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第1編 人事行政

第1部 政治任用〜主要諸国における実態〜

第2節 各国の状況

【フランス】


フランスにおける政治任用の特徴は、1)自由任用のポストである「高級職」と「大臣キャビネのスタッフ」に、主としてエリート職業公務員が官吏としての身分を保障されつつ就任すること、2)そのうち「大臣キャビネのスタッフ」は、政権(大臣)交代とともに総入替えされるが、一方の「高級職」は政権(大臣)交代に伴って一挙に解任・任命が行われることはなく徐々に入れ替えられるという慣行があることである。

首相官邸の官房長会議室

1 政治形態等
政治形態は、大統領制と議院内閣制の中間形態。直接公選の大統領は、首相・閣僚の任免権、国民議会の解散権等を保有。首相は、議会に対して責任を負う。閣僚は、行政各部の大臣、担当大臣及び閣外大臣の3種類あり、首相の提案により大統領が任命。
(政治形態)

フランスの政治制度は、大統領制と議院内閣制の中間形態にあり、半大統領制と呼ばれている。すなわち、国家元首であり無答責の大統領が首相・閣僚の任免権、国民議会の解散権等実質的な政治的権限を持つ一方で、大統領に任命される首相は大統領だけでなく議会に対しても責任を負うこととされている。

首相の任命に当たっては、議会による指名がなされるわけではなく、大統領は何らの法的拘束を受けることなく首相を任命できるが、議会多数派が大統領と対立する勢力である場合には、大統領は議会多数派から首相を選ばざるを得ないという事実上の政治的拘束を受けることになる。

閣僚には、行政各部の大臣(Ministre)、担当大臣(Ministre delegue)及び閣外大臣(Secreaire d'Etat)の3種類がある(2003年11月現在の人数はそれぞれ、15人、11人、12人)。これらはいずれも首相の提案に基づいて大統領によって任命される。担当大臣及び閣外大臣は、いずれも大臣の指揮下で特定の分野を担当する。憲法上閣僚と議会の議員との兼職は禁止され、閣僚に選ばれた議員は議会の議席を失うこととされている(議員出身の閣僚は通例7〜8割程度)。したがって、政府内の閣僚その他のポストで、議員が就くべきものとされているものはない。

議会内の政党勢力は、右派、左派などに大別されるが、多党化する傾向がある。( 表13

●表13 フランスの歴代政権

(公務員法体系)

憲法に「国の文武官に認められる基本的保障は法律で定める」(第34条第3項)との規定があり、「官公吏一般規程」の第1部(官公吏の権利と義務に関する法律)及び第2部(国の官吏の身分規定に関する法律)が公務員(官吏)制度の基本的法律として官吏の権利・義務や身分について定めている。さらに具体的内容については、政令(decret)等の下位規範により定められている。

フランスにおける国家公務員の大部分は、この官公吏一般規程によって身分を保障された「官吏(fonctionnaire titulaire)」(170万人程度)であり、これが正規の公務員で我が国の一般職国家公務員に相当する。その他に「非官吏(fonctionnaire non-titulaire)」と呼ばれる国家公務員が20万人程度存在し、見習期間終了後官吏に任官される予定の見習職員のほか、補助的・臨時的職務を行う補助職員、労務に従事する労務職員等がこれに含まれる。本稿で「職業公務員」という場合には、「官吏」の身分を保有している者を意味している。

(2)政治任用の意味及び対象ポスト
自由裁量により任用できる一方で身分保障は対象外とされているポストである「高級職」(約600)と「大臣キャビネのスタッフ」(約700)が対象。
(政治任用の意味)

法令により政治任用として定義されているものはない。一般の公務員と異なり任用についてのメリット・システム(成績主義)及び法律による身分保障の対象外とされている自由任用のポストとして、「高級職(emplois superieurs)」と「大臣キャビネ(cabinet ministeriel)のスタッフ」の2種類がある。( 図6 )フランスにおいては、「政治任用」という言い方をすることは一般的ではないが、以下この2種類を政治任用としての分析の対象とすることとする。

