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第1編 人事行政

第1部 政治任用〜主要諸国における実態〜

第2節 各国の状況

【イギリス】


二大政党制の下、イギリスの行政運営は、多数の与党議員が行政府の役職に就く形で行われ、職業公務員は、専門性と政治的中立性に基づいて時々の政権を忠実に補佐する役割に立つ。政治家は公務員の中立性を尊重し、幹部を含めた公務員の人事への介入を自制する伝統がある。他方、閣内大臣は、党内外の政治的に密接な関係を持つ人材を特別顧問として政治任用し、彼らは政治的な側面から大臣に助言・支援を行っている。近年、特別顧問の活用例が増え、特別顧問の行動規範や職務内容を法律で規定することなどが課題となっている。
1 政治形態等
議院内閣制。二大政党による党主導の政治。多数の与党議員が行政府の役職に就いて政策運営を行う中で、職業公務員は中立的立場から時々の政権を忠実に補佐する役割。
(政治形態)

国王を擁する立憲君主制の下で、イギリスでは政党政治による議会主権が長年の歴史を経て確立し、議院内閣制の下、労働党と保守党の二大政党による政権交代が頻繁に行われている。( 表5 )議会は上院(世襲貴族などで構成。677人(2004年1月現在))と下院(直接選挙により選出。659人(2004年2月現在))で構成されている。

首相には下院の第一党の党首が国王により任命され、閣議に出席できる20数人の閣内大臣(Secretary of State)は、首相の推薦に基づいて国王が任命する。

●表5 イギリスの歴代政権


閣内大臣の下には、その政策運営を補佐する閣外大臣(副大臣)(Minister of State)、政務次官(Parliamentary Secretary)が置かれ、閣内大臣以下これらの行政府の役職には与党議員が合計して100人ほど就任する。このほか、大臣は政務秘書官(Parliamentary Private Secretary)を与党議員から任命できる。このように多数の与党議員が政府に入ることで、与党と内閣・各省の政治指導部は一体化され、政府与党の政策立案機能は内閣に一元化されている。

(公務員法体系)

イギリスの公務員は、伝統的に国王の奉仕者として位置付けられ、国王に対して忠実に奉仕する義務を負う。こうした中で、公務員制度については国王の大権事項として歴史的に形成されてきたことから、公務員制度に関する成文化した法律はなく、枢密院令(国王が発する命令)(Order in Council)によりメリット・システム(成績主義)の原則等が規定されているほか、具体的な任用、給与、服務等に関する基準は、「国家公務員綱領(The Civil Service Code)」、「国家公務員管理コード(The Civil Service Management Code)」(ともに内閣府が定める文書)、「人事委員会採用コード(Civil Service Commissioners'Recruitment Code)」等によるところとなっている。

行政府においては、1988年以降、行政執行機能を政策助言機能から切り離し、多くの行政機関がエージェンシーに移行している。エージェンシーには、所管大臣が業務目的・目標、業務内容などを定める「組織の基本文書(Framework Document)」と予算総額の範囲内において、その業務執行について大幅な裁量と自律性が認められている。2002年4月現在、エージェンシーは88機関ある。

常勤の恒久職にある国家公務員の総数は、2003年4月1日現在で51万2千人である。うちエージェンシーの職員数が27万4千人を占めている。

(2) 政治任用の意味及び対象ポスト
閣内大臣は、原則2人まで「特別顧問」を政治任用し、政治的な補佐・支援を得ることが可能。
(政治任用者の意味)

イギリスでは、政治任用(political appointment)という言葉は、職業公務員(civil servant)に対置する概念としてしばしば用いられ、首相及び大臣が、行政府に勤務する者を、公務員一般に適用される公開競争によらずに、自らの政治的意向で外部から任命することと理解されている。

イギリスでは、政府の政策立案は、与党が選挙前に公表したマニフェスト(政権公約)に基づいて行われる。政策の立案や各省の行政権限の行使については、府省を統括する大臣が全般的な責任を負う立場に立ち、その下で、副大臣、政務次官には、大臣から一定の権限が委任される。大臣は、これら政府内の職に就く与党議員から必要な支援・補佐を仰ぐとともに、専門的知識と経験等を備えた事務次官以下の職業公務員から、政策立案・運営の補佐を受ける。なお、副大臣及び政務次官には、大臣からの委任を受けて特定範囲の問題について日常の業務を監督する権限が与えられるが、このことは職業公務員として省全体を統括する事務次官の一般的責任を免除するものではなく、事務次官は副大臣等の指揮下にはない。同様に、副大臣等も事務次官の指揮下にはない。

