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第1編 人事行政

第1部 政治任用〜主要諸国における実態〜

第2節 各国の状況

【アメリカ】


アメリカの政治任用は、大統領の政策課題推進のために、行政府の基幹ポストやその側近ポストなどに短期在職を前提に人材を任用していくシステム。その特徴として、1)3,000人にも上る膨大な量、2)各省局長以上は政治任用の対象であるとともに、限定的ではあるがその範囲が一般職員にまで及んでいること、3)大統領と去就を共にするのが基本、4)任命に関する議会や倫理上の厳しいチェック、5)人材供給源が外部人材中心であることなどが挙げられる。

ホワイトハウス

1 政治形態等
連邦制、大統領制の国家形態。厳格な権力分立。二大政党制。
(政治形態)

50州で構成される連邦制で、連邦は国防、外交、造幣、国際・州際間通商の規制といった憲法で委任された権限のみを有し、それ以外の権限は州に帰属する。大統領制の国家形態をとる。厳格な権力分立の原則の下、抑制と均衡に基づく三権の関係が成立している。

行政権は大統領に属し、大統領は国家元首でもある。その任期は4年で、再選は1回のみ可能となっている。大統領は唯一の全国民から選ばれる公職であり(形式的には大統領選挙人を選ぶ間接選挙であるが、実質的には直接選挙)、議会に対してではなく国民に対して直接責任を負う。行政各部門の長官(Secretary:他国の大臣に相当)は、大統領によって任命され、大統領に対してのみ責任を負い、議会とは何の関係も持たない。閣議は開催されることもあるが、重要事項を決定する合議の場ではない。大統領を補佐する大統領府の組織と機能が充実している。

連邦議会は、上院(各州2人の計100人)と下院(人口比で各州に割り振った計435人)から構成され、議会や議員の活動を補佐するスタッフが質・量ともに充実している。大統領と議会の関係として、議会の法律制定に対する大統領の拒否権、各省局長級以上の大統領任命に対する議会(上院)の承認権などが挙げられる。また、大統領と議会は互いに議会解散権、大統領不信任決議を行う権利を有しない。

共和党と民主党の二大政党制である。( 表1 )個々の議員に対する党の組織拘束力は弱い。

●表1 アメリカの歴代政権

(公務員法体系)

公務員制度関係の法律は、「合衆国法典(United States Code: 注1 )」第5部(政府の組織及び職員)に編纂されている。また、倫理関係の法律が同法典第18部(犯罪及び刑事手続)に収録されている。これらの解釈や細目を定めるものとして、大統領令(Executive Order: 注2 )、人事管理庁(Office of Personnel Management)や政府倫理庁(Office of Government Ethics)の規則(Regulation)等がある。

行政府における常勤職員数(文官)は、243万人である(2003年5月現在。米国郵便庁64万人を含む)。


(注)1 50部から成る連邦法律集。連邦議会が各会期に制定した法律は、主題に応じていずれかの部に分類、収録される。
  2 政府業務に関する大統領権限行使のために、大統領が行政機関に対して発する命令。

(2) 政治任用の意味及び対象ポスト
政権交代に伴い異動する者であって、その数は約3,000人。各省局長以上はすべて政治任用であるとともに、上級管理職(審議官、課長級)の1割、一般職の一部(高官の秘書等)も政治任用の対象。
(政治任用の意味)

法令により政治任用として定義されているものはない。しかしながら、政治任用(者)(political appointment(appointee))の語は広く使われ、一般に、政権交代に伴い異動する者で、その在職が任命権者(大統領や各省長官)の随意によるものを指す。これらの者の占める官職には、メリット・システム(成績主義)に基づく任用の原則は適用されない。

(対象ポスト)

政治任用者は、次の4種類に大別できる。

これら政治任用者の総数は約3,000人に上っている。( 図1 )なお、各省ごとの政治任用の総数について、当該省の各年の「歳出予算法」によって上限を設定するという方式が、主要省に広がってきている。

どの官職を政治任用者が占めているかは、大統領選挙にあわせて4年に1度、「合衆国政府の政策推進及びその支援に当たる官職(United States Government Policy and Supporting Positions)」と題するリストが議会により(上院政府問題委員会と下院政府改革委員会が交互)作成、公表される。

なお、徹底した権力分立のシステムをとるアメリカにおいては、憲法上、上・下院議員が行政府の職を占めることは禁止されており、行政府において現職議員が就いているポストが皆無という点で、イギリス、ドイツ等と大きな違いがある。