●図6 フランス公務・国家改革・国土整備省における自由任用ポスト(2003年11月現在)

(対象ポスト)
1) 高級職

政治任用の対象ポストのうち、高級職については、本省の総局長及び局長、大使、地方長官、大学区長などが主なポストとなっている。それらの数は全体で600程度であり、そのうち本省に置かれる総局長及び局長その他のポストは250程度となっている。

高級職が自由任用の対象となる根拠は、官公吏一般規程第2部(国の官吏の身分規定に関する法律)の「国務院の諮問を経て制定される政令は、官庁ごと及び機関ごとに、その任命が政府の決定に委ねられる高級職を定める。」(第25条)との規定による。この規定を受け、政令において自由任用の対象となる具体的な職を列挙している。( 表14

●表14 自由任用の高級職(1985年政令85−779号)(一部省略)

2) 大臣キャビネ

フランスの行政組織においては、大統領、首相、大臣、担当大臣及び閣外大臣それぞれに、側近組織として、ラインの部局とは別個の性格をもつ「キャビネ(cabinet)」が置かれることが特徴となっている。それぞれの組織の概要は次のとおりである(スタッフの人数はいずれも2003年11月現在)。

大臣キャビネには、官房長(directeur du cabinet)をトップとする諸種のポストが置かれているが、設置自体に法令上の明確な根拠はない。そのスタッフが自由任用とされていることも慣行による。( 表15

●表15 大臣キャビネの主なポスト名

(3) 政治任用が行われるようになった経緯及び背景
高級職の本省局長、大臣キャビネのスタッフとも19世紀前半の生成期から現在まで一貫して自由に任免ができる職。
1) 高級職(本省局長)

局長(directeur)の職名が一部に現れてきた王政復古期(1814〜30年、ナポレオン失脚後のブルボン復古王政の時期)から局長の職名が一般化した七月王政期(1830〜48年、オルレアン家のルイ=フィリップによる王政の時期)にかけては、行政事務は比較的単純で、さほど専門的知識を必要としないものであったことを背景として、局長へは主として大臣と類縁関係にある者などから大臣の自由裁量により情実任用されていた。

第二帝政期(1852〜70年、ナポレオン三世が帝政を行った時期)でも大臣の自由裁量による任用は続いていたが、行政の各部門の長である局長として、少なくともある程度の専門的知識や行政経験なくしては行政事務の専門分化、複雑化の進展に応じ切れなくなり、この時期には、局長への就任直前に官僚であった者がほとんどを占めることとなった。その後、現在に至るまで、官僚以外の出身者は例外という状況が続いている。

このように、第二帝政期以降において官僚がそのほとんど全部を占める状況になっても、局長への自由任用には、政府に対する忠実性及び応答性を確保することができるという利点があるとの認識の下、局長は引き続き自由裁量による任免のポストとされ、現在までその取扱いが続いている。

2) 大臣キャビネ

王政復古期からそれに続く七月王政期にかけて、議会制度の本格的導入に伴い、大臣は議会対策として行政事務の処理能力を備えた人材、政略的能力を備えた人材等を側近として常時置く必要に迫られることとなった。そのような状況の下で、大臣の側近が現在と同様の職名(官房主任chef de cabinet等)で現れるなど、それまでの大臣の単なる個人的側近や秘書は次第に組織化され、恒常的な機関としての大臣キャビネとして慣習化した。

さらに、第二帝政期から第三共和政期(1870〜1940年、第二帝政が崩壊し共和政が行われた時期)にかけての著しい経済発展などによって、量的・質的に変化した行政事務は大臣の負担を一層増大させ、大臣は政務の遂行を確保するために以前にも増して多数のスタッフを必要とするようになり、多くの大臣キャビネには、新たに、官房長(directeur de cabinet)など種々のポストが増設され、スタッフの人数が増加し、現在に至っている。

