「民間と国との間の相互理解が進む」、「公務部内における多様な発想、価値観の確保」について8割以上の者が、その他の項目についても7割以上の者が良い影響があるとしており、公務が民間人材を採用することによる効果を広範囲にわたって高く評価している。
このように、民間企業人事担当者が、その効果を広範囲にわたり高く評価している背景には、官民交流に対する期待も含まれているものと推察される。(図6-4)
図6-4 民間企業人事担当者からみた民間人材を採用することによる効果

(ア) 今後の民間人材の活用施策の方向
今後の民間人材の活用施策の方向についての民間採用者、民間採用者の上司・同僚、各府省人事担当者及び民間企業人事担当者の考えは次のとおりである。(図7)
図7 今後の民間人材の活用施策の方向

-
1) 民間採用者
- 民間採用者では、今後の民間人材の採用は「大幅に拡大すべき」との意見が62.1%を占めており、他の調査対象者に比べ、民間人材の活用について最も積極的な評価をしている。
ちなみに、これを活用施策別にみると、交流採用職員61.4%、任期付職員71.3%、中途採用職員49.2%となっており、相対的に交流採用職員、任期付職員の中に「大幅に拡大すべき」との意見を有する者が多い。
2) 民間採用者の上司・同僚
- 民間採用者の上司・同僚の全体では、今後の民間人材の採用は「大幅に拡大すべき」との回答は40.2%にとどまっているが、これを活用施策別にみると、任期付職員の上司・同僚が39.0%、中途採用職員の上司・同僚が12.9%であるのに対し、交流採用職員の上司・同僚は64.9%となっており、交流採用について積極的な評価がなされている。
3) 各府省人事担当者
- 各府省人事担当者では、今後の民間人材の採用は「大幅に拡大すべき」との回答が14.7%、「現状維持又は現状をやや上回る程度の増加でよい」との回答が64.7%となっている。民間人材の採用実績のある府省(20府省)の人事担当者に限定してみても、「大幅に拡大すべき」との意向が20.0%、「現状維持又は現状をやや上回る程度の増加でよい」との意向が80.0%となっており、今後の民間人材の活用の方向の決定権を持っている各府省人事担当者が最も消極的であることは注目すべき点である。
4) 民間企業人事担当者
- 今後の民間人材の採用は「大幅に拡大すべき」と「現状維持又は現状をやや上回る程度の増加でよい」との回答が半々(各46.2%)となっており、いまだその評価が確立されていない様子がうかがえる。
- 民間採用者では、今後の民間人材の採用は「大幅に拡大すべき」との意見が62.1%を占めており、他の調査対象者に比べ、民間人材の活用について最も積極的な評価をしている。
ちなみに、アンケート調査において、官民人事交流法に基づく交流採用により公務に人材を送り出している民間企業人事担当者(19社から回答)にその理由を尋ねた(複数回答)ところ、「人材育成」(12社)、「官民相互理解の促進」(11社)、「行政の考え方・仕事の仕方を学ばせ、今後の業務遂行に活用」(9社)となっている。
今後の民間人材の活用施策の方向についての考えをみると、民間採用者は制度の活用に前向きであるのに対し、民間人材を受け入れる立場である各府省人事担当者が最も消極的であり、民間採用者の上司・同僚、民間企業人事担当者がその中間となっており、総じて、民間サイドが積極的であるのに対して、公務サイドは消極的といった興味深い結果となっている。
(イ) 今後の民間人材の採用は大幅に拡大すべきとする理由
今後の民間人材の採用は「大幅に拡大すべき」として積極的に評価している者にその理由(複数回答)を尋ねたところ、民間採用者、民間採用者の上司・同僚及び各府省人事担当者では「専門性を必要とする部門への民間人材の積極的活用は効果的」との回答が最も多く挙がっており、専門性の確保、活用という観点を評価しているのに対し、民間企業人事担当者では「公務の効率化、質の向上を実現するためには民間人材の積極的導入が不可欠」との回答が最も多い。また、「公務は多様な人材を確保していくことが必要」との回答は、いずれも5割を超えている。(図8)
図8 今後の民間人材の採用を大幅に拡大すべきとする理由

このように制度の活用に積極的な見方をしている関係者は、民間人材の専門的知識経験及び多様な人材の確保の点にメリットを感じている傾向が表れている。
(ウ) 現状維持、現状をやや上回る程度でよいとする理由
今後の民間人材の採用は「現状程度を維持するあるいは現状をやや上回る程度の増加でよい」と回答した者にその理由(複数回答)を尋ねたところ、いずれも「公務の特性から業務遂行の基本は維持しつつ民間人材をケースに応じて活用」すべきであることを理由として挙げている者が最も多い。(図9)