他方、大臣が行う政策立案・運営を政治的側面から支援する人材として、副大臣、政務次官のほかに、特別顧問(Special Adviser)が設けられており、この特別顧問が政治任用者に該当する。特別顧問は、政府内において閣内大臣を政治的な側面から補佐・支援することを目的として設けられ、閣内大臣個人が自由に政治任用できるものとされている。彼らは臨時的な国家公務員として位置付けられている。( 図5

●図5 イギリスの各府省における政治任用者


(対象ポスト)

原則として閣内大臣1人につき2人まで特別顧問を採用することができ、特に必要がある場合には、その理由を公にした上で、2人を超えて特別顧問を採用することが可能である。ただし、首相に仕える位置付けとなる首相官邸の特別顧問には、数の制限はない。( 表6

●表6 閣内大臣が任命している特別顧問の数(2003年10月30日現在)

以下、イギリスにおける政治任用に該当する者として、「特別顧問」に焦点を当て、その概要を紹介する。

(3) 政治任用が行われるようになった経緯及び背景
1964年の政権交代以降、政党主導の政策運営を実現していくことをねらいに、政治的側面に立った助言を行い得る人材を政府内で活用。近年、特別顧問の活用がさらに増大。
(経緯及び背景)

職業公務員以外の者を政府内で最初に活用した例として、1964年、13年にわたる保守党政権からの政権交代を実現したウィルソン首相(労働党)が、自らの経済顧問を首相官邸に連れてきたことが挙げられている。保守党政権に代わった1970年には、ヒース首相が、外部人材と職業公務員の混成による中央政策レビューチーム(Central Policy Review Staff)を作っている。

その後、1974年にウィルソン首相(労働党)が政権に復帰した際、閣内大臣による政治任用の仕組みとして政治顧問(特別顧問)の制度が設けられ、首相官邸の政策ユニットを含めて30人の政治顧問が任用され、政治的な事項について明確な役割が付与された。

こうした特別顧問の仕組みは、政党の選挙志向性が強まっていく現代政治の下で、政治的中立性や継続性を旨とした職業公務員からは得られない政治的な戦略やアイディア等を得る手段を大臣が確保することをねらいとしている。いわば、大臣と職業公務員との伝統的な関係の上に、政党政治的考慮などの現代的付加価値を提供する存在であると言える。

(近年の変化及び最近の議論)

1997年の保守党から労働党への政権交代に当たり、政権公約に掲げられた中央の政策部門の強化という方針を受け、首相官邸を中心に特別顧問の任用が増加し、政府の報道戦略業務などに多くの特別顧問が従事している。( 表7 )また、首相官邸の3人以内の特別顧問に対しては、職業公務員への指揮命令権を付与することが認められた。

●表7 特別顧問数の最近の変化

特別顧問を中心とした首相官邸主導の政策形成が強化される中で、近年、特別顧問の制度や行動規範の一層の明確化、大臣・特別顧問・職業公務員の間での役割分担の整理といった課題が、議会、政府、マスコミ等で活発に議論されている。

(4) 政治任用の任命権者、手続及び実質的な選抜方法
閣内大臣は、首相の承認を得た上で、各府省共通のモデルに従って特別顧問を個人的に任命。特別顧問の身分は臨時的な国家公務員。
(身分)

イギリスの公務員の任用は、人事委員会の定める採用コード等に基づいて、公開平等の競争によることが原則であるが、特別顧問については、唯一の例外として閣内大臣による個人的な任命となっている。特別顧問は、大臣の個人的な助言役という役割であるが、行政府に置かれたポストとして、国庫の負担により任用されることから、その身分は臨時的な国家公務員と位置付けられている。

(任用手続)

任用に当たっては、大臣が候補者の能力、資質等を自ら精査した上で、その者を人選した理由等を記した申請書を首相官邸に提出し、首相の事前承認を求めることとなる。議会がこうした任用手続に関与することはない。

特別顧問には、大臣とつながりの深い人物や政権政党と強いリンクを持った者が任用されるため、通常は首相は大臣の申請どおりに認めることとなる。

特別顧問の任用は、内閣府が定めた各府省共通の「特別顧問モデル契約(Model Contract for Special Advisers)」に沿って行われる。同モデルには勤務時間、休暇、任期、服務など種々の勤務条件が規定されており、このひな型に沿って各大臣と特別顧問の間で雇用契約が締結される。