●図1 アメリカの政治任用者の概要(注1)

(3) 政治任用が行われるようになった経緯及び背景
議員が行政府のポストを兼職できないアメリカにおいて、大統領が各省中核ポストに自ら信を置く、自分と去就を共にする人物を政治任用することは、連邦政府創生期からの伝統。
(経緯及び背景)

議院内閣制をとらないアメリカにおいて、大統領がその政策を推進するために、各省の中核ポストに自らが信を置く人物を政治任用することは、連邦政府の創始者、合衆国憲法の起草者が意図していたことであり、政治任用は当初から大統領制の基本構造の中に組み込まれていた。二大政党制の中で議会の多数党が大統領の反対政党になり得る中(表1)、政治任用は大統領が行政府をリードしていくための不可欠の仕組みと考えられてきた。また、国王の官僚制の伝統があったヨーロッパの主要国と異なり、18世紀後半の連邦政府成立時に各州においても職業公務員制の伝統が存在していなかったこともアメリカの特徴である。

このような背景の下、連邦政府の運営は、民間での仕事を一時的に離れ政府で働き、それが終わるとまた民間に戻っていく政治任用者に当初から依存してきた。

19世紀に入ると政党の組織化が進む中で、公職を広く開放すべきとの考え方も背景に、大統領の選挙を支援した支持者等を幅広く政治任用する猟官制が実施され、特にジャクソン第7代大統領の頃から顕著になった。その後19世紀後半に至り、非能率、腐敗等をもたらすとして猟官制の弊害に対する批判が高まり、メリット・システムに基づく任用と政治的中立性に立つ職業公務員制が、まず行政執行に当たっている下位官職に導入され、次第に上位官職に拡大された。しかしながら、職業公務員制の定着以後も、各省の中核ポストが政治任用者によって担われる事態は変わることはなかった。

(近年の変化及び最近の議論)

政治任用をめぐって、近年、大きな変化はないが、戦後の主な構造的変化としては、1)1957年に一般職にスケジュールCが創設されたこと、2)1978年に上級管理職が創設され、その中での政治任用は10%以内とされたことが挙げられる。

最近の議論としては、1)政治任用者について上院審査や倫理上のチェックなどの任命手続にあまりに時間が掛かり、また、審査が厳格過ぎるとしてその簡素化を求める議論や、2)職業公務員の昇進には限界があることから、その意欲を高め行政の能力を向上させるため、政治任用者の削減や職業公務員の一層の活用を求める議論などがある。

(4) 政治任用の任命権者、手続及び実質的な選抜方法
各省局長以上は、原則、上院の承認を要する大統領任命。それより下は、ホワイトハウスの事前承認の下に各省長官が任命。政治任用者についてはメリット・システムに基づく任用の原則が適用されない。

各省局長級以上の政治任用者、各省のそれより下のレベルの政治任用者、ホワイトハウスのスタッフそれぞれについて、次のとおり整理できる。

なお、政治任用者の任用は、メリット・システムに基づく任用の原則から除外されているため、職業公務員のように選抜の基準を明示的に定めたり、任用者の能力を実証したりする必要はない。

(各省局長級以上の政治任用者)

法律で設置される各省の局長級以上の官職については、原則として、上院の承認に基づき大統領が任命する。このレベルの官職のうち、例外的に上院の承認を要さないものがあるが、その範囲は官職を設置する法律を制定する議会の判断に委ねられており、一般的に、専門技術的な官職についてそのような取扱いがなされている。

これら大統領任命者のうち、閣僚・準閣僚級(長官、副長官等)については、大統領が側近と相談しつつ、必要に応じて直接面接したりして、自ら人選すると言われる。他方、大統領が自ら人選しない者については、政治任用についての大統領の補佐機関であるホワイトハウスの大統領人事局(Office of Presidential Personnel:大統領補佐官のうちの一人が局長を務める)と各省の政治任用担当部局(長官官房のホワイトハウス連絡官等)が協議して候補者を絞っていく。一般的にはホワイトハウス側に主導権があるとされている。

候補者について大統領の内諾を得た後、FBI(連邦捜査局)などの協力も得て信用上及び倫理上の観点から候補者の経歴調査が行われる。この過程で、採用予定省との利害関係などについて疑義があると判断された場合は、その是正措置(関係業界の株の買換え等)を行う。