第二帝政期までは、大臣キャビネのスタッフは、学者、弁護士、ジャーナリスト、官僚など様々な経歴の人物によって構成されていたが、第二帝政期から第三共和政期にかけて、行政事務に精通した人材を確保する必要性が高まって、官僚の占める割合が次第に高くなり、官僚が主要な構成員となるという特徴が現れた。しかしながら、大臣の政務、職務上の機密事項や私事をも取り扱い、信頼関係が重視される大臣の側近としての性格を有することから、そのポストは、その生成期から現在まで一貫して自由に任免できるものとされている。

(4) 政治任用の任命権者、手続及び実質的な選抜方法
高級職は、十分な能力と経験を有する者から、政治色も考慮の対象としつつ、大臣の提案により大統領が閣議に諮って任命。大臣キャビネのスタッフは、大臣等の個人的人脈を通じて人選されるが、政治色のみでなく能力等の要素も相当程度考慮して人選し大臣が任命。
1) 高級職

高級職の任免は、大統領が主宰する閣議に諮った上で、大統領により行われる。任免の手続上、議会等の第三者の関与は全くない。

高級職に任用される者の人選については、政治的色合い等も考慮の対象になるが、エリート職業公務員で局長等の直前までの職位に至っていて、十分な能力と経験を有すると考えられる者の中から、大臣により、実績等を考慮の上で選ばれることが通常である。このため、エリート職業公務員の中からそれらの者のキャリアの一環として自然な任命という形をとることが多いが、まれに抜擢されて若年の者が任命されることもある。

各大臣には、この自由任用のポストに関して候補者を提案する権限はあるが、正式の任命は最終的には大統領主宰の閣議に諮らなければならないので、閣議にかけられるまでに、大統領キャビネ及び首相キャビネの2人の官房長が人選の調整などについて重要な役割を果たすとされている。

2) 大臣キャビネ

大臣キャビネのスタッフのうち、官房長は高級職の一として位置付けられており、上記1)のとおりである。他方、官房長以外の他のスタッフの任命権は各大臣にあり、その任免は大臣の自由裁量によっている。

大臣キャビネのスタッフの人選については、通常、大臣が自己のネットワークを通じて信頼できる者を官房長に選び、官房長が、そのネットワークを通じて、直接に又は関係者の推薦を得てキャビネのスタッフ人事の多くを決めると言われている。この場合の人選については、政党色と同時に有力政治家・有力行政官の個人人脈色が強いと言われる。ただし、政治色のみで採用されることはなく、能力、実績等の要素も相当程度考慮されるとされている。

(5) 職業公務員との制度の違い(服務、身分保障)
政治任用者の行動・服務を規律する固有の法令、規則は存しない。職業公務員出身の政治任用者には一般の服務規定が適用。政治任用職としての身分保障はないが、職業公務員出身者の官吏としての身分保障は継続。
(職業公務員における公務員身分と官職の関係)

フランスの公務員制度においては、属人的な分類である職員群(corps)に所属し、各職員群ごとの上下の分類であるグレード(grade)を付与されることをもって採用として観念されている。すなわち、このような職員群への所属とグレードの保有により官吏としての地位を獲得し、これに権利義務が伴うこととなっている。職業公務員については、このような官吏の身分を付与された上で、改めて個々の官職への任命行為が行われることとなっており、官吏の身分の付与と個々の官職への補職は制度上切り離されている(任官補職)。職業公務員については、免職(懲戒以外)は、長期病休後に与えられたポストを拒否した場合、職務遂行能力が不十分で他の官職への再格付ができない場合等に限定され、処分は「人事管理協議会」の意見聴取を経て決定されるという身分保障がされている。

(服務)

高級職及び大臣キャビネのスタッフには、行動を規律するような服務に関する固有の法令、規則は存しない。なお、職業公務員出身者については、これらのポストに在任中も、官公吏一般規程の義務に関する規定が適用される。

職業公務員は、在職中に議員に立候補することが可能であり、また、「派遣(detachement)」という形で、官吏の身分を保持したまま、議員として活動することができることとなっている。