図9 現状維持、現状を上回る程度でよいとする理由

民間採用者、民間採用者の上司・同僚、各府省人事担当者及び民間企業人事担当者の回答(複数回答)を比較すれば図10のとおりである。
図10 民間企業等の人材がより円滑に公務に採用されるために必要なこと

それぞれ最も必要であるとしている項目をみると、民間採用者は「民間人材の活用方針の明確化」を、民間採用者の上司・同僚は「専門知識等が活用できるポストでの採用」を、各府省人事担当者は「給与面の改善」を、また民間企業人事担当者は「企業を退職することによる不利益解消」を指摘しており、それぞれの立場を反映した異なる結果となっている。
また、公務サイドと民間サイドという観点からみると、各府省人事担当者は「給与面の改善」を強く指摘しているが、民間企業人事担当者及び民間採用者は給与処遇に力点を置いていない状況がみられる。一方、民間企業人事担当者が指摘する「民間人材の必要性についての各府省幹部職員の十分な理解」についての公務サイドの認識は低い。
しかし、民間企業人事担当者が重視する「企業を退職することによる不利益の解消」や民間採用者の上司・同僚が重視する「専門知識等が活用できるポストでの採用」については、他の調査対象者はそれほど重視していないなど、同じ公務サイドや民間サイドの指摘であっても、置かれている立場により、重視する項目には若干の違いがみられる。
なお、いずれの調査対象者においても、「就職先の斡旋」、「任期の長期化」を指摘する者は少ない。
カ まとめ民間採用者の公務及び公務員に対する印象は、「公務員は仕事の緻密さ、正確さを重視しつつ、勤勉に業務を遂行しているが、前例を重視する傾向が強く、また、コスト意識に欠けている」というものであり、一般に公務に対する印象とされているものが、実際に公務での勤務を経験した民間採用者の目を通して改めて確認されている。一方、交流派遣者は民間企業及び従業員に対して「コスト意識と柔軟な考え方や変化への対応力を持って、迅速かつ臨機応変に業務を進めている」という印象を持っており、両者の印象は極めて対照的である。
また、公務の改善すべき点についてのアンケート結果をみると、公務から民間企業に派遣されている交流派遣者において、広範囲にわたり、より強く改善の必要性が指摘されており、これは、交流派遣者がその実務経験を通じて広範囲にわたり官民の相違を肌で感じていることの表れと考えられる。これらの結果からは、公務における業務遂行方法の在り方について、改善に努めるべき点が示されているものといえる。
他方、民間人材を採用することによる効果をみると、民間採用者、民間採用者の上司・同僚、各府省人事担当者及び民間企業人事担当者のいずれもが「民間企業等で培われた専門知識、実務経験を公務で活用」するという点を第一に挙げている。このことは、行政を取り巻く社会経済情勢の変化やIT化の進展等を背景として行政が複雑・高度化する中で、民間人材の採用が、公務において必要な人材を確保するための重要な方法の一つとして評価されていることの表れと考えられる。
今後の民間人材の活用施策の方向についてみると、民間採用者がその拡大に積極的な意向を示している一方で、各府省人事担当者の多くが現状維持かやや上回る程度の増加でよいとの意向を有しており、必ずしも需給バランスが取れているとはいえない。現状維持かやや上回る程度の増加でよいとする意見の理由として、公務における業務遂行上の特性が多く挙げられているが、このことは、公務では法律や予算、関連する制度施策等を考慮して業務を行う必要があり、そのためには、長期にわたる職務経験を有する者による業務遂行が基本とならざるを得ないとの考え方が背景にあるものと考えられる。
しかしながら、民間採用者の上司・同僚には「大幅に拡大すべき」とする意見が4割程度あり、実際に民間採用者を受け入れている現場のニーズはそれなりに存在している。また、アンケート調査において、今後の活用の可能性を尋ねたところによれば、各府省のうち、官民人事交流法、任期付職員法又は中途採用制度による採用実績がない府省の人事担当者の中には、「条件が整えば検討したい」、「有用な人材の応募があれば積極的に採用を検討したい」、「多様化する行政の新たなニーズに対応するため、部内確保が困難な業務が生じた場合に検討したい」、「今後採用の方向で検討する」といった潜在的なニーズが見受けられたところであり、このような公務部内の潜在的ニーズをどのように実際の採用、交流に結び付けていくかが今後の課題の一つとして浮かび上がってくる。