その後、上院承認が必要な官職については、まず関係委員会において公聴会及び採決が行われた後、本会議での採決が行われる。大統領の指名から上院承認まで平均で87日かかっているという統計がある。大統領が指名した候補者のうち約1割は上院審査を通過できない(この場合、何らかの困難が生じた時点で候補者が辞退する形をとるのがほとんどで、本会議の採決までいって拒否される率は低い)。

(上級管理職及び一般職の政治任用者)

各省の局長より下位の官職(上級管理職及び一般職)については、人事管理庁の承認により、個々の政治任用ごとに任命権が各省長官に与えられることとされている。各省が人事管理庁に承認申請するには、事前に人選等につきホワイトハウス大統領人事局長の承認が必要とされている。その際、ホワイトハウス側が各省の推薦する候補者を拒否したり、独自の候補者を提示したりすることもしばしばあるとされ、このレベルの任用についてもホワイトハウスの一定のコントロール下にあると言える。( 図2

●図2 運輸省連邦公共交通局における政治任用者(2003年11月現在)

(ホワイトハウスのスタッフ)

各省の局長級以上の官職が法律で設置されているのに対し、大統領補佐官等のホワイトハウス高官の官職については、法律上は給与水準に応じた官職数が規定されているのみで、個々の官職の設置は大統領(副大統領の補佐官については副大統領)の権限とされている。これらホワイトハウスのスタッフについては、各省局長級以上に相当する給与レベルであっても、大統領等が自由に任命でき、上院の審査を要しない。

(5) 職業公務員との制度の違い(服務、身分保障)
政治任用者はいつでも免職され得るとともに、それに対する不服申立の権利もない。服務・倫理については、職業公務員と同様。
(身分保障)

職業公務員の場合、免職(懲戒以外)は政治的活動、勤務成績不良等の事由に該当するものに限定され、処分に際しては事前に職員に弁明の機会が付与される。政治任用者にはこのような身分保障はなく、任命権者によっていつでも辞職を求められ、又は免職され得る。また、免職等の不利益処分に対する不服申立の権利も認められていない。なお、任命の際に上院の承認を要する官職であっても、免職については議会の関与はない。

(服務・倫理)

服務や倫理については、政治任用者についても基本的に職業公務員と同様の規制が適用になる。退職後の規制としては、次の1)〜3)の省庁との接触規制が政治任用者か職業公務員かにかかわらず適用され、刑罰により担保されている。3)の規制は事実上、政治任用者を対象とするものと言える。

連邦公務員は、政党が候補者を指名する選挙(election to a partisan political office)に立候補することは法律上禁止されており、連邦議会や州議会の議員の選挙に立候補するときは辞職する必要がある( )。なお、憲法上、連邦公務員と両院議員との兼職が禁止されていることは、前述のとおりである。


(注)理論上は、政党の指名を受けない独立の候補者として立候補は可能であるが、当選する可能性は事実上なく、選挙資金の援助も受けられない。
(6) 政治任用の人材供給源
民間企業、法律事務所、教育・研究機関などから多くの人材を登用。政府関係の人材としては、議会関係スタッフや州・地方政府職員も。
(人材供給源)

民間企業、法律事務所、シンクタンクや大学など政府の外部から多数の人材が政治任用される。また、政府関係の人材としては、議会関係スタッフ(上・下院の各委員会など議会組織の職員や上・下院議員の立法、政務等担当の秘書をいう)や州・地方政府の職員も政治任用者の重要な供給源となっている。( 図3

●図3 政治任用者の人材供給源

上・下院議員からの就任は閣僚級で少数存在するが、過去と比較すると減少していると言われる(なお、この場合は議員を辞職する必要)。職業公務員から政治任用される者は今日まで少数であり、フランスやドイツなどと比較すると政治任用者に占める職業公務員の比率は非常に低い(ただし、大使は約3分の2が職業外交官から政治任用)。

労働市場全体の流動性の高いアメリカにおいては、上記に挙げた主要人材供給源を複数経験している者も多く、また、政権交代に伴って政府と民間を行きつ戻りつしている者もいる。( 表2

●表2 政治任用者の経歴例(クリントン政権)

なお、政府外から政治任用される者には、大統領選挙において一定の役割を果たした者が多いと言われている。また、その中には、行政のまったくの素人というべき者が含まれていることに対する批判がある。

(職業公務員からの政治任用)

職業公務員からの政治任用に関しては、職業公務員の上級管理職が局長級以上の官職に大統領任命された場合、その任命の終了後、再び職業公務員の上級管理職に復職することができる制度が設けられている。これは、局長級以上に職業公務員出身者が少ない中で、職業公務員がより高いレベルのポストに就任する機会を受け入れることを奨励することをねらいとしたものである。