(身分保障)
1)高級職

高級職については、任命の要件として官吏であることが求められていない一方で、官吏以外の者が任命されてもそれにより官吏の身分が付与されることはない。また、高級職からの免職に対する身分保障の規定はなく、制度上当該ポストから自由に更迭することが可能である。このように、高級職については、制度上、政権交代の際に一挙に全員を更迭することが可能であるが、実際上は、在職者が一挙に交代させられることはなく、時間をかけて段階的に政権に近い考えを持っていると思われる者を任命していくことが慣行となっている。本省局長の交代の状況についての具体的データはないが、局長の1ポストの在任期間が3〜4年なので、毎年4分の1から3分の1程度ずつ交代するのが通例とされている。

一方、職業公務員が高級職に任命される場合には、派遣という形で、官吏の身分を保有したままで高級職に任命され、その職務に従事することになる。これにより、職業公務員の場合には、局長等のポストを辞任した後の職業公務員のポストへの復帰や昇進可能性及び年金期間が保障されることとなっている。

2) 大臣キャビネ

大臣キャビネのスタッフについても、法的には、スタッフとしての身分保障はなく自由に免職することが可能である。実際上も、政権や大臣の在任と運命を共にしており、大臣が交代するとスタッフとしての身分を失う。

職業公務員からの大臣キャビネのスタッフへの任命が派遣という形をとること、これにより、官吏としての身分保障がなされることは、高級職への任用の場合と同様である。

(6) 政治任用の人材供給源
高級職については、ほとんど全部がエリート職業公務員出身で、民間出身者は極めてまれ。大臣キャビネのスタッフについても、7〜8割がエリート職業公務員出身で、民間出身者は限定的。
1) 高級職

制度上は職業公務員以外から高級職へ任命することも可能であるが、実際上は、職業公務員から任命されるケースがほとんどであり、公務外から任命されるのは極めてまれなケースとされる。また、高級職に就く者の7〜8割程度は国立行政学院(Ecole Nationale d'Administration=ENA)の出身者と言われている。高級職のうち技術系のものについては、ENA以外の理工科大学校(Ecole Polytechnique)出身者等が就くこともある。なお、省によっても異なるが、局長については、大半は同じ省の中から就くことが多く、また、局長に任命される者の年齢については、通常は40歳以上の場合が多い。

2) 大臣キャビネ

官房長はグラン・コール(grands corps=国務院職員群、会計検査院職員群、財務監査官群等の威信の高い職員群)所属の職業公務員から選ばれることが通例となっている。大臣キャビネのスタッフについては、この官房長も含め大半が職業公務員出身者である。その割合は、政権や大臣によっても異なるが、平均すると7〜8割程度であるとされており、大臣キャビネ別にみれば、90%に達することもある。公務員以外では、民間企業、政党関係、マスコミ関係などから任用される。職業公務員出身者の中では、ENA出身者が最も多く、他に技術系グラン・コール(高等鉱山技師群、橋梁土木技師群等)やその他の官吏など様々なところから任命されている。

大臣キャビネのメンバーへの任命の際の年齢については、官房長の場合には、局長より少し若く35歳程度からとなっているが、一般的には40歳からが多く、その他のスタッフの場合には、20歳代というケースもあるが、一般的には30歳から40歳前後の者が多いとされる。


(注)職員群のうち、歴史的に多くの高級ポスト等を占めてきている職員群はグラン・コールと呼ばれている。
(参考)ENA卒業者の経歴例

(参考)ENA卒業者の経歴例

●政治任用職の主たる人材供給源としての国立行政学院(ENA)●

現在の政治任用のポストの主たる人材供給源としてのENAは、第二次大戦後に、それまで各省・各職員群ごとに行われていた事務系の幹部行政官候補の採用、養成を統一的に行うことを目的として1945年に創設された。ENAは、官僚の社会的威信がナポレオン時代以来の理工科大学校等のエリート教育機関と結び付いているというフランスにおける伝統を受けて、最高の官僚養成機関としての地位を確立し、現在に至っている。