このような点をも含め、今後の民間人材の円滑な採用に必要なこととして、公務サイド(各府省人事担当者及び民間採用者の上司・同僚)においては、「給与面の改善」などの処遇面での改善のほか、「採用ポストの確保・拡充」、「民間人材の活用方針の明確化」(さらに、民間採用者とより密接に接している民間採用者の上司・同僚からは「専門知識が活用できるポストでの採用」)といった民間人材の採用方法についての工夫・検討の必要性が認識されている。また、民間企業人事担当者からは、これに合わせて「担当業務(職責)の明確化」、「民間人材の活用方針についての各府省幹部職員の十分な理解」といった民間人材の採用に伴う公務部内での環境整備が求められていることは、今後の検討の方向を示唆するものと考える。
「同じ庁内でありながら、担当部局が具体的に何をしているのか、どのような手続を経て処理を行うのかが明確にされていない部分が多く、些細なことまで担当部局との交渉やお伺いをしなければ話が先に進まないと言う場面に遭遇することが度々あり、このような時に、「なぜこの程度のことに時間をかける必要があるのか。これが役所というものか」と思うわけです。もっともそれはマニュアルの有無だけではなく、情報やノウハウが個人に帰属しており、一定のルールに従い組織にフィードバックされて蓄積されるような仕組みになっていないことに問題があるのではないかという気もするのです。」
「実際に公務員として勤務してみて、民間企業の仕事のやり方との違いを感じることが当然多くあります。幾つかの場面で意思決定のスピードの違いに非常に戸惑ったこともありました。しかし行政の仕事は状況を慎重に検討し、幅広い意見を聞きながら結果を出すものであることも事実です。大切なことはお互いの考え方を知ることであり、相互理解を深めることだと思います。一国の経済の中で行政機関と民間企業の活動は密接に結びついており、人事交流という形で刺激を与え合うことは組織の交流という面だけでなく、各々の組織における人材育成といった観点でも非常に有益だと私自身感じています。」
「民間にいたときは、野村総合研究所という民間シンクタンクで、国内を中心に経済動向の分析と予測、規制改革や社会保障改革の影響などを分析していました。国内経済の調査ということでは、民間のときと仕事の内容はさほど変わりませんので、それまでの民間シンクタンクのノウハウを使うことができます。特に大きな違いといえば、民間では統計を利用する立場にいたのが、こちらでは統計を作成する立場になったことでしょう。(中略)立場は逆転したとはいえ、かつては利用する側にいたものですから、「こうなっていると利用者はありがたいのではないか」とか「こんな情報があったら役に立つだろう」というように、利用者の側に立ったアイデアが湧くときもあります。そのようなアイデアをもとにして、地域経済動向や景気ウォッチャー調査などの改良も続けています。」
「官民人事交流法に基づき採用された職員は、各々の職務の現場から、なくてはならない存在として受け止められている。また、民間都市開発の推進などは、民間企業で培った能力や知識を職務上生かせるだけでなく、そうしたノウハウを周りで働いている職員が吸収できるというメリットがある。(中略)当省は特に官民人事交流法に基づく人事交流に積極的に取り組んでいる。その理由は、今後、ますます複雑かつ高度化する行政課題に適切に対応していくためには、有能な人材を外部から適材適所で確保しつつ、公務員を民間に派遣して多様な経験を積んだ職員として育成していくことが必要であると考えるからである。(中略)人事交流が進めば官民双方の理解が深まり、派遣されてきた民間企業の職員の方に当省の職員がいかに真摯に行政に取り組んでいるか実感していただけるはずである。一方、我々の業務において国民の立場から乖離したものの見方をしていれば、そうした職員に指摘されることで、新たな政策立案の刺激材料になると考えられる。」 |
今回、民間人材の活用施策の在り方を検討するに当たり、行政学者、労働経済学者等の有識者10人からヒアリングを行った。ヒアリング結果の主な内容は次のとおりである。
ア 政策の企画立案に携わるべき人材政策の企画立案に携わるような基幹的ポストへの民間人材の活用については、政策の企画立案に必要な能力は長期間の公務経験によってこそ培われるもので、民間人材は公務部内の人材を支援していく位置付けにとどまらざるを得ないといった意見がある一方、適切な政策転換を実施するためには、公務に採用された民間人材を新しい人材層として積極的に政策の企画立案に当たらせていくことが必要であり、その前提としてどうしても閉鎖的になりがちな公務の人事管理に対する人事担当者の意識改革を進めることが重要であるとの指摘もあった。