(5) 職業公務員との制度の違い(服務、身分保障)
大臣は特別顧問を自由に解任することが可能。また、特別顧問には職業公務員に課せられた政治的中立性は求められていない。
(身分保障)

職業公務員の場合、非能率、心身の故障等の事由に該当しない限りは免職されないとされ、処分に際しては「退職委員会」への諮問の手続を経る必要があるなど、身分保障が認められている。政権交代の場合にも、事務次官、局長を含めた職業公務員が異動を求められる慣例はないなど、職業公務員の人事に政治家は介入を自制する伝統がある。一方、特別顧問は、職業公務員と違って大臣の個人的任命であり、大臣と任期を共にし、大臣と共に退任することが原則となっている。ただし、3月以上前に雇用終了の予告通知を行うことで、大臣は特別顧問を自由に解任することができる慣行になっている。

(行動規範)

職業公務員は、政府の政策を中立的に支えるべく、その政治的中立性に疑問を投げ掛けられるような行動、例えば行政府外の国会議員に対して政策の説明を行うようなことはすべきでないとされている。

一方、特別顧問は政治的背景を持って職務を行うことから、こうした職業公務員に求められる行動規範は、特別顧問には適用されない。また、職業公務員と違い、政府の政策に関する大臣の見解をメディアに伝えることができる。これらの特別顧問の地位、職務、行動、報道機関との接触、政権与党との関係、政治活動の規制などについては、内閣府が定めた「特別顧問行動規範(Code of Conduct for Special Advisers)」により明記されている。上記を除いては、特別顧問は臨時的な国家公務員として、国家公務員一般に適用される各種規範(国家公務員綱領、国家公務員管理コード等)に従った行動が求められる。

特別顧問は、国会議員の候補者として認知された場合、あるいは総選挙時における選挙運動に参加する場合等には、その職を辞さなくてはならない。地方議会における政治活動については、大臣の承認を得て行うことができる。

(参考)大臣規範(Ministerial Code)(首相指示・抜粋)
  • ○ 大臣には、次の責務がある。

    • ・ 政策の決定に当たって、その分野に通じた公務員の中立的な助言に対し、他からの助言と同様に適正な考慮を払う責務
    • ・ 公務員の政治的中立性を尊重し、公務員に公務員綱領に抵触するような行為を求めない責務
    • ・ 公務員の任命への影響力が党派的目的のために濫用されないようにする責務
    • ・ 部下の公務員の雇用条件について、善良な雇用主の義務に従う責務

    ○ 公務員は、次のような行為を求められるべきではない。

    • ・ その政治的中立に疑義を生じるおそれのある行為
    • ・ 国庫から給与を受けている者が党派的目的に利用されているとの批判を招くおそれのある行為
(6) 政治任用の人材供給源
大臣や政党と強い結び付きを持った人材を党内外から特別顧問に任用。官僚が特別顧問に転身する例はまれ。政治家は特別顧問には就かず、副大臣、政務秘書官等として大臣を補佐。
(人材供給源)

特別顧問には、大臣との個人的なつながりを持った人物、政権党と強い結び付きを持った人物などの政治的バックグラウンドによって任用される者と、特定分野における高い専門知識や経験を買われて任用される者の概ね2つのタイプがある。近年の特別顧問には前者のタイプが多い。これは、専門性を備えた人材については、公開競争を経て職業公務員として採用することが可能であり、特別顧問として大臣が個人的に任用する必要性が乏しいためである。

政党のスタッフが特別顧問に就任する例が典型的であるが、所管行政に関する一定の専門知識・経験が求められることから、党内での実務経験のほかに、シンクタンクでの職歴を持った者が多く用いられている。また、近年は、広報戦略に関わる特別顧問にPR会社やマスコミ出身者などが多数登用されるなど、党外に人材を求めるケースも増加している。

特別顧問の年齢は様々であるが、将来政治家、大臣になることを目指して、学卒後に議員や政党に仕えている人材が、若い年齢で特別顧問に就任する例もしばしばみられる。

(職業公務員、議員からの転身の有無)

外務・英連邦省職員から特別顧問に転身している例などが若干みられるが、職業公務員が特別顧問に転身するケースは基本的にまれである。なお、政治と行政が果たす役割、それぞれの職業規範が明確に分かれているため、イギリスでは職業公務員が政治家に転身するケースも少ないとされる。