ENA卒業者は、成績順に、本人の希望に従い、グラン・コールや外務・領事官群、高等行政官群等に配属され、初任ポストとして本省の課長級(課の規模が大きい場合は課長補佐級)に就くことになる。その後、公務部内で異動・昇進を重ねるとともに、官吏の身分を保有したまま、政・官・財の各分野に勤務し、社会全体を通じるエリートとして活躍する伝統がある。これらのENA出身者が各省の高級職や大臣キャビネのスタッフに就任するのはそのキャリアの一環と評価することができる。

(参考)国立行政学院の入学試験及び研修の概要
1.入学試験

(1) 試験の種類等

(2) 試験科目(部外試験の場合)

  • 1) 第一次試験

    • [基礎的専門知識]

      • ・公法(論文作成1問) 5時間
      • ・経済(論文作成1問) 5時間
      • ・欧州連合に関する問題又は社会問題(資料に基づく文章作成1問) 5時間

      [文化一般に関する知識](論文作成1問) 5時間

      [学業上の専攻科目(外国語又は社会科学等)]

      • ・外国語(翻訳、外国語訳、文献に基づく論文作成) 5時間
      • ・社会科学等(論文作成) 5時間

    2) 第二次試験

    • [基礎的専門知識]

      • ・公共財政学(口述試験) 30分
      • ・国際問題(口述試験) 30分
      • ・欧州連合に関する問題又は社会問題(口述試験) 30分
      • [外国語](口述試験) 30分
      • [人物試験(人格及び動機の評価)](口述試験 ) 45分
      • [スポーツ](実技)
    2.研修期間(27月)及び内容

    (1) フランス内外の官庁等における実習(12月)

    • ・県庁(6月)
    • ・在外公館、国際機関又は外国政府(6月)

    (2) パリ・ストラスブルグのENAでの授業(15月)

    • ・ケース・スタディ、起案練習
    • ・討議、セミナー

    (注)研修期間中は、見習職員として給与が支給され、研修終了後は10年間公務にとどまる義務を負う。
(7) 在職中の役割(職業公務員との役割分担)
本省局長は、基本方針の具体化、法令の実施、各部局の総合的監督等を担当。大臣キャビネのスタッフは、大臣の側近として、大臣の政策立案の補佐を中心として、国会・マスメディア対策等をも担当。

高級職のうち、本省の総局長、局長は、情報の分析、政策の立案、法令の実施、各部局の総合的監督などを任務としており、職業公務員はその指揮下で、これらの事務を分担処理している。

大臣キャビネのスタッフは大臣の側近であり、その役割は、議会・マスメディア対策のほか、大臣についての総務的・秘書的業務など多岐にわたるが、最も重要な役割は、政策立案に関する大臣の補佐や大臣とラインの部局との関係の構築である。

大臣キャビネの長である官房長は、大臣に次ぐ省内で第2位にあるポストであり、大臣キャビネを統轄するとともに、大臣の職務の多くを代行している。官房長は、閣議への出席及び議会での大臣答弁を除き、大臣から権限の委任を受けて大臣を代行することが可能であるとされている。

大臣キャビネは、各省内における政策立案のほか、政策に関する各省間調整についても、主導的役割を担っている。政策立案については、大臣キャビネが基本方針を作成し、その具体化について関係のラインの部局に指示がなされ、技術参事官、特命担当官等のキャビネのスタッフが中心となってラインの部局の案を審査するのが原則とされる(ただし、内容によってはラインの部局の側から政策の提案がなされることもあるとされる)。このような形で、大臣キャビネは、大臣と省の部局長等との意見調整など政治と行政の間の橋渡しとしての役割を担っている。

(8) 人材確保の誘因と処遇
職業公務員については、有力な大臣のキャビネへの任命がその後のキャリア形成のステップとの位置付け。専門性の面や給与格差等により民間からの人材誘致に制約。
(人材確保の誘因)