イ 幹部への採用政策判断に関わる公務の幹部に民間人材を採用することについては、民間人材は民間企業等でのキャリアが長ければ長いほど調整や折衝といった公務独特の仕事の進め方に戸惑い、幹部としての十全な能力の発揮は望めない、あるいは公務独特の部内組織間の調整が必要なライン的業務には対応できないとの意見もあったが、その一方で、効果的な民間人材の活用のためには、局長等の幹部クラスにまで採用の範囲を広げる必要があり、採用後に公務部内の職員による適切なサポートさえ得ることができれば、仕事の進め方等公務の特性に十分対応できるとの意見もあった。
ウ 組織マネジメント能力の専門性民間人材を公務の幹部へ採用することの意義や効果に関連して、組織幹部の持つべき組織マネジメント能力についての言及もあった。我が国では、これまで、公務、民間とも、マネジメントに関する知識と能力を専門職的に位置付けることをしないまま、組織の中にはめ込んで初めてマネジメント能力の発揮を求めてきたが、今後は、官民を問わず、幹部の組織マネジメント能力を客観的に評価し、その専門性の位置付けを明確にしつつ組織に取り込む必要がある。現状においてこれを独立して評価することは難しいことではあるが、これを行わないまま、民間人材をいきなり公務の幹部に採用しても、効果的な民間人材の活用は望めないとの意見が示された。
エ 民間人材の活用をめぐる留意点公務の幹部への採用を含めた民間人材の採用一般についての留意点として、民間人材の採用が公務の閉鎖性打破や活性化をも目的とするのであれば、民間人材の採用に加え、公務部内の人材の育成の仕方、活用の在り方をもう一度見直す必要があるとの意見や、単に民間人材の採用者数だけを増やせばよいというものではなく、民間企業等の中でも優秀な人材を採用していくことこそが重要であるとの提言も示された。
オ 阻害要因の除去民間企業を退職して公務に入ることは、再就職(復帰)の保証がないリスクを負うことから、このリスクに配慮した再就職の受皿が必要といった意見のほか、民間人材をより円滑に活用するためには、公務に入る際に著しく給与が下がることのないようにするなど、生活の保障の面に配慮することが重要であるとの意見もあった。
(3) 民間企業・諸外国の状況民間企業における雇用情勢及び諸外国における民間人材の活用施策の状況は以下のとおりである。
ア 民間企業における雇用情勢(ア) 民間企業における雇用流動化の傾向
社会全体の労働移動の傾向について調査した厚生労働省の「雇用動向調査」(平成14年8月)によると、我が国の労働移動率は、昭和50年以降、若干の波はあるものの、約30%前後で、ほぼ横ばいの状態が続いている。景気の低迷が長引く中、高度成長期のような生産の増大による労働需要が望めない状況の下、社会全体において活発な雇用の流動化が起きているとはいえない情勢にある。
これまで、我が国企業は、新技術の導入や新規分野の立上げに対しては社内人材の能力開発や配置転換により、また、産業構造の変化に対しては新規学卒者の採用を積極的に行うなどの対応を基本としてきている。厚生労働省の「産業労働事情調査」(平成14年7月)においても、経済のグローバル化の下での企業の人材能力の確保については、「内部社員の能力開発の強化」(60.2%)が最も高く、次いで「中途採用者の採用で対応」(52.1%)との結果となっている。企業の多くは、社内人材の部内育成によって必要な人材を確保することを基本としつつ、直面する専門的技術・技能等の確保のために必要な場合には、中途採用による人材確保を適時実施する傾向にあるとの見方ができる。
(イ) 民間企業が中途採用者に期待するもの
中途採用の実施において企業が重視する項目について調査した厚生労働省の「雇用管理調査」(平成13年6月)によれば、職種によるばらつきはあるものの、いずれの職種においても共通している重視項目は「職務経験」となっている。企業としては、外部組織等において専門的な知識経験を醸成し、成果を生み出してきた当該人材のキャリアに価値を見い出し、即戦力としての活躍を期待しているといえる。
一方、複数の大手企業の人事担当者によれば、中途採用による効果としては、「即戦力」が最も重要な効果であるものの、受入側の企業が有する文化とは異質の文化を持った外部人材が企業内に入ることによる組織の活性化や多様化、企業体質の改善といった副次的効果も無視できないとの意見があった。
(ウ) 中途採用に対する労働者側の意識
厚生労働省の「ホワイトカラーをめぐる採用戦略の多様化に関する調査研究報告書」(平成12年3月)によると、企業を自己都合で退職した者の約47%が「前の会社や仕事に将来性がなかった」としており、昨今の厳しい雇用削減や賃金抑制の下、将来の雇用不安、仕事そのものに対する不満が増大するといったことが転職希望の主な理由であることがうかがえる。その一方で、「自分が保有する能力・適性や専門性を活かせる仕事がしたかった」(約38%)、「専門性の向上や、キャリア形成につながる仕事がしたかった」(約33%)との結果もあり、転職を前向きにとらえる傾向も読みとれる。