政治家が特別顧問に就くことはない。これは、与党議員が多数、副大臣、政務次官として行政府内に入り政策立案に当たっているほか、大臣は、議会における一般議員の動向を把握し、必要な議会対策の支援・補佐を得るために、政務秘書官(Parliamentary Private Secretary)を与党議員の中から任命しているため、特別顧問に政治家を就ける必要がないことによる。( 表8 表9

●表8 特別顧問の経歴例

●表9 事務次官の経歴例

(7) 在職中の役割(職業公務員との役割分担)
職業公務員は大臣を中立的立場から補佐する一方、特別顧問は政治的な側面に立って大臣を補佐。両者は相互補完的な役割で、特別顧問は職業公務員を指揮しないことが原則。
(政治任用者と職業公務員との役割分担)

職業公務員は、専門的立場から大臣に政策案を提起したり助言を行い、また、行政の執行を中立・客観の立場から公正に行う役割を担っている。一方、特別顧問は、職業公務員から大臣に提起された政策案や報告について、大臣が判断を行うに当たって政治的側面に立った助言や支援を行ったり、大臣に代わって対外的なスポークスマンを務めるなどの「大臣の政治的顧問」の役割を果たしている。特別顧問が担い得る具体的な職務内容については、内閣府が発出した特別顧問行動規範の中に列記されている。( 表10

●表10 特別顧問が遂行できる職務の種類(「特別顧問行動規範」より)

(職業公務員の中立性保持との関係)

特別顧問の仕組みによって、大臣に対する政治的助言や対外的な対応の支援を行う人材の供給源が職業公務員と区別されることで、職業公務員の党派化が回避され、職業公務員の政治的中立性の強化に資するものと考えられている。

また、特別顧問の行動により職業公務員の中立性が損なわれることがないよう、特別顧問行動規範においては、「特別顧問は公務員の政治的中立性を擁護すべく行動」することが求められており、特別顧問は省庁の命令体系の外に位置し、職業公務員に対する指揮命令権を持たない(ラインマネジメントを行わない)ことが原則となっている。このため、職業公務員が担う許認可等の執行事務や職業公務員の管理事務等に関与することはない(ただし、首相官邸の一部の特別顧問は、以下に示すとおり例外がある)。

(首相官邸及び各府省における特別顧問の位置付け)

各省においては、多数の職業公務員が勤務する中で、特別顧問は原則2人(最大でも6人)にとどまることから、特別顧問が果たし得る役割は自ずと限定的である。一方、首相官邸においては、職業公務員の在籍者が100人程度であるのに対し、特別顧問の在籍者数は2003年10月現在で28人に上っており、とりわけ、労働党が政権に就いた1997年以降、首相官邸の特別顧問の数は、前記の表7に示すとおり大きく増加し、また一部に指揮命令権の付与が認められるなど、特別顧問の果たす役割が大きくなっている。

首相官邸において公務員に対する指揮命令権を持つ特別顧問は、従来、報道戦略部門の長(Director of Communications and Strategy)と政策部門の長(Prime Minister's chief of staff)の2人が任命されていたが、2003年夏に報道戦略部門の長が退任し、後任者には指揮命令権が付与されなかったことから、現在は1人のみとなっている。

(特別顧問の役割をめぐる最近の動き)

2003年4月には、政府の「公職者の基準に関する委員会(The Committee on Standards in Public Life)」が、「大臣、特別顧問、職業公務員の間の境界の定義(Defining the Boundaries within the Executive:Ministers, Special Advisers and the permanent Civil Service)」と題する報告書を提出した。その中では、1)国家公務員法を制定し、特別顧問が行ってはならないことや指揮命令権を有する首相官邸の特別顧問の職務内容を法定すること、2)大臣規範、特別顧問行動規範等により、特別顧問の行動規範やその非違行為に関する責任関係を一層明確化することなどが指摘された。これを受けて政府は、大臣規範、特別顧問行動規範等の改正や法案の提起に取り組むとしている。

なお、議会における動きとして、2004年1月には、下院の行政管理委員会(Select Committee on Public Administration)が国家公務員法の草案(Draft Civil Service Bill)を提起している。


(注)国家公務員法の草案では、国家公務員の役割、人事委員会の機能や国家公務員綱領で定めるべき事項が規定されているほか、特別顧問については、公開競争の原則が適用されない者と位置付けられ、首相官邸の2人を除き、特別顧問は職業公務員のマネジメントを行うことができないことなどが盛り込まれている。
(8) 人材確保の誘因と処遇