職業公務員については有力な大臣のキャビネへの任命がその後のキャリア形成のステップになると言われ、そのことが人材確保の誘因となっている。すなわち、大臣のキャビネへの任命は、人脈の形成に役立つほか、大臣キャビネにおける厳しい任務は、任命された者に他では得がたい貴重な経験を付与するとともに、そのような任務を果たしたことによりその者の評価を高める結果にもつながると言われている。

(処遇)

局長、大使等の高級職及び大臣キャビネの官房長には、特別俸給表が適用され、ポストごとに俸給額の幅が決まっている。( 表16 )ただし、所属機関や職員群、ランクなどにより額が異なる特別手当が俸給の50%程度を上限として支給されているとされる。

職業公務員から大臣キャビネのスタッフに任命された者には、派遣元省から支給される任命前の基本給(表17)のほか、大臣が予算の範囲内で裁量により決める額のキャビネ手当(通常基本給の10〜20%程度)が支給される。職業公務員以外からの採用者に支給される給与は、大臣が予算の範囲内で裁量により決定する。

●表16 特別俸給表(一部省略)(2004年1月現在)

●表17 高等行政官群俸給表(一部省略)(2004年1月現在)

(公務外からの任命が限定的である要因)

自由任用職への公務外からの任命が限定的である要因には、専門性の面と経済的な側面からのものがあるとされる。まず、専門性の面からの要因としては、フランスでは、一般的に、高級職については、専門的な行政に必要な能力や経験を保有していることが必要であり、一般の職員と均質な考え方を持つ者を公務部内から任命することが適当である、と認識されていることがある。同様の理由により、大臣キャビネの職員、特に、政策策定のためのスタッフについても、中央省庁での経験を積んでいる者が就くことが多くなる傾向があると説明されている。

経済的な側面としては、高級職の給与水準について民間と比較したデータはないが、民間より最低でも2〜3割は低いと言われており、このことが民間からの人材の誘致の制約要因の一つとなっていると考えられる。また、大臣キャビネについては、官吏からスタッフを任命すると、給与のための必要経費が最小限で抑えられることになり、民間から人を採用する場合よりも多くの人材をスタッフに確保できるという利点があるとされる。

(9) 退職後の行き先、生活保障
職業公務員からの任用者については、政治任用のポストを離れても、職業公務員のポストへの復帰を保障。
(退職後の行き先)
1) 高級職

職業公務員から高級職に任用された者が、政権交代等によりそのポストを離れる時は、官吏としての身分は継続して保有しているため、制度として職業公務員のポストに戻ることができることとなっている。実際に職業公務員に戻るか否かは本人の自由であり、民間企業や国際機関などに行く、あるいは政治家になり、公務員に戻らない者もいるが、通常は、公務内又は公営企業などに同等の給与が得られるポストを見つけ、就任する。

2) 大臣キャビネ

職業公務員出身者の場合には、大臣キャビネのスタッフを辞めた場合に、職業公務員のポストに戻ることが保障されていることは、高級職の場合と同様である。職業公務員が出身省に戻ったときには、一般的な慣行として、どちらかというと昇進に結び付くポストを与えられることが多いとされ、時として局長クラスに登用されることもある。

民間からの任用者については、政権交代を伴っている場合には、後任の大臣、官房長が就職先の面倒を見ることはほとんどないが、政権交代を伴わない大臣交代の場合には、後任の大臣等が就職先の面倒を見ることもあり得るとされる。

(再就職規制)

高級職、大臣キャビネのスタッフともに、一般の職業公務員出身者か民間からの任用者かにかかわらず、離職した後5年以内に民間企業等に就職して活動するためには承認を受けなければならず、職務上離職前5年以内に許認可等や契約に関与した企業への再就職は認められない。

(年金)