現在、企業が実力主義の処遇体系を採りつつある中、中途採用者にとってその専門的知識経験を活かし得る環境が今まで以上に整えば、新規事業の立上げ等に積極的な企業を中心に中途採用が活発化する可能性があるといえる。
(エ) 労働関連法制改正の動き
産業構造・企業活動の変化や労働市場の変化が進む中で、経済社会の活力を維持・向上させることを目的として、労働契約期間の上限の見直し等に係る法改正が予定されており、平成15年3月7日、労働基準法の改正法案が国会に提出された。
この改正法案のうち、民間企業における外部人材の活用に関係する主なものが、有期労働契約の期間の上限についての改正であり、上限を現行の原則1年を3年に延長するほか、公認会計士、医師等専門的で高度な知識等を必要とする業務に従事させる場合には5年とすることが可能となるように措置することとされている。
イ 諸外国の状況(ア) アメリカ
アメリカには、民間人が1年間、大統領府、連邦政府機関に研修生としてフルタイムで勤務することを内容とする「ホワイトハウス・フェローシップ(White House Fellowships)」の制度がある。応募資格は、連邦政府職員(軍人を除く。)以外の大学卒業者でアメリカの市民権を有する者に認められている。この制度の目的は、有為な人材に連邦政府の高度の政策決定、政策遂行の過程を体験させることによって、国の問題に参画する感覚を増進させ、将来国への貢献を期待することとされている。研修生は毎年10〜20人で、通常の服務規定が適用され、給与は一般俸給表(GS)14等級3号俸(年間約83,000ドル)に一律に格付けされる。同窓会及び基金が組織化され、研修生の選考、広報・募集等の活動が積極的に行われている。元研修生には、アマコスト元駐日大使、パウエル国務長官をはじめ多くの著名人がいる。なお、公務から民間への派遣制度はない。
また、公務員の採用は空席に応じて通年行われることから、民間からの中途採用が特に制度化されているわけではない。他方、政策立案の中心となるのは政治任用者の役割であるという位置付けの下で、局長以上の幹部を中心に、行政府内に約3,000人が政治任用されている。
(イ) イギリス
政府が推し進めている公務改革プログラムの一環として官民交流があり、政府は、各省庁が積極的に公務内外における人材の相互交流を行うことを奨励している。
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1) 公務から公務外への派遣
2) 公務外から公務への派遣
- 公務外から公務への派遣も上記同様に行われており、2001年度においては、長期派遣(Secondments)は1,120人、短期派遣(Attachments)は62人であった。
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公務から公務外に派遣される職員は、公務員としての身分を保有し、公務員としての服務(秘密保持、服務規律)の規制を受ける。
派遣に当たっては、年齢やグレードに関する制限はなく、各省庁ごとの運用に委ねられている。
派遣には次の3種類がある。
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(i) 長期派遣(Secondments)
- 派遣期間は、3か月から3年以内。
- 派遣先となる業種は、国内企業、欧州連合・国際機関等、多岐にわたっている。
- 2001年度の公務外への派遣は2,115人であった。
(ii) 短期派遣(Attachments)
- 派遣期間は通常3か月以内。
- 長期派遣同様、派遣先となる業種は様々であるが、2001年度の場合、ボランティア・慈善団体への派遣が約70%を占めている。
- 2001年度の公務外への派遣は484人であった。
(iii) 執行権のない役員待遇(Non-Executive Opportunities)による派遣
- 執行権のない役員として会議などに出席させるもので、2001年度の派遣者は72人となっている。
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なお、公務外から派遣される職員は、公務員と同様の服務規制を受ける。
また、イギリスにおいては一定の上級官職については公募を行うこととされており、通例は公務員から登用されるが、次官クラスについても民間から採用されることもある。
(ウ) フランス