特別顧問への就任は、将来のキャリア形成の面で魅力。給与は職務評価を基礎として決定されるが、優れた人材を招聘するための特別な給与処遇の体系も用意。

(人材確保の誘因)

特別顧問に就任することで、将来の政治家を目指す者にとっては与党内閣での政策形成に関与でき、多様な経験を積むことが可能となる。また、特定分野における専門性を備えた人材にとっては、国の政策形成の一翼を担うことで、自らのキャリアパスを高めるなどのインセンティブがあるものと考えられる。

(処遇)

政党出身の特別顧問の場合、政党における給与が高いものではないことから、特別顧問の給与水準が問題となることはあまりないが、民間部門から特別顧問に就く場合、その給与水準はあまり魅力的なものではないとされる。

特別顧問の給与決定に当たっては、まず、その職務の重要度や責任等について職務評価がなされ、その結果(SAJE(Special Advisers'Job Evaluation)スコア)により給与等級が定まる。各給与等級ごとに対応する給与幅(年額)が以下のとおり定められており、この範囲内において、特別顧問に就く者の前職時の給与を含めた職歴、他の特別顧問との給与バランスを勘案して、特別顧問報酬委員会(Special Advisers Remuneration Committee、委員長:上院院内総務、委員:内閣府大臣、経済担当大臣)が個別に給与額を決定する。( 表11

●表11 SAJEスコアと給与等級、給与水準の関係(2003年11月現在)

高い専門性を持った人材を特別顧問に招聘することを可能にするため、給与等級の割増し(プレミアム)のレンジが設けられているほか、SAJEスコアが15点以上の最上位にランクされる極めて大きな影響力と労力を要する職務に就く特別顧問については、首相が、最高限度額131,008ポンド(約2,489万円)〔購買力平価では約2,882万円〕を超えない範囲内において、個別に給与額を決定することができる。

物価水準の変動に応じた給与額の見直しは行われるが、勤務成績や業績等に応じ昇給が行われたりボーナスが支給されるような仕組みは基本的にない。

(9) 退職後の行き先、生活保障
仕えた大臣に付いて別の省庁の特別顧問に就任するケースもあるが、退職後は自らの力で転職することが原則。退職時には退職手当が支給される。
(退職後の行き先)

大臣や党が特別顧問の退職後の再就職を世話することは基本的になく、特別顧問自身が自力で再就職先を見つけることが必要である。しかしながら、仕えてきた大臣が新たに他府省の閣内大臣の職を得た場合には、当該大臣と共に当該府省の特別顧問に就任するようなケースは一般的にみられる。また、政権政党は代わらず大臣のみが交代するような場合、前大臣の特別顧問が新大臣に引き継がれるケースもある。

特別顧問の退職後は、政党関係の職務に就く者、関連分野でのキャリアパスを重ねる者、専門性を持って地方自治体や国家公務員に転職する者など様々であるが、シンクタンクや慈善団体を含め、公的な機関で働くケースが一般的である(ただし、最近は民間部門から特別顧問に就任する例も増えてきているため、退職後のパターンも多様化してくるものと考えられる)。(表12

●表12 特別顧問経験者(39歳)の経歴例

特別顧問は5週間以上前までに大臣に書面で予告を行うことにより、自らの意思でその職を辞することができる。特に、民間部門から特別顧問に就任する者に、在任期間が短いうちに退任するケースがみられる。

(退職時の手当支給)

特別顧問が退職する際には、任用された期間に応じて、通常3月分から6月分の給与額に相当する退職手当(severance pay)が支給される。これは、特別顧問が大臣と命運を共にし、退職後の雇用保障がないという身分の不安定性等に配慮したものである(ただし、退職後に再び特別顧問に再任された場合には、当該雇用の断絶した期間に受け得たであろう給与相当額のみが、退職手当として支給される)。

(年金)

2002年10月に年金制度改革が行われ、同日以降に特別顧問に就任した者は、2つの年金制度(「プレミアム」及び「パートナーシップ」)から1つを選択して加入することとなっている。プレミアムは給与の3.5%を被用者負担とする確定給付型の公務員年金制度であり、パートナーシップは確定拠出型の年金制度で、年金資産を加入者個人が運用し、公務外に転職した場合のポータビリティーを備えたものである。


(注) 職業公務員は、2002年10月の年金の選択制導入以降も、大多数は従来型を選択している。年金額は、40年勤務の場合で、年金基礎給(退職前3年間における最高の給与年額)の概ね60〜75%。
(再就職規制)