年金については、高級職についての独自の制度はなく、職業公務員出身者については官吏に係る年金制度が引き続き適用になる。民間出身者についても任用前と同一の年金に継続して加入している場合が多いとされる。なお、職業公務員に係る退職年金は、満額の場合で退職直前の俸給年額の75%に相当する額が支給されることとなっている(満額支給に必要な勤務年数(現在37.5年)は2004年より段階的に引き延ばされ、2012年には41年とされることになっている)。大臣キャビネのスタッフの場合も同様の取扱いとなっている。

(10) 我が国との背景の違い
比較的頻繁な政権交代の経験。強力な国家の役割と社会的に高い地位の高級官僚。公務内外の多くの枢要なポストについてエリート職業公務員が主たる人材供給源。教育による選別を基礎とするエリート主義・エリート養成システムなどへの国民の評価。任官補職の官吏任用システムと手厚い身分保障等。

フランスでは政権(内閣)交代が比較的頻繁に行われており、その経験を通じて、現在のような政治任用に関する一定の安定した慣行が成立してきていると考えられる。

(国家の役割に対する期待、高級官僚の社会的地位)

歴史的に見て、国民からは、政党や議員等ではなく、国民的共同体としての国家に高い期待がなされ、政府は、経済分野を始めとする幅広い分野で関与、介入を行うなど「大きな政府」として強力な役割を果たしてきた。そうした背景の下で、このような官僚国家に対しては、権威主義的とか非能率といった批判もあるものの、国家の運営に関与する高級官僚は社会的に高い地位や威信を享受してきていると考えられる。

これらのことを背景として、フランスにおいては、自由任用の対象ポストのほか、公務内外の多くの枢要なポストについても、ENA出身者等のエリート職業公務員が主たる人材供給源となっている。様々な分野にエリート職業公務員が進出するに当たっては、それらの者が有する人的なネットワークが重要な機能を果たしていると考えられる。

(エリート主義に対する評価)

このような慣行の背景には、教育による選別を基礎とするエリート主義やENA等のエリート養成システムなどについての国民の評価があると考えられる。ENAについては、その入学者が上流・知識階層の家庭の出身者に偏しているとの批判もあるが、実際上、人材の選抜・養成の面で成功してきたと考えられている。

(官吏身分の手厚い保障)

さらに、職業公務員は、自由任用のポストを含めて諸種の公務内外のポストに異動する際にも、官吏としての身分を相当手厚く保護されているが、このことが職業公務員の自由任用のポストへの異動を容易にしている面があると考えられる。他方、フランスの政治家にとってみれば、このような仕組みは、公務部内での政治的忠誠心を有する者の確保を容易にしているとの見方もできる。

このような身分保障がとられる前提として、職業公務員の人事管理システムは官職を中心とするのではなく、属人的な分類である職員群への所属をもって官吏身分を付与するという任官補職の仕組みを中心として構築されている。

「政治任用」関係者の声(フランス)
●大臣キャビネのスタッフへの評価●

中央省庁の大臣キャビネ・参事官

職業公務員以外の者をキャビネの重要なポストに就けることは難しく、例えば、某省において、官房長に職業公務員以外の人を登用しようとした時に、行政の側から大反対があって実現しなかったということがあります。やはり実際に、キャビネへの公務員以外からの登用というのは非常に少ないと思います。キャビネのスタッフに公務員が就くことに対するマスコミの論調を見ますと、役人がキャビネのメンバーになるというのが出世のための跳躍台であるような言い方をされてしまっています。「キャビネを1回経験することが出世につながるので、役人に対し登用されることを勧めることにもなる。そうすると、キャビネの中の公務員の増加にもつながる。さらに、政治的な色合いを明らかにしておいた方が登用されやすいということで、役人が政治的旗幟を明確化することを勧めてしまっている。」という批判です。となると、行政と政治との癒着という印象を世論に与えることにもなります。ただ、それでもなおフランスの行政というものは100%政治的色合いがついているということでは決してなく、中立性は保っていると思いますし、職業公務員がキャビネのスタッフに多く入っていることによって、行政と政治の整合性をとる役割も果たしていると思います。


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