フランスにおいては、公務員を民間に派遣するための特別な制度は設けられていないが、公務員が一時的に民間で働くことは珍しくなく、例えば、公務の中核を占めているENA(国立行政学院)の出身者の一部は、国営企業や民間企業での経験を積みながら政府内での地位を上げていく。こうした場合、休職(la disponibilite)制度が利用されている。休職の期間は3年を限度とし、通算して10年を超えない範囲で更新することができる。休職は、過去5年間にその企業の監督又は当該企業との契約の締結等に関与していないことを要件とする。
民間出身者を公務に採用する方法としては、部外向け採用試験及び民間企業等での勤務経歴を有する者を対象とした第3種試験の実施のほか、一般的ではないが、特定の高級職に公務以外の者を抜擢する外部者登用(le tour exterieur)制度がある。外部者登用制度とは、一部の職員群に公務内外から直接職員を採用することである。その理由は一般的利益のための最良のサービスを行うことと、公務をその他の世界に開放することにある。この点で政府による自由裁量の任用とは異なる。
(エ) ドイツ
ドイツでは、連邦行政アカデミー(連邦内務省の付属機関)が民間企業体験研修を実施しており、毎年10〜15人程度の管理職(課長級)が、民間企業における経営手法や意思決定過程に触れることを目的として、民間企業に派遣されている。逆に、民間企業の従業員を公務に派遣するプログラムは見当たらない。また、幹部行政官(局長級)と民間企業の幹部職員が人事政策に関して意見交換を行う3日間の研修が実施されている。
なお、終身官吏として任官される前に実施される2〜3年の準備勤務中の実務修習において、数か月間の民間企業における勤務体験を選択できる場合がある。
また、公務から民間への転職、民間から公務への中途採用は、ともに稀である。なお、各省の事務次官、局長等特定の官職は政治的官吏として法定されているが、通例は公務員の中から登用される。
3 民間人材活用の課題と今後の展望(1) 民間人材活用の意義
グローバル化、情報化等が急速に進む中で、国民の期待に応え的確な行政運営を機動的に行っていくためには、次のような視点が重要になっている。
- ・ 多様性、柔軟性 - 幅広い視野を持ち、既存の慣行にとらわれない、創造性に富む発想・思考方法が求められる。
- ・ 専門性 - 効果的な行政を行っていくためには、職員の専門能力を一層高めることが必要である。
- ・ コスト意識、サービス精神 - 全体の奉仕者としての自覚をもって無駄をなくし、国民の目線に立った業務遂行が必要である。
- ・ 経営的感覚 - 行政を効率的・効果的に進めるためには、経営的感覚をもって施策を展開していくことが必要である。
- ・ 組織の活性化 - 構成員個々人が自らの職務に意欲的に取り組み、創造性をはじめ全体としてもより大きな活力を発揮できることが求められる。
公務内にあっては、部内育成を図る中で、研修等も通じこれら諸要素に的確に対応し得るよう様々な努力がなされているが、1)人材の供給を主に新規学卒者に依存していること、2)行政が府省単位で遂行されており、その中では府省特有の文化が形成されてしまうことなどから、内部的な努力だけではこれら諸要素に十分応えきれないことも事実である。したがって、民間人材を登用し、公務において不足していると考えられる部分を補完していく必要性がこれまで以上に高くなっている。
また、今回実施したアンケート調査結果をみても、「仕事の緻密さ、正確さを重視しつつ、勤勉に業務を遂行しているが、前例を重視する傾向が強く、また、コスト意識に欠けている」など、公務特有の仕事の仕方の問題点が、公務外からの人材登用さらには官民交流等によって浮かび上がってきている。
(2) 民間人材活用の拡大ア 民間人材活用制度の利用拡大
繰り返し指摘されている行政運営の閉鎖性やセクショナリズム等を改めるための方策として民間人材の活用は有効な方策であるが、現状における民間人材の活用実績をみると、採用側に意欲はあるものの具体的な取組に結びついていないケースもあるなど、まだ十分とはいえない状況にある。民間人材の活用の意義を踏まえ、現行諸制度の活用について、各府省において、十分な再点検を行うことにより、民間人材活用制度の利用拡大を推進していくべきである。
公務が新規学卒者を中心とする部内育成型に依存すると、組織の中の閉鎖性や発想方法の硬直化など、様々なよどみを生じさせるおそれがある。このため、行政に更なる活力を与えるためには、異なる経験や発想を持つ有能な民間人材を公務に迎え入れていく必要がある。また、公務員が民間企業などに派遣された経験を行政に活かしていくためにも、人の循環、交流を一層進めていくことが重要である。