(7) 在職中の役割(職業公務員との役割分担)
政治任用者の基本的役割は、官僚組織に浸透し大統領の主要な政策課題を強力に推進すること。一方、職業公務員の基本的役割は、継続的知識の提供と中立的立場からの助言・業務遂行である。
(政治任用者と職業公務員との役割分担)

政治任用者の基本的役割は、大統領が4年間の任期の間に自ら掲げる主要政策課題を実現できるよう、官僚組織に浸透してそれを強力に推進することである。その機能として、新鮮なアイディアと民間部門での経験を政府にもたらし、変化するニーズに政府が対応できるようにすることが重要であるとされる。

一方、職業公務員の基本的役割は、継続的知識の提供と中立的立場からの助言・業務遂行であるとされ、政策面において専門知識をもって政治任用者を補佐、補完するとともに、執行業務における直接の担い手となる。

(政治任用者と執行業務)

政治任用者の職務は、上記のとおり政策面(特に大統領が高い優先順位を置く政策課題)での役割が大きく、政治任用者が執行業務に直接従事することはない。局長級以上などでは監督する業務の中に執行業務が含まれることはあり得るが、執行業務をめぐっては、我が国とは次のような背景の違いがあることに留意する必要がある。

1) 地方分権

連邦制を採用していることから、連邦政府の権能を限定し、州・地方政府の独立性を尊重するという伝統がある。

2) 議会による強い予算統制

歳出予算法により、予算の使途が細かく決められるのが一般的であり、我が国に比して、執行業務についての行政機関の裁量の余地が小さい。例えば、公共事業等の「箇所付け」調整の主要舞台は、議会の歳出予算法案審議(歳出委員会)の場である。また、補助金等については、その額を客観的データを基に算出する計算式を法律で規定する「計算式方式」が多用される。

3) 透明性・客観性確保に対する強い要請

アメリカは情報公開・行政評価の最先進国であり、行政の透明性・客観性確保に対する意識が高い。また、訴訟社会であるため、透明性・客観性を十分念頭に置いて執行業務を行っていないと、認可等を得られなかった競争企業等から訴訟を起こされる可能性が高い。

(8) 人材確保の誘因と処遇
政治任用者は社会的威信が高く、また、その後のキャリア形成にも種々の面でプラスと考えられている。ただし、政治任用により給与が下がる者も相当数存在。
(人材確保の誘因)

アメリカにおいては、連邦政府の創生期から各界における名士的人材が各省の幹部に政治任用されてきた歴史があり、政治任用者の社会的威信は高い。これに対し、後から生まれた職業公務員の社会的威信は、ヨーロッパの主要国や我が国に比して低い。

また、二大政党制の下、自らが支持する大統領の下で、その政策推進の一翼を担うための政治任用者として選ばれたという誇りは、非常に大きいものがあると言われる。

更に、政治任用者として優良な人脈を形成し、重要で権限の大きい仕事を通じて高い評判を得ることは、その後のキャリア形成に大きなプラスになると認識されている。

(処遇)

給与については、各省局長級以上は高級管理職俸給表( 表3 )が適用され、各官職がその中のどのレベルに格付けられるかも法律上明記されている。その下の上級管理職については上級管理職俸給表が、一般職については一般職俸給表がそれぞれ適用されることは職業公務員と同様である。ただし、同様の年齢、経験年数をもつ職業公務員より、高い格付けがなされるのが一般的である(例えば、政治任用者の場合、30歳代前半で上級管理職俸給表適用の官職に就く者も珍しくないが、職業公務員ではそのような例はほとんどない)。

●表3 高級管理職俸給表(2003年1月現在)

政治任用されることにより給与が下がる者も相当数いる。これについて、政治任用される前の年収の方が「ずっと多かった」又は「幾分多かった」とする者が46%、「だいたい同じだった」とする者が25%、就任前の方が「幾分少なかった」又は「ずっと少なかった」とする者が26%という調査結果がある( 図3 と同様の調査)。

(9) 退職後の行き先、生活保障
民間企業、法律事務所、教育・研究機関など民間機関に行く者が多い。高官は、「待機期間」終了後にロビイング関係の仕事に就く者も少なくない。
(退職後の行き先)