特別顧問に対しては、一般の国家公務員と同様、離職後2年間の再就職規制が適用される。退職後に企業、団体等に再就職する場合、特別顧問は省の事務次官に申請書を提出し、内閣府に置かれた企業就職諮問委員会(Advisory Committee on Business Appointments)が再就職の適否について審査を行う。

審査は主に特別顧問が在職中に得た情報の価値に着目して行われ、政府又は企業等の機密情報等を持った特別顧問が企業・団体等に再就職することで、不当な利益を当該企業等にもたらすことはないか、国民からそうした懸念・批判を受けることがないかなどについて検討し、問題があると認められる再就職については、個別事案の態様に応じて適当な待機期間(最大で2年間)を設けるなどの措置が行われる。

(10) 我が国との背景の違い
イギリスでは政官の役割分担、それぞれの職業規範が明確で、本省機能も企画立案が中心であるなど政治任用者が果たす役割の特定が容易。職業公務員の社会的威信も高い。
(成熟した政官関係)

イギリスでは、二大政党制による政権交代を前提として、党のマニフェストに基づいた政治主導による政策運営を多数の与党議員が行政府内に入って行い、職業公務員は中立・客観的な立場から、そうした時々の政権の政策運営を支える体制が長年の歴史と慣行により確立されており、政治家と職業公務員が果たす役割及びそれぞれの職業規範が実績と経験に裏打ちされた形で理念的にも実践的にも存在している。一方、我が国では、イギリス同様に議院内閣制をとるものの、政権交代を前提とした政官の関係が確立されておらず、大臣・副大臣等の閣内議員、閣外の与党議員及び職業公務員がそれぞれ政策立案において果たす役割や責任関係について、イギリスのような統一的認識が確立されていない状況である。

(労働市場の流動性)

イギリスでは、雇用の流動性が一般的に高く、こうした条件の下で、例えば、公務部門においても、上級公務員(本省課長級以上に相当し、エージェンシーの長等を含む。)の職に欠員が生じた場合に、3割程度は公務外からの公募による採用によって確保されている。特別顧問についても、こうした労働市場環境が背景にあることで、マスコミ、政党、研究者などからの有為な人材確保を可能にしていると言える。

(執行機能の本省からの分離)

イギリスでは、中央政府による地方の統制はあるものの、中央と地方との間では明確な事務配分がなされ、道路・交通、環境・保健、住宅、警察・消防などの各般の住民サービスは多くが地方自治体の事務とされている。また、エージェンシー制度の導入により、国の事務のうち執行機能に関する部分の多くが本省組織から分離されており、本省部門は企画立案機能を中心に運営されている。このため、政治任用者を本省組織の中で政策分野における政治的な助言を行う役割を担うものとして位置付け、その活動を適切に規律することが容易な環境が整っていると考えられる。

(職業公務員の社会的威信と職業理念)

イギリスでは官僚が政治家に転身するといった現象は一般的でなく、また、政治家も官僚の自律性を尊重して行政運営に当たるなど、政治と行政はその本質的役割・立場を異にした別次元のものとして、対等の協働関係としてとらえられている。このような状況の下で、職業公務員は強い社会的威信と職業理念を持った集団と位置付けられていると言える。

「政治任用」関係者の声(イギリス)
●政治任用は補完的機能●

中央省庁の特別顧問秘書官

(特別顧問と省の間の連絡役を担当する職業公務員)

大臣たちは(特別顧問制が導入されている)現在も職業公務員に支えられた省組織からの情報や知恵に信頼を寄せています。この機能が麻痺してしまったら、すべてが機能しないことになるわけで、この点はきちんと維持されていく必要があります。特別顧問制はそうした基本のシステムの上に、付加価値的なサービスを付けるものだと私たちは見ています。と言いますのは、通常は大臣よりも特別顧問の方が、企業の社長や労働組合の事務局長と会って話をすることが容易ですし、同時に、相手方の立場から見ても、特別顧問と話をすることは、大臣に対する直通ルートで話をしていると感じ取ることができるわけです。この点が実は特別顧問制がうまく機能していることの理由なのかもしれません。ただ、この特別顧問制はあくまで補完的なものでしかないわけで、職業公務員が大臣との対話をきちっと保持し、政策策定の際の大臣とのコミュニケーションを続けていくことが重要であり、それにより特別顧問の仕組みも維持されていくべきものと思います。


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