イ 目的に応じた戦略的活用民間人材の活用に当たっては、公務における必要性に応じて適切に制度を活用していくことが重要である。政策の企画立案に重点が置かれる場合、行政の実現のプロセスに重点が置かれる場合など様々な場面が考えられるが、行政の展開の方向性に応じた一定の導入目的をもって、戦略的に行っていく必要がある。
これまで整備されてきた制度はそれぞれの意義があることから、必要に応じて適切な制度の活用を行うことによって、最適な状況を作り出すことが必要である。例えば、公務として最新の専門的知識を活用するために任期付採用が適当な場合もあれば、その後の成長を期待して任期を定めない中途採用が適当な場合もある。あるいはむしろ交流採用による組織の活性化が有意義な場合もあり、これらの方法のうち個々の状況で最も相応しい人材を適切な制度を活用して確保することが、組織全体としてみて最も大きな効果をもたらすことになる。
(3) 民間人材活用の拡大のための条件整備今後、民間人材の活用を図り、質の高い効率的な行政を行っていくためには、次のような条件整備が必要である。
ア 方針の明確化民間人材の配置、その後の育成等について将来展望を明確にする必要がある。特に中途採用職員については、行政職の課長補佐、係長レベルでの採用が多いが、その後の昇進を含め、キャリアパスをどのようにするかを明らかにしておく必要がある。
イ 採用に当たっての能力の実証民間人材を採用する場合に、その能力の実証を客観的に行うことは必ずしも容易ではないが、例えば、複数の関係者からなる選考委員会での審査などにより、選考の透明性を確保して能力を検証する措置を講じることが必要である。また、採用に当たって公募制を導入するなどの措置も検討する必要がある。
ウ 採用の阻害要因の軽減・除去現行制度においては、前記2(1)オにみられるように、民間企業を退職することによる不利益、民間人材の活用方針が不明確であることなどの問題があり、円滑な民間人材採用のために障害・阻害要因となっているものについては、それを軽減又は除去する必要がある。特に民間企業を退職することに伴う不利益については、現在、交流採用職員の民間企業との身分併有を認めるようにすることなどの措置が検討されており、これらについても、民間人材の活用を円滑に図る観点に立って的確に対処していく必要がある。
エ 適切な評価システムの整備民間人材の採用は、主にその者の有する専門能力、業績等に着目して行われるものであるが、より有能な人材を登用し能力、実績に基づいた人事管理を徹底するために、能力、実績を適切に評価する仕組みを整備することが急がれ、また、その民間人材の能力や業績に対し客観的な評価をすることは、例えば、任期満了後などにおけるその人材のその後の職業生活にとっても有意義である。
なお、登用された人材が公務員となることに伴い、まず、全体の奉仕者としての精神、使命感を保持することが重要であり、その上で持てる能力を十分に発揮してもらうことが必要である。そのための方法は様々考えられるが、人事院は平成14年度から中途採用者研修を実施し、全体の奉仕者としての心構え、倫理観のかん養などを含め、公務組織全般に関する基礎的な情報の提供などを行っている。
(4) 政策の企画立案を行う基幹的ポストへの登用前述のとおり、現行制度は採用される人材の特定分野における専門性に着目したものとなっているが、ますます複雑・多様化する行政課題に対して、より有効な政策の企画立案を行うためには、公務内外を問わず有能な人材を登用することが必要であることから、民間人材のそのようなポストへの登用も重要な課題となってくる。
ア 基幹的ポストへの登用公務組織において、機動的・重点的な政策実施のために民間人材をスタッフ的要素のあるポストにおいて活用することは、これまでの実例からも民間人材の能力を活用する上で極めて有効なものと考えられるが、従来は部内職員の昇進によって任用されるものと考えられていた政策立案に当たるポストについても、その業務に関してより適切な人材が公務外にいる場合には、その者を採用して政策立案に当たらせていくことが求められる。
これまで、いわゆる基幹的ポストへの民間人材の登用は極めて少数に限られている。この原因については、公務の特徴である政治との関係の調整やキャリアシステムとの関係、官民癒着への懸念さらには待遇面での格差などが考えられる。今後基幹的ポストへの民間人材の登用を推進していくため、各府省のヒアリング等を行い具体的に対応の在り方を研究していきたい。
イ 部内における育成との関係行政が社会経済情勢の変化に的確に対応していくためには、民間人材の活用と併せて、行政内部での人材育成についても柔軟に見直していくことが必要である。
本府省の幹部要員については、行政の複雑・高度化が進行する中では、これまでのように1、2年といった比較的短期間に異動させゼネラリストとして育成するばかりではなく、計画的に一定の分野に強いスペシャリストを育成していく必要性も高まっている。