大統領の4年間の任期終了時に、政治任用者は辞表を提出するのが慣行である。それ以前に辞職する者も少なくない(政治任用者の平均在職期間は、上院承認官職で2年、非職業公務員の上級管理職で1年6月という統計がある)。離職直後における再就職先は、民間企業、法律事務所、教育・研究機関などが多い。( 図4

●図4 政治任用者の再就職先

政府高官は退職後、ロビイング関係の仕事に就く者が少なくない。立法・行政過程に対し何らかの影響力を行使しようとするロビイングは、アメリカでは憲法上の権利として位置付けられている。上記(5)のとおり、局長級以上の職員には、退職後1年間の所属省庁に対する接触規制が設けられていることから、ロビイング関係の仕事に就くのは、この「待機期間」の終了後となる。政権トップ100人の待機期間終了後の就職状況の追跡調査によれば、約3割が登録ロビイストとなったり、ロビー事務所やロビイングを行う弁護士事務所に勤務するなどロビイング関係の仕事に就いている。( 表4


(注) ロビイングという言葉は、もともと圧力団体の代表が議会のロビーで議員を説得したことに由来するが、現在では法案審議過程だけではなく、立法・行政過程に影響を及ぼすための幅広い活動を意味している。ロビイング活動の透明性確保等のため法律(ロビイング規制法)が制定されており、他人のために報酬を得てロビイングを行う者は、議会にロビイストとして登録を行い、定期的にその活動等について報告することとされている。
ロビイストの業務内容は、議会や各省の関係者に対する意見表明や提案のほか、公聴会での証言、マスコミへの働きかけなど多岐に及んできている。また、顧客に対し専門的助言を行うことや、議会・行政府の最新情報を提供することなども重要な業務となっている。

●表4 ロビイストに就任した例(2003年4月時点)

(退職管理)

所属省や政党が政治任用者の再就職を斡旋するということはない。アメリカでは労働市場の流動性が高く、その中でもこれら政治任用者は転職を繰り返してキャリア形成してきた者が多く、失職に対する抵抗感は少ない。むしろ、就任当初から4年後(又は2年後)の転職を念頭に生活設計を立てているのが普通と言える。

アメリカの一般的な状況として、年齢による雇用差別禁止法との関係で、原則として、定年制は廃止されていることから、平均的な退職年齢を一概に言うことはできない。特に政治任用者の場合、平均在職期間が2年程度と短く、就任する年齢もまちまちであることから、退職年齢の幅は非常に広くなっている。

なお、職業公務員についても、一般的に、終身雇用を前提とした人事管理は行われておらず、組織としての退職管理もなく、組織が就職を斡旋するということもない。

(再就職規制)

再就職自体を規制する一般的な制度はない( )。しかしながら、退職後の国の機関との接触を禁止する規制があり、その内容は上記(5)のとおりである。


(注) 調達担当職員については、入札企業からの職の提供を拒否しなければならないといった規制がある。
(年金)

退職年金については、政治任用者についての独自の制度はなく、職業公務員と共通のものが適用となる。年金の受給資格として5年以上の勤務が必要であり、1回の政治任用だけで公務員年金の受給資格を得ることは通常ないが、退職後に公務員年金への拠出を他の年金制度に通算してもらうことができる。

なお、公務員退職年金制度の下では、40年勤務の場合で、年金基礎給(俸給額が最高となる3年間の平均俸給年額)の76.25%の年金が支給される。


(注) 日本の場合、勤務期間における平均標準報酬月額が年金額算定の基礎となるため、例えば、採用後約35年で事務次官で退職したケースにおける年金額は、事務次官としての年間給与額の約12%となっている。
(10) 我が国との背景の違い
大統領制という政治システムの根本的違いに加え、労働市場の流動性、議会・倫理上のチェックシステム、大統領の任期・目標に合わせた業務遂行体制など種々の面で政治任用者活用の条件が整っている。

大統領制の政治システムの下で、連邦政府創生期から政治任用が行政府の基本構造に組み込まれていたこと、4年の周期で政権交代が相当の確率で起こり得る機会がめぐってくることなどの根本的違いに加え、次のような背景の違いがある。

(労働市場の流動性とロビイスト文化)

行政府の外部に政治任用のための豊富な候補者が存在する背景として、労働市場全体の流動性が高く、短期在職を前提とした職に就くことや転職に対する抵抗感が低いことが挙げられる。そういう労働市場の下で、政府における勤務にも有益な経験・知識を有する者が法律事務所、企業、シンクタンク等に勤務しており、政治任用の人材プールが形成されている。