民間人材の登用は、採用時における一定の集団を年次一律的に処遇するいわゆるキャリアシステムのもたらす弊害への対応の一つともいい得る。キャリアシステムは、閉じられた集団の中で同一の価値観や非競争性、誤った特権意識が醸成されやすく、ポストの固定化による人事の硬直化がみられるが、この弊害を除去する観点からみても、民間人材の登用は有効な方策の一つである。また、将来の幹部に育成する人材として民間人材を採用し、ポストを巡回させつつ、そのマネジメント能力をさらに高めていくようにすることも公務の活性化に資するものと考えられる。
部内育成と外部人材の活用を有機的に組み合わせることによって、公務の一層の活性化につなげていくことがこれからの公務の人事管理にとって重要な視点である。
ウ 民間人材の幹部登用と政治的リーダーシップ内閣あるいは大臣のリーダーシップの発揮による有能な民間人材の採用については、政策の策定・実施のために公務の内外を問わず有能な人材を活用する意図で行われる場合において、その効果は大きいと考えられることから、その適切な実施は、今後の公務員人事における課題であるといえよう。
その場合、幹部への民間人材の登用に際して、その任用が情実の疑いを抱かせる任用となることはないか、また、政と官の関係の中で、登用自体をどうとらえていくかという問題がある(平成11年度の年次報告書において、政と官の関係について人事院としての考え方を整理している。)。我が国の公務員制度においては国家公務員を一般職・特別職に分かち、後者については内閣総理大臣・国務大臣をはじめとしてその官職の特性から職業公務員に関する規律を適用しないものとしている。前者については、成績主義に基づく任用の下、民主的能率的な公務運営を図っており、職業公務員である一般職公務員については「情実任用」の疑いがかかるような党派性の強い任用とみなされることのないよう、公務の中立・公正性の確保の観点から、能力・資質の実証の適切な実施が確保される必要がある。
なお、いわゆる政治のリーダーシップによる自由な任用(政治任用)を考えるのであれば、まず、一般職と特別職の区分けの在り方、内閣や大臣のスタッフ部門の在り方等について議論を行い、再整理する必要があると考える。
その際には、我が国における人材の需給関係、社会的風土等を認識しつつ議論を進めていくことが必要である。例えば、アメリカの場合には二大政党制における政権交替を前提に、公務組織の上層部の流動性の背景に公務外あるいは州政府における十分な量の人材のストックがあり、かつ、公務から離れた後の雇用市場での受皿もあるといった状況のあることに留意する必要がある。
(5) 採用試験による中途採用の拡大現在実施されている採用試験は、民間企業での業務経験を有する者が受験者に含まれているが、基本的には新規学卒者を対象としている。
今後の我が国全体としての人材の流動性の高まりに応じて、採用試験においてもそれら流動化する人材を受け入れていくため、採用試験における受験資格としての年齢制限を撤廃する方向で検討を進めていきたい。
また、民間人材活用の観点から、一定の民間経験等を有する者を対象とする採用試験についても、専門分野等におけるニーズを調査しつつ、その実施の必要がある場合は、新たな採用試験として検討していくこととしたい。その際には、地方公共団体における取組も踏まえつつ、検証すべき能力、処遇の在り方等を含めて検討することとしたい。
(6) 公務員の民間企業への派遣の拡大公務員を民間企業へ派遣する方法として、現在は、1年以下の場合は民間派遣研修、1年を超える場合は官民人事交流法に基づく交流派遣制度の枠組みがあるが、特に、交流派遣制度の活用については、これまでにみてきたように実績のある府省数、派遣件数とも少数にとどまっている。しかしながら、公務における迅速かつ的確な意思決定、国民に対する良質の行政サービスの提供を行っていくためには、民間人材の採用だけでなく、民間企業における業務遂行方法や発想方法等を職員が実際に経験し、公務復帰後にこれらを活かしていくことが公務運営の改善にとって重要であり、公務員の民間企業への派遣の拡大の取組が各府省において推進される必要があると考える。ことに、民間企業における経験を有する幹部要員を計画的に養成することは、将来的にそれらの者が幹部ポストに就くことによって公務の改善につながるものと期待される。
今後、公務員の民間企業への派遣を拡大するためには、各府省においては民間企業への職員派遣のための推進計画を作成し、人事院においては各府省との連携を強化して、民間企業への受入れ要請を行うことなどが必要である。
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