政府関係者の流動性についても同様である。アメリカでは権力分立の原則が徹底されているため、立法府が量・質両面で豊富な人材(議会関係スタッフ)を抱えるとともに、連邦制の下、州・地方政府も強い権限を維持し、両者が政府関係者からの政治任用の人材供給源となっている。

また、政治任用者の再就職に関して、ロビイストが活躍するアメリカ独特の政治文化が、政治任用者に優良な再就職先を提供しているという事実も見逃せないであろう。

(議会・倫理上のチェックシステム)

任用プロセスにおいて、上院の審査や倫理上のチェックなど、政治任用の候補者に対し厳しいチェックがなされていることは、アメリカの大きな特徴である。約1割の候補者が大統領に指名されながら上院の審査を通過できないという事実は、彼らが既に民間等でそれなりの地位にあった人たちであることを考えると、非常に厳しいものであると言える。

政治任用のポスト数についても、1)局長級以上は個々の官職を法律で設置、2)上級管理職の政治任用の割合は法律で規制、更に3)省によっては政治任用の総数を歳出予算法で規制というように、議会のコントロールが効いている。

執行業務の中立性確保に関して、議会による強い予算統制など上記(7)のような条件が整っていることも重要な点であろう。

(短期在職者が成果を出しやすい仕組み)

短期在職者が成果を出せる条件として、大統領の任期・目標に合わせた業務遂行体制が挙げられる。選挙期間中長期にわたって、政策内容により競争し続ける大統領選挙を経て、新政権が成立する時には大統領の主要政策課題は極めて明確となっている。それを各省、各部局で具体化していくのが政治任用者の役割である。政治任用者はその目標の実現に向け、最長でも4年(大統領の任期)という期限を視野に勤務する。

また、政策決定過程の開放性が高いために、行政機関外の者(ロビイスト、シンクタンク研究員等)も政策過程に参画することができ、政府内の多くの情報が日常的に外部と共有化されている。言い換えれば、就任した時には、政策過程等について相当の情報を持っている、即戦力となる政治任用者が少なくないということである。

更に、官民ともに職務記述書などにより個々人の職務を明確に定めて、個人で成果を出していく文化が定着していることが、集団的職務執行の傾向のある我が国に比べて、政治任用者が成果を出しやすい要因になっていると考えられる。

「政治任用」関係者の声(アメリカ)
●政治任用の魅力●

中央省庁の上級管理職

(ロビイストから政治任用)

政治任用の魅力は、何よりも、他では得ることのできない貴重な経験を得ることができること、それに、多くの人に自分のことを知ってもらい、幅広い人脈ができることです。政治任用されている間は、1日12時間以上も働かなければならないし、しかも給与はそれほどでもないのですが、2〜3年間のことであり、政治任用の経験の価値を考えれば何でもありません。

たしかに、政治任用終了後のことを考えれば、全く不安がないわけではありませんが、政治任用に身分保障がないのは誰もが初めから分かって希望しているわけですし、いざオファーが来たときに躊躇するようなことはありませんでした。もともとアメリカでは人気のある職業には強固な身分保障がない場合も多く、自分の能力に自信がある者は、リスクを取り、色々なチャンスをとらえてキャリア・アップしていくのが普通なのです。

「政治任用」関係者の声(アメリカ)
●政治任用者と職業公務員との関係●

中央省庁の元局長

(議会関係スタッフから政治任用)

政治任用者の基本的役割は、各省を大統領の方針に沿って変化させること、新しい政策をつくることであり、職業公務員のそれは、組織に蓄積された知識を保持すること、細かいところに至るまで気を付けて適切に業務を執行することです。政治任用者と上級の職業公務員とは互いに信頼で結ばれ、密接に協力しなければなりません。

とはいえ、政治任用者と職業公務員との関係が、すべてうまくいっているわけではないことは残念なことです。政治任用者の中には、専門外の分野に任用されることによって、その機関が担当する制度をよく知らず、関連する知識も持ち合わせていない者がいます。

一方、職業公務員には、安易に情報を提供したがらないという姿勢がみられることがあります。彼らの言い分は、「政治任用者は限られた期間しかそのポストにいないのに対して、我々はその前からいるし、その後もいることになる。これまで我々が積み重ねてきた政策を、一時的にしかいない政治任用者に掻き回されてはたまらない」ということのようです。政治任用がさらに有効に機能するためには、これらの問題を克服する必要があるでしょう。


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